4「異界と冒険者の成り立ち」

 待合室に戻ってきて、面接内容をみんなに話した直後、


「珍しいわね。あの子が何も言わないなんて」


ここで、背後から第三者の声、思わず振り向く五人、

ブロンドでウェイブの掛かったロングヘヤーの女性がいた。


「マリーナさん……」

「久しぶりね。秋人、


更に、シルフィも


「ご無沙汰してます」


蒼穹も


「この前はどうも」

「相変わらず、新しい鎧は良い感じね」


そして、アキラは


「アンタ確か、よくウチの店に来る」


と修一を除く四人とは、知り合いの様だった。


「そっちの新人さんは、あなた達のお友達?」



 その女性、マリーナの顔を見た修一は


(この人、さっきの人に似ている)


顔は、面接官に顔はよく似ていた。目つきは、鋭いものの怖くはなかった。

ただ面接官に比べ、体格がかなり良く、正に、鍛え上げられた肉体と言った感じで、

更に体には皮革の鎧をまとい、腰には剣を差し、

更に背にも異様に巨大な剣を背負っていた。

彼女の体つきと、背負っている大剣、それらが修一に圧迫感を感じさせていた。

 

 そして秋人は、修一にマリーナの事を、紹介する


「この人は、マリーナさん。ベテランの冒険者で、あと僕が冒険者になりたての頃、色々とお世話になった人で……」


これは、アキラ以外、全員同じ、ただシルフィに関しては、冒険者と言うより

この世界に来て困っていたところ、助けてもらったらしい。

更に秋人は今日、修一と会った面接官の双子の姉であることを説明した

そして、秋人は、改めてマリーナに修一の事を紹介する。


「今日は、どうしてここに?」


と秋人が聞くと


「登録の更新、すっかり忘れてて、ぎりぎりで……」


なお、彼女の話では、修一たちが支所に来た時点で、すでにいたらしく、

そして今は、番号札23番を持って順番待ち、


「今日は、週末組もいるから、時間がかかるのよね。」


直後、彼女は大きなあくびをした


「ごめん、早朝から狩りに行ってたから、眠くて、これが終わったら、

今日は飯食って帰って寝るわ」


 そして、受付に呼ばれ、証明書もらって元に戻ってくると、マリーナが


「これで冒険者の仲間入りね、頑張りなさいよ、期待の新人」

「期待って言われても……」


修一は、今回限りのつもりでいた。こういうのは、

興味がないと言えば噓になるが、こう言うのは彼が望む普通じゃないから。


「期待はするわよ。なんせ、あの子が選んだんだから」

「それってどういう」


マリーナは答えず、笑みを浮かべるだけで


「それより、最初の獲物は?」


と聞かれた。


 そもそも冒険者と言うのは、ゲートを介しこの世界に現れた魔獣を狩るのが

主な仕事である。修一の目的は、ある魔獣を狩り、それを持ち帰る事であった。

先にも述べたが修一は、見栄を張らない主義である。何か言われた時は、


「悪いか」


の一言で開き直る事にしている。だから修一は、四人にも、包み隠さず、話している。


「ブラックスライムです」


 ブラックスライム、アメーバ状の肉体を持った魔獣で、

数ある魔獣の中でもかなり弱い、ハッキリ言ってザコでその気になれば、

素手でも倒せる。ただこのブラックスライムは、同種の魔獣の中で唯一食用に適した魔獣であった。


 修一の今日の獲物を聞いたマリーナは、


「まあ最初は、そんなもんよ。アタシは木の実だったけど」


ちなみ、他の面々に話した時にアキラは、


「俺は、最初は木の実だったな」


シルフィは


「私は、はぐれゴブリンですね。群れをなしてないゴブリンは、

冒険者じゃなくても倒せるほどの、ザコでしたけど」


ちなみにこの二人は、ファンタテーラにいた時の話である。


 蒼穹はと言うと


「アンタと同じよ」


おなじくブラックスライムで、そして秋人も、学校で話した時


「僕と同じだ。僕の最初の獲物もブラックスライムだったよ」


そして、みんなマリーナと同じことを言った「最初はそんな物」だと。

何事も、最初は小さいものからと言う事である。


 修一の獲物を聞いたマリーナは


「ブラックスライムって事は、晩飯は、すき焼き?」

「はい」

「あれ、すき焼きに合うんだよね」


そしてブラックスライムこそが、母である功美からの所望したものだった。

なお、修一は、以前に地元のスーパーの食品コーナーで見た事があった。

初めて見た時は、おもわず


「何だこりゃ」


と言ってしまうくらい、訳が分からないものであった。


 見た目だけならコンニャクに見えなくもない。

しかし、商品名はブラックスライムで、

扱いとしては「魔獣肉」と言うジャンルであり、

周辺には、ドラゴンの肉なども置いてあった。

修一には、スライムと聞いて、RPGのザコか、

アメーバ状のおもちゃと言うイメージだけで、

食いものと言うのが想像つかなかった。


 功美曰く、


「ブラックスライムは、この地方じゃ、すき焼きの必需品。

スーパーに並んでるやつもいいけど、やっぱり新鮮なのがいいわね。」


と言うわけで、狩りに行く羽目となった。

以前から話を聞いていた異界と冒険者には興味があったが、

しかし、関わると自分が望む普通でいられないような気がして、

これまで避けてきた。今回は、


(母さんの頼みだから、仕方なく、そう仕方なく行くんだ)


 なお、桜井修一は、母親の言うことを何でも聞くような、

聞き分けの良い人間ではない。今の彼は、自身の好奇心から来る欲望を、

親の頼み、つまりは、子供は親には逆らえないと言う理由で、

正当化しているにすぎないことをここに述べておく。


 そして話は戻り、食事の話をした所為か、誰かの腹の虫が、鳴った。更に


「なんか、腹減ったな」


と言い出すアキラ。そう時間は、丁度昼時であった。


「一緒に、昼飯どう?」


と食事に誘われる五人、全員断る理由もないので誘いを受けた。

直後、受付から


「番号札、23番の方」

「あっ、私だ。それじゃあ待ってて」


マリーナは一旦受付の方へ、行き、しばらくしたら戻ってきて、三人は一緒に支所を出た。そのまま城の近くにある繁華街へと向かう。

その途中、修一は、マリーナに、ふと思ったこと聞いた。


「あなたは、来訪者ですか?」


彼女は歩きながら、特に表情も変えず、なんて事もない様子で答える。


「いやアタシは、この世界出身、両親は共に来訪者だから2世だけど、

そう言えば、新人君、秋人の同級生って事は、不津校に通ってるの?」

「ええ」

「アタシ、不津校のOGなんだ」

「それじゃ、先輩になるんですね」


そうこうしている内に目的地に、到着した。


「ここアタシの行きつけで、宿屋なんだけど、

一階は大衆食堂で、料理はおいしいし、値段も安い」


そして看板に、書かれている店名を見た修一は


「『interwine』、ここもか」


 ここで秋人が


「関係はあるよ。ここは雨宮さんが、ファンタテーラにいた頃に経営してたんだよ。

今は店を弟子に譲って、僕らが行きつけにしてるあの店を営んでるんだけどね」


なお、修一達が行きつけにしてるinterwineの方が本家だったりする。


 店内は昼時の為、人で混んでいた。当然、みんな食事をしているのであるが、

中には昼間っから酒を飲んでいる者もいた。そんな中であったが、

ちょうど六人座れる席があった。


 その後、メニューを確認しつつも、修一は周りを見渡し、思ったことを口にした


「なんだか、RPGに出てくる酒場みたいだな。情報を集めたり、クエストを受注したり、あと、仲間を集めたりとか」


すると、マリーナは、笑いながら


「まさに、その通りさ。ここは冒険者たちのたまり場、情報収集したり、

仲間集めもする。依頼の斡旋は冒険者ギルドだけど……」

「そうなんですか……」


修一は、今強く感じることを口にした。


「やっぱり俺、異世界にいるんじゃないよな?」


そして、秋人が、やんわりとした口調で


「違うよ」


と否定する。


 食事を、注文した後、修一は、支所でもらった「冒険者の心得」に目を通した。

そこには文字通り冒険者としての心得とその成り立ち書かれていた。


 50年前のゲート事件の際、S市郊外にある山間部に「魔王城」が出現し、その城を中心とした10平方キロメートルが特殊な力場が張られ、中は大きく変貌した。

それが異界である。名付けたのは、この世界の住人。

なおファンタテーラの住民は、この世界の事も「異界」と呼ぶので、

ややこしかったりする。


 そして力場の中は、大きさに反比例して、広大で


「アマゾンのジャングルなみの広さって……」


横から秋人が


「いわゆる『疑似空間』って奴なんだけど。広さは定期的に変わるから、

具体的な数値は出せなくて、だいたいそれくらいしてるみたいだね」


と言う。


 異界は凶暴な魔獣の巣窟であったので周囲に結界を張る事で封じ込め、

その地を市の管理の元「立入禁止区域」とした。

だが魔獣の個体数が増えれば、その結果として起きる事は、


「いずれ結界が崩壊するというのか」


と思わず口にする修一


「あと繁殖だけじゃなく異界内にも、ゲートが発生しているから、

そこからも増えてるらしいよ」


とマリーナが言う


 過去には自衛隊による掃討作戦が行われたが、異界の影響で近代兵器は、

無力化されてしまい失敗に終わった。

影響がないのは剣などの刃物類、銃は17世紀かそれ以前の物に限定、

そして魔法、超能力、超技能、そして一部の超科学兵器。

ただし大がかりなものは、異界の影響で弱体化する。


 掃討作戦が失敗した後、一部の人間達が市の許可の元、異界に入り魔獣を狩り、

そこから得られる肉や素材を売り、生活の糧にし始めた。

それがこの世界の「冒険者」の始まりで    

のちに市は、魔獣の駆除を目的に、ファンタテーラにあった冒険者制度を、

この世界に合う形で導入し、今に至る。


 ここまで読んで修一が思ったことは


(役所がダメだったんで、民間に丸投げしたんじゃないのか)


そして異界に近いこの町は、冒険者の活動拠点の一つとなった。

だから町行く人々のほとんどは冒険者であり、故に武器の所持率が高い。



「それにしても、どれもネットに載ってないよな」


冊子を読んでいた修一はそんな事を口走った。

この街の冒険者制度や異界の事はネットには載ってはいるものの情報は少ない。

冊子に書かれている情報のほとんどは載っていない。


 秋人も首をかしげながら


「別に箝口令出てるわけじゃないんだけどね。あと冒険者の体験本は普通に書店で売ってるし、ドキュメンタリー番組が全国放送で、何度も流れたこともあるし、

ドキュメンタリー映画に関しては、全世界配給だよ」


しかし何故か、SNS等で話題にすると、直ぐに抹消され、

どれだけ拡散しても、完全に抹消されると言う。

ただ、抹消されたと言う事実は残ると言うが。


「噂じゃ大十字久美の仕業らしいけど……」

「また大十字久美か」


とうんざりした顔で言う修一。ここで、蒼穹が


「そもそも、冒険者制度には大十字久美が関わってるって噂だしね

実際、制度設立のため鳥獣保護法を含めた。複数の法律が

しかもあっさり、改正されてるのよね。」

「だから、大十字久美の仕業ってのか」

「そういう事が、出来るって話だし」


そして秋人


「それにしても隠蔽工作にしては変だよね。ネットだけなんて」


するとマリーナが


「ようは、『ネットに頼るな』って事じゃない?」

「ネットに頼るな?」

「そう、ネットって便利よね。いろんなものが簡単に調べられる。

かく言う私も世話になってるけど、でもネットに頼ってばかりじゃなくて、

時には、直に自分の目で見て、自分の耳で聞いて、

自分の足で探すことも必要って事なのかも」

「それがネットに載らない理由ですか?」


と修一が言うと


「多分ね。でも、ある意味、冒険者に通じる事かも……」


と神妙な面持ちで言う。

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