3「冒険者登録」
次の目的は、冒険者登録である。修一の目的達成のためには、
それが必要だった。これは市役所でする事であるが、
ナアザの町にある冒険者ギルドでもできる。
「修一君って、ラノベとか好きなんだよね。
冒険者ギルドで登録した方が、気分が出ると思うよ」
フィクションの世界を体験すると言うのは、厄介事への切符となりかねないが
しかし、同時に体験してみたいと言う、欲求もある。
(この街じゃ、秋人も含め、多くの人がしてる事だし、冒険者登録したところで、
必ずしも、厄介事が起きると限らないし、それにやるなら、
やっぱり気分の出る方が良いな)
と言う訳で、冒険者ギルドで、登録する事にしていた。
さて、鎧には「収納」と言う、専用の特殊空間に物仕舞えると言う
特殊なスキルがついていて、そこに買ったものを仕舞って、店を出た。
「こっちが近道だよ」
と秋人が言い。人気のない路地へと、五人は入った。
そして路地を進んでいるとアキラが、蒼穹に向かって話しかけてきた。
「この町で会うのは、初めてだよな。確か、えーーーーーーと、
アマアマソーダだっけ?」
おかしな事を言われたので、蒼穹は思わず
「違う、天海蒼穹よ。なんなのよ。アマアマソーダって、なんかおいしそうだけど」
「そうだったな、ソラ」
ここで、秋人が
「貴女、天海さんなんですか?」
シルフィも
「えっ、アマミソラさんなの」
ここで、蒼穹の足が止まり
「しまった!」
と声を上げた。修一は
(自分から、バラしてどうする)
と思っていた。
バレたからには、本当の事を話した。とはいえ、ネメシスが、
蒼穹である事以外は、先に話した通りであったが。
「天海さんが冒険者だったなんて」
「鍛錬の為に、異界に通ってるの」
「じゃあ、僕と同じですね」
シルフィは
「今日は、私も鍛錬ですが」
と言いつつも、
「でも何で、身分を隠す様な事を」
「私、よく声を掛けられるからさ」
先のフィールドワーク中はそう言うことは無かったが、
里美との待ち合わせ場所である公園に向かう途中や、
家に帰る途中に、声を掛けられている。
「街中なら、別に問題ないけど、異界だとちょっとね……」
「確かに、場合に寄ったら命取りになりますからね。大変ですね。有名人は」
と言い、理解を示すシルフィ。
蒼穹は、皆に向かって
「この事は内密にね」
と口止めをし、みんな了承するが、
「じゃあ、なんて呼べばいいんだ」
とアキラが言ったので、
「ネメシスって呼んで」
アキラには、まだネメシスの名前は言っていなかった。
その後、秋人は、
「アキラ君、よくわかったね。鎧姿じゃ、全然分からなかったよ」
「珍しい鎧だからな。あと……」
と言いかけて
「魔法街の事、話しても良かったか?」
とアキラが聞いてきたので、修一は、首を横に振った。蒼穹も、
「それは言わないで」
と言ったので、
「すまん、話せない」
秋人は
「別に良いけど……」
その後、三人は路地を抜け、少し歩いたところで、冒険者ギルドの建物に到着した。
ところが、入り口には、数枚の張り紙があって、
それぞれ、日本語も含めた違う言語で書かれている。
中には異世界の文字と思えるものも、そして内容は、全て同じで
「システム障害により、冒険者登録等の手続きを、停止しております
お急ぎの方は、お手数ですが、ナアザ城でお願いします」
との事。
ここで
「秋人君に、シルフィさんに、アキラ君」
と声を掛けてきた女性がいた。
その人は、ブロンドでウェイブがかかったポニーテールの髪型をした美人で
「ミーナさん……」
「誰?」
と修一が聞くと
「ギルドの受付の人」
ミーナと言う人は、冒険者ギルドの仕事で、出かけていて、
戻ってきたところだと言う。
「あのこれって」
と秋人が、張り紙の事を聞くと、
「朝から、システム障害で大変なんですよ。おかげで私も休日出勤」
「復旧は?」
「週明けまでかかりますね」
その後、ミーナは、建物に入って行ったが秋人は、修一に、
「どうする?」
と聞いてきたので、
「ナアザ城って所に行くしかないんじゃないか」
「あんまり気分は、出ないと思うけど、それに……」
秋人は、ある懸案事項を伝えた。
「仕方ないだろ」
と修一は言って、一同はナアザ城を目指す。
そこは駅から、遠くに見えていた古城で、距離があるので、
バスで移動する事となった。
「立派な城だな」
バスを降りた修一は、古城を見上げながら言った。アキラが、
「ここは領主の城だな、あんまり来たこと無いけど」
秋人が
「今は市役所の支所、」
門のところには、看板があり、そこには市役所の支所であることと、
一般的な役所と同じように土日祝休みである事、
ただし、冒険者関係の業務は、年中無休と書かれていた。
門を潜り、城の中に入ると、そこは、大広間だったが、
多数の椅子に、所々に机、奥にはカウンターと、紛れもなく役所の待合室で
城の中ではあるものの、気分が出るものではなかった。
ただ、この時、妙な風景が広がっていた。
「おい……まさか……」
横にいる秋人は、思い当たる事がある様に
「今日は、あの人が担当みたい……」
「まじか……」
この時、待合室では、冒険者らしき人々が、泣いていた。
もちろん全員ではないが結構な人数で、その上、老若男女問わずで、
立ったまま泣くもの、椅子に座って泣くもの、床に泣き崩れるもの、
泣きながら壁にすがるもの、泣きながらトボトボとした足取りで出ていくものなど、
阿鼻叫喚と言った風景が広がっていた。
「どうする?あの人厳しいよ……」
「どうするって……」
事前に修一は、秋人から冒険者登録には、書面による申請と
担当官による面接がある事を聞いていた。
冒険者ギルドでもやる事は同じである。
そして提出時に必要な身分証明書と証明写真は用意していた。
なお更新手続きの時も同様である。
「面接と言っても、形だけ、武器や防具をそろえていれば大丈夫だよ」
ただこれは、市役所や,他の支所や冒険者ギルドでの事、
しかも人が多い時や、更新の時は結構いい加減になるらしい。
「ナアザ城には、かなり厳しい担当官がいてね。武器や防具がそろっていても、
はねられるし、かなり厳しいこと言われるから、
良くても駄目でも、泣きながら帰ってくる」
これが、秋人が伝えた懸案事項である。
「かく言う僕もそうなんだけど」
この担当官は、更新の時で得も、容赦はしないらしく
彼の場合は、更新手続きの際に、今日とは違ったトラブルで
ギルドでの手続きが行えなくて、加えて期限ギリギリで
時間も無いのでナアザ城で行う羽目に、
現在、待合室で泣いている連中も同様で、週明けまで待てず、この状況である。
そしてシルフィも
「アキト君だけでは、ありません私もです」
彼女の場合は、ギルドが混んでいて、事情を知らずに、
ナアザ城で登録を行った。
蒼穹は
「私は、厳しい事は言われなかったな、睨まれたけど……」
彼女の場合は、何もなかったらしい。
そしてアキラはと言うと
「へぇ~大変だったんだな」
と他人事。彼はここで手続きをしたことは無い。
とにかく今日はその人の担当の日のようである。話を聞いた時は、
(最悪だな……)
と思ったものの、時間が経つにつれ彼を蝕む「負けず嫌い」という病気が出て来て、
胸に闘志のようなものが湧いていた。
「俺は、泣かねぇ」
そして書類提出から、面接、間の待ち時間は、ほとんどなく、
受付に書類を提出してから、数十分ほどで、修一は全てを終えて、
待合室に戻って来た。行きは鎧を着ていたが、戻ってきたら脱いでいた。
そして有言実行というべきか、彼は泣いてはいなかった。
ただ真っ青な顔をしていて、
57と書かれた番号札を手に待合室の椅子に座った。
「怖かった……あの女の人……」
そんな修一の姿に、秋人は心配そうに
「どうだった。なんか厳しいこと言われた?」
「特に、何も、武器や防具の事を少し聞かれたくらい」
「「え?」」
秋人とシルフィは、驚いたような表情で、少しの間、動きが止まった。
「思いっきり睨まれたけどな」
「じゃあ、私の時と同じか」
蒼穹が言い、そして、修一は
「あ~~~~~~~怖かった……」
そして蒼穹も
「確かに……」
と同意する。
その面接官は、ブロンドのショートカットの髪に顔立ちも日本人離れしていて、
あと美人ではあったが、目つきが怖い女性だった。
修一はその人物を見た途端、ものすごい圧迫感を感じた。
あの面接の内容は、まず動機を聞かれ、修一は正直に答えた。
ただ修一は、なんだか門前払いされそうな気がしたが、
彼は、見栄を張らない主義なのと、何よりも面接官の気迫が、
誤魔化しを許さなかった。
彼が答えた後、面接官は、怖い目で彼を睨みつけたものの、
動機について特に何も言わず、その後は、武器や防具の事を聞かれ、
修一は、それらについても、きっちりと答えた。
武器の説明を終え、防具の説明の際に、
装飾品形態にすることを求められたので、実際に、ブレスレットに変形させる。
その時、ここでも腕をまくり、ルーンの確認を求められた。
「面接官が言ってたけど、ソウルウェポンのルーンは『秘匿魔法』とかで、
一介の学生が持ってるのは、おかしな話だから確認したとか、初めて知った」
秋人は
「そういや、修一君は、こっちに来たばかりだから知らないか。
結構、有名な話なんだけどね。ソウルウェポンのルーンは、
鴨臥騎士団のみが使用しているって」
なお秘匿魔法と言うのは、限られた人間が知り、
行使できるいわゆる門外不出の魔法の事。
なおソウルウェポンのルーンが、秘匿魔法なのは、ファンタテーラでも同じ事で、
アキラも、シルフィもそこ事は知っている。
ただアキラは、その辺が気にしていない。
「あの民間軍事会社の……そういや鴨臥凱斗って奴がいるけど、何か関係は」
すると、秋人は、悲し気な表情で
「親がやってる会社だよ……」
何かありそうな雰囲気だったが、病気も出てないので、その事は聞かず。
「やっぱり関係があった訳か」
さて、その後はどうなったかと言うと、面接官は、ルーンの確認を終えると、
再び怖い目で修一を睨みつけた後、合格を告げて、
面接は思いのほか、あっさりと終った。
そのまま、鎧を再装着することなく、戻って来た。
あとは、免許証の発行を待つだけで、その間、ちょっとした出会い後、
「57の番号札のかた、受付にお越しください」
と言う声が響き、修一は受付へと向かい、57の番号札と引き換えに、証明書もらう
それはカード状で、表には冒険者登録証明書と書かれていて、
提出した修一の顔写真と、登録日と、有効期限が書かれていて、何となくだが免許証を連想させた。なお発行、及び更新は無料である。
なお破損、紛失と言った理由での再発行は有料。
「後、これを」
と受付の職員から、「冒険者の心得」と書かれた文庫本くらいの大きさの冊子をもらった。
この瞬間、修一は、冒険者となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます