2「異世界から来た町」
列車に乗った修一達は、修一と蒼穹、秋人とシルフィと言う感じで
向かい合わせの席に座っていた。その時、修一はある事に気づき、
思わず二人の方をじっと見ていた。すると、秋人が気づき
「何?なんか付いてる?」
「いや……」
理由は、言えない。正確には言ってはいけない気がした。だから、とっさに
「二人とも防護服って言ってたろ、手とか、頭とか
服から露出している部分はどうしてるのかなって……」
と尋ねた。確かに疑問には感じていたことであるが、そんなに気には、
なっていなかった。
「このローブを着ると、魔法による力場が張られて、着ている部分だけじゃなく、
服から出ている部分も守ってくれるんだ」
シルフィも
「私の服も同じですよ」
と言う。
「そうか」
修一は、納得した素振りを見せる。
秋人の説明は、修一が気になったことも解決してくれたからだ。
後に、自分の判断が正しかった事を知ることとなる。
なお、蒼穹は終始無言であった。
「そう言えば」
ここで修一は話題を変える。
「この列車の利用客って、いつもこんな感じなのか、
なんかファンタジックって言うか、
これから異世界に行くって感じの、まあ『異界』のお膝元だからか」
秋人は笑いながら、
「そうでもないよ、でも今日は週末だから多いのかな」
「なんで週末?」
「僕たちもそうなんだけど、専業の『冒険者』とは別に、普段は別の仕事、
僕らみたいに学業をして、週末の休みは『冒険者』として、
活動する『週末冒険者』っていうのがいるんだ。だから週末になると、
装備を整えた『冒険者』たちで、『ナアザの町』行き列車は混雑するって感じかな」
高山地区と言うのは、実はナアザの町の所在地である。
そして秋人は、話に付け加えるように、
「同じ理由で、九竜の行きの電車も混雑しているけどは、違った感じかな、
あっちは超科学装備の『冒険者』が多いから」
「つまりSFチックな連中が多いって事か」
やがて列車は目的地である高山地区にあるナアザ駅に到着した。駅から出ると、
そこに広がる風景を見て、修一は好奇心で目を輝かせつつも、どこか不安げな様子で
「ナアザの町か……」
と呟いた。ここに来たのは、アキラを送って行って以来で、二度目であるが、
最初の時は、車でやって来て、その上、じっくりと見ることは出来なかった。
駅を出るとそこに広がるのは、煉瓦造りの建物、石畳の地面、
遠くには西洋の古城のような建物も見え、更に町の周りには巨大な外壁が見える。
その町並みに修一は、小学校の頃、母親に連れて行ってもらった中世ヨーロッパをモチーフにしたテーマパークを思い出した。
行きかう人々は、日本人が多いが、外国人を思わせる風貌の人間も多い。
現在的な服装をしている人間もいるが、大多数は、民族衣装、
中にはサムライを思わせる服装の人間もいる。あとさっきまで汽車に乗り合わせていた人々と同じような格好をした人間もいる。
これらを、まとめていうなれば、ファンタジー小説、
漫画そしてゲームでよく描写されるような中世ヨーロッパ風の、
あくまでも中世ヨーロッパ風の世界がそこにあった。
「俺は、異世界に来たのか?」
と思わず呟く。横にいた秋人は笑みを見せながら、
「修一君も、同じだね」
「えっ?」
「かく言う僕もなんだけど、ここに初めて来た人、この世界の住人と
ファンタテーラ以外の世界から来た来訪者は、必ず自分が異世界に来たと言うんだ。
そしてファンタテーラからきた来訪者は、帰って来たって言う。
まあ人によったら間違いじゃないけどね。アキラ君の様にさ」
更に、シルフィも、笑いながら
「私も、一瞬、ファンタテーラに戻って来たって思った」
と言った。
さて今日は、単に「異界」行くだけではなく、その準備もこの街で行う事になっている。
修一は町を見渡しながら、
「市街地は、ごちゃごちゃしてるけど、こっちは妙に統一感があるような
統一感があるよな。異世界的だけど」
「そう、だからみんな、別世界に来たって感じがするみたい。
正確には、異世界から来たのはこの街の方なんだけどね」
あと市街地との大きな違いとして、町行く人たちの、
武器の所持率が高いという点も付け加えておく。そんな町並みの中を歩く四人、
初めて来た修一は、湧き上がる好奇心ゆえに町並みを見渡しながら、目を輝かせつつ、
時折不安げな表情を見せる
(いけない、いけない。このままじゃ俺の望む『普通』から、どんどん離れていく)
魔法街の一件と言い、部長と真一の一件と言い、
十分普通じゃない事に関わっていて、もはや何をいまさらと言うところであるが
それでも、ふとそんな事を思う。ただし
(でもこれは、この街じゃ、普通の事なんだろうし、別にいいよな)
と言う思いもある。
この町で、行う準備、最初は買い物から、これは、学校で話をした時に
決めていた事で、
「町に着いたら、まずは買い物だね。『ケージ』もいるし、
あと最低でも武器と防具、できれば補助薬だね。これは、魔法街でも、
買えるけどこっちで買った方が良いね。
ちゃんと準備しないと異界に行く以前に、『登録』の段階で門前払いだからね」
と秋人から言われていた。なお買い物は、アキラのいるエディフェル商会で
行なう事にしていて、電話で必需品がある事は確認済みで取り置きをして貰っていた。
店に着き、中に入ると、アキラがいて
「来たな」
簡易的ではあるが、鎧を身に着けていて、準備万端と言う感じであった。
そう今回の「異界」には、アキラも同行する事になっていた。
なおいつもではないが、秋人はアキラともパーティーを組むことがあって、
今日も、元々アキラと一緒に、「異界」に行く予定になっていたのだ。
アキラの同行に関しては、蒼穹ほどではないが、アキラは、
修一の力の一端を既に知っているから、あとは利点しかないので、都合が良かった。
そして修一は、レジに行き、店主であるスカーレットから
「頼んでいたものを」
「あいよ」
すると彼女は、レジに傷薬や解毒剤などの補助薬とケージを出してきて、
修一は、代金を払い、それらを手に、
「じゃあ、行こうか」
と言って外に出ようとしたので、秋人は
「武器は?防具は?」
と言ったら、アキラが
「何言ってるんだよ。シュウイチはもう持ってるぞ」
と言った後、修一に向かって
「見せてやれよ。お前のソウルウェポンと、ウチで買った鎧を」
「ソウルウェポン?」
秋人とシルフィの、視線が修一に向く。修一は、
(そういや口止め、してなかったな)
メタモルブレードを、見せることは、後々、トラブルの元になる気がしたから
どうしようか、迷っていた。
しかし、後々使っているところを見られる可能性があるし、
(見られた時、誤魔化しがきかないからな。それにこの程度なら別にいいか)
なので、アキラが話さずとも、打ち明けるつもりではいた。
(まあ、背中を押してくれたと思えばいいかな)
そして修一は、二人に向かって右手をかざした。
すると、手から光が発せられたかと思うと、
手に長剣、メタモルブレードが出現していた。
なお、メタモルブレードはすぐに消したか、それを見た二人は、驚きの表情を見せ、シルフィは、
「『武装精製』、いやこの世界の住民じゃ超能力のウェポンクリエイション。
それが貴方の力って訳ね」
秋人はと言うと、
「念のため、右腕を見せてくれないかな」
「なんで」
「一応、ルーンを確認したいから、」
ソウルウェポンは特殊なルーンを腕に刻むことで作る事も出来る
「嫌ならいいよ。僕の興味本位だから」
「別にいいけど」
修一は腕まくりをして右腕を見せる。そこには、何も描かれていない
「ありがとう、ソウルウェポンは『魔法陣』がでないから、魔法か、
超能力かを見分けるには、ルーンを確認するしかないからさ」
魔法は発動時に、基本魔法陣が浮かび上がるが、出ないのもある。
なお、ルーンは右左のどちらか腕の刻まれているのだが、修一の場合、右手に出現させたので、その場合は右腕に刻まなければならない。
「武器は良しとして、鎧は?」
修一は、ブレスレットに触れると、この店で買ってもらった黒騎士が装着される。
鎧は、何とも不思議な着心地だった。
この手の鎧は、重さを軽減させる力があるようで、あまり重さを感じない
その上、服の上から着ているはずなのに、服の感覚が消えて
全身タイツで、フルフェイスのヘルメットを着ているような感じだった。
この着心地は、この鎧に限ったものではない。
「装飾品に変形する魔法の鎧か、見たところいい鎧だね。
本体も強そうだけど、力場まで張られてる」
「そうなのか」
思わず自分の体を見渡す修一、彼の眼にはそれは見えない。
「魔法の力場は、魔法使いにしか見えないよ。修一君は魔法使いじゃないでしょ」
その一言に、修一は、一瞬体が震えつつ、どこか気まずそうに
「そうだったな……」
「?」
修一の様子に、秋人は、疑問を感じているようなそぶりを見せつつも
「まあ、魔法使いでも、自分の力場は見えないんだけどね」
と付け加えるように答えた。
「とにかく、二重の防御が張られてる良い鎧って事だよ。
そう言えば、アキラ君が、『ウチで買った鎧』って言ってたけど」
「アキラを、ここに送った時に、母さんに買ってもらったんだ」
すると、スカーレットが、
「桜井君だっけ、今日は、その鎧を着て初めて『異界』に行くんでしょ?」
「ええ……」
「じゃあ。その鎧の初陣って訳か、かんばってきてね」
と応援の言葉を言ったので
「はい」
と修一は答えた。
その後、修一は店を出ようとして、その前に、一旦鎧を脱ごうとする。
脱ぐ際は、無音無動作で出来るのだが、秋人、その事を察したのか
「着たままの方が良いよ。冒険者登録の際も着なきゃいけないんだし」
別に着脱が面倒なものではないが、鎧を着たまま店を出ようとしたが
スカーレットが、蒼穹に、
「ネメシスさん、鎧の調子はどう?」
「ええ、調子いいですよ」
というと
「それは良かった」
とスカーレットが言った。
店の外に出た後
「お前の鎧もここで?」
と修一が聞くと、
「そうじゃないんだけど、話すと長くなるから」
と言って説明はしなかったが、
蒼穹の鎧が、実はスカーレットの弟子が作った修一の鎧と同じタイプの女性専用の鎧であった。
その事実を、蒼穹が鎧を得た経緯を含め、修一が知るのは少し後の事である。
数日前
修一および蒼穹は、普段は鎧を、アクセサリー形体にして、
それぞれの机の中に閉まっていた。
何者かが、それぞれの部屋に忍び込み、杖の中から、それを見つけると
持ち去った。
その人物は、人を訪ねた。ブレスレットとペンダントを、その人に渡し
「ねえ、これをより本物に近づけて欲しいの、アナタならできるわよね」
その後、何だかの処置が施されたブレスレットとペンダントは
元あった場所に、戻された。
その為、この事実に修一も蒼穹も気づくことは無かった。
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