第6話「週末の冒険者たち」

1「出発の時」

 サイレンが鳴り響く森を駆け抜ける五人の影。

エディフェル商会で手に入れた黒い鎧を纏う修一、手にはソウルウェポンの

メタモルブレード。

同じく鎧姿の蒼穹、腰に銃を身に着けているが武器は手にしてない。

茶色いローブを纏っていて、手には大きな杖と、

見るからに魔法使いと言った格好をした秋人。

簡易的な鎧を身に纏うアキラとそして狩人の様な服装で、

弓を手にした綺麗なブロンドのロングヘヤーのエルフの少女。

首には、指輪の付いたペンダントと、ボタンの付いたペンダントの、

二つを身に着けている


 ボタンの付いたペンダントは、他の面々も付けていて、五人は走りながら、

時折、そのペンダントのボタンを、押していた。そんな、五人を地響きが、襲い


「なんだ!」


思わず足を止める五人


「まずいよ、大型魔獣だ。急ごう」


と秋人が注意を促し、再び、走り始めるものの、アキラが


「大型魔獣か」


と言って、笑みを浮かべ、逃げてはいるものの

どこか戦う気満々な様子だったので、秋人が走りながら


「今日の所は、逃げに徹するんだよ」


と注意し、アキラはハッとなったように


「そうだったな……」


と言って気まずそうにする。


 そして


「こっちに行こう」


この時、五人は逃げることを優先していたので、魔獣を避けようと、

逃げる方向を変えた。一度じゃない、何度も変えた。

だが地響きは遠ざかるどころかどんどん近づく。


 そして彼らの前に、立ちふさがる様に10メートル以上の巨体を持つ魔獣が現れた。


「ティラノサウルス!」


と声を上げる修一、それは有名な肉食恐竜であるティラノサウルス、すぐに秋人は、


「違う、これはレックスドラゴン」


正確には、ティラノサウルスに酷似したドラゴンであった。


「口から」


と秋人が言った直後、口から火を噴いた。炎が五人へと襲い掛かる。


「!」


素早く、秋人とエルフの少女が、防御魔法を展開。大きな魔法陣が浮かび上がり、

それがバリアのようになり、一同を火から守る。


「こうなったら逃げるどころじゃないよな」


と嬉しそうなアキラ、そして秋人は、


「仕方ない……」


と言いつつ、修一の方を向いて、


「僕らがおとりになるから先に……」


と言いかけたが、修一は、我先にと、ドラゴンの方に向かっていく、

さっきまで逃げていたのに、今は逃げるという選択肢が、無くなっていた。

相手が炎吹いた途端、消えたのだ。彼の「負けず嫌い」と言う病気によって。


 メタモルブレードをショットガン形態に変形させ、それをドラゴンに向ける。


「だめよ、そいつは『第6区画』の」


とエルフの少女が、制止しようとするが、

次の瞬間、ドラゴンに向かってショットガンが火を噴いていた。


「俺、やられっぱなしってのは、どうもな……」


ショットガンから放たれた無数の光の玉は、命中し、ドラゴンは咆哮する。

修一は、更にドラゴンに向かい数発撃ちこんだ。その度にドラゴンは、咆哮し、

やがて地面に倒れる。


 ドラゴンは、まだ死んではいなかったが、修一の気が晴れたのか、

それ以上の追撃は行わなかった。以前の事があるので、蒼穹とアキラは

あまりリアクションは無く。シミュレーターの件もあって、

驚いてはいるもののリアクションが薄い秋人。

 

 唯一何も知らないエルフの少女は、修一の姿に恐れを抱いたのか、恐る恐る


「シュウイチ君……本当に初心者なの?」


と呼びかける。そんな彼女に対し修一は、


「行こう」


と一言、そしてアキラはどこか名残惜しそうにするも、五人は、移動を再開する。

 

 そんな中、修一の内心は


(またやっちまった。まったく何やってるんだ。俺は!

こんな普通じゃないことを……)


この街に来てから幾度か思った後悔していた。

そう彼は普通でいたい高校生なのだから。


 事の発端は、月曜日の夕方、丁度、夕食を済ませ、後片付けを終えた直後、

修一の元に、かかって来た、母親の功美から連絡であった。


「週末、そっちに帰るから、夕食は、すき焼きにしましょう。あの子達も誘って」

「わかった。それじゃあ、材料は五人前……」

「いや、材料は私が準備する。でも一つだけ頼みたいものがあるの、

それを『かって』きてくれない?」


 翌日、学校で修一は、秋人に


「なあ秋人、お前『冒険者』だったよな」

「どうしたの、もしかしたら、興味が出てきたの?」

「まあ確かに興味はあるけどさ、実は……」


昨日、功美から頼まれた事を話した。


「僕、ちょうど週末、『異界』に行くからさ、一緒に行こうよ」


と言う訳で、秋人と『異界』と呼ばれる場所に行く事が決まった。

功美から頼まれたものは、そこでしか手に入らない物であったから。


 しかし、一緒に、行くとなると、自分の力を見せてしまうリスクがあるが、

慣れない場所に行くわけだから、ガイドになってくれそうなのと、

もう一つ利点があるので、秋人に甘える事とした。


 週末、駅のとあるホームに修一の姿があった。Tシャツの上から

地味目のジャンバーを羽織り、下はジーンズと言う、普段とあまり変わらない格好。

ただ今日は、例の鎧をブレスレット形態にして、身に着けている。

その姿は、一見、あまり目立たない格好に見えた。


(このホームに来たのは初めてだな、それにしても……)


 彼がいるホームには、RPGに出てくるような鎧をまとい、

思わず銃刀法違反だと指摘したくなるような剣を装備した戦士や、

ローブを纏い大きな杖を持った魔法使い、民族衣装を身に纏い、

背中には、これまた銃刀法違反と指摘したくなるような弓を装備したエルフ、

ハンティングゲームに出てくるような、

何かの生物の皮や骨で作った衣装を身にまとう狩人などがいて、

修一は、奇抜な格好をしているわけじゃないのに、

この瞬間、自分が一人、目立っているような感じがした。


「なあ、俺って、浮いてないか」


この時、修一は、一人ではなかった。横には鎧姿の天海蒼穹がいた。


「別に誰も気にしてないわよ」


何故、彼女がここに居るのかと言うと、

彼女も、週末「異界」に行く事になっていたのと、


「桜井さんの頼みで、仕方なく何だからね」


功美からの電話で、修一の護衛の様な物を頼まれたのである。

もちろん里美に、この事を黙っている。彼女が知れば、ひと悶着ありそうだから。


「アンタも気にしない方が良いわよ。この街じゃ、普通な風景なんだから」


 そう彼女の言う通り、この街ではごく普通の風景である。

ただし、そう思えるのは、この街に長く住む者だけ、

修一は、この街に来たばかりと言う事もあって見慣れてない。


(それにしても……)


修一は、軽く周りを見渡し


(違うのはわかってるけど、なんか近くで大規模なコスプレイベントやってるみたいだな)


なお、この場にいる人々は、決してコスプレイヤーではない。

 

 そして、ホームで修一がこんなやり取りを偶然耳にした


「そういや、また『魔王』が出たらしいぜ」

「どこで」

「この前の、土砂崩れ現場、何でも埋まってたらしいぜ」

「魔王が土砂崩れに巻き込まれたってか」

「自力で、脱出したみたいだけどな。でもあそこは『異界』の外だよな」

「魔王には結界は意味ないって事だろうな」


話を聞いた修一は


(この間の土砂崩れの話だよな。死人は出なかったらしいけど、

そういや新聞に被災者の証言として妙なことが書いてたな。

『魔王に助けられた』とか。)


魔法街での事を思い出す修一


(魔王って、あの『鎧の魔王』の事だよな)


同時に、秋人が現場近くにいて巻き込まれかけたことを思い出した。


(そういや、秋人に今度詳しく聞いてみるか)


そんな事を考えていると偶然にも


「修一君……」

「秋人」


実は、二人は、ここで待ち合わせていた。


 さて秋人の服装は、修一が普段知っている彼の私服とは違い、

魔法使いの様な格好である。

そして、秋人の側には、ファンタジーに出て来る、狩人のような恰好をして

腰の両脇に、お揃いのデザインの短剣を装備した

綺麗なブロンドのロングヘヤーのエルフの少女がいた。

彼女の事は事前に聞いている。



「君は、別のクラスの」

「貴方がシュウイチ君ですね。アキト君から聞いてます

私はシルフィード・リンクヴィスト、シルフィって呼んでください」

「じゃあ、シルフィ、今日はよろしく」


彼女は、一年前からこの街で暮らしている来訪者で、

今は、修一と同じ不津高に通っている。

なお、秋人とは、こっちに来た時からの知り合いで、


「彼女とは、よくパーティーを組んで『異界』に行ってるんだ」


その為、今日も同行する事になっていた。

修一にとって人数が増える事は、リスクもあるが、利点の面から言えば、

都合がいい事でもあった。


 さてここで、秋人は


「ところで、修一君、そっちにいる人は?」


と聞かれた。修一は、蒼穹から素性を明かさないように言われていて、


「この人は、母さんが僕の護衛に雇った『冒険者』のネメシスさん」


内容に関して、二人で決めていた事で、ネメシスと言う名は

蒼穹が『冒険者』として、活動する際に名乗る名前である。

ただ、内容はおおむね正しい。


「護衛の人が居たの?」

「今朝、出かけ際に知って、びっくりした」


これも、本当の事である。功美からの電話で、事を知って彼は驚いた。


「一応電話したけど、出なかっただろ」


すると、秋人は、驚いた顔で


「えっ!」


声を上げ、スマホを取り出す。


「ゴメン、マナーモードにしたままだった」


と言ってすまなそうにする秋人。


 一方修一は


「まあいいけど……」


と言いつつ、


「異界には、彼女も一緒でいいかな?」

「いいよ、人数は多いに越したことは無いし」

「私も良いと思います」


秋人とシルフィは同意する。

なお、蒼穹は修一の力の事を知っているので、

彼女の存在は修一には利点しかない。


 そしてホームで列車を待つ間、修一は、秋人に声を掛けた。


「それにしても、この杖、いつも使ってるのと違うよな。」


と好奇心と言う病気が出てきた彼の興味は、

今日初めて見た秋人の持つ杖に向けられた。

大きさは秋人の背丈よりも少し低い程度。

色は白く、材質は見た感じではわからない木材を白く塗ったようにも見えるし、

石膏のようにも見える。杖の先は割れていて、割れ目に水晶玉のような装飾がある。


「これは戦闘用の杖、戦闘用って言うと物騒だけど、

普段使うことにない大規模な魔法を使用できる。

もちろん普段は使わないよ。主に異界での狩りとか、あと競技とかで使うんだ」

「へぇ、そうなんだ」


 この後、修一の視線は秋人が着ているローブへと移っていた。

そして物珍し気に言う


「ホント、魔法使いって感じだよな」

「このローブは、最もポピュラーな防護服だよ。ルーン式の防御魔法が施されていて

ある程度の衝撃から守ってくれる。まあ同じ処置が施されてる鎧よりは弱いけど、

身軽で使いやすいんだ」

「ルーンってことは、どっかに文字が書いているのか?」

「実はわかりにくいけど、ローブの表にルーン文字が書かれているんだ」

「えっ?」


秋人のローブは、一見、無地で文字らしきものは見えない。

修一は、彼のローブに顔を近づけじっと見つめる。

でも文字らしきものは見えない。


 ここで秋人は、顔を赤くしながら


「あのさ、気になるのは分かるけど、やめてくれないかな、すごく恥ずかしい……」

「あっ、悪い」


ローブから顔を離す修一、なお土砂崩れの件は、すっかり忘れてしまっている。

修一の様子を、シルフィは、何処か、微笑まし気に見ていて


「私の服も、同じなんですよ」


と言った。


「そうなんだ」

「でも、あまりじろじろ見ないでくださいね」


と釘を刺す。


「いや、そんな事は……」


と言って、目線を逸らす修一。一方、蒼穹は、鎧で表情が分からないが、

呆れ気味な雰囲気を醸し出しながら見ていた。


 やがてホームに、列車が入って来た


「SLか」


ホームに入って来たのは昔ながらの蒸気機関車である。事前情報として、

この街には一本だけSLの路線がある事は知っていた。

それは郊外にある高山地区と呼ばれる場所へ途中停車駅のない直通の路線である。

どうやら、ここがそれのようであった。

そして、『異界』に行くには、先ずはそこに行く必要があった。

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