9「番長の退院とロボの完成披露」
修一は、真一に、折り返しの電話を掛けた。
「すまん、寝てたもんで気付かなくて」
「こっちこそ、朝早くから、すいません。それより、完成したんです」
「分かった今すぐ……」
と言いかけて、
「この時間じゃ、一旦家に帰った方が良いんじゃ、雨宮さんには?」
「言ってません。仕込みをしている隙に出てきましたから」
「じゃあ、早く帰った方が良い。居なくなったのがわかったら、
心配するだろうし、場合に寄ったら騒ぎになる」
「そうですね……って、何で僕が外にいるってわかるんです?」
「あ……電話の音でわかる」
「それもそうですね」
「とにかく早く帰った方が良い。その後で連絡をくれ」
「分かりました」
電話を切った後、修一は、洗濯機に衣類を入れ始めた。その中に、
女性下着が混じっていた。
その後、暫くした後、再び真一から、連絡が入った。
なお、保護者である雨宮ショウに気付かれずに、自室に戻ったとの事。
あと、ロボは一旦工場に置いてきたと言う。
「さっき、従妹から連絡があったよ。大変だったみたいだな」
「ええ……」
「ロボの助けの事で感謝してた」
「いえ、助けてもらった事へのお返しですから」
ここで、なぜ真一が、朝は早くに、そこにいたのかと言う事になる。
「やっぱり、リモコンで完成が分かって、逸る気持ちが抑えられなくて、
工場に行ってたのか?」
「ええ……正確には、完成しそうだったからですが」
と答えた後に
「ところで、どうして従妹の人に?」
「きちんとした理由がある訳じゃないんだけど。
虫の知らせって奴だな。部長宅に何か起きる様な気がしてな」
「そんな事をしなくても、良かったと思いますよ」
「どういう事だ?」
ここで真一は、部長宅のセキュリティーに関わる修一が知らなかった話をする。
「ですから、あの人たちは、従妹さんのお陰で、むしろ命拾いしたかと」
「そうだったんだ。じゃあ見張りとか必要なかったんだな……」
その後、修一は外出し、今度は保護者に許可をもらってから出かけた真一と合流。
工場に向かってロボを見せてもらう。
「しかし改めて見ると、カッコよさもあるんだけど、見た目的には、
服と髪の所為かな、可愛く感じる。何というか萌えるって気がするな」
すると真一も、顔を赤くして、
「実は僕もなんです」
と言った後、
「番長さんにも、見せてあげたいです。いつ帰って来るんですか?」
「それなんだけど……」
修一は、真一に、ある事を話した。
その後、病院にて、部長の病室に修一の姿があった。
「桜井君、今日もお見舞いに来てくれたの?」
「ええ、そう言えば副部長は?」
「今日は用事で、来るのが、遅くなるみたい」
そして、もう一人、お見舞客がいた
「菊乃さん……」
「真一君!」
部長は修一の方を向き
「話したの……」
「ええ、もう心配をかける事もないと思いましたし。
それに、隠しておくのが、心苦しかったんです。部長もそうじゃないですか」
「それは……」
ここで、真一は
「分かってましたよ。菊乃さんが入院した事」
なお、修一は。他の患者もいるので、ここでは、番長と呼ばない様にと、
真一に言っていた。ちなみに真一は、部長の素顔と本名を知っている。
「ブースターのテストの後で、居なくなったんですから、
事故を起こしたって、簡単に想像できましたよ。
暫く戻ってこれないって聞いて余計に」
なお、誤魔化した事については、修一は既に、真一に謝っている。そして部長は、
「ごめんなさいね。貴方に黙っておくよう桜井君に、頼んだのは私だから」
「良いんですよ。僕に心配を掛けたくなかったんですよね。分かってますから」
真一は、その事を察して、黙っていたのである。
ここで、話題を変えるように
「それより、完成したんですよ」
ここで、ロボが入ってきた。実は、病室の外にロボを待たせていたのだ。
「そういや、名前決めたって言ってたよな」
此処に来る途中で、そんな話をしていて、真一は、修一と部長が、
揃っている時に、話すと言っていた。なお既に、登録しているらしい
「はい。このロボは、ご存じでしょうか、色んなことが出来ます。
だからオールマイティーから、取って、マイと名付けます」
「いいと思うわ。」
修一は
(そういや、部員に同じ名前の生徒がいるな)
もちろん夢沢麻衣の事、そんな事と思いつつも
「俺も良いと思う。キラキラしてないから」
と言った。
そして、名前が決まったところで、部長はロボこと、マイをじっと見つめて、
「完成体を見てみると、何だろう。かっこいいんだけど、
服と髪の所為なのかな、萌える気がする」
「部長もですか」
「もしかして修一君も」
「僕もです」
三人の意見が、ぴったり合っていたから、三人は自然と笑っていた。
翌週、その日は、部長の退院の日であったが、
まだ病院から戻ってきていないので、不在の部長宅に、
お菊率いる不良軍団の姿があった。先の事があったので
今度は、最初から全員連れてやって来て、かなりの大人数であった。
そして舎弟の一人
「周りには、とく誰もいません」
「そう……」
先の件があるので、先ずは周囲の状況を確認した。
「じゃあ、乗り込むよ」
「おーーーーーーーーーーーー!」
と声を上げる不良連中。
なお過去、部長宅に侵入できたのは、真一だけ、
彼の持つ高いハッキング能力故に、セキュリティーを解除できた為であるが、
不良連中は、そんなことは出来ず、強引に侵入しようとした。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
そして周囲に、悲鳴が響き渡った。
病院の、エントランスにて、部長は、地味な服装で
荷物を持ってやって来る。荷物の中には、あのデジカメも入っている。
そして服の下には、精神安定のために
電子機器を身に着けていて、更に愛梨が付き添っていた。
そして建物を出た所で、
「部長、退院おめでとうございます!」
愛梨の提案で、現視研部員全員と真一で迎えに来たのである。
しかも、花束まで持って、それを貰いながら部長は、
「ちょっと、他の患者さんに、迷惑だって」
と言いつつも、何処か嬉しそうな部長。
ちなみに、愛梨は病室から、不良連中が、お菊が迎えに来たところを見ていて、
その対抗意識もあって、この様な提案をした。ただ部員は部長を慕ってはいるから、
愛梨が言い出さなくとも、誰かが言い出したものと思われる。
この後は、愛梨の家で、退院祝いのパーティーをする予定で
「桜井君が、美味しいケーキ焼いてくれたよ」
「桜井君って、ケーキとは作るんだ」
彼は、この日のためにケーキを焼いていた。
「お口に合えばいいんですが」
と謙遜する修一だが、
「桜井君のケーキは……絶品……」
と実際に食べた事のあるメイが言い、同じ春奈や麻衣も頷く
「あーしも味見したけど、すごくよかったよ」
と愛梨の太鼓判。
「何だか、楽しみ」
と言う部長。
全員が病院の敷地から出ようとしたところで、空から、救急車が降りてきた。
そして、救急車からストレッチャーに乗って搬送されていくのは
「あれは皿番じゃ……」
そう、お菊を含めた不良達である。連中は、大けがをしたらしく
特にお菊は、退院したばかりなのに、再入院となった。
余談であるが、怪我の原因について、連中は一切話さなかったと言う。
そして愛梨が
「早く行こう」
と言って、部長を含めた現視研一同と、真一は、その場を後にした。
なお、そのパーティーは、修一の作ったケーキの受けも良く
たいそう盛り上がった。
そして、次の部活の日、部室に来ると、いつものスーツを着た
番長の姿の部長がいた。
「今日も、お前が一番乗りだな……」
と言った後、
「愛梨から話は聞いてる。もし桜井が望むなら、
工房の3Dプリンターを使ってもいいぞ」
「ありがとうございます」
とお礼を言いつつも
「今作っているのが、完成したら、早速使って、見たいです」
「自由に使うといい。だが使うからには、賞を取れよ。部の実績になる」
「はい」
と修一が答えると、
「あと、これまでの礼でもあるがな」
「礼と言っても、そんなに、たいした事は……」
謙遜する修一に
「真一の見守りに、救急車も呼んでくれた。あとあの言葉も、
それと従妹とやらにも礼を言っておいてくれ」
部長は、真一から、赤い怪人の事は聞いていた。
「もうちょっと、何かしてやりたいが、今はこのくらいで」
「いえ、これでもう十分ですよ」
と言いつつ
「とにかく部の為にも、頑張ってみますよ」
と言う。
(まあプラモのコンテストで、賞を取る事くらい、普通の範疇だろ)
と思いつつも
「その前に、今作ってる奴を仕上げますね」
その日の部活も、修一はプラモづくりであった。
そして更に数日後、友人たちとinterwineに来た。
従業員募集の張り紙が消えていた。なお今日は、母親がもう働いていないので、
秋人もいて、店に入ると
「いらっしゃいませ……こちらへどうぞ……」
ウェイトレス姿のマイがいた。彼女は話すことが出来るのだが
自動音声みたいな感じであった。
あと今着ているウェイトレスの制服は、彼女が着ていたブレザー制服が
変形した物との事。
マイはinterwineで働くロボットウェイトレスとして、
ちょっとした有名人となっていて、彼女目当ての、
ロボット好きの客も来るようになったし、
あと仕事をつつがなくこなすので、既存の客から評判もいいし、
真一の話では、給仕だけでなく、厨房の仕事もこなすので、
仕事が楽になって、店長を含め従業員からの評判もいい。
あとクレーマー対策もしているという。
(どうやら、真一の恩返しもうまくいってるようだな)
マイが、働いている姿を見ていると、坂道で真一と会ったあの日から、
始まった一連の出来事が、ようやく終わりを、迎えた様な気がした。
(結局、普通じゃない事に関わっちまった)
という後悔のような物もあるが、今は満足感のような物が、上回っていた。
街を歩く天海蒼穹、ふと後ろに気配を感じ振り返ると
「!」
そこにいたのは、青い人型の魔獣のようでもあったが、
妙に生物的な装甲を持った女性的な体型のパワードスーツを
身に纏っているようでもある。
ただそのデザインが、妙にちぐはぐで、人外感を醸し出す。
そう、桜井恵美の変身する赤い怪人の色違い。
蒼穹は、恵美の事も、赤い怪人の事は知らなかったが
その姿を見た彼女は呟いた
「青い怪人……」
だが次の瞬間、怪人は姿を消した。同時に体に違和感を覚えた。
(何か変……)
そして、何の気なしに、両手を見ると、
「何よこれ!」
それは人の手ではなかった。と言うかさっきの怪人の手
(まさか!)
ここで、蒼穹は気づいた。自分が青い怪人になっている事に。
「!」
気付くと自室のベッドで、横になっていた。そうすべては夢であった。
「また……」
それは、よく見る夢である。そして、その意味を知る時が、
いずれ来ることになっていた。
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