8「赤い怪人と不良共(2)」
さて空き地では、戦いが始まろうとしている。
「番長、先ずは俺から」
名乗りを上げたのは、先に真一を捕まえた大柄な不良を含めた4人の不良。
そして大柄な不良は拳を鳴らしながら
「さっきの様には、行かねえぞ!」
直後、不良の足元から、土が盛り上がったと思うと、
その土が、不良の体を包み込み鎧の様になった。
他の不良も、一人は手に炎を宿し、一人は冷気を、発生させ、
一人は、風を起こす。
「エレメンタル使いか」
「いかにも、俺たちゃエレメンタルブラザーズ。4人そろえば、
あの天海蒼穹並みに強いぜ!」
「天海並ねえ……」
「行くぜ!」
襲い掛かって来る四人であったが。
「ぎゃあああああ!」
と言う悲鳴と共に、格闘攻撃で返り討ちな上、瞬殺で、無様な姿をさらした。
「どこが、天海並みだよ。足元にも及ばねえんじゃねえか」
その言葉を、聞いて悔しそうにするお菊。
「次よ、次!」
次に名乗り出てきたのは、数人の魔法使いであった。全員、魔法の補助具は
つまり、杖の役割を果たす物はナックル型で、ご丁寧に
「俺たちの近距離魔法の右に出る奴はいねぇ」
と説明までした。
(コイツで、魔法使いを相手にするのは初めてだ)
と言う事で怪人も身構えたが、結果は
「ウギャアアアアアアアアアアアアア!」
先と同じく、魔法使いは、同じく格闘攻撃で、全員瞬殺。なお近距離魔法は、
怪人には全く通じなかった。
「次!」
次々と、お菊配下の不良が、襲って来る。先の連中と同じく、超能力者と、
魔法使い、その他にも超技能使い、超科学系の兵器を使う奴もいた。
しかし全員、赤い怪人の敵ではなく、怪人は、高周波ブレードは使うことなく、
素早い動きと、格闘戦、あと手のひらから発射される衝撃波の様な物で
不良たちを倒していき、空き地は、屍の様になった不良共であふれた。
もちろん、死んではいないし、ダウンしているが、そんなに重い怪我でもない。
残りは、お菊と、見るからに弱そうな下っ端と思える奴だけとなった。
「次は、番長か?」
と言うと、お菊は悔しそうな顔をしつつも、
「まだだよ。言っただろ、後からもっと来るって……」
すると、すぐに、にぎやかな声が聞こえてきた。
やがて人だかりがこっちに向かってる事が分かった。
「おーい、こっちだよ」
と声を上げるお菊、そして、やって来たのは、さっきの不良軍団の
比にならないほどの大軍団だった。
連中は、空き地の惨状に驚きつつ、その中の一人が
「アイツが、連絡にあった赤い怪人ですか?」
とお菊に聞くと
「そうだよ。皆奴にやられちまったよ」
「なんてこった……」
そしてお菊は
「野郎ども、弔い合戦だ。いいね!」
と大声を上げると、
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
と不良たちが、戦場の雄叫びの様な声を上げた。
(野郎どもって……)
やって来た軍団の中には、もちろん不良であるが女性もいた。
そしてもう一つ、どうも気になる事があり、怪人も大声で、
「弔いって、誰も死んでないぞ!」
と言うが、聞く耳持たずで反応はない。
(つーか大丈夫だろうな)
根拠不明だが、残りの連中を倒せるだけの自信はあったが
(そろそろ加減が効かなくなってきそうだ)
心配なのは、その点である。このまま戦いを続ければ
相手に大けがを、場合によっては死者を出すかもしれない
それは、本意ではなかった。
「アキラや部長も、こんな感じなんだろうか」
と怪人は呟く
そして、お菊は
「みんな、総攻撃だよ!」
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
と再び雄叫びのような声を上げ、向かって来る大軍団、
何人かは、倒れている不良を踏んづけていた。
踏まれた不良は、唸り声の様な物を上げる。
(おいおい、弔い合戦じゃないのか!)
心の中でツッコミを入れつつ、身構えるが、次の瞬間、
「ギャアアアアアアアアアア!」
と言う悲鳴と共に、後方にいた不良が吹っ飛ばされた。
「えっ?」
そして次々と、不良が倒しながら、それは空き地に飛び込んで来た。
(ロボ……完成していたのか……それじゃ、あの電話は……)
お菊は、驚きながら
「コイツ、ロボットか!」
と声を上げる。ロボの手には、ビームソードが握られていた。
「コイツも、やっちまいな!」
不良たちは、怪人だけでなくロボの方にも、攻撃を仕掛ける。
ロボは、敵の攻撃を、軽々と避け、時に攻撃をくらっても、
物ともせずに、不良たちに攻撃を仕掛けていく。
ビームソードは威力を押さえているのか、
当たっても、切り裂かれることは無く、峰打ちみたいになっていた。
攻撃はビームソードだけではなかった。
右腕が変形したマシンガンでの牽制、そして背中から放たれる無数の小型ミサイル、
更に、敵の攻撃を避け、宙を舞いながら、目からビームを放った。
どれも、殺傷力が低いが、ダメージは強く、不良たちを行動不能にしていく、
まさしくバッサバッサと倒しているのだ。
(ここまでとは、部長と通じるところがある戦い方だな)
怪人は、不良と戦うと言うか、殆ど一方的に倒しながら、ロボの戦いを見ていた。
更に、ロボは不良たちに右手を、かざしたと思うと、
その先にいた不良達が吹っ飛んでいく。
(まるで念動力だ……)
ロボットなのに、何故か、超能力的な攻撃が出来る様であった。
ロボは、怪人に対して、攻撃はしてこず、事実上の協力状態になり、
敵は大軍団であったが、あっという間にお菊と、戦えない下っ端を除き、
全滅した。もっとも、ロボが来なくとも一人でも十分できた事であったが。
そして、何時の間にか、ロボの姿は無かった。
「なんだったんだい、ありゃ……」
と言った後、怪人に向かって
「アンタの知り合いかい?」
「違うが、でも感謝だな、これで、テメエと戦える」
すると、お菊は怖い顔で
「相手してやるよ!」
次の瞬間、彼女の手に円盤の様な物が現れ
「一枚目!」
と叫んで、投げつけてきた。
お菊の代名詞となる円盤状のソウルウェポン。それは、本人の手を慣れても
長時間にわたって存在でき、お菊の意思で自由に動くので、
回避が容易ではない。そこで怪人は、高周波ブレードで叩き斬った。
「二枚目、三枚目、四枚目、五枚目!」
更に、四枚の円盤、さっきとは違いそれぞれ火、水、地、風の属性を
付与されていたが、怪人とっては、たいした事なく、
引き続き高周波ブレードで、切り裂いたり、左拳で叩き割ったりして、
破壊していく。
「ク……!」
この状況に、お菊は、悔しそうな表情を浮かべつつも怪人の方に右手をかざす
すると、彼女の周囲に大量の円盤が現れ、
「くらえ!六枚目、七枚目、八枚目、九枚目……」
それらが一斉に飛んできた。あと大量ではあるが、お菊は、律義に数えている。
飛んできた大量の円盤は、高周波ブレード、左拳、衝撃波に加え、
怪人の背中から先に刃の付いた触手の様な物が、大量に飛び出し、
それらを破壊していった。
次は巨大な一枚の円盤、高周波ブレードで叩き斬ろうとすると
爆発を起こす。この爆発で相手に、ダメージを与えるつもりだったのだろうが、
怪人は、物ともしなかった。
更に、お菊は、二枚の円盤を、今度は投げずに、それぞれ両手に持って、
「まだまだぁ!」
叫びながら、接近戦を仕掛けてきた。
そして円盤と、高周波ブレードがぶつかり合い、火花が飛んだ。
(コイツは、強力だな)
その円盤は、これまでの奴よりも丈夫で、途中地面を蹴り、間合い取って
衝撃波を撃ったが、円盤を盾にして、防がれ、さらに左拳でも
中々割れなかった。
さっきまでとは打って変わって、随分と骨のある戦いとなった。
(さすが番長、他の奴らとは、一味も二味も違う)
ここで、お菊の強さを、これまでは、彼女の攻撃は怪人にとっては、
たいした事のないものではあったが、その強さを薄々と感じていたものの、
ここに来て、より強く感じた。
彼女との接近戦は、加減しているとはいえ、少々苦戦したが、
「トリャ!」
と言う掛け声と共に、高周波ブレードで、二つの円盤を切り裂き真っ二つにした。
「!」
お菊は、地面を蹴って、間合いを取りつつも、新たな円盤を作って、投げつけてきた。
それは、先の二つよりもずっと弱く、高周波ブレードで簡単に真っ二つとなった。
そして悔しそうに、
「今のが、最後だよ。アンタには全然足りてないみたいだけどね」
なおソウルウェポンは、一度破壊されると、再度生成するには、時間を要する。
武器を失った以上、ここで、彼女も降参かと思いきや、
不機嫌な表情のお菊は、
「ねえ、アンタ、アタイがマルチウェポンだって知ってる?」
「ああ……」
「でも、アタイのソウルウェポン、レギオンソーサーがワンセットって言うのは、どう?」
レギオンソーサーと言うのが、彼女の使う円盤のようだが
ワンセットと言うのは初耳だった。実はソウルウェポンには、
複数で一つと言う扱いの物もある。彼女の話が本当ならば、
さっきまで使ってきた円盤は、途中大量に使ってきた分も含め、
一つの武器と言う事になる。
お菊は、怪人を睨みつけながら、
「アイツ以外で、このアイアンメイデンを使うのは初めてだよ!」
次の瞬間、彼女の体の、鉄の鎧の様な物が、装着された。
(なんだかスクラップで作った鎧みたい)
その上、装着されたのは全身ではなく、両手と、スカートで分かりにくいが両足。
胴体は、腹部と背中、肩には装着されたが、胸部はなし、
頭部も、左半分のみ。
「いくよ!」
叫んで、一瞬のうちに、怪人の前に移動し、殴りかかって来た。
「!」
攻撃を受け止める怪人、その一撃は、なかなか重たい拳で、これを皮切りに
再び戦いが始まる。
敵の攻撃は、拳と蹴りのぶつかり合いの激しい接近戦となり、
(コイツは、不味いな)
周りから見れば、怪人の方が押され気味になっているし、確かにお菊は強く
これまでの中で最も強力な、攻撃を受けている。
しかし相手の攻撃にやられそうと言う訳じゃない。
(体が熱くなってる。このままじゃ加減が効かなくなる)
相手の猛攻の所為なのか、それとも戦いが続いている所為なのか、
とにかく、このままでは、不味いのである。
しかし、こっちの状況が分かる訳もなく、怪人の蹴りを除け、
そのまま跳躍し、間合いを取ると
「喰らいな!」
右手から強力なエネルギー弾を撃って来た。怪人の方も衝撃波で打ち消した。
(なんで、こんな奴の為に……)
と思っていると、お菊は、接近し、再び激しい接近戦になり、
途中、地面を蹴って再び間合いを取ると
「強力なの行くわよ!」
と宣言し、彼女の右の拳が、異様なオーラを纏い始めた。
さっきの彼女の宣言もあって強力な一撃を、使って来るのが分かる。
その言葉に、反応して、怪人の方も、左拳に力が入ってしまう。
そして、お菊は一瞬のうちの間合いを詰め、その拳をぶつけてくる。
怪人の方も、左拳で応戦した。拳と拳がぶつかり合った瞬間、怪人の方の拳から、
強力な衝撃波が放たれ、最初は堪えていたものの、
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」
と言う悲鳴を上げ、ソウルウェポンが破壊されながら、
お菊は、宙に舞った。
「やっちゃった!」
そう加減に失敗したのである。
そして地面に叩きつけられるお菊に
「おい、大丈夫か……」
と声を掛けると
「この程度……」
と言って、立ち上がろうとするが
「あ……」
彼女の上半身は、狙ったわけではないが、とんでもない事になっていた。
直後、怪人やロボの攻撃でダウンし、そこからどうにか回復したと思われる
不良たちが、お菊に背を向ける形で、壁の様な物を作った。
なお回復したと言っても、どうにか動けるようになったと言う感じである。
「〇△◇×!」
壁の向こうで、お菊の訳の分からない悲鳴が聞こえ、女子の声で
「今日は、帰りましょう。番長」
更に、壁を作ってる不良たちは
「次あったら、ただじゃ置かねえからな!」
と口々に言う。他の不良達も、次々と起き上がり、何かを察したように、
壁を作る。
この時、赤い怪人こと恵美は知らなかったが、
部長に負けた時も同じ状況になると言う。
不良たちは、この状態を維持したまま、空き地を後にした。
その後、連中が、部長宅とは、違う方向に向かっている事を確認し
(本当に帰るんだな)
と思い、後は追わなかった。
その後、何もない場所を見ながら、
「そこにいるんだろ」
すると、ロボが姿を見せた。
(光学迷彩か……)
そして、今度は、空き地の近くにある林の方に向き、
「真一、そこにいるのか?」
すると、物陰から、真一が姿を見せた。
「すいません、勝負に水を差すような事しちゃって、
でも、助けてもらったお礼がしたくて、
それに、心配でしたし……」
「確かに助かった。ありがとう」
真一は、
「どういたしまして……」
と言いつつも
「どうして僕の事を……」
「あ……それは、修一から聞いた」
「貴女、桜井さんの知り合いですか?」
「お……私、従妹なの。今日は部長宅を見張ってほしいって頼まれて」
「そうなんですか……」
「連中があの様子だと、もう大丈夫そうね。それじゃ」
そう言って、素早いスピードで、その場を立ち去り、
そして人気のない場所で、変身を解いた。
彼女を覆っていた鎧の様な物は、背中の亀裂に、吸い込まれるように消えた。
亀裂も服ごと閉じていき、背中は何事も無かったようになる。
そして恵美は、携帯電話を取り出し、着信を確認した。
「やっぱりそういう事か……」
そう言うと、携帯を閉じ、彼女はポケットに入れ、その場を後にした。
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