7「赤い怪人と不良共(1)」

 数日後、修一がお見舞いに行くと、

部長の骨折は治りつつあった。ナノマシン治療の効果は凄まじく、

数か月かかる骨折も、数週間で治してしまうと言う。


「明々後日には、ギブスも取れるみたい。来週には退院だって」

「よかったですね」


と言う修一、この時、愛梨も来ていたが、今は席を外している。


「部長の怪我も治るし、ロボの完成も近いし、何か順調ですね」

「なら良いんだけど……」

「何か問題でも?」

「特に何もないんだけど、ただ私の経験だと、順調だと思った時に限って、

何か起きるっていうか」


と言った後、取り繕うような感じで、


「もちろん確証はないんだよ。あまり気にしないで」


と言うが、修一は、


「そうは言われても、俺もそういう経験は、多いですから、気を付けておきます」


すると、今度は申し訳なさげに、


「ごめんね。余計な心配かけて……」


と部長は言うが、


「いえ、用心に越したことは無いですよ」


と修一は言う。なお、この直後に、愛梨が戻って来た。


 その後、部長の元を後にした修一であるが、


(気を付けるとは言ったけど、どうするか。まあ何かあるとすると、

やっぱり、部長の家の周辺かな、厄介ごとは、いつも大事なものの周辺で、

起きるからな)


そして、今大事なのは、あのロボである。


(しばらく部長の家を……)


そう思って病院を出ようとすると、正面玄関付近が騒がしかった。


(なんだ……)


近づいてみると、不良と思われる学生が、大勢いた。

なお、たむろしていると言う感じでなく、全員、綺麗な隊列で並んで、

誰かを待っているようだった。


(まさか)


誰かに身に覚えのある修一は、一旦、物陰に身を隠す。

やがて、思った通り、お菊が姿を見せた。そして不良共が


「番長!退院おめでとうございます!」


と一斉に声を上げた。


 修一は


(他の人に迷惑だろうが)


と思いつつも、お菊の退院を知る事となった。更に不良の一人が、


「退院祝いの準備ができております」

「ありがとな」


とお菊が言って、全員何処かに去っていく。

そして連中がいなくなったのを確認して、物陰から出て来る修一。


(どうやら、皿番が厄介事を持ってきそうだな)


ただし部長の話では、念のためセキュリティーはきちんとしているが、

未だに不良に家を襲撃されたことは無い。恐らく家を知らないと思われ、

だからこそ真一の出入りを許していた。

しかし、状況に変化があってもおかしくはない。


(ここは恵美……赤い怪人とやらの出番か)


そして、退院祝いとやらがあるから、今日は動かない。

可能性があるとすれば明日、そう修一は思った。


 翌日、早朝から桜井恵美は、部長の家を見張っていた。


(まあ、こんな朝早くから連中が来るとは思えないけど……)


そんな事を思っていたら、携帯に着信があった。

なお携帯はマナーモードで、彼女は振動で気づいた。


(誰だよ、こんな朝早く……)


携帯電話を、手にしようとしたその時、騒がしい声が近づいて来る事に気づく。

その為、意識が、そっちの方に向いてしまい、誰からの電話かを確認しなかった。


(まさか、こんな早くに来るとはな……)


 さてやって来たのは予想どおり、お菊とその配下の不良軍団。

お菊はロングスカートのセーラ服、男子は学ランと言う格好。


「こっちです」


連中は下っ端と思える不良の案内で、向かってきているようだった。

物陰に身を隠す恵美。


「この工場であってるのかい?」

「間違いないっすよ。番長が入院したあの日、

奴が男と一緒に出て来るの見たっすから」


どうやら連中に知られたようであったが、別の不良が


「男の方の顔は見てないんだろ」


と言うと、下っ端は


「そりゃ、奴の方に集中してたもんすから」


更に別の不良が


「山で倒れていた奴の側には、男がいましたから、ソイツが言ってる事は

間違いないですよ」


と言うが


「お前も男の顔、ちゃんと見てないじゃねぇか」


と言われていた。


 男の顔を見てないと聞いて、安堵の表情を浮かべる恵美。そしてお菊は、


「まあいい、乗り込んでみりゃわかることよ。」


そう言って、連中は、建物に近づく。


 その様子を見た恵美は、両手を握りしめ

歯を食いしばり、力むような仕草したかと思うと、

背中が服ごと割れ、そこからまるで脱皮するかの如く、人型の何かが飛び出した。

飛び出したそいつは、展開し、恵美の体を飲み込むように包み込んだ。

この時、恵美は変身したのだ。そして物陰から出て、大きな声を出す。


「おい!皿番、更屋敷凛子!」


全員が、恵美の方を向いたが、全員が、


「うわぁぁぁ!」


という声を上げ、お菊は


「何だいテメエは!変身能力者かい!」


この時の恵美の姿は、赤い人型の魔獣のようでもあったが、

女性的な体型のパワードスーツを身に纏っているように見えなくもない。

ただその装甲が妙に生物的、その上、妙にちぐはぐな印象も受ける。

全身を覆う鎧の上に、別の、フィクションで見られる強化服と言う割には、

妙に露出度の高い奴を身に纏い、

あと両手は、右は、鈎爪の様になっていて、鋭さを感じるが

左は、爪の様なものは無く全体的にガッチリしていて、

その手からは、物凄く重そうなパンチを繰り出せそうに思える。

また両足も右と左で異なるデザイン。


 とにかく、そのちぐはぐ感は、人外感を強く醸し出す。

そして不良の一人が、言った。


「赤い怪人……」


この不良に限った事じゃない、この姿を見た多くの人間が、そう呼ぶのだ。


「手合わせ願おうか。もちろんタイマン無くてもいいぜ。

こっちは一騎当千が得意だ」


相手は、最初こそ驚いたが、後はそんな素振りも無く、余裕たっぷりに、


「いい度胸だね、だったら……」


と言いかけた所で、不良共の後ろの方から


「おい、ガキ何してる!」

「うわっ!」


という声がして、そっちの方を見ると


(真一!)


そう真一が、大柄な体格の不良に捕まっていたのだ。


「おい、どうした?」

「このガキが、コソコソと……」


次の瞬間、恵美こと赤い怪人は、一瞬のうちに、その不良の元に移動し、


「なっ!」


右腕から剣の様な物が伸び、不良の首元に突きつけていた。


「コイツは高周波ブレードだ。素早くテメエの首を切り落とせるぞ」

「!」

「首が大事なら、その子を放せ。関係ない奴を、しかも子供を巻き込むな……」


すると、お菊も、


「放してやりな。無関係なガキを巻き込むのは本意じゃない」


不良は、悔しそうに真一を放す。赤い怪人は、不良にブレードを突きつけたまま


「サッサと帰んな。今ここは、危ないからな」

「わかりました」


と言って真一は逃げるように、去っていく。

そして、真一が居なくなるのを見届けた後、ブレードひっこめ、不良を解放する。


「てめぇ!」


逆上した不良が殴りかかってくるが、素早く避け一瞬のうちに、

お菊の元に移動して、


「さて改めて、手合わせ願おうか」

「良いわ。ただしうちの舎弟と全員相手してもらう」

「いいぜ、でもここじゃ狭い。良い場所知ってるから、移動しよう。ついてこい」


移動を始める。怪人と不良共、移動中に、お菊は舎弟に、


「着いたら、来てない奴に、場所が変更になったって、連絡入れろ」

「ヘイ!」


そして、お菊は怪人に、


「言っとくけど、アタイの舎弟は、こんだけじゃないからね。

後から大勢来ることになってたんだよ」


意地の悪そうな笑顔で言うが、怪人は余裕な口調で


「ソイツは楽しみだ。こんだけじゃ、つまらないからな」


と言ったので、悔しそうな顔をする。


 やがて辿りついたのは、工場から、少し離れた場所に空き地。

そうブースターのテストを行った場所である。


「さてと……」


赤い怪人は、お菊率いる不良軍団と対峙した。

この時点で、相手は結構な人数だが、更に敵が増えると言う。


(うまく手加減できるか)


喧嘩を売っておいてなんであるが、主目的は、部長の家を守る事。

その為、自分に注意を向けるために、喧嘩を売ったのである。

なお本格的に、ぶちのめすつもりはない。

ただこの場を引いてもらう為には、多少痛い目を見てもらうしかない。






 一旦あの場から離れた真一であるが、舞い戻って来ていた。

部長宅の周辺には、もう赤い怪人も不良の姿も無い。

真一は、工場に向かい。合鍵で開けて、中に入った。

なお鍵は電子制御の為、合鍵はプログラムで、ネットを通じて

部長から、送られていた。工場の扉のみを開け閉めできる。


 工場の中に入って、ロボを置いている作業台の方に行くと、

ロボの上に乗せていた部品や、鉄材は、すべて無くなっていた。

そして真一は、左手のグローブを外す。そこには、腕時計型のリモコンがあって、

表示されているプログレスバーが、終了直前の所まで来ていた。


 そう自己修復は、終了寸前まで来ていた。

今朝、目を覚ました時にそれに気づき、真一は、逸る気持ちを押さえられず、早朝にも関わらず、こっそり家を抜け出し、ここに来た。

あと修一にも連絡は入れたが、早朝であるからか電話には出なかった。

そして部長宅に来ると、不良たちがいたのである。


(早く……)


この時、真一は、焦っていた。先の出来事があったからだ。


(あの怪人さんが、やられちゃうかも……)


自分を助けてくれた赤い怪人が、不良たちと戦おうとしていたのは、

捕まる直前までのやり取りを見ていたので知っている。

自分を助けてくれた際の、手際から、心配無用なのかもしれないが、

しかし、一対多人数なのだから不安はぬぐえなかった。


(早く、あの人を助けないと……)


初めて会ったばかりで、もしかしたら助け入らないかもしれない。

しかし、助けてくれた恩はあり、それに報いたいと言う衝動に駆られていた。


 やがて、プログレスバーが、いっぱいになって、表示か消え、

代わりに「修復完了」の文字。


(来た!)


 作業台のロボは、もうボロボロではなかった。装甲はキレイに貼りかえられていて

着ていた服も、綺麗になっている。そしてリモコンに「起動中」と表示され、

ロボの目に当たる部分のライトが点灯して、

駆動音と共に、ロボはゆっくりと起き上がった。

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