4「事故と入院と番長の素顔」
工場から、少し離れた場所にある人気の無い空き地で、テストが始まった。
何だか知らないが妙に力が入っていて、
「撮影頼むぞ!」
「はい!」
デジカメを動画撮影にして、撮影を開始する修一。
そして、部長の背中や、足から火が噴き出し、宙に浮かぶ。
余談であるが、今日もパワードスーツの上にセーラー服を着ているが、
実は、この服は、特殊繊維で作られたパワードスーツの一部で、
フースターを吹かせているが燃えることは無い。
宙に浮かんで、上昇下降、前後左右。途中から激しいアクロバティックな動きし
修一は、カメラで追う。一か所で止まって、下降を始め、
(着地するのかな)
と思ったが、様子がおかしい。ブースターの炎が、小さくなったり大きくなったり
妙に不安定になる。更に体が小刻みに震え始め。
(ヤバくないか)
次の瞬間、物凄いスピードで部長は、飛んで行ってしまった。
「部長!」
咄嗟の事だったので、余計なこと考える暇はなく、
修一は、「ヒーロー」を使い飛翔した。
その飛行速度は早く、あっという間に追いつく、部長の飛行体制は、
明らかに飛んでいるという感じではない、吹っ飛ばされているに近い。
(暴走してる。どうすれば……)
とにかく、止めなければと思った修一は、咄嗟にその体にしがみついたが
「わわわわわわ!」
一緒になって吹っ飛ばされていく羽目に
「桜井、離れろ!」
という声と共に、衝撃波の様な物で軽く吹き飛ばされる修一、
その後、直ぐに身を立て直すが
部長の方は、そのまま、高度が下がって行き、
山中に墜落した。
「部長!」
墜落地点に向かい着地する修一、そこでは部長が倒れていた。
手足の一部壊れていたが、全体的には、パワードスーツは無事で、
部長も、死んではいないようだが、苦しそうな声が聞こえてくる。
修一は、救急に電話した、山中であったが電話は繋がった。
ただこの街に来て間もないと言う事もあって場所を、上手く説明できなかったが、
オペレーターが、
「大丈夫です。携帯の電波の位置から特定しますので、
切らずにそのままにしていてください」
携帯を繋いだまま救急隊を待つ修一。
「ん?」
この時、修一は誰かがこっちを見ている事に気づいた。
ソイツは、見るからにガラの悪そうな男だった。
修一が、気づいて直ぐに、その男は何処かに行ってしまった。
(何だ今の?)
次の瞬間、サイレンが聞こえてきたので、男を追うことは無かった。
なおサイレンの音は、被って聞こえてきた
やがて、空から、それは降りてきた
(空飛ぶ救急車だ)
見た目的には救急車だが、それは空から降りてきた。
なお救急車は、二台で、一台は修一達の近くに降り立ち
近くではあるが、少し離れた場所にもう一台止まった。
修一達の側に降り立った方の救急車から、隊員が降りて来て
「貴方が通報者ですか?」
「はい」
「患者は?」
「こっちです」
と部長の元に案内する。すると救急隊員は、
「またか……」
と言ったあと、手慣れた様に、部長の腕の部分を弄る。
すると、パワードスーツは、制服ごと消滅し、ジャージ姿の少女に姿を変えた。
セミショート髪型に、可愛らしい顔をしていて、顔には眼鏡を着用している
(あれが部長の素顔……)
救急隊によると、左腕と右足が複雑骨折しているとの事で処置を施すと、
担架に乗せて救急車に乗せられる。
修一も付き添いと言う形で、救急車に乗り、その場を後にした。
その後、病院に担ぎ込まれた部長は、当分、入院となった。
付き添いと言う事で、医者からの聞いた説明では、高位の治療魔法でないと、
治りにくい怪我で、病院には使える医師がいないから、
「ナノマシンを使った治療になるね」
と医者は言った。それでも時間はかかるらしい。
なお医師からは
「君は、彼女の彼氏かい?」
と言われ、
「違いますよ、学校の後輩です」
と説明しておいた。
さて医師から説明を受けた後、
(家族に連絡しないとな、何処に連絡すれば……)
修一は、連絡先を知らない
(副部長なら)
古都愛梨は、部員の中で、部長と一番親しいという。
そこで彼女に、彼女に連絡を取ろうとしたが、
彼女の連絡先も知らなかった。
(どうするか……そうだ、長瀬)
長瀬メイが、愛梨と親しく、部活に入ったのも彼女の誘いだと聞いた事があった。
幸い修一は、メイの連絡先は知っていて、携帯電話が使える場所で、
彼女と連絡を取り、事情を説明すると、
「分かった……連絡しておく……」
連絡を終えると、病室に向かう修一、病室では部長は目を覚ましていたが
左腕と右足にギブスを巻き、全身に、電子機器の様なもの取り付けていた。
部長は、修一の事に気づくと
「ごめんね。桜井君。助けようとしてくれたのに、吹き飛ばしたりして」
「いえ、別にいいんですよ。そっちこそ俺を助けようとしたんでしょ」
あの状況から考えても、彼女が自分を助けようとしていた事は理解できていた。
「それと救急隊まで呼んでくれて、本当にありがとう」
「いえ、当然の事をしたまでですよ」
と答えつつも、修一は違和感を覚えた。
(あれ?何か変だな)
それが何かは分からないが、ふと思い出して、修一は、ポケットから
デジタルカメラを取りだした。吹っ飛んでいく部長を追う際に
無意識にポケットに入れたのである。しかも、慌てていたから
録画したままになっていた。
修一は、録画を切りつつ、その事を説明し、
「すいません」
と謝るが、
「別に、気にしなくてもいいんだよ。桜井君」
と言い、その後デジカメは、部長の手が使いづらい状態なので
修一の手で、私物入れに入れた。
そして、ここで違和感の正体に気づき、
「部長……」
「なに?桜井君」
「何で、『君』付けしているんです?」
普段の彼女なら、呼び捨てなのに、今は君付けをしている。
「それに、話し方もいつもと違うし、どうしたんですか?」
「………」
少し黙り込んだ後、部長は答えた
「あのパワードスーツを着ると、何だか、気が大きくなるの……」
そう言う機能が付いているわけじゃなく、部長の精神的な事で、
今の彼女が、本来の姿だという。
(俺がアレを使ってる時と似たような感じかな)
そうこうしていると、病室に愛梨がやって来た。彼女の私服はギャルの様に、
派手な服をしている。そんな彼女は真剣な表情で、
「病院に担ぎ込まれたって聞いて、心配したよぉ!」
「ごめんね。でも大丈夫だから……」
「複雑骨折のどこが大丈夫なの!もう何度目よ病院送りは、
毎回スーツの事故じゃない」
ここで修一は、救急隊員が「またか」と言っていた事と
隊員がスーツの脱がせ方を知っていた理由が分かった。
なお喧嘩で病院送りは無いとの事。
そして病室にやって来たのは、愛梨だけじゃなくて
「部長……」
「長瀬さんまで……」
「メイちゃんから、話を聞いたんだよ。メイちゃんは桜井君から、
聞いたみたいだけど」
修一は、連絡に関わる経緯を話す。すると部長は思い立ったように、
「連絡と言えば、真一君に連絡を入れといてくれないかな」
病室では、電話は出来ないし、今の彼女は通話可能な場所に移動もできない。
それ以前に、連絡ができる端末を持っていない。
あと部長以外では、真一の連絡先を知っているのは修一のみ。
そう彼は、真一と連絡先を交換していた。
「分かりました。」
「後しばらく帰れないから、工場は来ない様に言っといて、
あと心配かけたくないから、入院の事は内緒してね」
修一は、連絡を入れるため、病室を離れる。その際に
「真一君って誰?そう言えば、どうして桜井君がテストに立ち会ってたの?」
と言うような、声が聞こえた。どうも部長は、真一の事を
話していなかったようである。
そして携帯が使える場所で、真一に連絡を入れて、部長に言われた通り
今日はそっちに戻れない事と当分、部長が家に帰れないから工場には来ないようにと
話しておいた。もちろん入院の事は話さず、誤魔化した。
「分かりました」
と真一は、普通に答えたので、上手く誤魔化せたようだが、
(心苦しいな)
と罪悪感がする修一であった。
通話を終えると、愛梨がやって来て、
「桜井君、連絡先、交換しよ。何かあった時の為にさ」
「はい」
連絡先を交換する二人。
「ありがとね。お姉……部長を助けてくれて」
「いえ、俺は救急を呼んだだけですし、厳密には、助けられたわけじゃない……」
悔しげな顔をする修一。
「救急を呼んでくれただけでも、十分だよ」
と言う愛梨。
「真一君の話、聞いた。何か、借りがあるとか言ってたけど、
やっぱり、同じマシンクロだから、ほっとけなかったのかなぁ~」
「えっ部長って、マシンクロなんですか?」
すると、愛梨は、驚いた顔をして
「えっ、知らなかったの、病室の、あの格好……」
「あれって、ナノマシン治療って奴じゃないんですか?」
「そういや、桜井君って、この街に来たばかりだったねぇ
ナノマシン治療ってのは、注射を打つだけだから」
なお、骨折の場合は、ギブスで固定の後、専用のナノマシンを注射器で
注入する。なおナノマシン治療は、治りが早い。
ただ、この街以外だと、一般的ではない。
「それじゃあ、あの機械はもしかして、精神的な負担を避けるためを」
「そう……」
真一のあの格好と同じなのである。部長がパワードスーツを着て学校に通えるのも、
マシンクロ故の特例であった。
ここで、修一は、
「そう言えば、部長の家族は、来られないのですか?」
「来ないよ。連絡してないもん」
「何で?」
「絶縁してるから、連絡したって来ないよ」
「絶縁!」
驚く修一。
「この街じゃ、有名な話だよ~」
ただ、家族の事はあまり知られてない。
「言っとくけど、番長だからじゃないよ。毒親だからだよ」
「毒親って」
「だいたい、番長になったんだって、親にも責任あるし……」
と不機嫌そうな様子で言った。それ以上は、詳しい話は聞けなかったが、
ろくでもない親の可能性がある。
ここで修一が、ふと疑問に思ったのは、
「だったら、学費とか、生活費は?」
「部長は、稼ぎ口があるから、特許料とか、そもそもパワードスーツだって、
その稼ぎで作ったらしいし」
確かに、自称技術系の番長。その技術使って、稼いでるようで、
食うに困らない。むしろ裕福な生活をしているとの事。
「あと投資もしてるみたいよ」
なお、あの工場も、廃工場を買って、リフォームした彼女の持ち家らしい。
それと、きちんと納税もしている。
(そう言えば、部長って正確な年齢は知らないけど、成人してるんだよな)。
ここで愛梨は、
「そう言えば、この事は、あーし達以外には、話した?」
「いえ……」
と修一が答えると、
「部員全員に……メールした……」
「メイちゃん!」
いつの間にか、長瀬メイがいた。愛梨は面食らった顔で、メイを見ながら、
「連絡しちゃったの!」
「大丈夫……みんな、口、……固い……」
「そうだけどさぁ……」
「隠さなきゃいけない事ですか?」
と修一が聞くと、
「一応、番長だからさ、他の不良共に知られたら……
怪我をいい事に、病院に乗り込まれるかも」
すると修一は、山中で見た奴の事を思い出し、
「あっ!」
と声を上げた。
「どうしたの?」
「現場を不良っぽい奴に、見られました」
「ホントに!」
「ええ……」
すると愛梨は頭を抱えながら
「まずいなあ~ソイツ、絶対に合戸路の奴よ」
つまりは、お菊さんが乗り込んでくる可能性があった。
「部長の素顔……今日初めて知った。他に知ってる人は?」
とメイが言うと、
「あーしと、先生と、一年以外の部員。一年で知ったのアンタ達が初めてだよ」
「不良共は……」
「知らないと思うけど……でも見られたんじゃ」
ここで修一は、
「救急隊員が鎧を脱がした時には、居ませんでした」
と言うと、
「じゃあ、大丈夫……乗り込まれても……分からない」
「なら、良いけど……」
と愛梨は不安そうにする。
なお違う意味で、お菊さんが既に乗り込んでいる事を、修一達は、まだ知らない。
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