2「少年と異世界から来たロボ」

 修一が、真一と再び会ったのは、土曜日の昼下がり、これから買い物に行こうと、町を歩いていた時の事、坂道の前で立ち往生する真一を見かけた。

格好は依然と一緒だが側には、見た所であるが車長は4.0m以下で車幅は2.0m以下で

高さ3.0m以下、原動機は、モーターなど、

軽車両の要件を満たす電動手押し車があった。


 真一は、手押し車を押して、坂道を上がろうとして難儀しているようであった。

電動なら、子供でも坂道は大丈夫だろうが、恐らくは、機械が故障して、

動かなくなり、アシストを失った結果、現状に至っているようだった。


(さて、どうしよう)


 ここで、助けるのが人として正しい事、しかし、子供に声を掛けると言う事は、

やましいことは無くとも、不審者扱いされる可能性はある。

さて、ここは不審者扱い覚悟で助けるか、それとも警察に連絡を入れて、

後を任せるか、悩んだ結果、修一がとった行動、

いや彼の正義感と言う病気がさせた行動は、


「手伝おうか?」


修一は、真一に近づいて、声を掛けた。不審者扱い覚悟で助ける方を選んだのだ。


 声を掛けられた真一は、暫く修一の方に顔を向けていたが


「お願いします……」


と言って深々と頭を下げた。どうやら不審者扱いはされていないようだった。

その後、二人で、手押し車を押して、坂道を上がる。


(しかし、子供一人で何を運んでるんだ?)


荷台には、シートが掛けられているので、分からない。

その後は、重くて大変だったものの、どうにか坂道を登り切った。


「ふぅ……」


と一息つく、ここで彼は、ヘッドマウントディスプレイを外して


「ありがとうございます……」


と言って再び、頭を深々と下げる真一


「後は、そこに運ぶだけですから……」


真一は、坂を上りきった所にある。二階建ての町工場の様な建物を指し示した。

どうやら、そこに荷物を運び込む様である。


「もう大丈夫です……」


とは言われたが


「いや、ついでだから」


と工場まで台車を押した。後は平坦だったので、特に苦労はしないし、

子供でも十分運べた。だからと言ってここでやめるのもどうかという思いがあり、

修一は最後まで付き合う事にしていた。


 工場の前に来ると、大きなシャッターがあり、それが自動的に開き、

そこから、中に運び込む。工場内には加工に使うであろう機械類はあったが

人の姿はない。真一は、


「本当に、ありがとうございます」


と言って、再度、頭を深々と下げ、


「本当に、ここでもう大丈夫ですから」


場所的にも、ここで良さそうだったので、修一は、ここで立ち去ろうとしたが

この時、シャッターを開けて、そのままにしていた出入り口から

風が吹いて、荷台のシートの一部がめくれた。


「〇△◇×!」


思わず、おかしな声が出た。そこから見えていたのは、

靴とハイソックスを履いた人の足だったのだ。


 修一の様子を見て、真一も、焦ってように


「違うんですよ!それは作り物で、人のじゃなくて!あの……その……」


焦ってうまく説明できないようであった。ここで、


「なんだぁ、随分と、騒がしいな」


と声を掛けてきたのは、


「部長!」

「番長さん……」


そこに居たのは、番長こと現視研の部長であった。


「なんで、こんな所に?」

「ここは、アタシの家だから」


 ここは、元は工場なのだが、今は部長の家で、二階部分に住居があって

一階は、彼女の工房となっていて、ここで彼女のパワードスーツの調整などを、

行っているとの事


「真一にも使わせてあげてんだ」


そして、彼女は真一の方を向くと


「HMDを、外してるたぁ、珍しいな」

「実は、借りた台車が、壊れちゃって……坂が上がれなくて、このお兄ちゃんに、

手伝ってもらったんです。お礼を言うときは、

これを着けてたらいけない気がして……」


そう言うと、再びHMDを身に着ける。


「台車の調子がわりぃから、動かなくなったら、連絡入れろっていったろ」

「近くだったから、大丈夫だと思って……」


その後、部長は、修一の方を向き


「迷惑かけたな」

「いえ、そんな事は……」

「なら良いがな……」


そして部長は、荷台の方を向き、


「コイツが例の……」

「はい……」


部長は、おもむろに近づき、シートをはがした。


「ひぃ!」


修一は、人が倒れているように見えてしまい。思わずそんな声を上げたが


「何だ、ロボットか……」


それは、人型のロボット、つまりアンドロイド、ただ女性型なので、

ガイノイドと言うべきもの。

ただ、かなりボロボロ場状態で、右腕と左足がちぎれていて、

灰色の金属製の装甲の一部がはがれ、中がむき出しになっている上、

中身もグチャグチャになっていた。


(しかし、清々しいほどのロボだな)


顔は、全体的には、鉄仮面の様になっていて、ライトの様な目は付いているが、

鼻や口は無い。顏の一部の装甲は、はがれているものの、

その部分は関係ないので、元より付いてなかったようである。

先も述べたように身体も、一部の装甲が剥がれているものの

無事な部分を見るに、普段から全身が金属製の装甲の様であった。

 

 まさに鉄の人間と言うところだが、所々破れてはいるものの、

どういう訳だか、ブレザー制服の様な物を着ていて、

足にはハイソックスと靴が履かされている。


 シートの一部が剥がれた際に修一には、装甲部分が見えておらず、

靴とハイソックスを履いている部分しか見えてなかったので、人の足と誤認したのである。


 更に頭部には、ロングヘヤーの髪の様な物が付いていた


(何だろう。中途半端に人間に似せてるって感じだな)


という感想を抱きつつも


「このロボットは一体?」


と聞くと、


「アガルタで買ったんです……」


と真一は答えた。


 アガルタは、未来電気街と魔法街との間にあるアーケード商店街の、

路地裏にある古物商で、魔法や超科学絡みの商品を取り扱っているとの事。


「このロボットは、ゲートから現れたとか」


これは、真一が聞いたアガルタの店主の話であるが、

ロボは、ゲートから今のボロボロの状態で出現して、WTWでのチェックの後、

払い下げられたものとの事。


「でも、こんなボロボロのロボットをなんで……」

「直すんです」


 マシンクロの力で、このロボの構造、設計図面的な物は、

頭に入って来ているとの事で、それを基に、修復を試みるとの事。

なお理由に関しては、子供特有の好奇心、自分も経験があって

今もそのままであるが、そう言うのだと思い聞かなかった


 あと荷台には、ロボの他に、鉄材やネジなど修復のための必要とされる素材も

載せてあった。その中に混じって、


「腕時計?」

「それは、このロボのリモコンです」


このロボは、腕時計型のリモコンを付けた者のいう事を聞くという。


 さて、話を聞いていると言うか、ロボを見ている内に、

修一の中の好奇心と言う病気が、湧き上がってきた。


(これ以上関わったら普通から外れる)


という思いがあったが、衝動は抑えきれず、一線を越えてしまう。


「あのさ、時々見に来てもいいかな?」


すると部長が、


「お前も、興味がわいてきたか?」

「はい」


ここで断られれば、身を引けたはずであったが、真一は、


「別にいいですよ。」


と了承した為、完全に身を引けなくなった。


 そして真一は


「そう言えば、自己紹介してませんよね。僕、真一って言います」

「知ってる。雨宮さんの所で暮らしてるんだよね」

「interwineの常連さんですか?」

「ああ……」


と返事をしつつ


「俺は桜井修一……」


と名乗ると横から、


「アタシと同じ学校の生徒で、同じ部活の後輩」


と部長が言った。


 この後、ロボを荷台から降ろし、作業台へと移動させる事となった

真一は、クレーンを使おうとしたが、


「ついでだからアタシが、運んでやるよ」

「手伝います」


と修一が言ったが、


「大丈夫、つーか、このスーツの力をなめんなよ」


と言って、ロボの本体を軽々と持ち上げ、作業台に運んだ。

修一は、何もしないのは気が引けたので、外れていたロボの左足を、

真一は、同じく外れていた右腕を手にし、其々作業台に運んだ。

ただ真一は、重そうにしていたので、修一は足を運び終えた後に手伝った。


 ロボを、作業台に運び終えると、真一はふたたびHMDを外し


「本当に、ありがとうございます」


と頭を下げ、その後再びHMDを身に着ける。

なお今日は、真一の都合もあって、ロボを運ぶだけで、

明日から本格的な、作業に入るという。そして別れ際に、


「あのロボの事は、雨宮さんには、内緒で……」


後で完成品を見せて、驚かせたいとの事。

加えて番長の元に出入りしているとなると、心配をかけると言う事もある。

修一は、部活を通して、彼女の事を知っているので心配はないと思っていた。


「分かった内緒にしとくよ」


と言うと、部長が、


「じゃあ、アタシが立会人だ。桜井、約束を破ったらただじゃ置かないからな」


と言って、握り拳を見せた。その姿に、少しタジタジになりながらも、


「大丈夫です。俺、口硬いですから」


一方の新一も、困惑しながら


「番長さん、そんなに脅かさないで……」


と言うと、部長は軽い口調で


「冗談だよ」


と言ったが、鉄仮面の所為で、表情が読めない分、

何処までの事なのか分からない。


 その後、真一は帰って行き、修一も、買い物があるので

この場を離れようとしたが、ふと思い立って、部長に


「あの子と部長ってどんな関係なんです」

「関係つーてもなぁ、まあアタシは、あの子に借りがあるってくらいか」


その借りについては、きちんと話しはしないが、ただ、その礼として

真一に工場を、自由に使わせているらしい。


「所で、真一って、お前の親戚だったりするのか?」

「えっ?」


なお部長は、真一がinterwineの店長の元で暮らしているのは知っている。

一方、修一の方は、身に覚えが無いので


「違いますけど、どうしてそんな事を?」

「いや、顔が、お前に似てる気がして、あと名前も似てるし」

「そうですか?」


修一は、あまり気づかなかったし、修一の友人たちはinterwineの常連故に

全員、真一を知っているが、そんな事を言われたことは無かった。

まあ素顔を知っている部長と違い。全員、HMDを着けている時の姿しか、

知らないからであるが。


「他人の、空似じゃないですか」


と修一が言い。この話はここで終わり、


「それじゃあ、俺は、これで、また部活で……」


と言って、今度こそ、修一は工場を立ち去った。そして頭が冷えてくると、


「あ~何やってるんだろ俺……」


と後悔の様な物を感じた。

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