第5話「番長と少年とロボ」

1「少年と番長と部活動」

 桜井修一が、真一と言う少年を初めて見かけたのは、

アキラが、修一の家を去って、少し経った頃の街中である。

この街で、出会った多くの事柄と同じく、印象に残るものであった。


 買い物帰り、場所は、交差点で、信号待ちをしていた時、

その少年は、道路を挟んだ向こう側にいた。小学生くらいで、

ジャージの上下を着て、大きなリュックサックを背負っていた。

リュックの口からは、短かったが、アンテナがはみ出していた。

両手にグローブをはめていて、両腕には、プロテクターの様なものを付けていたが、

左腕の方は、よく見るとキーボードが付いている。そして耳にはヘッドフォン。


 しかし、何より、修一の印象に残ったのは、少年がアイマスクをしていたという事である。


(おいおい、危なくないか)


と最初は思ったが、一見、アイマスクに見えたものはと言うと


(あれって、ヘッドマウントディスプレイか、ヘッドホンと一体になっていて、

あっカメラも付いてるな)


推測ではあるが、モニター越しに前は見えているように思えた。


 少年が歩いていく姿を、見ていた修一は、


「よう桜井」

「零也……」


天童零也に声を掛けられた。この後は、同じ方向に行くので、

話をしながら、一緒に歩いていて、その中で、さっきの少年の話をした


「多分、その子、雨宮さんところの真一君じゃないかな」

「雨宮さんって、interwineの店長さん?」

「そう何でも、知り合いから、預かって育ててる子なんだけど……」


ここから、小さめの声で話す。


「噂じゃ、その知り合いは、大十字久美じゃないかって言われてる」

「またか……」

「あり得ない話じゃ無いんだよな。

あの人が、大十字久美の二人の幼なじみの一人だから」。


 大十字久美の話は、一旦置いておいて、修一は少年の格好について、

話題にすると


「あの子は、マシンクロだからだよ」

「マシンクロ?」


零也は、この能力の詳細について話す。

それによると、正式名、マシーンシンクロ、機械類と同調して、

機械を自在に操るだけでなく機械を介する事で、様々な力を発現できる能力の事。

ただ機械類、主に電子機器が無いと、何もできないので

無能力者と勘違いされることもある。


 零也が話を終えると


「だから、あんな格好をしているのか?」

「まあそれも、あるんだろうが。マシンクロは機械類が側にないと、

精神的に不安定になるらしいから」


度合いは、個人差がある。スマートウォッチを付けているだけで、

落ち着く場合もあれば、彼の様に、全身に機械を身に付けないと

ダメな場合もあると言う。


「まあ加齢とともに、改善される事もあるらしいけどな」


その後、修一は真一と言う少年と関わる事となる。



 さて場面は変わって、授業が終わった後の学校、部活の為

大きな紙袋を手に部室に向かい校内をあるく修一。

彼の所属する現代視覚文化研究部の部室は、第二部室棟と呼ばれる校舎から

だいぶ離れた建物の二階にあり、更に、この部室棟には現視研しかいない。


 部室に着きドアをノックすると


「いいぞ。入ってこい」


との声がして、


「失礼します」


と言って部室に入る修一、部室は広く、その一角に、会議室のごとく、

テーブルがコの字型に並んでいる場所があり、

奥の席、ちょうど議長が座るであろう席に、女子が一人、両手を組んで、

ふんぞり返るように座っていた。


「今日はお前が一番乗りか……」


この学校の制服は、男女ともにブレザーであるが、この生徒はセーラー服であった。

なお校則違反ではない。彼女のセーラー服は、旧制服で、制服が変わった頃、

今の制服は、新入生から適応で、在校生は、旧制服のままでいい事になっている。

そして、彼女は、制服の下にフード付きの何かを着ているのか、首元から

フードが出ていて、それを深々と被っていた。


 加えて、服から出ている手足は、鉄製の機械的な鎧に覆われていて、

顏には女性の顏を模った鉄の仮面を着けている。さながら特撮の特殊強化服の上に

セーラー服を着ているようでもあった。


 この生徒こそが、現視研の部長にして、鋼のスケ番と呼ばれる、

この学校の番長でもあった。番長とは言っても舎弟とかはいないのであるが、


 修一が、初めて彼女を見かけたのは、河川敷を偶然通った時で

彼女は、河原で複数の不良を相手に一人で、大立ち回りをしていて、

周囲には多くの野次馬がいた。この時、修一は、友人達と一緒で、零也が


「彼女、お前の学校の番長じゃねえか?」

「えっ?」


この時、修一は彼女の事を知らなかったので、零也から詳しい話を聞いた。


 彼女は、自称技術系の番長で、彼女は、ゲートから得られた様々な超科学の

技術を会得しており、その技術の結晶が、彼女の着ているパワードスーツで、

何と自作な上、百戦錬磨の力を持つと言う。実際、目の前で行われている喧嘩では、

圧倒的な強さを見せつけていた。初めて見た時の修一の印象は、


(アメコミの悪役みたい)


と言うもの。


 その戦いは、基本は格闘戦であるが時折、ビームは発射したり、

マシンガンのような物を撃ったり、しまいには、超小型のミサイルの様な発射したり

あとバリアーの物で防御したりするので


(なんかズルくないか)


と思ってしまった。


 ビーム、銃弾、ミサイル共に、殺傷力は低めようで、

相手は怪我程度で済んでいる。加えて相手も、

魔法やら超能力やらを使ってはいるが、それでも、修一にはズルいように思えた。

なお、その事を、指摘して、パワードスーツを、脱ぐように、

求める不良もいるらしいが彼女は、


「アタシは、『技術』で戦ってるんだ。このスーツと戦えないってなら

さっさと家に帰んな!このスーツを壊す気のない奴とは、戦うだけ無駄なんだよ!」


と返す。実際、町の不良共は、彼女自身と言うよりも、

彼女のパワードスーツの破壊を目的にしている。


 そして彼女と再会したのは、部活入部の時、現視研は、彼女がいるせいで、

色々噂になっていたものの、当時の修一の耳には、まだ入っていなくて、

入部の時に面食らう事となった。だが、それでも部員になったのは、

先に入部していた長瀬メイから、真面目に活動していると聞いたからであった。

それと口調こそ乱暴であるが、部長は部員には、面倒見がよく、修一は


(この人、根は良い人なのかな)


と思う様になっていた。不良が偶にいい事をすると良い人に見えると言う事もあるが

修一の場合は、喧嘩以外、部長の不良っぽいところは見たことは無い。

ただ授業をサボりすぎて、留年中との事だが、

 

 さて部室やって来た修一は、適当な場所に座り、やがて他の部員もやって来る。

現視研の部員は、修一以外は全員女子であるが、これは不津校の男女比率の影響で、

他の部活を含めても、そんなに珍しい事ではない。


 そして部員が集まって、最初にすることは、討論会。本日のお題を

部長が発表する


「昨日、ドラマ版の放送が始まった『九時のアンビバレンス』について」


それは、漫画原作のドラマである。なお漫画自体は既に完結している。


「この作品は、現視研の結成時、連載開始され、第一回討論の議題となり、

二度のアニメ化、そして連載終了まで、この作品について語り明かし、

過去には同人誌の制作。現視研は、この作品と共にあったと言っても

過言じゃねえ、だから今回、議題に取り上げざるをえないわけだ」


と言った後、修一を含めた一年生の方を見て


「それじゃ、一年、誰か発言してみろ」


 ここで修一が


「俺はアニメの一期二期の再放送から、この作品を知って、原作を読みました」


と前置きした後


「ドラマは、現代に合わせている関係で、多少の違いはありますが、

概ね原作通りだと思います。あとアニメ版の声優のゲスト出演とか

BGMとか、アニメから入った身としては、

アニメ版を意識した演出が良かったと思います」


この点は部員たちも同様なのか、何人か頷いていた。


「ただ気になるのは、原作にない冒頭の大学のシーンなんですけど……」


と言いかけた所で


「あの原作を、最後まで読んだ人は?」


と聞くと、全員が読んだと言う返答が来た。


「じゃあ大丈夫ですね。原作未読組にはネタバレなんで……」


と言って安心したように


「話を戻して、あのシーンはやっぱり、終盤の超展開への複線なんでしょうか?」。


 すると現視研副部長でイラスト班、茶髪のウェイブの掛かったセミロングで、

濃い化粧、チャラチャラしたアクセサリを付けた、見るからにギャルっぽい少女、

古都愛梨ふるみやあいり


「あのシーンって、蛇足だと思うよね。あーしは、単行本から入って、

事前情報なしで、読んだけど、あの衝撃は、良かったと思うなぁ~

しかも、ちゃんと複線も張ってあるから、唐突な展開って訳でもないし

とにかく、あの衝撃を、ドラマから入る奴らにも、味わってほしいわけ、

サプライズは、重要だよ。でもあれで、台無しっていうか」


 ここで現視研コスプレ班、ブロンドのショートカットのエルフの少女、

来訪者2世のフレア・フィーレンスが


「私は逆に重要だと思います。私は事前に情報を知った上で読みましたが

作品としては面白いですが、あの展開はどうかという思いがあります。

複線とは言っても、分かりづらいですし、やっぱり唐突感は否めません。

あのシーンは、それを多少は緩和してくれるかと」


と言うと、愛梨が


「でもさあ、その唐突感がいいとおもけどなぁ~、あれがあるから

今日までじゃ足り継がれるわけだしさぁ~」


と反論しフレアが


「あの展開が無くたって、漫画としては面白いですよ。それにネットで調べましたが

あれを作品の汚点としてる人も、少なからずいますし……」


更に反論する。

 

 この後は、ドラマの冒頭シーンのあるなしについて、他の部員も交えての

白熱した議論となった。言い出しっぺである修一は


(なんだか、凄い事になっちゃたな……)


自分が言い出した事ながら、この状況に困惑していた。


 そして、話題を変えながらも議論は深まり、最終的には、

ドラマ第一話の出来は良く。第二話も期待できそうと言う形で討論は終えた。


「後は、各自で適当に、やってくれ」


と言う部長の一言で、イラスト班はイラストの制作に着手し、

コスプレ班は衣装づくり、メイ達がいるラノベ班は、執筆活動。


「今日は、どの班を手伝うんだ?」


と部長に言われ、


「今日は、これを作ろうかと、思って」


そう言うと紙袋の中から、箱のような物を取り出した。


「マキプラ……カオスセイバーのか」


それは、プラモデルで、紙袋には他のプラモデルが入っている他、

工具類も入っている。


「これを素体に、何か一つ作ってみようかと」

「カオスセイバーは、シンプルで、ベースにするにはうってつけだな」


なお部室には、卒業した生徒が自作し、コンテストで賞を取ったプラモが、

飾っている。


「現視研プラモ班、復活か……」

「俺一人ですけどね」


早速、プラモデルの制作に掛かる修一。


 そうして、各自の作業に勤しむ部員。部長もそれぞれの班を巡り

時折手伝う。これがいつもの、部活の風景。

なお部活中は、スマホ類は、ネットを使った資料集めなどに使う以外は、

電源は切る事になっていた。そこに、一人の女子生徒が、


「番長!」


と声を上げながら、駆け込んできた。全員の視線が、その女子生徒に向く。


「お菊さんの殴り込みです。奴ら校門前に居ます」


すると部長は、


「愛梨、後を頼む」

「OK~」


と愛梨は軽い感じで返事をし、窓を開け、そこから外に飛び出し、

パワードスーツのブースターを吹かせ、校門へ向かって飛んでいった。


「行ってらっしゃい~」


と言って、窓から手を振る愛梨。


 この様に、部活の途中で、殴り込みがあって部長が出ていくのは、

日常茶飯事との事で、やはり番長と言ったところ。

修一も、入部の時に話は聞いていたのだが、ただ気なる事も、


「副部長、お菊さんって誰です?」

「修一君は、この街に来たばかりだから、知らないか……」


と言った後


「合戸路高校の番長」


合戸路高校と言うのはこの街で、不良校として有名な学校である。

授業料さえ払えれば何をしても、退学にならない。

例え少年院に行っても、復学させてくれるので、

そこの三年は、本気で危ない連中の集まりである。


「本名は、更屋敷凛子で、能力はマルチウェポン」

「それじゃ、ソウルウェポンの使い手ってことですか、

マルチって事は複数使うんですね。でも、何で『お菊さん』なんです?」


名前からは、そのあだ名が、連想できないが


「だってぇ~、苗字が『さらやしき』でしょ。それで番長だから」


ここで閃く様に


「番町皿屋敷!」

「そういう事、あと彼女のソウルウェポンはねぇ、全部お皿みたいで、

それを『一枚、二枚』とか言いながら投げつけてくるからぁ~」

「確かにお菊さんですね」


納得する修一であったが 愛梨は


「あーしは『青山』って呼んでるけどね」

「なんでですか?」

「あの女に『お菊』は似合わないから」


と言って、それ以上は何も言わなかった。


 その後、戦いを終えたであろう部長も、出入り口から普通に戻って来て、

修一を含め、部員たちは、各自作業に勤しんだ。

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