8「その後の事」
魔獣たちを倒し、一旦集まる三人。アキラは武器を仕舞っていたが、
修一は、右手にDXMと左手にソウルウェポンを持ったままで、
蒼穹は、鎧を着たまま。そんな彼女は開口一番に。
「ところで、アナタがさっき使ったあの技は一体?」
「技?ああミサキ切りの事か」
「そう、何処で覚えたの?」
「シズさんの見よう見まね」
シズなる人物は、アキラの冒険者としての師匠で、
冒険者としてのイロハを教えた人物である。この人物は武術の習得をしていたが、
武術は、教えるのが苦手との事で教わっていないが、
見よう見まねで技を覚えたとの事。
「シズさんは、ルリさんから教えてもらったとか」
このルリと言う人物は、シズの武術の師匠であり、アキラの恩人で、シズの事を紹介してくれた人物との事。ルリと言う名前を聞いた時
「そっちか……」
と言って、何処かがっかりしたような素振りを見せる。
このやり取りに、特に好奇心が刺激されなかった修一は
「ところで、この状況、いつまで続くんだ?」
魔獣は倒したものの、周りは静かなままなので、未だに結界が離れたままと言う事。
蒼穹は、
「まさか、他にも魔獣が」
すると、アキラが、
「魔獣はもういない」
と言った。
その時、彼の右目には赤いフレームを持ったモノクルが付いていた。
これは、最初にアキラが、魔獣が来ると言った時にも付いていたが
二人は気づいていなかった。だが今回は気づき、いつの間にかついていたモノクルに
「何だそれ?」
と言うと、直後消えてしまう。
「それもソウルウェポン?」
と言うと
「ああ、分析スキル付きの片眼鏡」
ソウルウェポンは、元はファンタテーラの言葉である。
ただし、その言葉を作ったのは、異界人、即ちこの世界の住人らしい。
あとスキルと言うのはファンタテーラ由来の超能力みたいなもの
生物だけでなく無生物にも宿る。
このモノクルで、周囲に魔獣がいない事を確認した。
「アキラ君って、マルチウェポンだったのね」
マルチウェポンとは、ソウルウェポンを複数持つ能力者の事で、稀有な存在である。
アキラは、キョトンとした様子で
「そんなに珍しいか?修一だって二つ持ってるぜ。銃と剣」
「ええっ!」
と声を上げる蒼穹。そして修一は、少し困惑したように
「こっちは確かに、ソウルウェポンだけど」
左手の剣を、見せつけつつも消した。
「この銃は、違う」
「でも、急に現れたよな」
アキラは、DXMが修一の手に出現するところを見ていて、誤認していた。
「コイツは呼んだら、転移してくるだけ」
と言って、銃を服の下に隠す。
「そうか……」。
アキラは、銃には興味を見せなかったが、ソウルウェポンの方は興味津々で、
「お前のソウルウェポン、凄いよな、変幻自在でさあ……」
蒼穹も
「まさか、アンタ、ソウルウェポンまで、使えるなんて」
「今さっき、使えるようになった」
と修一が言うと、アキラは
「ところで、名前とか付けてるか?俺は付けてないけど」
「名前か、そうだな。変幻自在だから、メタモルブレードとでも付けるか」
蒼穹からは
「随分と、安直な名前ね」
と言われ、修一は
「ほっとけ……」
と言いつつも、
「それより、結界」。
と話を戻した。
アキラの話では、もう魔獣はいない。しかし結界は解除されないままである。
「多分、設置型の結界だと思う、これなら張った奴が死んでも消えることは無いわ。
ただ、自身のエネルギーで維持しているから、本体が死んだ以上、エネルギーは供給されなくなって自然消滅すると思う」
ここでアキラが
「さっき、モノクルで見たんだけど、結界を張ったのは、ガディウッドみたいだな」
「やっぱり、そんな感じがしたのよね」
「結界は、一日くらいで消えるみたいだ」
とアキラは何気ない口調で言ったが、修一と蒼穹は
「「ええっ!」」
と声を上げ、そろって嫌そうな顔で
「じゃあ、丸一日。ここに居なきゃいけないのかよ」
「勘弁してよ……」
と口々に言った。
その直後、壁を思いっきり叩いているような音と、ガラスにひびが入るような音が、聞こえてきた。
「何だこの音……」
すると、アキラが
「誰かが、結界を壊してるんだ」
次の瞬間、ガラスの割れる音と突風が吹いたかと思うと、
周囲の、大勢の人々と、拳を修一達の方に向ける鎧姿の人物がいた。
その人物が、結界を壊したようである。
(何だこの人……)
その人は、黒いフルプレートアーマーを、纏い、かなり大柄で、
鎧の形状もあって、男と言う感じがしたが、その鎧が特に印象に残る。
デザインは、禍々しく、悪魔をモチーフにしたかのようなもので、兜にも角が付いていて、顔はマスクに覆われていて、素顔は見えないものの、マスクのデザインは、
随分と厳ついものだった。
更に背中には、表地は黒、裏地は赤のマントを着けていた。
結界が壊れた事で、突然現れた修一達や、魔物たちの死骸よりも、
男の方が注目を集めていて、男は、魔法を使ったのか宙に浮かび、飛び去る。
一方、男が宙に浮かんだ段階で、男が去ろうとしている事が分かった修一は
(まずい、あの人が居なくなったら、俺たちが注目される)
あまり目立ちたくない修一は、注意が男に向いているうちに
この場を去ろうとして、二人に声を変えようとしたが
蒼穹は、既に立ち去っていて、アキラは男の方を見ていた。
「行くぞ」
と言ったが、反応が無いので、修一はアキラの腕を引っ張って、
一緒にその場を離れた。
そして、離れた場所に来ると
「ここまで来ればいいだろ」
と修一が言うと、アキラが
「どうしたんだよ。急に……」
「あのままいたら、色々と面倒なことになってたぞ」
「そうなのか?」
「そうだ。さっきあそこであった事は、誰にも言うなよ、面倒な事になるぞ」
「わかった……」
と口止めしつつ、この場で一休み。
「それにしても、さっきの鎧の人は、何者だろう」
と修一が言うと
「『鎧の魔王』の事か」
とアキラが言った。
アキラの言葉に、修一は少し驚いたような顔で
「魔王?」
と聞き返すと
「あれは、三大魔王の一人、鎧の魔王だ」
その言葉に
(確かに、RPGのボスキャラみたいだったけど、それにしても魔王って……)
何がいてもおかしくない街ではあるが、流石に魔王と言うのは信じがたく、詳しい話を聞こうとしたその時、
「修一君!アキラ君!」
秋人が、現れた。彼が現れた事で、話は中断する。
「どこに行ってたんだい。探したよ」
「ちょっとな……」
詳しい事は、彼にも言いづらかったが、
「まあ無事でよかったよ」
と言って、秋人は、深く聞いてこなかったので、これ幸いにと、
修一も何も話さなかったし、アキラも口止めされていたので、何も話さない。
「それじゃあ、タコ焼き、食べに行こうか」
「いや、もういい。他を回ろう……」
あそこに戻りたくない修一は、断り、アキラも、残念そうにしてはいたが
修一の「面倒な事になる」と言う言葉が効いているのか、
「同じく……」
と言った。秋人は
「そう……」
と言って、結局、次の場所に向かった。
「あ~~~~~酷い目に遭った……」
人気のない場所で、元の姿に戻る蒼穹。
その直後、電話が鳴った。着信は里美からであった。電話に出ると
「やっと繋がりましたね。約束の場所で何時まで経っても来ないんで
心配しましたよ。連絡を取ろうにも、ずっと圏外ですし……」
「ごめん……」
「ところで、今、魔法街で、魔王が、現れたとか、魔獣の死骸が、
突然、現れたとかで、騒ぎになってますけど、それと何か関係は?」
「ないから!寛永通宝じゃなくて、関係ないから!」
「……そうですか。無事なら良いんですが」
蒼穹が、里美の声から勘づかれていそうな雰囲気がしたが、
彼女は、問い詰めてくることもなく
「この騒ぎでは、フィールドワークどころじゃありませんね。
まあ私の方は、魔法街を一通り、回りました。特に変化はありませんでしたが
そちらは?」
「こっちも特に、変化はなかったわね」
「わかりました。では落ち合って食事でも……」
「ごめん、今日は、もう帰るわ。何か疲れちゃって……」
少しの間の後、
「そうですか、ではまた学校で」
と言って向こうは電話を切った。蒼穹がスマホを仕舞うと
実際に疲れを感じていることもあって、彼女は、実際に帰路についた。
この後、街を色々巡った。おかげで、修一は土地勘が、更に身に付いた。
アキラにとっては、珍しいものだらけだったのか、その後は、終始楽しげであった。
一通り回って、夕方になり、別れ際、
「来週は、一緒にナアザの町に行こうよ」
と秋人が言い出し、アキラは、驚いたような顔をして
「えっ、お前、ナアザの町の場所を知ってるのか?」
「WTWで聞いてない?この街の郊外にあって、冒険者たちの活動拠点なんだけど」
「いいや……」
なおアキラが、そのWTWから、この事を聞いたのは、翌日の講習の時である。
「ナアザの町って、『ゲート事件』の際に町ごと来たっていう」
修一は、町の事は、秋人から聞いていた。元はファンタテーラにあった町だから、
アキラが知っていても、おかしい事ではない。
「俺、そこに住んでたんだ」
と聞いて、ものすごく気まずそうにする秋人。
「そういや、ナアザの町にエディフェル商会ってあるけど……」
「俺の家だよ」
すると秋人の顔がますます青くなった。
「俺が、仕事で離れている間に、町ごと消えちまってさあ」
と言うアキラに対し、すまなそうな口調で
「ファンタテーラと、この世界との時間の流れ事は?」
「講習で聞いた。向こうでの半年が、こっちじゃ50年経ってるんだっけ?」
「そう、店は今もあるみたいだけど、他人の手に渡ってるかもしれないんだ」
すると、アキラは残念そうな顔で
「それも、そうか50年も経ってりゃな……」
と言いつつも
「でも、今の町を知りてえな」
と言う訳で、来週は、ナアザの町に行くと言う話になっていた。
その後、秋人と別れた後、修一は気になる事があったので、アキラに聞いた
「ところで、戦ってる時の、お前ってさ……」
彼も、戦闘時のアキラの様子が気になっていた。するとアキラは、すまなそうに
「俺さあ、戦いになると、興奮してきて、ああなっちまうんだよな。
それでおわったら、何やってるんだろって気分になるし……」
と言った後、すまなそうな様子のまま、
「悪かったなあ、見苦しいもの見せて……」
「別にそんな事は、ちょっと気になっただけで……」
するとアキラは、身体に手を当て
「原因は、俺の体の中の……」
と言いかけて、
「これは、言っちゃいけなかったんだ。すまん!」
アキラは頭を深々と下げた。その姿に、修一は、いつもの病気が出ていない
と言う事もあり、
「別にいいんだ。言いたくなかったら、言わなくても……」
戦闘中の、あの様子には、何か理由があるようだったが、
修一は詳しいことは聞けなかった。
(俺がアレを使ってる時と同じなのかな)
その後、二人が家に着くと
「おかえり」
家には功美の姿があった。
「ちょうどよかった。お土産、温かいうちにどうぞ」
テーブルの上には、緑色の紙に包まれた。フードパックのような物があった。
また同じものを功美は手にしていて、
「これ、蒼穹ちゃんの所に届けてくるから、」
と言って、その場から立ち去る。
修一は、紙をはがすと、中身は、発泡スチロールのフードパックで、
匂いで、修一は中身が分かった。そして蓋を取ると、中身は
「やっぱりタコ焼きだ」
早速、二人で食べる事に、なおアキラは、食べ歩いている魔法使いを見ていたから
初めて食べるが、特に問題なく食べることが出来た。
「うめぇ!」
と声を上げるアキラ、修一も
「うまいな、このタコ焼き」
ここで、功美が戻って来て、
「美味しいでしょ、これ魔法街のタコ焼きなの」
つまり、今日、食べ損ねたはずのタコ焼きであった。修一は、このタイミングの良さが、気になりつつも、この時は、たこ焼きを味わうことを優先した。
一方、蒼穹は、功美から貰ったタコ焼きを、修一と同様
タイミングの良さを感じつつ、食べながら、テレビでニュースを見ていたら、
例のトラック事故の事が、報道されていたのだが、内容を聞いて
「えっ!」
と声を上げた。事故の原因は、円盤の方の無謀な運転の所為だが、
トラックの方も、魔獣を違法に運搬していたと言う。
「魔獣は、運搬時、特殊なカプセルに封じ込められていて、
カプセルは解放された後、死骸で発見された三体を除き、すべて回収しており、
今後、市民の安全には、何だ影響は無いとの警察の発表があり……」
とのニュースを聞いて、
「なんて、迷惑な……」
実害を被ったと言う事もあり、憤る蒼穹であった。
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