6「魔獣襲撃」
大樹の様な魔獣、ガディウッドに捕まった桜井修一、
一見、絶体絶命のピンチのようである。
(どうするか……)
魔獣に襲われていると言う危機的状況であるが、修一は冷静で、二人の方確認する。
アキラも、蒼穹も、修一が捕まった事に気づき、
助けようとこっちに向かっているように見えた。
ただ魔獣たちが邪魔をするように立ちふさがっていて、
直ぐに助けは来そうになかった。
(自分でどうにかするしかないな)
彼には、この状況を打開する術は、持っていた。ただそれを行うにあたっての、
障壁はと言うと、
(天海は見られているから、良いとしても、アキラがいるからな。
力は使いづらいな……)
彼は、表向きは無能力者を装っているが、この街の多くの住人と同じく、
超能力が使える。だが自分の力を極力、人に見せたくないのである。
それは、この危機的状況下でも、変わらない。
(アレを使うか。使っても俺の力って事にはならない。ただ後が問題だよな……)
この状況を打開するには、その方法しかないようで、彼は
「DXM!」
と叫んだ。
すると彼の手に、SF映画に出てくるブラスター銃のような物が出現した。
一般的には、玩具にしか見えない。
「火炎弾!」
と叫ぶと、シリンダーが「カチッ」という音立てて動いた。
(木みたいだから、炎って思ったが、効くがどうか)
修一は、蔦の上の方に向かって、銃を向け撃った。
発射された弾は、蔦の上部に命中。それと同時に火が上がった。それを確認すると
「消火弾!」
叫び、銃のシリンダーが「カチッ」という音立てて動く。
(火が伝わってきた時の対策もしておかないと……)
実際は、火は伝わってくることは無く、蔦は焼き切れた。
吊るされているとは言え、そんなに高い位置じゃない。それでも、きちんと受け身を取らないと、危ない。
修一は、落下の事を考え、手に銃を持った状態で、受け身を取っていた。
だがしかし、蔦が切れ落下を始めた直後、予期せぬことが起きた。
何かが修一にぶつかって、
「「「わああああああああああああああ!」」」
スピンしている様な状態になって、落下したのである。
ぶつかって来た何かが、下になってくれたおかげで、怪我はないが、
同時に、上に何かが乗っていて重みを感じていた。
「ちょっと、どいてくれる!」
「わりぃ!でも俺も、上に……」
「悪い、悪い!」
と言って退くのは、アキラ。そう上に乗っていたのはアキラで、
下に居たのは、天海蒼穹だった。彼女は、鎧を着ているお陰で、怪我はない。
修一が退くと
「お前ら、何で……」
蒼穹は起き上がりながら、
「アンタを助けに来たに決まってるでしょ!」
「同じく」
直後、二人が戦っていた魔獣たちが、こっちに近づいてきた。
少し時間は戻り、ナチュラゴーレムと戦う羽目になる蒼穹、
(ゴーレムは、私を狙っている気がする……)
そう思った彼女は、降りかかる火の粉、払うという事もあり
戦いを挑んだ。幸い蒼穹は、ナチュラゴーレムへの対処法は知っていた。
ナチュラゴーレムは、ゴーレムとは言うが、
魔法により作られた動く土人形ではなく魔獣で、ゴーレムのような見た目をしているから、そう呼ばれる。表面の岩のような物は殻である。これを壊さないとダメージを与えることはできない。
壊す方法は、鉄の焼入れの如く、熱した後、冷却する。
これを何度も繰り返すと、殻は割れる。割れれば、そこから攻撃を仕掛ければいい。
蒼穹の能力は、エレメンタルマスターと言って、火、水、風、土と言う
四大元素に、一つ加えた五大元素を操る能力である。
エレメンタル系の能力は、四大元素の一つを操ると言うのが、普通であるが、
彼女の様に、全てを操れるのは、稀有であり、彼女が特待生になれた理由でもあり、
この力を持って、かつてワイバーンを倒したのだ。
そして、この力が、ナチュラゴーレム有効なのは、言うまでもない。
ゴーレムは、見た目の割には、素早い動きで、掴みかかって来る
或いは口から、無属性の気弾を、目からも貫通性の無属性攻撃を撃って来る。
蒼穹は、そんな攻撃を避けつつも、右手から火炎放射をし、
その後に、左手から、冷気を放射、これを交互に行う。どれだけやれば、良いかは、分からないので時折、パンチや蹴りを入れて、強度を確認する。
そして戦いながらも、
(この魔獣、何処から来たんだろう。この辺には、魔獣はいないはずなのに、
ゲートからだとしても、警報は、出ていなかった)
そんな疑問を感じていた。
一方、蒼穹の側では、アキラが剣を武器にアラクネと戦っていた。
アラクネは、下半身の蜘蛛の前足と、其々が、長く鋭い爪を持ち、
伸縮可能な六本の手を武器に襲いかって来たが、アキラは持っている剣で、
渡り合う。
「オラオラオラ!」
その戦い方は、荒っぽくはあるものの、太刀筋はきちんとしていた。
ただ、アキラは、かなり興奮している様子で、かなり息が荒い。
その表情たるや、歓喜に満ちていて、見るからに楽しげ、
そう戦いを、心の底から、楽しんでいるように見え、
何処か狂気じみた部分を見せつけていて、その様子をチラッと見た蒼穹は、
(まるで狂戦士ね……戦う事しか考えてない)
と思うほどである。
しかし、蒼穹は、見ていなかったが、修一が捕まった際は、
その表情からは、笑顔が消えていて、真剣な表情になっていた。
決して、戦う事しか考えてないわけじゃない。
さて、その修一が捕まった際、蒼穹は、
(アイツなら大丈夫……)
と思いかけて
(やっぱり助けないといけないよね……)
修一に対し、複雑な感情を抱いてはいるものの、危機的状況にある人間に対し、
放っては置けないのは、彼女の性分であった。
ワイバーンの時も、子供が取り残されていて、放っては置けなかったのだ。
まあ相手が大丈夫であると言う確信があればいいのだが、
修一に対しては、会ったばかりと言う事もあり、彼の力の事を知りつつも
まだ、そう言う確信を持てなかった。
蒼穹は戦闘を一旦中断し、助けようしたが、魔獣が、邪魔するように
立ちふさがる。事は一刻を争うと思われるので、
魔獣を倒してからと言う訳には行かない。
(ブースターを使うしか)
彼女は、火と風の力を組み合わせる事で、
ロケットブースターの様な物を発生させて、空を飛んだり、
飛行とまでは行かなくとも、大きく跳躍したり、爆発的な加速が出来たりする。
(うまく調整しないと)
調整が上手く行かないと、おかしな方向に飛んでいく可能性があった。
彼女は、魔獣の攻撃を避けつつも、短時間でどうにか調整し、
敵の隙をつく形で、使用。彼女の足から、炎が発生し、
魔獣を飛び越えながら、飛翔した。
急な調整であったためか、動きが不安定であるものの
修一の元に飛んでいった。
ただ不安定だったのと、接触の直前に、
修一に突っ込んできた何かの存在もあって、
彼に衝突する形になり、あの様な醜態をさらす事となった。
幸い彼女が下敷きになる事で、修一に怪我は無かったのは
不幸中の幸いと言えるし、目的は達した事となる。
しかし彼女は、
(ああっ!もうっ!不幸だぁ!)
と思っていた。
さて蒼穹と一緒に、修一に突っ込んで来たのは、当然ながらアキラである。
アキラは、蒼穹と同様に、修一を助けようとしていたが
そんなアキラの前に、アラクネが立ちふさがり、邪魔をした。
修一の事が気になり、先ほどの様な戦い方はできない。
(早く、シュウイチを助けないと)
と逸る気持ちを抱えたアキラは、ふと加速系の魔法を思い出す。
(そうだ、これを使えば!)
アキラは、何の躊躇もなく、その魔法を使った。それは、素早く動けるだけでなく、跳躍力も高めるものであった。
これによって、アラクネを飛び越え、修一の元に向かって行き、跳躍して、
彼を助けるつもりであった。
ただ、使い慣れていない魔法故に、コントロールが上手く行かず
ブレーキが利かなかった。加えて修一に集中するあまり、
蒼穹の事が目に入ってないと言う事もあり、
結果、蒼穹と同様に、救出と言うよりも衝突してしまい
あのような状況となった。
修一は、
「助けてくれてありがとうな」
「「………」」
あの状況、修一としては、一応、礼は言ったものの、助けられた感はないし
蒼穹とアキラにしても、あんな状態になったわけだから助けた感が無い。
そして状態を立て直す三人の前に、同じく三体の魔獣が向かって来る。
魔獣たちの立ち位置から、修一は、
(あの大樹の怪物、たぶんガディウッドとか言う魔獣かな。何となく、
奴がリーダーっぽい)
そんな事を思いつつ、修一はアキラに、
「お前、結界とか言ってたけど、ここって疑似空間って奴か」
修一は、秋人から、結界に獲物を取り込む魔獣の事は聞いていた。
「ああ」
と答えるアキラに、
「それじゃ、街を壊しても問題は無いんだな」
「そうなるな……」。
その後、嬉々とした様子で、アキラは、再びアラクネに向かって行った。
蒼穹も、再びナチュラゴーレムに向かって行く。
再び取り残される形になる修一、彼の視線はガディウッドに向いていた。
(アキラは、向こうの世界で、魔獣と戦ってたんだし、
天海もワイバーンを倒したくらいだし、魔獣相手に手慣れてる感がある。
二人がいれば、二体の魔獣を倒し、ガディウッドって奴も倒してくれるはず)
自分に出番なんてないと考えたが、どうにも抑えられない衝動が、
彼を襲う。それを押さえるため、
(逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ……)
と自分に、言い聞かせる。だが逃げられない。
やられたまま、何も返せず逃げる事は、彼にとって負けを意味する。
彼の「負けず嫌い」と言う病気が、それを許さないのだ。
ガディウッドを倒さない限り、この衝動は収まらないであろう。
彼は、銃を手にガディウッドに向かって行った。
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