第4話「ゲート(時系列的には第1話の前)」

1「ゲート」

 話は、桜井修一が、高校に入って間もないころまで戻る。


 放課後、修一は図書室で、本を読んでいた。それはこの街に関する本だ。

それによると、50年前、この地方に後に「ゲート」と呼ばれる。

世界と世界をつなぐ穴が初めて出現した。「ゲート」は一方通行で

数多の異世界から人や物、その他が一方的に、もたらされ、

結果としてこの街を、この地域を大きく変貌させ今のような形となった。

そして最初にゲートが現れた時の混乱を「ゲート事件」呼び、

以来、この地方の、特にS市に、不定期で、更には不特定の場所に

一つ、または複数の「ゲート」が出現するようになった。


「あれ?修一君、まだ帰ってなかったの」


修一が本を片付け図書室を出ようとした時に秋人に声をかけられた。


「そっちこそ、帰ってなかったのか?」

「マチルダ先生から手伝いを頼まれちゃって」


 この人物は修一達の担任教師。

後に修一と蘭子にシミュレーターの調整の手伝いを頼むのも

この教師である。


「あと、本の返却があって……」

「そうか、俺はもう帰るけど」

「それじゃ、一緒に帰ろうよ」


 二人は一緒に下校した。途中、川沿いの道を通っていたのであるが

そんな時だった。けたたましいサイレンの音と、以下のアナウンスが流れたのは


『ただいま、ゲート警報が発令されました。』


その後、複数の町名が挙げられ


『……以上の地域にはゲートが出現する恐れがあります。ゲートを発見しても

むやみに近寄らずWTWにご連絡ください』


アナウンスは、同じことを繰り返す。そして挙げられた町名に、

今、修一達がいる場所も含まれていた。


「これがゲート警報、話には聞いてたが」

「気を付けなきゃいけないよ。前なんか、『ゲート』から怪獣が現れたんだから」


と言った後、秋人は


「早く帰ろう」


と帰宅を急がせ、


「わかった……」


と言って、駆け足で立ち去ろうとしたが


 ちょうど、その時、雷のような音がして思わず足を止め、

その方を向くと、空中に黒い穴の様なものが、浮かんでいた。


「ゲートだ!」

「これが……」


秋人は、


「修一君、周りに気を付けて!」


と注意しつつ、スマートフォンを取り出すと、電話をかけ始める。


「WTWですか、ゲートが出現しました。場所は……」


 一方の、修一は、好奇心の為、秋人の注意を守らず


(これが、世界と世界をつなぐ穴か……)


と思いながらゲートをじっと見てみていたのであるが


「えっ?」


修一の、すこし斜め上、階段の一段上くらいの高さに、

その人物は突如として出現。そのまま、修一の目の前に着地するも

バランスを崩した。ここまで、一瞬の出来事なのと

ゲートに気をとられていたこともあって、回避できず、二人は正面衝突。


「「うわああああああああああああああああああああああああ!」」


その勢いで、二人は縺れながら土手を転がっていった。


「修一君!」


二人は、川に落ちるギリギリのところで止まった。

川は川でも、ドブ川なので、落ちたら災難で会った。


「大丈夫?」


と言いながら、土手を降りてくる秋人、手には小さな棒が握られていた。


「ああ……」


と返事をしつつも、この時、転がって言った二人は、修一が下、

現れた人物が上という状態になっていた。


「どいてくれないかな?」


その人物に声をかけると


「わりぃ!」


と声を上げ、どいた。そして修一は起き上がり、近づいてきた秋人に


「秋人が止めてくれたんだよな。ありがとう」


修一は、魔法の力で身体が止まった事に気づいていた。

そして、秋人の持っている棒は、魔法の杖である事も知っている。

だから秋人が、止めてくれたんだと思った。実際そうなのであるが


「いや、もっと早く、止めたかったんだけど、突然の事だったから

間に合わなくて……」

「そんなことは無い。ドブ川に落ちなかっただけでも、万々歳だ」


あと、修一も突然の事でパニックになって、

どうにか出来なかったと言う負い目もある。


「お前が、助けてくれたのか、ありがとな!」


一緒に転がっていた人物も礼を言った。

秋人は


「君は……」


僅かに驚いている表情を見せるが、修一は気づかず


「ところで、誰?」


と尋ねた


「俺は、アキラ。」


修一と秋人は反射的に、アキラに自己紹介していた。

これが、修一たちとアキラ・エディフェルとの出会い。


 そしてアキラは、周りを見渡しながら


「つーか、ここ何処?俺、森の中にいたはずなんだけど」

「森?」


訳の分からないといった表情をする修一。秋人は、ハッとなったように

スマホの、とあるアプリを起動させ


「ちょっとゴメン」


と言って、スマホを近づける。


「?」


アキラは、意味が分かってないのでキョトンとしている。


 少しして、スマホにモニターに変化、秋人は


「ゲート反応だ……」


この街に来たばかりの修一であったが、この時には、その意味を知っていた。

それはゲートを通り過ぎた人間の発する特殊な反応。

スマホのアプリは、それをチェックするもの


「それじゃ……」

「『来訪者』だよ」


そう言うと、再びスマホで電話をする秋人。『来訪者』とは異世界から来た

人間を指す言葉である。


「WTWですか、さっき電話した有間です。『来訪者』現れました。

場所は同じで……」


通話を終えると、


「とりあえず、道路まで上がろう、修一君にアキラさん」


三人は、途中で土手を転がった際に落とした修一のカバンを

回収しつつ土手を上がっていったが突然、アキラが口を開いた。


「あのさ、お前ら……」

「なんです。アキラさん」


すると、あからさまに嫌そうな顔をして


「アキトだっけ、俺と一文字違いだけど……」

「ええ」

「さん付け、辞めてくれるか。気持ち悪い

呼び捨てか、せめて君付けにしてくれ。あと俺、男だから」


アキラの一言で


「「えーーーーーーーーーーーーーーー!」」


と修一と秋人は声を上げた。二人とも、アキラの事を女性と思っていたから

秋人が、さん付けしたのも、その所為であった。


「やっぱり、女だって思ってたか。」

「いや……その……」


気まずそうにする二人、対し、

アキラは、気にしてないと言った様子で笑みさえ浮かべながら


「いいんだよ。性別の事は、もう慣れっこだ。でも……」


ここで再び、嫌そうな顔をし


「さん付けだけはやめてくれ」

「わかったよ。アキラ君」


と返事をする秋人。アキラは性別を間違われるよりも、

さん付けされる方が嫌らしい。


 そして、アキラは、


「話が逸れちまったけど」


と言って、本来、聞きたかったであろうことを聞いてきた。


「お前ら、『異界人』か?」

「異界人?」


修一にとっては、初めて聞く言葉であった。すると秋人が


「ファンタテーラで、異世界から来た人を指す言葉。『来訪者』と同じだよ」


ファンタテーラとは、ゲートによって繋がる異世界の一つで、剣と魔法の世界。

ここから来た人々が、この世界に魔法をもたらした。

そして修一は思う。


(それじゃ、アキラは、ファンタテーラから来たのか)


ここでアキラが


「どうなんだ?」


と聞いてきたので秋人が


「確かに、異界人と言えば、違いはないけど……」


秋人は、アキラに事実を伝えるべきか、戸惑っているようであった。


だが土手を上がりきると、アキラは驚嘆したように


「この道……アスファルトってやつじゃないのか!」


と声を上げた。更にこの時、三人の側を、車が何台か通り過ぎた。


「カーマキシ……違う、ジドウシャだな」


そしてアキラは、二人に


「おい、ここは異界なのか?」


すると秋人が、押され気味に


「そうだよ」


答えると、アキラは


「マジか……まいったな……」


とは言ったが、その表情は、驚嘆しているようではあるが、

あまり困っているようにはみえない。


 ちなみに、この時、正確には、土手を上り始めた頃にはゲートは消え

警報もやんでいた。


 しばらくして、一台の乗用車がやって来てとまった

側面には「WTW」と書かれている。

車からは、ブロンドでセミショートの髪型、顔立ちは西洋人的な美人が降りてきた

秋人の知り合いの様で


「ルイズさん」


と名前を呼んだ。そのルイズと呼ばれた女性は、アキラの姿を見て


「あなた、アキラ君……」


するとアキラも


「あんた、確か、審問官のルイズ・サーファー……」

「今は、WTWの職員よ」


この二人が、以前からの知り合いの様であったので、修一は


(このルイズって人も『来訪者』か……)


と思った。


 この後、アキラとルイズとの間に会話が交わされた。以前からの知り合いの所為か

話が、すんなり進んでいるように思えた。そして、アキラは、車の後部座席に乗り

ルイズは秋人に


「情報提供、ありがとう」


とお礼を言った。そして修一の方を向くと


「ところで貴方は?」


と聞いてきたので


「俺は、秋人の同級生で、ここに居合わせただけです」


するとルイズは、修一をじっと見つめた後


「そう……」


とだけ言った後


「それじゃ、機会があればまた……」


と言って、彼女も車に乗り込み、発進させ去っていった。


 残された修一と秋人。


「なんだか俺、蚊帳の外だったな……」


と修一は思わず呟いた。実際、この状況で奔走したのは秋人で

修一は、何もできていない。修一のつぶやきを聞いた秋人は


「修一君はこの街に来て日が浅いから、

僕だって、初めて今日みたいなことになった時、

何もできずにオロオロするだけだったから」


とフォローを入れた。その後、二人は途中で別れ、其々の家に帰った。


 その日の夜、功美が、人を連れて帰って来た


「アキラ?」

「シュウイチ?」


連れてきたのは、アキラであった。


「もう知ってると思うけど、この子はアキラ・エディフェル、

WTWからの頼みで、暫く家で預かる事になったから」


と言う訳で、同居人が一人増えたわけであるが

アキラに対しては、会ったばかりだから、何も感じない。

家には、空き部屋もあるし、今回は、蒼穹とは違い食事等の世話が必要との事だが

それくらい、修一にとって、どうという事はない。


 しかし、母親に対しては、蒼穹の件と言い、相談も無しに勝手に事を決めるのは

どうにかしてくれないかなと思う修一であった。

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