10「隠しごと」
修一の家を出た4人は、帰る方向の違いから、
アキラと直ぐに別れ、3人になった。
「零也君、何で修一君にあんな事聞いたの?」
と秋人が尋ねた。
帰り際、零也は、修一に
「なあ桜井、お前、まだ目覚めてないのか?」
と聞いた。修一の回答は
「ああ……俺はまだ無能力者だ」
との事だった。零也は
「そうか……」
と言ったきりで、それ以上話は、続かなかった。
秋人の質問に、零也は答える
「実は、イベントで隠し要素を使うと、たとえそれがランダム設定でも、
記録として残らない。だから記念品はもらえない」
この事実は、秋人と鳳介は知らなかった。
「でも、修一君、貰ってたよね……」
「そう……可能性は一つ」
と右手の人差し指を立てながら言い
「桜井は、ヴァーチャル・サイを使ってなかった。
つまり『ヒーロー』も『イーブン』も
桜井自身の能力だったって事」
そして鳳介が、顎に手を当てながら
「だとすれば、桜井は、『スーパーサイキッカ―』と言う事になるな」
零也は、右手の立てた人差し指を鳳介の方に軽く振りながら
「そう、そして桜井はそれを隠してる」
ここで秋人が
「だから、あんな質問したんだね」
「そういう事、しかも、真綾の話じゃ、この街に来る前から、
能力が発現していた可能性があるらしいし……」
と零也が言った後、更に
「どう思う?」
と問いかけると、鳳介が
「能力の公開、非公開は、本人の自由だ」
「そうだね」
と同意する秋人、更に続けた
「誰にだって隠しごとはあるよ。零也君だって、
自分の能力を人に見せたくないでしょ?」
すると零也は二人から目を背け、気まずそうな表情で
「それはそうだけど……」
秋人の一言が効いたのか、
その後、修一の能力について話題にすることはなかった。
翌日、学校で里美は、担任の女教師から呼び出しを受けた。
「昨日、貴女、森羅さんと、天海さんの所に行ったでしょう」
「ええ……どうしてそれを?」
「偶然なんだけど、私、貴方たちが、家に入るところを見かけて、
その時は、気にしなかったんだけど、後々、考えるとちょっとね……」
教師の様子が、おかしい。
何かに怯えているように、どこかオドオドしているように思えた。
「何か問題でも?」
と里美が尋ねると
「森羅さんは、ともかく、貴女、ちょっと天海さんに、過干渉と言うか……」
「?」
「揉め事とかは、無いわよね。」
「特にありませんが、どうしてそんな事を聞くんです?」
「だって、天海さん、今大変じゃない。もし何かあって、あの家を追い出されたら、
今、寮もいっぱいだし、行く当て……」
最初、教師が何を言わんとしているか、分からなかったが、直ぐに
「もしかして、桜井修一君の事ですか」
「!」
教師の表情が強張った図星の様だ。
「もしかして、天海さんの置かれている状況を知っていたのですか?」
「ええ……」
「いいんですか、年頃の男女が一つ屋根の下ですよ」
「同じ建物内とはいっても完全に独立しているみたいだし」
「でも……」
納得のいかない里美に対し、教師は
「内密にしてほしんだけど……」
と前置きしつつ
「天海さんが、あの家に住んでいるのは、単に親同士が知り合いだからじゃないの。
この件には、大十字久美が関わっているわ」
「大十字久美……!」
その名を聞き、里美は、大きく目を見張った。
「要は、天海さんも、桜井修一と言う少年も、大十字久美の御眼鏡に適ったって事。
だから、騒ぎ立ててほしくないというか……」
すると里美は、納得できてない様子ながらも
「わかりました。今後、この事には一切触れません」
「その方がいいわ。天海さんの為にも、そして貴女の為にも」
そして放課後、一人、公園のベンチで、
何とも言えない複雑な表情して座っている里美。
(喜ぶべきことなんですよね。大十字久美の御眼鏡に適ったのですから、でも……)
ここで
「里美ちゃん」
と声をかけられた。声の方を向くと、そこにいたのは桜井功美。
「先生……」
里美も、親が功美の事を、そう呼ぶので、彼女も先生と呼んでいて、
あの日まで、本名を知らなかった。
「何か、悩みごとでもある?よかったら相談乗るわよ。
かわいい教え子の娘さんの悩みだもの」
「結構です。貴女にどうこう出来る事じゃないと思いますから、なんせ、
あの大十字久美が関わってる事ですから」
「それは、大変ね」
功美は、それ以上深く聞くことは無く、話題を変えた
「先日の勝負は残念だったわね」
「………」
「ところで、貴女は何をしてくれるのかしら?」
「え?」
「勝てば修一が念書を書くんだっけ、でも負けた貴女は、どうするの?」
勝負で、修一が負けた場合の事は決めていたが、
里美が負けた時の事は決めていなかった。
「御子息が決める事でしょう」
「そうなんだけど、あの子は、貴女に何かしてもらおうって考えてないと思うから、
『別にいい』で終わりだと思うわ」
功美の考えは当たっている。
「でも、それじゃあ面白くないわ。そうね、駅前でクロバの舞……」
と言いかけると里美が顔を真っ青にして
「それは、勘弁してください!」
土下座した。功美は、笑いながら
「冗談よ。」
と言った後
「それじゃあ……」
更に数日後、桜井家二階の居間に、里美が大荷物でやって来ていた。
「どうしてこうなるわけ?」
と少々不満げな蒼穹に里美は
「ですから先生……桜井さんの提案で、先の勝負での敗北によるペナルティーとして
私が同居し、貴女の世話をするようにと」
なお、里美の親、および蒼穹の親にも、功美が話をつけているとの事。
話を聞いた蒼穹は
(それってペナルティーなの?)
普段から、蒼穹に過干渉な里美にすれば、
彼女との同居は、願ったり叶ったりといえる。
「そういう訳ですから、それじゃ荷物を置いてきますね」
彼女は、功美から宛がわれた二階の空き部屋へと向かっていく。
残された蒼穹、彼女にとって里美は友人であるが、一緒に暮らすとなると、
話は別、里美に生活態度で、色々と言われることは目に見えているから
それを考えると、気持ちが重くなるのを感じていた。
話は戻り、日曜日。友人たちが帰った後、修一は洗濯物を取り込んで、
きちんと畳んで、所定の場所へと仕舞っていく。
まずは自分の部屋に行き自身の分を、次に功美の部屋に移動し、
彼女の分を仕舞っていき、そして下着を仕舞っていると
「違った……」
と言って、一部の下着を別にとっておき、他の洗濯物を仕舞うと、
別にしていた下着をもって、自室に向かった。
部屋に入ると、引き出し付きクローゼットの、下着を入れてある引き出しを開け
一旦、中の下着をすべて、外に出し、底板を外すともう一つの底板
実は、この引き出しは二重底であった。そこに女性下着を入れると、
上から底板を乗せ、外に出していた下着を、戻すと、引き出しを閉めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます