8「決着の時」
里美が、脱落した事で、ゴーレムの攻撃は、修一の方に向かったが、
軽く避け、更に攻撃が里美に向いている間に、ゴーレムに接近していた。
(遠距離は、跳ね返すみたいだけど、接近戦なら関係ないよな)
この時、修一の「負けず嫌い」という病気が酷くなっていた。
周りの事が見えなくなるくらいに。
そして修一は、接近すると飛翔し、上半身の当たりまで上っていく。
当然、攻撃は激しくなるが、それらを避けつつも、
ある程度まで上りきったところで、ゴーレムを思いっきりぶん殴った。
外で、モニタリングしていた者たちの多くは、無茶だと思っていた。
接近戦なら、攻撃が跳ね返る事はないが、ゴーレムの防御力は高く、
たとえ弱点に当てたとして、よっぽどな攻撃力じゃないと、
倒すことは容易ではない。「ヒーロー」で能力強化しているとはいえ、
ゴーレムの防御を破れるほどの攻撃力はないのだから。
しかし次の瞬間、モニタリングしている殆どの者たちが目を丸くした。
「なあ、秋人、俺たちは何を見てる……?」
「タコ殴りかな……」
今、モニターには、ゴーレムが一方的に殴られ、ボコボコにされていた。
もちろん殴っているのは修一。ただ拳が当たるたびに、
ゴーレムの巨体が、のけぞっているのである。
ヒーローの攻撃力じゃ、こんなことはあり得ないし、
攻撃範囲も大きくなっているように思えた。
鳳介は、表情はあまり変わっていない物の、モニターをじっと見つめながら
「これは、まるで……」
何か思い当たる節があるようだが
「でも、何か違う……」
と否定する。
ここで、真綾が
「まるでゴーレムと同じくらいの見えない巨人がいるみたい……」
と言った。確かに、修一がボコボコにしていると言うよりも、
同サイズの巨人がゴーレムをボコボコにしているように見えている。
真綾の言葉を聞いた零也が
「……『イーブン』だ」
「何それ?」
と秋人が聞くと
「主体能力の一つで、いかなる物とも、互角になれる能力っていうのか、
俺もそんなに詳しい訳じゃないんだけど、ただ、今の桜井のパンチは、
リーチこそ人並みだけど、威力、当たった時の攻撃範囲共にゴーレムと互角だ」
と言った後、更に付け加えるように
「あと身体能力強化もついている」
ここで鳳介が
「そう言えば、母さんから聞いたこと有るな、
たしか同級生が、その能力を使ってたとか」
「僕は聞いたことないな。でも修一君、『ヒーロー』を使ってたんじゃ」
すると、零也は考え込むような仕草をして
「確かに、こうなると、『スーパーサイキッカ―モード』を使っているとしか」
スーパーサイキッカ―モードとは、主体能力を二つ以上設定し併用できる。
隠し要素である。ただし能力によっては、併用不可能なものもあり
「ヒーロー」と「イーブン」が、正にそれで、
この場合は、切り替えて使用する事になる。
「今使っているのは『イーブン』だけど、でも『イーブン』って
飛べたっけ?」
「イーブン」には謎が多い。ただそれ以前に
「それより変だな。『イーブン』も『スーパーサイキッカ―モード』も
裏技のはずだ。でもアナウンスはなかった」
すると、話を聞きつけた蘭子が、零也達の方を向き
「ランダム設定なら、隠し要素が出たとしても、
裏技を使っているわけではありませんので、通達はありませんわ」
すると零也が
「それもそうか」
と言ったものの妙に納得していない様子。
ヴァーチャル・サイ又は、マジックには、設定をランダム、
コンピュータ任せにする機能がある。その際に、低確率ではあるが、
隠し能力等、裏技でしかできないことが設定されることがある。
(隠し能力に、隠しモード、運良すぎだろ)
と零也は思っていた。
仮想空間では
ひたすら殴り続ける。修一、その一撃はゴーレムと同じであるが、
実際のゴーレムは動きが緩慢で、格闘戦による攻撃の間隔は大きいが、
威力、攻撃範囲は一緒でも動きまでは一緒ではなく、
その上、能力強化によってパンチの速度は速くなっているので、
攻撃の間隔は小さく、短時間で多くの攻撃を叩き込めるので、
修一の方が有利であった。
「ウォリヤァァァァァァァァァァ!」
という掛け声とともに、丁度、弱点部分に一撃を食らわせた。
するとゴーレムは仰向けに倒れ、消えた。勝ったのだ。
しかし、修一は勝ったことで病気が収まってしまい
気まずそうな表情で浮かべ、
「やっちまった……」
気が付くと、修一はカプセルの中にいて、扉が開くと、
「イベントクリア、おめでとうございます。カードをお取りください」
と言うアナウンスが流れた。
(カード?)
コンソールから、カードが飛び出していた。
さっきのゴーレムの姿が描かれている。
修一は何の気なしに、それを手にした。すると
「カードを受付に持って行ってください」
と言うアナウンスが流れた。
修一は、カードを手にしたまま、外に出た。すると
「おめでとうございます、あなたの勝利ですよ、桜井君」
と蘭子が言って、拍手を始めたので、周りもつられて拍手を始める。
「そりゃ、どうも……」
この状況に、浮かない顔をしている修一、彼にとって勝利のうれしさよりも、
やってしまった感の方が強かった。
だからこの場にいたくなくて、丁度、尿意を感じたこともあり、
「ちょっと、トイレ」
と言って、カードをポケットにしまい。その場を立ち去ろうとしたが、
初めてきた場所であったから、どこにトイレがあるか分からず困っていると
「僕も、トイレ行きたいから一緒に行こ」
と場所を知っている秋人が名乗り出て、更に
「俺も……」
と鳳介も名乗り出て、三人でトイレに行った。
零也は、修一達がトイレに向かっていく姿を驚いた様子で見ていた。
(あのカードは)
ここで、真綾も修一が持っていたカードに気づき
「零也……あのカードって……」
ここで、二人のカードに関わる会話が交わされ、さらに
「そう言えば、前に……」
修一と関わっているであろう出来事を話した。
その後、真綾は、母親からの電話であり、
急用ができたとの事で、修一達が戻ってくる前に立ち去った。
「あれ、もう終わっちまったか?」
と言ってアキラがやって来た。両手には、中身がびっしり詰まった紙袋。
「シュウイチ達の戦い、見たかったな~」
「えっ?お前見てなかったの」
零也は、アキラも一緒に修一達に戦いを
見ているとばかり思っていたので少々驚いた。
そしてアキラがゲームセンターに来て何をしていたのか聞き、その直後
「木之瀬さんですよね」
とゲームセンターの客の一人が、声をかけた。更に別の客が
「天海さんもいる!」
との声が、そして、辺りが騒がしくなってきた。
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