7「イベント開始」

 一方、外のモニターには


「Warning!」


と表示された。それを見た蘭子は


「どうやらイベントの発生ですわね。さて何が出るか」


この後の展開が楽しみなのか、蘭子は口元に笑みを浮かべた。


 やがて、モニターに全身を氷で作られている様な巨人が姿を見せた。


「クリスティカ・ゴーレム!」


と声を上げる秋人。


「知ってるのか?」


と鳳介が聞く


「ある魔導士が、作り上げた水晶のゴーレムだよ。

ファンタテーラでも最強クラスで、

強靭な体と強力な光系攻撃スキルを使ってくる。それと……」


秋人は、このゴーレムの最も厄介な性質を話したのち


「確か魔導士の手を離れて暴走して、一応、心臓部が弱点だけど、

露出させるまで大変で……って、もう出てる!」


ゴーレムの左胸あたりに、小さな赤い点のようなものが見えていた。


「そこは、ゲームだから」


と零也は言う。確かにこれはゲーム、それ故に違いがある良くも悪くも。




 再び仮想世界


「これがイベントか」


修一の目の前にメッセージウィンドウみたいなものが出現し、

イベント発生の通知とその詳細が書かれていた。


 その内容は、敵の情報と、イベント発生の為、状況をリセット、

勝負は仕切り直しとなり、勝利条件も変化、

ゴーレムを早く倒した方が勝ち、やられたらもちろんの事、

制限時間が切れて敗北。ゴーレムを倒さぬ限り勝利はない。


 修一が建物の窓から、顔を出すと、遠くに敵の巨体が見えた。

ゆっくりとこっちに向かってきているようだが、

突如その体の一部が光った。


「!」


咄嗟の判断で、建物を飛び出す修一、次の瞬間、建物が爆発した。


「危なかった……」


建物を破壊したのは、ゴーレムの放った見た目的には、レーザー光線みたいなもの、

実際のレーザー兵器に比べ、遅く、目視も可能であるが、

大砲並みの速さで、威力も強く、しかも乱射してきた。


「わわわわわわ!」


 避けながら逃げまどう修一、

もちろん、肉体が強化されているが故にできる事である。

そして光線自体に誘導性はないが、照準は正確の様で、

避けてはいるものの、先にいた場所に確実に命中している。





 一方、里美は、


(短期決戦と行きましょう)


と、そんなことを考えながら、彼女も『身体強化』を発動させ、

攻撃を素早く避ける。

里美の場合は付加能力の為、主体能力である修一に比べて、全体的には劣るが、

それでもゴーレムの攻撃を避けるには十分な素早さが出せた。


 そして彼女は、気弾を数発、周囲に出現させ適当な方向に射出し、

彼女から、ある程度離れた位置に配置し、適当なタイミングで爆破させる事で

ゴーレムの気をそらせつつ、とある廃ビルの屋上に上がった。


(ここが丁度いいですね)


 ここは、距離はあるもののゴーレムの正面に位置し、

弱点を狙いやすい位置にあるが、同時に自分が狙われやすい場所でもある。


 彼女は、再度気弾で、陽動を行いつつ、念のため、

自分の周囲にも防御用に気弾を配置した。

これから発動に時間のかかる攻撃を行うからだ。


 そして彼女は、眼鏡をはずし、ゴーレムの方を向くと、

大きく目を見開いた。すると彼女の瞳が青白い光を発し始めた。




 一方、修一は、里美の様子を見て、

何をしようとしているか、容易に想像がついた。


(どう見ても、アレだよな。アニメや映画じゃ見た事あるけど……

それよりも今は……)


 なお里美の陽動のおかげか、修一対する敵の攻撃はやんでいる。

彼はゴーレムを視界に入れると


(分析……)


修一の視界に、ゴーレムの情報が表示された。


(クリスティカ・ゴーレム、弱点は左胸の赤い部分か、しかし)


里美の方を一瞥し


(大丈夫か、アイツ、弱点に当てれば問題はないみたいだが、

まあ敵の心配するのもどうかと思うが……)


修一は、ゴーレムの方に向かって、移動を始めた。




 モニタリングしていた秋人は


「あれ?」

「どうした、秋人」


と尋ねる零也


「今、修一君、能力を切ったみたいなんだ」


この時、モニタリングしている他の面々は、

里美の方に集中していたので、気づかなかったが、

秋人は、修一の体を中心に力場のような物が収縮し消えていくのを見た。

これは『ヒーロー』を停止させたときに見られるものである。


 秋人に言われて、修一の方に目を向ける零也であるが


「そうか?桜井の動き、力を使ってるとしか……」


この時、ゴーレムに向かっている修一のスピードは、人並みを超えており、明らかに

『ヒーロー』を使っているようにしか思えなかった。


「確かに、でも……」


能力停止の瞬間を見ていた秋人は、納得しがたい様子だった。



 一方、蘭子は、里美の様子を見て、


「どうやら、一気に勝負を決めるようですわね」


と言うと蒼穹が


「彼女が『目』を使うのは対校戦以来ね」


 シューターの気弾の体内で生成する場合、

射出する場所は手こそ共通であるが、それ以外は人によって異なる上、

場所によって威力も変わる。

里美の場合は、両手以外では、両足と上半身に数か所。


 その中でも目が、最も強力な一撃を放つことができる。

ただ暴走しがちなところがあるため、

普段は度が入った能力抑制機能付きの眼鏡をかけて抑えている。


 その威力たるや、最大出力で撃てば、

建物を数件、デカい穴をあけて貫通するくらいで、

弱点に命中すれば、設定されているゴーレムの体力値を、

一撃ですべて奪う。正に切り札。


 なお現実世界では、最大では使ったことなく、

威力はシミュレーターで確認したものである。もし現実で使ったら、

建造物等損壊罪なるし、反動も強く、下手したら命に係わる。

最大出力は正にシミュレーター内でしか使えない。


 そして、モニターで力を溜めている里美を見ながら蘭子は


「まあ、これで確定ですわね」


と言った後、更に付け加えた


「黒神さんの敗北が」




 力を溜め続ける里美


(照準セット……)


『サーチ』を使い、照準を合わせていた。狙うはゴーレムの弱点部分


(赤い点を中心に半径5メートル以内なら『反射』は無し、

点さえ、きちんと狙えば、はみ出る事はないわ)


 そして、力が高まるにつれ、光が、瞳だけではなく全身に広がっていき、

更に周囲に雷のようなものが発生した。

それが目立ち、ゴーレムの注意が里美に移ってしまい、

彼女に攻撃が集中することに。

 

 でも予測の範疇、だから防御用に気弾を配置していた。

ゴーレムのレーザー光線を打ち消すことは出来ないが、

矛先をそらすことは出来たので、そうやって彼女を守った。


 やがて光は、一段と輝いたと思うと、今度は彼女の目を中心に収束し、


「!」


見るからに強力そうなビーム、あるいは荷電粒子砲のような物が、放たれた。


「すげぇ……」


それを見た修一は、思わず立ち止まり声を上げたものの、

直ぐにゴーレムへと向かっていった。


 その光は、美しくもあるが同時に圧倒的な強さ、

そこから来る恐ろしさを感じさせる一撃。

当たれば、良くて穴が開き、最悪蒸発もあり得そうな、

もちろん実際はそこまでには程遠いが、強力な一撃には違いない。


 それは、ゴーレムの迎撃を打ち消しながら、

真っすぐ左胸の弱点部分に向かっていき命中、

そして跳ね返った。


「えっ?」


ビームは、里美に向かって発射した時の、何倍ものスピードで、

跳ね返ってきたため、避ける事はかなわず、直撃した。


 ここに里美の敗北が決まった。




 えらく不機嫌な様子で、シミュレーターから里美が出てきた。

その姿に、蘭子が


「残念でしたわね」


と声をかけると、里美は、ますます不機嫌になって


「納得できませんわ!確かに弱点に当てたのに!」


一方、秋人も


「そういや、どうして跳ね返ったんだろ。確かに弱点に当たってたのに」


クリスティカ・ゴーレムの最も厄介な性質、

それは魔法や、それに準ずるものによる遠距離攻撃を跳ね返す性質を持っている事。


 しかし弱点部分は例外で、ここに当てても、跳ね返ることは無い。


「実際のゴーレムは、赤い点を中心にした一定範囲が弱点みたいだが、

シミュレーター内じゃ、確か、あの赤い点部分だけ、少しでもはみ出たら、

跳ね返る」


と零也が説明した、


 一方、里美も蘭子から同じ事を話された、初耳だった里美は、

驚きで目を丸くしていた。


「嘘……」

「知識を、逆手にとった罠と言うべきでしょうか。イベントで、よくある事なんですよ」


そして、里美が脱落したことで、全員の視線が、残された修一に向いた。

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