6「逆転の一手」

 一方、誘導弾を放った里美は、余裕の笑みを浮かべながら、


(あの木之瀬さんが追い詰めたとは思えないですね。

彼の言う通り機械の不具合だったんでしょう。

まあ最初の回避行動は、良かったですけど、私の攻撃から逃げ切れると思って……)


この瞬間、彼女は勝利を確信している。


(そもそも、シミュレーターで役立たずの『ヒーロー』を選ぶなんて、

どうせ名前だけで決めたに違いないわ)


 『シューター』に限らず、多く超能力は能力そのものを応用できるが

『ヒーロー』は複数の効果を持つ能力であるものの、

基本的に、応用が出来ず、決まりきった事しかできない。


 能力の強さは、応用力にある。

例えば、『ヒーロー』のように単純に空を飛ぶ能力はなくても、

能力をうまく応用すれば、空を飛ぶことも可能である。

一見、一つの事しかように見えても、高い応用力があれば、

多種多様なことが出来る。

しかし、『ヒーロー』のように応用力に欠けると、

それ以上は何もできない。


 故に応用力に欠ける能力は下手に見られがちである。

しかし『ヒーロー』には、侮れない二つの点がある。

一つは、時間をかけ成長することで、

とてつもない存在なる可能性がある事。

しかし、ヴァーチャル・サイで『ヒーロー』を選んだとして、

対戦が終わるまでに、その段階まで成長することはあり得ない。

だから里美はシミュレーターで『ヒーロー』は役立たずと称した。

 

 だが彼女は、『ヒーロー』のもう一つの侮れない特性を忘れている。

それは、『ヒーロー』単体では起こせない事であるが


(さて、とどめと行きましょうか)


とどめと言うには、大げさかもしれないが、残り時間から考えても、

決定的な一撃になる事には間違いなかった。


 再び、彼女の周りに気弾が出現した。もちろん誘導弾。

数は先に撃った時よりも多く、体力消費も大きく、

もし、すべて避けられれば、

里美が不利になるかもしれなかったが、誘導弾であるから、

避けるのは無理であろうし、

それに、修一の迎撃を考慮した上での数である。


「行きなさい!」


気弾が射出され、それは修一のいる方へまっすぐに向かっていく。


 そして修一は建物の中から、里美が気弾を射出したことを、確認した後、

掌を前に突き出し、握りしめると言う動作をした。


「風?」


その時、里美は一凛の風が吹いた気がした。すぐに、顔色が悪くなる。

何が起きたのか察したからだ。

同時に「ヒーロー」の侮れない特性の事も思い出す。


(まさか、念波干渉!)


 超能力者は、『念波』と呼ばれる電磁波に近いものを放出することが出来る。

それ自体は基本的には毒にも薬にもならない物。ただ稀に、

能力そのものに干渉し、さまざまな現象を引き起こすことがある。

それが、『念波干渉』

 

 なお放出される『念波』の波長は一人一人で異なるうえ、

影響を受ける波長も人それぞれ異なるので、

放出して、干渉を意図的に行うことは難しい。


 しかし、能力の中には、様々な『念波』の波長を放出できるものがある。

『ヒーロー』もその一つである。しかも、基本的に能力の応用が出来ないが、

『念波』の放出に関しては波長を、細かく変更したりと応用ができる。

しかし能力単体では、相手が干渉を受ける波長までは判らないので、

意図的な干渉は起こせない。


(偶然ですよね?)


 他の能力と違い、様々な波長を出せるわけだから、

まぐれ当たりで干渉を起こすことは出来る。

しかし、発動するタイミングが良すぎる。


(ともかく、『サーチ』を切って……あれ?)


 『念波干渉』の対策は、収まるまで、個人差があるが

だいたい三分ほど能力を停止させることである。

何が起こるか分からないからだ。

ただ乗り切れば、再度分析が必要になるため、しばらくは安心である。


 そこで里美は、サーチを切ろうとした。だが切れないのである。

ますます顔が青くなる里美。


(まさか、乗っ取られた!)


『念波干渉』の効果で、一番多いのは無力化、あと能力の暴走、

そして完全ではないものの能力自体の乗っ取り。

乗っ取られた場合、何が起こるか、


(あれは!)


彼女に向かって、彼女が射出したはずの誘導弾が迫ってきていた。

そう力の矛先を、持ち主自身に向ける事が多い。


 里美の方に向かってくる気弾、その威力はよくわかっていた上に

『サーチ』が解除できない所為で、身動きができない状態であるから、

全弾命中することは間違いない。そうなればノックアウトとはいかない物の、

時間的にも逆転不可能なダメージを受ける事は間違いなく、

故に、彼女は敗北を悟った。




 一方、モニタリングしている蘭子は


「『念波干渉』、おそらく意図的でしょう。桜井君は『分析眼』を持っている」


すると、蒼穹が


「!」


体をびくっとさせた。


「どうかされまして?」

「いや……別に……」


気まずそうな表情を見せる蒼穹


 『分析眼』とは、付加能力の一種で、

相手が持っている超能力が何であるかが、分かる能力である。

先天性で持っている場合もあるが、訓練をすることで、

後天性で得ることも可能。

先天性の場合でも超能力の勉強をしないと、使い物にならない。


 『分析眼』を発動させると数秒で相手の能力名と、

詳細が使用者にのみ文字として見えるとの事だが、

見え方は人それぞれ、人によってはパーセンテージや、

プログレスバーが見える事もある。


 そして、相手の能力がわかっても、分析は続き、

最終的には完全分析となる。ただそこから得られる情報は、

訳の分からない物なので、

あまり意味はないのだが『ヒーロー』の様に

様々な『念波』を放出できる場合は、

完全解析で得た情報を見た後に放出すると、

確実に干渉を起こせる。


 『分析眼』との組み合わせによる意図的な『念波干渉』、

これが『ヒーロー』の侮れないもう一つの特性である。


  蘭子の話を聞いていた零也は


「『分析眼』か、だったら変だな……」


と呟く、それを聞いた秋人が


「どうして?」


と聞くと


「『分析眼』はヴァーチャル・サイの隠し能力。

もし使用したなら、その旨が、モニターに表示されるはずだ。

でもそういうの無かっただろ?」

「確かに」

「まあ、タイミングが良すぎるのも気になるけどな」




 一方、念波を放出し気弾が引き返していくのを確認した修一は


(うまくいったみたいだ)


勝利を確信した修一は、一息ついたが、どこか浮かない顔をしている。


(何やってるんだろうな、俺……)


 彼的には地味な勝利ではあった。ただ当初の作戦に比べて目立つ、

と言うより、かなり悪目立ちしたものではあったのと

良い勝利とは思えないと言う事もあり、自己嫌悪に陥り、

勝利なのに喜べない修一であったが


(え?)


突然の事に、修一は目を丸くした。


「消えた……」


気弾が、里美に命中する直前に、すべて消滅したのだ。

 

 そして次の瞬間、けたたましいサイレンの音が響いた。

あまりの五月蠅さに耳をふさぐ。


「何が起こってる……」

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