5「対戦開始」

 戦闘開始と同時に、修一を中心に軽い衝撃波、ほとんど風に近いものが放たれ、

その体に雷のようなものが走った。この時、彼は能力のスイッチを入れたのだ。


 その姿を、モニターで見ていた零也は、


「『ヒーロー』か」


側で、同じくモニターを見ている蘭子は


「前と同じですわね」


と言った。


 能力「ヒーロー」、その特徴は一つで複数の効果を持つ能力で、

内訳としては身体能力の強化、念動力、衝撃波の放出、無属性の気弾発射、

これらすべてが主体能力扱いとなる。

それと、力のスイッチを入れた際に、周囲に軽い衝撃波と、

全身に雷のようなものが走る。

 

 ちなみに名の由来は単純にヒーローっぽいから、

また持っている人が少ない能力でもある。

 

さて、能力をオンにした修一であるが、彼は突如、逃げ出した。


「逃がしませんわ!」


里美は、素早く右手を銃の形にして、修一の方に向けた。

人差し指の先端から光弾が射出する。


 だが修一は、能力を発動させたことによる肉体強化で

常人の数倍のスピードを得ており

その結果、相手との距離を稼ぎつつ、攻撃の回避がしやすくなっていて、

里美の初弾を、簡単に避けることができた。

更に里美は、光弾を撃ち続ける。しかし、


「飛んだ……」


とモニターを見ていた鳳介が呟いた。

 

 「ヒーロー」の最大の特徴は、飛翔能力。単純に空を飛ぶという能力を持つのは、

この「ヒーロー」と一部の変身能力のみ。


 修一は、身体能力だけでは、避けきれない気弾を、飛翔能力も加えることで

見事に避けきったのだ。


 空中に浮かぶ修一に対し里美は、更なる光弾を何発か撃ち込んだものの、

修一はアクロバティックな動きで、それらも避けきり、そのまま飛び去ってしまった


「チッ」


里美は、舌打ちをした。攻撃を避けられたことに対する悔しさもあるが、

修一の魂胆が読めてしまったことが大きい。


「時間稼ぎですわね」


 二人の様子を見ていた蘭子が呟いた。横で見ていた蒼穹は、それを聞き


「だから、アイツ、時間制限を付けたのね。『身体強化能力』に

『移動系能力』を加えたとしても『攻撃能力』の方が、消費が激しい。」


 シミュレーターによる勝敗は、多くの対戦ゲームと同じく定められた体力値を

攻撃で減らし、先に相手の数値をゼロにした方が勝ちである。

なお数値の確認は各自ステータス画面を呼び出して行う。


 あと超能力は使うと体力が消費されるが、シミュレーターでも、

それを考慮し力を使うとそれに合わせて体力値が減る。


「先の攻撃を避けられた以上、里美が不利ね。

このまま時間切れまで逃げきれればアイツの勝ちね」


里美の事をよく知る蒼穹は、


「そう逃げきれればね」


どこか意味深に言った。

 

 里美の能力は『シューター』、自らの生体エネルギー、

所謂、気を弾にして撃つというもの、加えて『サーチ』も付加している。

他にも特徴があるが、この場で重要なのはこの二つ。

気弾を撃つという点に関しては『ヒーロー』と同じであるが、

この能力の場合はひと味違う。




 そして仮想空間、里美は、一旦攻撃をやめ、目を閉じる。

一方、修一は、離れた場所で、尚且つ相手の様子がわかる位置にある

廃墟に降り立ち、中に身を隠した。


(まだ8パーセントか……)


そして、廃墟の窓から里美の様子を確認した、

彼女は目を閉じ突っ立ったままで動こうとしない


「取りあえず様子見だな」


 今、彼女は、明らかに無防備だ。一見、攻撃のチャンスの様に見えるが

修一は、察しのいい人間なので、罠の可能性も考慮し、様子見を選んだ。

ただ彼の場合、攻めないのは、制限時間まで逃げに徹すると決めたからであるが


 この後、少しの間、目を閉じていた里美であるが、突如、目を見開き、呟いた。


「見つけました」


この時、彼女は『サーチ』を使って、修一の居場所を、確認していた。

そして修一の居場所を特定した彼女は両手を開き、前に付きだす。

次の瞬間、無数の気弾が彼女を囲むように出現した。


 一方、自分の居場所を知られてるとは、つゆ知らず、

それを見ていた修一はというと


(何をする気だ)


彼女の動きを見れば、手を向けた方向に気弾を射出して、何かしそうに見える。

修一は思わず、彼女が手を向けている方をみる。だがそこには、特に何もない。


「行きなさい!」


 次の瞬間、気弾は、手の方向とは全く別の方向に射出された。


「まずい」


手の動きは、修一が遠くから見ていることを想定し、彼の気を逸らす罠であった。

その事に気づいたのと、咄嗟の判断で、修一は、建物から飛び出した。

直後、気弾は彼のいた建物の、しかも彼がいた部屋に着弾した。


「まだまだ行きますわ」


 再び彼女の周囲に無数の気弾、今度は手の動きなしに射出する。

気弾は、修一の方へまっすぐと向かってくる。しかも気弾の動きはと言うと、

例えば回避の為に、右に曲がれば、気弾も右に曲がる。

逆に左に曲がれば、気弾も左に曲がると言ったように、

彼の動きに合わせて方向を変え、修一の元に迫って来る。


「誘導弾ですわね」


モニター越しに、二人の戦いを見ている蘭子が言った。


 誘導弾は、『サーチ』で相手を捕捉し、気弾を、文字どおり相手に誘導するというもの。ただ初弾は補足まで時間がかかるので発射が遅いが、次弾は直ぐに撃てる。


『シューター』はいろんな撃ち方ができる。

正確には、気弾の生成の仕方によって大きく二つに分けられる。


 一つは体内で生成し、体のどこかから、射出する。

この場合は撃つことしかできないが、それでも散弾、

威力を下げつつも高速連射、攻撃範囲を狭めつつも貫通力の増加など、

撃ち方を変えることができ、『サーチ』との連動で、

正確な照準を合わせることができるほか、

力を溜める事で、威力を上げることができ、

最大出力で、いわゆる破壊光線を撃てる。


 もう一つは自分の周囲に出現させる。

この場合、溜め撃ちで威力を上げることは出来ないが、

射出した気弾を任意で爆破させたり、特定の場所に設置したり、

そして誘導弾と、気弾そのものを操れる。


 このように能力そのものを応用できるのである。

更に里美の『サーチ』、主体能力並みに強力で、

故に誘導弾のほぼ100%に近い命中率を誇り

しかも彼女は能力者として、単純に力が強いだけではなく、技量も高い。


 ただ『サーチ』は発動させると、上半身は動くが

足が地面に張り付いたように動けず、その場から移動できなくなると言う弱点あり、

だからと言って『サーチ』を切ると、気弾の誘導性が失われるので、

誘導弾使用中も移動はできない。


(あと70パーセント……早く……)


 一方、修一は、そんなことを考えながら、ひたすら逃げまどっていた。

建物中に入ったり、入り組んだ路地を通る事で、どうにか撒こうとするが

結局は無駄で、接近してきたいくつかは、自身の気弾で対処したものの


「痛つ!」


取りこぼした一発が足に気弾が命中した。

硬式のテニスボールをぶつけられたような痛み、直後、頭の中で


【『シューター』、解放。】


という声が響いた。


 そして足に気弾が当たった事でバランスを崩し、転んでしまい、

さらに気弾による追い打ち。


「イテテテ……」


体を起こし、念のため体力値確認の為、ステータス画面を呼び出した。

すると宙にモニターの様なものが表示される。

残りの体力値を確認した修一は


(やべぇ……)


今のダメージで体力値が大きく減っていたからだ。

逃げ続ける事で、要は勝ち逃げを企んだわけであるが

これで修一は当初の目論見が外れた事を悟ったが、

だがまだ終わってはいない。策は二段構えであった。


(100パーセント……)


 危機感を覚えた直後であったが、今度は希望を見つけた。

そして修一は口元に僅かな笑みを浮かべた。

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