4「対戦準備」

 一行はゲームセンターに近くまで来たところで、携帯の着信音。

なお鳴っていたのは春奈の携帯であった。

彼女は電話に出て、相手の話を聞くと、


「わかった。すぐ行く」


そう言って、電話を切った後、麻衣に耳打ちをした後


「ごめん、ちょっと用事ができたから私たちはこれで」


そう言うと、二人は駆け足で、去っていった。


 人数が二人減りつつも、一行はゲームセンターに到着し、

建物の中に入った。中は賑わっていたが、

奥の方にあるシミュレーターは、ちょうど使われていなかった。

 

 大きなモニターと、その下にはコンテナルーム見たいなものが

二つ並んでいて、その間に小さめのモニターとコンソールがある。


(なんか、学校のシミュレーターとは違うな)


 これがNVRシステムと呼ばれる超科学と魔法技術で作られた

仮想現実を利用した装置で通称、シミュレーター。


 元々は能力や魔法の訓練等を行うためのものだが

これを使った対戦はゲームと言う扱いになるため

決闘罪でご法度の異能バトルを合法的に行うことが出来る。

特にゲームセンターに置かれているのは、異能バトル専用。


 なおS市と近隣の市町村では、学校や一部の公共施設、

娯楽施設と広く設置されているが、

全国と言うより世界的には、まだまだ普及していない。



 みんな筐体の前に集まり功美が、二人に


「一本勝負でいいわね?」

「はい」

「ああ……」


二人は同意したが、更に


「たとえイベントが起きて、勝負がつかなくても、

そこは引き分けと言うことで、

やり直しはしない。それでいいわね?」

(イベント?)


修一は、功美が何を言ってるのかわからなかったものの、里美の


「もちろん、運も実力の内ですから」


と言って同意してしまったので、つられて修一も同意してしまった。


 ふたりの同意が取れたところで


「それじゃあ、始めましょうか」


功美は、筐体に近づきお金を入れ、対戦モードを選択、設定画面に入る。

コンソールの操作はタッチパネルで行う。


「後は、公平を期すために、ここからは、あなた達が」


と蒼穹たちの方を見た。そう設定は、当事者の二人と、

その家族である功美以外の人間に任せたのだ。


「それでは私が……」


と手を上げたのは蘭子、彼女が蒼穹たちの立ち合いの元、設定を行った。


 まずはフィールド選択画面が表示された。

街中、闘技場、廃墟街、遊園地、工場地帯など

バラエティーに富んだ、フィールドが選択できる


「フィールドは何処にいたします?」


と蘭子が聞くと、里美は


「私は、どこでもいいですわ。どこで戦おうと勝つ自信がありますから」


と言葉通り自信ありげに答える。すると蘭子が口元に笑みを浮かべながら


「それじゃ修一君に決めてもらいましょう」


と言う。決定権をゆだねられた修一は


「うーーーーん」


修一は、モニターを見ながら唸り声を挙げながら、

しばし考えるそぶりを見せ、その後


「廃墟街」


と答える。


「それでは廃墟街で」


廃墟街を、選択、決定ボタンを押す前に、「どこでも」とは言われていたものの、

一応念を押すように


「黒神さんもよろしくて?」


と尋ね


「ええ、かまいません」


と先ほどまでの自信を崩すことなく、答える。そして蘭子は決定ボタンを押し

次の設定画面に移動する。次の画面では制限時間やハンデなど、

戦闘の細かいルール設定を行う。


「ハンデはいかかです?」


と蘭子が聞くと、里美が


「そうですね。」


修一を横目で見ながら、意地の悪い笑みを浮かべ、修一を挑発するように


「私はハンデをくれてあげてもよろしいですが」


一方、修一は


「ハンデは無しだ。その方が、後腐れないだろう」


その言葉に対し、里美は更に挑発する


「後で泣いても……」

「泣くかよ」


彼女の言葉が終わらぬうちに、間髪入れずに修一は言った。


「それでは、ハンデ無しで、あと制限時間は」


ここでも里美は


「ご自由に、無制限でも、短期決戦でもかまいません」


と、答える。一方、修一は


「俺としては長引かせたくないから、そうだな……」


少しの沈黙の後、


「15分くらいで」

「それじゃ15分。よろしいですわね?」


と蘭子は里美を向く


「ええ」


と言って頷く里美。そして蘭子が、コンソールを操作。


そして両方のモニターに、各自「ボックス」に入るように

促すメッセージが表示された。


「これで、設定完了ですわ」

「あれ、ヴァーチャル・サイは?」


と修一が尋ねると蘭子が


「それは、あちらで」


と言って二つ並んでいるコンテナルームみたいな物を指さした。


「では、お先に」


といって、里美は右側のボックスの方に入る


「桜井君も、どうぞ。左側の方へ」

「ああ」


修一も、蘭子に言われるがまま、左側のボックスへと入った。


 ボックスの中には、SF映画に出てくるような

冷凍冬眠カプセルの様なものがあって、

その傍らにはモニターとコンソールがあった。


(ここにあったんだな)


 なお学校においてあるやつは、専用の教室にこのカプセルが数台置いてあって

教壇のあたりに、大きめのモニターと、

設定用の小さめのモニターとコンソールが置いてある。


(ここで、ヴァーチャル・サイを設定するのか)


 シミュレーターでは、自分が使えない能力や魔法を体験することもできる。

それが、ヴァーチャル・サイ、あるいはヴァーチャル・マジックと言う機能である。

やり方は、学校の少し違うようであるが、基本的な設定の仕方は同じ


 超能力の場合は、主体能力と付加能力の二つを設定する。

魔法の場合は、限られた枠に合わせる形で複数の魔法を選択する。

なお能力、または魔法の使い方は仮想世界に入った際に自然に頭に入ってくる。


(あの時は、木之瀬が自分の所をスキップして、

さっさとカプセルに入っちまったんだよな)


修一は、タッチパネルを2度ほど押した。


(さすがに人間相手に、アレは使えないよな)


そしてカプセルに入る。蓋が閉じると、カプセルの中は真っ暗だ

暗闇に包まれた後、


「スキャン開始」


というアナウンスが流れたのち、暫くしてから意識が遠のき、

気付くと仮想世界にいるのだ。

仮想世界と言っても、本人たちにとっては現実と変わらないのだが。


(どういう原理なんだろうな)


修一はトレーニングで数回、蘭子との模擬戦で一度使ったことがあるが、

どういう原理か、彼は知らないし、ここで語るべきことでもない


(それよりも、うまく自制できるか)


 この勝負に、修一は勝ちたかった。負けることは考えない。勝利あるのみ。

この時点で彼が病気と称するもの一つ「負けず嫌い」出ている。

 

 しかし同時に目立ちたくはなかった。

零也や秋人の様子から相手が強いのはわかっていた。

勝てるかどうかはともかく、もし勝てば目立つのは間違いない。

しかも勝ち方によっては余計目立つことも。

 

 勝ちたい、しかし目立ちたくない。この相反する思いに対する妥協点として、

修一がたどり着いたのは、いかに地味に勝つか。

勝利自体で目立ちかもしれないが地味なものなら

最小限で済むであろうと修一は思った。その算段は済ませている。


 外のモニターには、仮想世界を映し出すものであるが、今そこには


「now loading」


と表示されていた。それを見ながら蘭子は


「裏技は、使ってないようですわね」


 娯楽用のシミュレーターには、裏技が存在する。

要はチートなので、使うとあまり良くは思われない。

そして使用すると、対戦前にその事実が、外のモニターに表示され、

更に相手にも通知されるので、隠して使うことはできない。

 

 やがて、モニターに仮想世界が映し出された。画面は二分割され、

片方は修一、もう片方は里美に、カメラの視点が合わせられている。

そして両者ともに、透明な箱の様なものに閉じ込められている。

この間、相手に対し、一切の攻撃は出来ない。



そしてアナウンスが、流れる


「GET SET、READY……」


両者、構える。次の号令で、箱は消滅し、戦闘開始


「GO!」

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