3「母襲来」

「面白そうね。その勝負、受けてあげれば?」

「「「!」」」


 第三者の声。声の方を向くとそこには


「母さん、いつの間に」

「今さっき、仕事が、早く終わったから」


そう、桜井修一の母親、桜井功美の姿が、

ちょうど表玄関につながる扉の近くにいて、

直ぐに、修一の側までやってくる。


 そんな彼女は整った長髪に、黒いスーツを着て、

更に不敵な笑みを浮かべていた。

普段からどことなくミステリアスな雰囲気を醸し出しているが、

それがより際立っていた。

 

 修一と功美の会話を聞いて、里美は驚いた様子で


「えっ!この方が、貴方のお母さん」


すると功美は、里美の方を向き


「久しぶりね。里美ちゃん」

「「え~~~~~~~~~~!」」


今度は、修一と蒼穹が声を上げた。

二人にとって、里美と功美が、面識があると言うのが

予想外だったからだ。


 更に修一達の声に、ゲームに集中した来客たちが反応し、

全員、修一達の方を見た。すると功美は、その視線に気づいたように、

来客たちの方を向き、手を振りながら


「みんな、久しぶり」

「えっ?」


と修一が声を上げ、そして、秋人が


「何で、貴女がここに?」


と聞くと、功美は、さり気ない口調


「ここ、私の家だから」

「えっ、まさか……」


秋人、いやメイとアキラを除く来客たちの視線が修一の方へ向かった。

修一もこの展開に驚きながらも


「俺の母さん……」


少しの間があり


「「「「「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」」」」」


メイとアキラ、鳳介そして蘭子を除いた来客たちが、声を上げた。

蘭子と鳳介は口々に


「これは、驚きですわね。まさか、貴女さまが、桜井君のお母様とは」

「世間は、狭いなアンタが桜井の母親とはな。驚きだ」


と二人とも表情を崩さずに言ったので、驚きと言う割には、そうは見えない。


「えっ!皆、母さんのこと知ってるのか!」


と修一は驚嘆の声を上げた。そうこの場にいる全員が功美と面識があり、

尚且つ修一の母親である事知らなかった。


その一方で


「何驚いてんだ、お前ら?」


とアキラが、きょとんとした様子で、言った後、功美の方を向き、


「どうも、お邪魔してま~す」


一方、メイは表情を変えることなく


「……お久しぶりです……」


この二人も、功美と面識があるが、最初から修一の母親として出会っている。


「つーか、みんなどうして母さんの事を?」


 修一の質問に対し、メイとアキラを除く全員が、親の知り合いと言う、

まったく同じ回答をしたのだ。

ちなみにメイとアキラの親も功美と面識があるが、

両者ともに功美と出会った後に知っている


 そしてこの状況に修一は、


(母さんは、昔から顔が広いから、しかも地元とくれば、

こう言うのもおかしくないんだろうけど……世間は狭いな)


とそんなことを思っていたが、そんな中、功美が


「それより、修一、里美ちゃんとの勝負はどうするの?」


すると秋人が


「どういう事、修一君?」


と聞いてきたので


「何だか知らないけど、勝負を挑まれたんだよ。

シミュレーターを使ってだけど」


すると、零也は血相を変えて


「やめとけ、黒神は『セカンドクラス相当』だぞ。

シャレにならん」


更に秋人も血相を変えて


「僕も、辞めといたほうがいいと思う。まだ目覚めてないんだし、

それに体は傷つかなくても、心があぶない」


すると里美が、


「私だって、手加減はしますわよ。ご心配なく」


ここで、蘭子が


「心配の必要は、ありませんわ。桜井君は、お強いですもの」


次の一言はこの場を凍り付かせた


「なんせ私を、あそこまで追い詰めた人ですもの」

「!」


 特に修一の表情は固まった

彼にとってあまり触れられたくない事だったからだ。

その事が彼女と距離を置きたいと思う原因となった出来事と関りがある。


「蘭子、どういう事?」


蒼穹が恐る恐る聞くと


「以前、学校に設置してあるシミュレーターの調整を手伝うことになりまして、

私と桜井君がテストの為、一戦交えたんです」


ここで割り込むように、修一が


「俺は『ヴァーチャル・サイ』を使った」


と言った。そして蘭子は話を続ける。


「だとしても、技量は確かです。あの時、機械がエラーを起こさなければ、

確実に桜井君の勝利でした。」


 少しの間があり


「「「「「「「え~~~~~~~~~~~!」」」」」」」


さっきと同じ人間たちと功美を除き、

蒼穹と里美も加わる形で驚嘆の声を上げる一同。


「?」


その一方で、訳が分からなくてキョトンとしているアキラ。


 そして修一は、どこか焦っているようで


「あれは、偶然っていうか……機械のエラーで、俺の設定がおかしくて、

チートみたいなもんだ。あれは無効試合だよ」


と弁解するかのように言ったが、蘭子は


「私は、そうは思いませんわ。確かに決着がつかなかったので

無効試合には違いありませんが、桜井君の実力は、私は保証します」


修一は、困惑した様子で


「勝手に保障されても……」


 いまいち状況が理解でき出来てないアキラは


「だから、さっきからお前ら何驚いてるんだ?」


と言うと、秋人が説明をした


「君は、こっちに来たばかりだから、知らないようだけど木之瀬さんは、

この街じゃ最強クラスの能力者なんだよ。

そんな木之瀬さんが負けそうになったってことは、凄い事なんだ」

「へぇ~~~~~~~~」


アキラは、蘭子の強さを知らないので、いまいち実感がわかない。


ここで話を耳にした蘭子が、二人方を向きながら


「有間君、最強クラスは、大げさですわ」


謙遜したように言った後、里美や修一の方を見ながら


「さて勝負の場は、私が提供しましょう。

私の部屋には家庭用のシミュレーターがありますから」


と提案したが、里美は蘭子の方に右手の掌を、向けながら


「いえ、貴女の世話にはなりません。近くのゲームセンターのを使います。」

「ゲームセンターの?あれは娯楽用ですわよ。」

「娯楽用だろうが競技用だろうが、一緒でしょう。」

「でもイベント起きる可能性がありますわ。そしたら、せっかくの勝負が台無しに」

「滅多に起きないでしょう」

「確かにそうですけど」

「そうそう、お金は言い出しっぺ私が払います」


と里美が言うと、功美が胸に手を当てながら


「お金は大人である私が払うわ。」


と言った後、


「でも私に気を使って、手を抜くなんてやめてね」


と釘を刺した。


ここまで、勝負することを、前提に話が進んでいた。

そして功美は修一の方を向き


「修一は、どうする、この勝負うけるの?」


ここで、修一の意思を聞いた。


(なんか、断っても、しつこく付きまとってくるような気がするな。

だからと言って勝負を受けるのもどうかと思うが、

まあ、今回は仕方ない。そう仕方ないんだ。

けっして『異能バトル』への興味があるわけじゃないぞ。あるわけじゃ……)


本当は異能バトルへ「好奇心」があったのだが、仕方ないと言う事で、

自分を誤魔化して


「受けるよ」


と答えた。


 そして全員で場所移動、その途中


「大丈夫?修一君」


と秋人は心配そうにするが、修一は


「大丈夫だよ。俺の心はタフだから……」


と答えたものの、修一の表情はどこか暗い、


(何やってるんだ。俺は……)


自分を誤魔化したことに自己嫌悪を感じだしたからだ。

更に、その表情故に言葉が説得力を失っていて、

秋人はますます心配げな顔をした。

以降、修一は、目的地に着くまで、黙り込んだままであった。




 さて、ゲームセンターに向かう途中、零也は、真綾に話かけた。


「あのさ、真綾と桜井ってどういう関係なんだ」


友人と彼女の事と言うこともあって二人の事が気になった。

あの様子から以前からの知り合いで、険悪とまではいかなくても、

対立関係にある事はわかる。


「もしかして、例の組織と……」


すると、真綾は


「アイツは逃亡者を匿ってたの……」

「あのさ、その逃亡者って、あの長瀬って子じゃ」

「そうよ、どうしてわかったの?」

「いや、彼女もレプリカントタイプだって聞いたし、

真綾の様子から、もしかしてと思ってさ」


そして、話題を修一の方に戻す


「ただ匿ってただけなのか?」

「そんなわけないでしょ、さんざん妨害してきたわよ。変な銃でさ」

「変な銃?」

「見た目はブラスター銃なんけど、電磁パルスを照射したかと思えば、

煙幕を出したり、鳥もちを撃ってきたり」

「なんだそりゃ?」

「とにかく、おかしな銃なのよ。」

「おかしいのはともかく、桜井は銃が扱えるのか」

「そうでもないわ。EMPは、反動は全くだし、煙幕も鳥もちもなさげだったから、

モデルガン扱うに等しいわね。」

「そうか……なあ真綾から見て、桜井はどういう奴だった?」

「私の見立てでは、多少運動神経は良いみたいだけど、

当時のアイツは普通の中学生だったわ。ただ……」


そう言うと、真綾は険しい顔になった


「どうかしたのか」

「いや、アイツ、『赤い怪人』と繋がりがあるみたいなのよ」

「それって、例の組織を壊滅させたっていう」


頷く真綾


「でも、どうして」


と零也が聞くと


「アイツが関わって来てから、現れるようになったから」


と言った後、険しい顔を崩さず


「怪人は、私の『サーチ』によると、正体は人間で女なんだけど

……あのさ零也」

「なに?」

「アイツって性別を変える能力って持ってない?私のサーチじゃ、

変身系能力は判らないから」

「さあ、桜井は、まだこの街に来たばっかりだから、

能力は持ってないと思うけど……」

「………」


黙り込む真綾。零也は心配そうに


「真綾?」


すると彼女は


「もしアイツが、性別を変えられるなら、

私はアイツが赤い怪人だと確信できるんだけど」


真綾は修一の方をじっと見つめた。

そして零也も視線を自然と修一へと向いていた。

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