2「宣戦布告」
ゲームが盛り上がり、参加していない男子達もゲーム画面に釘付けになる中、
蒼穹が
「桜井修一、ちょっと話が」
と声をかけた。修一が
「何だ?」
「『何だ』じゃないわよ。私言ったよね。
二階に住んでいることは言わないでって」
「天海が住んでいることは誰にも言ってないぞ。」
「個人情報だけじゃなくて、いる事自体言わないでってこと」
「そこまで隠さなきゃいけなかったのか、」
「そうよ。もう手遅れだけど……」
他の来客の方を一瞥する蒼穹。
「個人情報を隠すのは当然ことだけど、でも存在ってのは、
か弱いとか、悪いやつに追いかけられてるってなら、わかるけどさ」
「何よ?」
「天海って、めちゃくちゃ強いじゃん。それに、逃亡者って訳でもないだろ」
「強さの事はいいでしょ……」
ここからは、小さい声で
「まあ、追われてるって言えば追われてるけどさ……」
「え?」
ここからは、声を大きめにし
「なんでもないわよ」
と言った後、声のトーンをそのままに
「それに、あんただって、変な勘繰りされたくないはずよ」
「そうだけど、でも後でばれた時の事を考えるとな。
個人情報だけなら、プライバシーって事で説明がつくけど、
存在自体を隠すとなるとなあ。説明がつかなきゃ、
それこそ余計に勘繰られる。」
と難色を示した。すると蒼穹が
「私が頼んだって説明すればいいじゃない。実際そうなんだし」
「それで、納得してもらえるかどうか。」
更に修一は続ける。
「つーか、騒動のもとになりかねない。例えば今日みたいに知り合いが来てる時、
そっちが二階で物音を立ててみろ。誰もいないってことにしてたら、
不審者って事で、通報。そうなったら大騒ぎだぞ」
「それは……」
修一の言葉に、視線をそらし、言葉が詰まる蒼穹。
彼女も、同じことを考えていた事を思い出したからだ。
「だから家に、遊びに来るかもしれない三人には、話しておいたんだ。
まあ長瀬達には偶然、聞かれちゃったけどさ。」
蒼穹も、同じ理由で友人たちには大家の家族と言う形で、
階下に人が住んでいることは教えていた。
ただ蒼穹の場合とは違い、
修一は彼女に口止めしてはいなかったのであるが。
「アキラの場合は、母さんが……」
と言いかけた所で
「お二人に、聞きたいことがあります」
ここで里美が割り込んできた。
「聞きたいって、何が」
と修一が答えると
「貴方達の関係です」
修一には、里美が何を言いたいのか、
正確には、どんな答えを求めているのかわかってはいたが、
それに反するであろう真実を語る事とした。
「だから単純に、下宿人と、家主の息子。それ以上、特に何もないけど」
蒼穹も同調するように
「そうそう、ホント何もないんだから!」
里美は二人に疑いの目を向けながら
「それで、私が納得するとでも」
蒼穹は、困っているような表情で
「だよね……」
そして里美は修一の方を向きながら話を続けた。
「勝手ながら、一階を、一通り拝見させてもらいました」
里美はケーキを食べて以降、席を外し、一階を見回っていた。
「一通りって、どれだけ……」
と修一が聞くと、里美は
「ほぼすべてです。貴方の部屋も拝見させていただきました」
「あのさ、見られて困るもんはないけど、
プライバシーって言葉知ってるか?」
修一の言葉に、返答することなく、里美は、話をつづけた。
「実質一人暮らしとの事ですが、整理整頓が、
行き届いているようで、綺麗でしたわ」
「今日は友人が来るから、片付けたんだ」
「いえ、あの綺麗さは、普段から整理整頓をしていないと、
出せないものです。あと、冷蔵庫、台所も拝見しました。
あの様子だと普段から自炊をされているようで」
ここで、蒼穹を一瞥する里美、蒼穹は、少々腹立たし気に
「悪かったわね。レトルトばっかりで」
そして里美は、更に話を続ける。
「ケーキのお味も良かった事ですから、料理の腕も期待できそうですし、
あと洗濯も、そう言えば女性下着がありましたが、お母様のですよね。」
「ああ」
「炊事、洗濯、掃除、どれも良し、中々の完璧超人みたいですね」
「そりゃどうも」
と修一が言うと、里美は鋭い目つきで、彼を見つめ
「ですが私は、貴方を認めない……」
修一に右手の人差し指を、突きつけながら
「勝負です」
一方、修一は、突然のことに、訳の分からないと言うような様子で
「はぁ~」
と間の抜けた声を上げた。
「ちょっと、里美、何言ってるのよ!」
と蒼穹は、困惑した様子で声を上げたが、里美は聞く耳持たずと言った様子で
「もし私が勝てば、天海さんに金輪際近づかないという念書を書いていただきます」
修一は呆れ顔で
「だから、俺と天海は、そういう関係じゃないし、その気も全くない」
「そうよ、そんな事はないって」
しかし聞く耳持たずの里美は修一に
「とにかく、勝負と言ったら、勝負です!」
と更に強めの口調で言い、更に続けた。
「もちろん、あっちでやってるゲームではございません。互いの力をぶつけ合う。
文字通りの戦いです」
すると、修一は呆れ顔のまま
「お宅、『決闘罪』って知ってるか?」
正式には、「決闘罪ニ関スル件」、要するに決闘を禁止する法律。
今回のように勝負を申しこまれ、それに応じて戦うことは、
これに抵触する。なお戦わなくても応じただけでも罰せられる。
「言っとくが、俺は前科者になるくらいなら、
腰抜けの称号を甘んじて受け入れるぞ」
里美は、特に表情を変えることなく
「もちろん、法に触れる事は致しません。シミュレーターを使います。
これによる対戦はゲームと言う扱いですから、
当然、違法ではありません」
そして里美は、修一を追いつめるかのごとく、彼の方に一歩だけ近づき
「いかかでしょうか」
この時、修一は自分の中で、何かが込み上げてくるのを感じていた。
それは彼の抱えている病気の一つだ。好奇心と言う名の。
さっきは「法律」は枷になっていた。
それがなくなった今、異能バトルへの好奇心が噴出しようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます