第3話「対決」

1「またまた来客」

 街の有名人が二人も来たので、妙に緊張感が漂う雰囲気となったが、

とりあえず客が三人増えたので、修一は更に三人分の座布団を用意し、

座ってもらった後、三人にケーキを振舞った。


「おいし……」

「おいしいですわね」


蒼穹と里美は、一口食べ、口々に感想を述べた。

一方、蘭子は黙々とケーキを食べ、それを平らげた後、


「ごちそうさまでした。おいしかったですわ」


と言った後


「桜井君、これは、貴方のお手製ですか?」


と尋ねた。修一は、さり気ない口調で


「そうだけど」


と答えると、


「「えっ!」」


と言う声が複数上がった。特に驚いているのは零也で


「あのケーキ、お前が作ったの?!本当に……」


鳳介は、表情には変化がないものの


「驚きだな、店が出せるぞ」


そして秋人は


「やっぱり、あのケーキは修一君が作ったんだね」


この言葉に零也が


「お前、気づいてたのか?」

「この前学校で、修一君が、よくチーズケーキを作るって聞いたから」

「私が、桜井君に休日の過ごし方を聞いた時ですわね」


と蘭子が話に割り込んだ


「そう」


と秋人は答え、更に


「でも、ここまでおいしいとは、思わなかったけど」


と加えた。


 修一は、みんなの反応に困惑気味に


「ちょっと大げさだろ。このケーキ、初心者向けの料理本を見て作ったもんだし、

それにチーズケーキって、材料を混ぜるだけだから、簡単に作れるんだぜ。

まあスフレはメレンゲが面倒だけどさ」


 修一は、自分が食べたくて、なおかつ作りたいからケーキを作る。

今日だって、客が来ることを考慮し多めに作ったものの、

正直なところ自分が食べたかったから作ったのだ。


 そして修一は自分の作ったケーキを他人に食べさせたことはほとんどなく、

食べたことがあるのはこれまで四人


(母さんは、美味しいとは言ってたけど、普通にしてたし、長瀬は、感情を面に出さないし、アキラは、大げさだし、天海は……)


「そう言えば、前に桜井さんが、お手製のケーキを持ってきてくれたけど、

あれ作ったのって?」

「俺だよ。母さんが、おすそ分けって持ってきたやつだろ」


 天海蒼穹の場合は、修一は現場にいないから、彼女がケーキを食べて、

どんな反応をしたか知らない。

したがって、みんなが自分のケーキを食べてここまでの反応があるとは

予想外だったのである。


(アキラの反応もあながち大げさって訳でもなかったんだな)


 この状況、褒めてもらってるわけだから、うれしいはずなのだが、


「どうしたの、また浮かない顔して……」


と心配そう言う秋人。修一には、ある疑念から自分の腕前を、

褒められても素直に喜べなかった。


「何でもない。それより……」


修一は、蘭子の方を向き


「木之瀬は、何で俺の家に?」


と聞いた。修一にとって、彼女は本日の来客の中で、一番予想外に人間だった。

修一の問いに対し、蘭子は笑みを浮かべながら


「近くまで来たのと、あとは気まぐれ……ですわ」

「気まぐれって」

「一応、予定は確認したでしょう」


教室でのやり取りを思い出す修一。


「だから、あの時、休日の予定を聞いたのか」

「もちろん、あの時点では、貴方の家に行く予定はありませんでした。でも、念のため」


と言った後、蒼穹の方を一瞥したのち


「それにしても、桜井君ところの下宿人がまさか蒼穹さんとは、驚きですわ」

「そうそう、ホント驚きだぜ」


興奮した口調で、同意する零也


「それにしても、どうして天海さんが、修一君の家に」


と秋人が尋ねると、修一は


「いきさつは前に話しただろ、あの話の下宿人の部分を、天海に変えれば」

「じゃあ、修一君のお母さんの知り合いの娘さんが、天海さん」

「そういう事」


ここで、鳳介が思い出したように


「そう言えば、前に怪獣が現れた時、

天海蒼穹が住んでいたアパートが倒壊したと聞いている」

「え?」


これは初耳であった。修一は、功美からは、アパートの部屋が駄目になって、

住む場所に困ったからとしか聞いてなかった。


「怪獣の事は、知ってたけど、それが原因と言うのは初耳だな」


 この時、修一達は気づいていなかったが、『怪獣』の話題を出した途端、

春奈と麻衣が気まずそうな表情を見せた。


 そして修一は、蘭子の方を向き


「ところで、なんで下宿人の事、木之瀬が知ってるんだ?俺、話してないはずだが」


蘭子は、笑みを浮かべつつ


「私には、独自の情報源がありますので……」


と言ったきり、それ以上は、この事については話すことなく


「ところで、そのゲーム……」


さっきまで遊んでいたゲームが点けっぱなしになっていた。


「少し遊ばしてもらっても構いません?私、得意なんです」

「いいけど……」


 修一の、個人的な、本当に勝手なイメージであるが、

蘭子がテレビゲームをやっている姿が想像できないというか、

似合わないというか、だからゲームが得意と聞いて、意外だと思った。


「誰か、お相手してくれませんか」


と蘭子が呼び掛けると、直ぐに


「お……お願いします!」


と麻衣は、普段の彼女からは想像つかないような大声で名乗りを上げた。

すると春奈がつられるように


「私も」


と声を上げた。蘭子を含めこれで三人、ゲームはこの人数でも遊べるが、

対戦は最大5人まで参加できるので


「蒼穹さんは、どうです?貴女も、このゲームが得意では?」


と蘭子が誘ったが


「別にいい、どうも気が乗らないから」


すると


「……参加……する……」


とメイが名乗りをあげ、間髪入れずに真綾も


「アタシも参加するわ!」


と妙に力の入った様子で参加を表明し、女子五人での対戦ゲームが始まり、

大いに盛り上がるのであった。

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