3「お掃除しましょう(2)」

 二階に戻ると、真綾はまだトイレから戻ってきていないようだった。


(そういや、里美は……)


先ほどから里美の姿が見えない。

すると住居の奥の方、蒼穹の自室の方から音楽が聞こえてきた。


「まさか!」


蒼穹は大慌てで、部屋に向かった。自室は、散らかり具合が、輪をかけて酷く、

加えて他人には見せたくないプライベートなものが多く置いてある部屋であった。


 部屋には案の定、里美の姿があり、彼女が行ったのか、

部屋が半分ほど片付いていた。

そして彼女は、部屋に備え付けられているテレビで、何かを見ていた。


「里美……」

「私としたことが、懐かしいものを見つけてしまいまして、つい……」


 それは小学生のころ、里美と一緒に出たダンスイベントの映像であった。

蒼穹と里美を含めた3人の少女が、とあるアニメのキャラを模した衣装を着て

そのアニメの主題歌に合わせて踊っていた。

なおこのビデオは当事者同士で見るなら良いが、

第三者にはあまり見せたくないものだったりする。


「今も良いですが、この頃も楽しかったですよね」

「そうね」


 蒼穹は、勝手に自室に入った里美に一言文句を言いたかったが、

彼女の言葉で、懐かしさがこみあげてしまって、言いそびれてしまう。


(里美の言う通り、この頃もよかった。いつも三人で楽しかった……)


「このイベントの時のアクシデントのおかげで、

私たち三人は光弓校に入ることが出来た。でも……」


二人は、そろって暗い表情を浮かべる。

そしては里美が、ビデオを止め、テレビを消し、


「さて、掃除を再開しましょう」


 その後は、二人で部屋の掃除をしたのであるが


「それは、そこに置いといて……そっちは、触らないで、私が運ぶから……

待って、それは捨てないで!」


居間とかは、ほとんどゴミしかなかったので、

一緒くたに集めて捨てても、特に問題はなかったが、

自室の場合は、ゴミも多いが、一見ゴミのように見える貴重品も多く、

それ以前に他人に触れられたくない物も多い。


 しかし里美は何が大切な物か分からないということもあって、

お構いなしにゴミとして捨てようとするし、

触られたくない物も掃除の邪魔と称して、

勝手に動かすので、それを一々指摘しなければいけないので、

蒼穹の心は休まらず、結果、他の場所の掃除以上につかれた。


「大切な物と、そうでないものは、普段からきちんと分けておく事!

あと置き場所も考えるように!これじゃ、はっきり言って邪魔ですし、

そこから汚くなるんですよ!」


と里美にアドバイスをされたが、きつい口調なのでむしろ説教に近い。

要するに疲れの元凶は蒼穹自身が、

日頃から整理をきちんと行わないことにあるのだが。


 さて部屋の掃除も一段落し、二人とも居間で、一休みしようとしたら、


「あれ?」


二階の居住スペースの出入り口の扉が開いていた。ここを出ると階段があって、

玄関に通じている。修一が、表玄関への扉に鍵をかけているのと同じく蒼穹も、

普段から鍵をかけ、お互いのプライバシーを守っている。 


(さっき玄関に行ったときに閉め忘れたのかな?)


蒼穹が扉を閉め、鍵をかけようとした時、里美が


「森羅さんは、まだトイレかしら」


と言った。


「随分長いわね」


気になった蒼穹が、扉に鍵をかけないまま、トイレの方に行った。

扉は空いていて、中には誰もいなかった。


「森羅さんがいないけど」


里美が、顎を触れながら首を傾げ、


「もしや、いやあの人はあれで、真面目ですから、勝手に帰るとは、」

「そうなの?」


里美の言葉を聞いて蒼穹は


(森羅さんって、真面目って言う印象はないな。

かといって不真面目って感じでもなくて、

堅っ苦しさがないというか、自由奔放と言うか)


そんなことを思ったが、蒼穹は付き合いがほとんどないわけだから、

これは彼女の勝手な印象でしかない


「森羅さんは、あれで結構、真面目な人ですよ。

まあ、生活態度はあまりよろしくないようですが」


と言ったのち


「もしかしたら何かあったのかも……」


と里美は、すこし心配そう言った。


「まあ、戦闘用サイボーグとの事ですから、何があっても大丈夫とは思いますが」


ここで、蒼穹は思い出す


「さっき掃除してる時に、居間の方から物音がした気がするけど」

「そうだったのですか、気づきませんでした」

「私の気のせいかもしれないけど……」


 その物音は、真綾がメイのサーチに気づいて急ぎで一階に向かった時の音。

扉が開いていたのも蒼穹ではなく、真綾の閉め忘れである。


 二人が、真綾が一階にいることを知るのは直ぐであるが、

その前に、彼女の事どころではなくなる出来事が起こるのである。

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