2「お掃除しましょう(1)」
数分後
「予想はしてましたが、酷い有様ですね……」
2階に通された里美の第一声に対し
「悪かったわね」
力なく答える蒼穹、髪は手早く直し、服は着替え、
シャツにジーンズと言った私服に着ている。
「貴方もそう思いませんか森羅さん?」
と話が降られた真綾は、困ったような仕草で
「アタシに振らないでよ」
と答えるだけ、
「まあ、貴女の部屋も五十歩百歩でしょうが」
「ほっとけ……」
そして、里美は蒼穹の方を向き
「もうお判りでしょうが……」
と前置きしつつ
「今日は、一人暮らしを始めた天海さんが、どのような生活をしているか。
確認に来ました。」
そして周りを見渡しつつ
「まあ思った通り酷いものですが」
「だから、悪かったわね……」
そして里美は、再び蒼穹の方を向き
「では、始めましょうか」
「始めるって?」
「当然、掃除ですわ。特待生の星として、
これから、みんなの模範になるのですから、こんな生活態度ではいけません」
「その『特待生の星』ってのはやめてくれない。そういうのになりたいわけじゃ」
「ともかく掃除です」
この日は、ゆっくり過ごすはずが、里美に押し切られ
部屋の大掃除をする羽目となった。当然掃除は、三人で手分けをして、
蒼穹と真綾は居間の方を、里美は台所の方を担当した。
「何でこんなことに……」
「まったく……」
蒼穹が、居間に散らかるゴミを集めながら愚痴を言うと、
横で同じくゴミを集めている真綾も不満そうしている。
「ところで、森羅さんは何で、ここに?」
「暇で、街を適当にうろついてたら、黒神に会って、半ば強引にね」
「暇って、せっかくの休みなんだから天童君とデートとか」
蒼穹は、真綾とは親しくはないものの、
偶然から、零也と真綾が付き合っていることを知っている。
真綾は気まずそうな表情を浮かべながら
「ほんとは今日、メンテがあったから、零也の誘い、断っちゃって、
でも今日になってメンテが取りやめになって、それで一度断ったもんだから、
今更、連絡しづらいし……」
「私、彼氏いないけど、その気持ちはわかる気がする」
「はぁ……こんな事になるなら、零也に連絡入れとけばよかった」
連絡を入れたからと言って、今更、デートができるかは不明である。
実際、零也は桜井修一宅を訪れるという新しい予定が出来ていたのだから。
「なんかゴメンね。巻き込んじゃってさ」
実際に巻き込んだのは、里美であり、蒼穹もある意味巻き込まれた側であるが、
自宅の片づけをさせている事から、心苦しさを感じた。
「別に天海さんが謝らなくても、断れなかったのはアタシなんだし」
里美に会った時、彼女の誘いを断る事も、出来たといえばできたのであるが
「黒神の押しの強さには、勝てない」
「同感」
里美は、有無を言わせぬ強引さがある。断ったから何かされるわけでもないのに、
断れない、または断りづらい。それは、超能力とか魔法と言った特別な物でもない。
しかし彼女に面と向かって断れる人間は少ない。里美の一種の才能ともいえる。
ここで蒼穹は思い出したように
「そうだ、私がここに住んでることは誰にも言わないでね」
「わかってる。ていうか黒神からも念押しされてる」
ちなみに蒼穹は、里美にも、今の住居を事を教えた時に口止めをしている。
「『天海さんの住居については内密に』って、大変みたいね有名人ってのは」
「ホント、大変よ……」
と蒼穹はため息交じりの声で言った。なお蒼穹が口止めするのは、有名人であるからと言う理由の他、もう一つあるのだが、その事はここでは口にしない。
この後は、暫し掃除を続けた後、突然、真綾の動きが突然止まったかと思うと
「天海さん、ちょっとトイレ」
「それだったら」
トイレの場所を教える蒼穹
「それじゃ、失礼して……」
すると蒼穹が、何かに気づいたように
「ちょっと待って、全身機械型サイボーグってトイレ行くの?」
と疑問を呈した。それに対し真綾は
「それは……」
と説明しようとしたら、里美が割り込むように
「森羅さんは『レプリカントタイプ』、この手のサイボーグは、一般的な食事から、
エネルギーを得ることが出来ますが、その代わり、定期的に排泄が必要、
ですわよね?」
「そう」
と真綾が答えると
「それじゃあ、改めて行ってくるわ」
そういってトイレに向かった。そして残された蒼穹は、里美に
「よく知ってたわね」
「勉強しましたの、天海さんもこれくらい知ってなければいけませんよ」
「はいはい、ちゃんと勉強すればいいんでしょ」
ちなみに、里美は常識かの如く話しているが、『レプリカントタイプ』については、
知る人ぞ知る知識であり、この街においても一般的な情報とは言えないものである。
そして、二人は再び、片付けを再開するが、少ししてドアホンが鳴った。
(今度は誰よ?)
親機を手に取ると、モニターには三人の少女が映っていたが、
「ホント誰?」
三人のうち、一人は見覚えのある顔だが、残り二人は初めて見る顔だった。だから
(家、間違えてるんじゃないの)
と思い、直ぐには出なかった。だが相手が再度、ドアホンを鳴らした時、
蒼穹は、その見覚えのある少女の事を思い出した
(そう言えば、この子、確か焼鳥屋の女将さんの娘で、確か名前はメイだったかな)
その少女は、長瀬メイで、彼女の母親が営む焼き鳥屋は、蒼穹の母親の行きつけで、
時々に蒼穹も一緒に行っていた。
メイとは、店で最近、一度、会ったことがあるだけだが、
話だけなら女将さんから聞いていた。
(確か不津校に、通っていて……あっ!)
蒼穹は、修一が不津校に通っているのは知っていたから、
三人が修一の客であることは容易に想像がついた。
(アイツ、裏玄関のこと教えてないのかしら)
裏玄関の事を知っている蒼穹はそんなことを思いつつも、周りを見渡した。
真綾は、まだトイレから戻ってきていなし、里美の姿もない。
なおドアホンが鳴った時点で、既にその場にはいなかった。
そして周囲に誰もいないことを確認した蒼穹は、親機の通話ボタンを押し、
声色を変えながら応対した。
「はい、どちら様ですか」
すると少女たちの一人、御神春奈が
「あの、ここ桜井修一君のお宅ですよね?」
思った通りだった。蒼穹は、
「そうです」
と答え、そして蒼穹は裏玄関の事を教え、そっちに行くよう頼むはずだった
「天海蒼穹……」
突然、長瀬メイが口を開いた。
「えっ?」
と声を上げる春奈。一方、声は挙げなかったものの、体がびくっとする蒼穹
(まさか、ばれてる?)
ここで、メイによる追い打ち
「この声……天海蒼穹……声色変えてるけど……」
(嘘でしょう……)
天海蒼穹は、声色を変えて 別人を装うのが得意である。
これは、超能力ではないが、見破られたことはない。
なお声色を変えているのを見破る超能力は存在しない。
しかし、蒼穹は知らないが長瀬メイはサイボーグで、
音声解析ソフトを搭載しているので声色の変更は無意味であった。
「仕方ない」
彼女は、一階の玄関に降りて行った。直截会って、話、というか口止めをするために
家から出てきた蒼穹を見て、メイ以外の二人が、あからさまな驚きの表情を見せ
「ホントに天海さん……」
「じゃあ、天海さんが桜井君の家の下宿人」
蒼穹は、最初に、三人に
「あなた達、桜井修一の客?」
春奈が代表するよう様に
「はい……」
答える。
「多分、在宅中と思うけど」
一階に降りてきたとき、奥からにぎやかな声が聞こえていた。
「ちょっと待って、今から呼び出すから」
と言って、スマホを取り出すが、その際に唇近くに立てた人差し指を当てながら
「私が、ここに住んでることは内密にね」
「わかってますよ。大変ですよね有名人って……」
と返答する春奈
「もちろんですよ」
小さめの声で答える麻衣、声に出さないが頷くメイ、
そして蒼穹は、もう一つ気になる事があったので
「それと、その……アイツ、桜井修一は、私の事どこまで話してる?」
するとメイが
「二階に……母親の知り合いの娘……下宿してる。……これだけ……
どこの誰かは……言っていない」
先の二人の様子から見ても、メイの言葉に嘘はないと思われるが、
蒼穹は何とも言えないような表情を見せた
(個人情報を言ってないみたいだけど……)
当然、修一にも、口止めはしていた。実際、修一は蒼穹の個人情報は話していない。
蒼穹としては、それだけじゃなく、存在自体を黙っていてほしかった。
なお彼女の頼み方は
「二階に人が住んでいる事は誰にも言わないでね」
と言うものである。
(後でアイツと話をしないと)
蒼穹は、修一に連絡を入れた。
「桜井修一、表玄関の方に、客がアンタを訪ねて来てるわ。」
「えっ?」
「『えっ?』じゃないの、三人来てるの。ともかく迎えに来てくれる」
「分かった直ぐに行く」
すると奥の方にある一階の居住スペースにつながる扉が開き、
修一がやってきた。彼は三人の姿を見て、驚いたような表情で
「お前ら、何で」
その様子は、まるで予想外と言う感じである。すると春奈が、申し訳なさそうに
「ゴメンね、桜井君、突然、押しかけて」
「じゃあ、あなた達、約束とかしてないの」
この時、蒼穹は修一が三人に、裏玄関の事を教えてない理由が
わかったような気がした。
そして修一は
「ここじゃ、彼女に迷惑だから、3人ともこっちに」
そう言って、修一は、三人を一階の居住スペースに案内する。
その際に蒼穹は、修一に
「後で、話があるから……」
と一言。修一は、
「わかった」
と答えた。
修一達が、その場を立ち去った後、
(あの三人とは、どんな関係なんだろ)
と思ったが
(私には関係ない事だけど……)
それ以上考えることなく、蒼穹は二階に戻った。
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