5「更なる来客」

 さて出されたケーキを一口食べた4人は、口々に


「うまいな」

「いける、いける」

「〇△◇×!」

「おいしいよ~~~~~~~~~、修一君~~~~~~~~~~~~」


と称賛した。うち一名、アキラはテンションが上がりすぎて、

何を言ってるか分からないが、美味しいと言っているのはわかる。


 出されたチーズスフレケーキは程よい甘さと、ふわふわで、

口の中に入れるとシュワっと溶ける軽い食感。

スフレ系のケーキは、幸せを感じるというが、正にその通りで、

特に秋人は、顔を赤らめ、ほころんでいる。


「秋人、お前、すごく幸せそうな顔してるぞ。なんか萌え系の女の子みたいだな」


と零也が指摘するが


「お前も、他人事言えないけどな」


と修一が言う、そう秋人ほどではないが、零也の顔もほころんでいる。

なお、鳳介はケーキを黙々と食べていて、顔は二人ほど綻んではいないものの、

それでも笑顔である。


「さて、俺も食うか」


と修一が自分の分に手を付けようとした時、ピーピーと言う感じの電子音が響いた。


「洗濯終わったみたいだな。」


そう言うと、修一はケーキを手づかみし、素早く食うと


「これから洗濯物、干すから、適当にくつろいでいてくれ。」


と言って、その場を離れ、しばらくして、洗濯物が入った籠を持ってきて、

居間の掃き出し窓から、庭に出て、物干し台に洗濯物を干し始めた。


 さてケーキを食べながら、何の気なしに洗濯を干している修一を見た零也であるが


「ん?」


修一が、干している洗濯物に、違和感がある物が混じっていることに気づいた。

そして、修一が洗濯物を干し終わり、部屋に戻ってくると、

零也はその事を聞こうとしたが


「桜井……」

「なんだ?あっ、ケーキのお替りならあるぞ」


 なお零也は、ケーキを食べ終えていた。


「いや、そうじゃなくて、お代わりは欲しいけど、……じゃなくて、洗濯物」

「どうかしたのか?」

「いやその……なんというか……」


 ただ、聞きづらい事であったので、零也は両手の人差し指を合わせながら、

見るからに言いづらくて、困っているという様子を見せた。

そんな零也に対して、修一は得に何てことないと言わんばかりの、

何気ない口調で


「もしかして女性用下着の事か」

「!」


 そう零也は修一が、干している洗濯物の中に女性用下着が混ざっていた事に

気づいたのだ。

修一は、何気ない口調のまま


「あれは、母さんのだ」

「えっ?お前、一人暮らしじゃ、」

「いや、仕事で家にいないことが多いから、実質一人暮らしであって、

実際は母さんと二人暮らし、前に言わなかったか?」

「そうだっけ?」


すると、横にいた3人が口々に


「僕は聞いてたけど」

「俺も……」

「同じく」


 零也は以前、アキラ以外の他の二人と一緒に修一の家庭の状況を聞いていた。

しかし零也だけは話をちゃんと聞いておらず、勘違いをしていたのである。

なおアキラが修一の家庭事情について聞いたのは、零也達よりも少し後である。


「母さんは、朝早く、出かけた。使用済みの衣類を洗濯に出してな」


 それを自分の衣類に混ぜて、洗濯したと言うことである。

ただ零也は修一が、一人暮らしだと思っていたから、

当然女性ものの下着は、おかしいと思うわけで


「そう言うわけだ。ご納得いただけたかな?」


黙ってうなずく零也。




 一方、鳳介も、修一が洗濯物を干している時、その姿を何に気なしに見ていた。

当然、女性下着を干す姿も見ていたが、彼は直ぐに修一の母親の物だと思い、

その時は何も感じなかったのだが、修一と零也のやり取りの際に、

再び何の気なしに庭に干してある洗濯物に目が行ったのだか


「!」


さっきは感じなかったが、彼も、零也と同じく、洗濯物に違和感を覚えた。

それは、零也と同じく女性下着に関する事だが、しかし零也とは異なる事である。


「………」


 しかし鳳介は、その事を修一にあえて聞かなかった。

気にならないわけではなかったが

聞いてはいけない気がしたからだ。

 

 ただし、これは親しい間柄だからであり、相手によっては、

聞いてはいけないと思っても、あえて聞く事もある場合が多いという事を

ここに記しておく。




 洗濯の件も一段落したところで


「ケーキのお代わりとってくるけど、ほかは?」


先ずは、秋人が


「じゃあ、貰おうかな……」


次にアキラが


「俺も、俺も!」


なお、二人の皿はケーキを食べ終え空っぽである。

そして鳳介の方もケーキを食べ終わっていたが


「俺は、要らない。うまいケーキだったが、これ以上はカロリーがな……」

「わかった。」


 3人の皿を貰って、新しいケーキを取りに行こうとしたその時、


「あっ、そうだ、修一君、このケーキって……」


秋人が、ふと気になったことを聞こうとしたのだが、

修一の携帯電話が鳴ったことで話は遮られた。


「誰だ?」


ポケットから携帯電話を取り出すと、相手を確認し


「えっ……」


と声を上げると、すぐに電話にでた。


「何か……えっ……分かった直ぐに行く」


電話を切る修一


「誰から?」


と尋ねる秋人


「下宿人から、何でも表玄関の方に、客が俺を訪ねて来てるって」

「今日は、俺たちの他に、誰か来る予定でもあったのか?」


と零也が聞くが修一は首を振りながら


「全然、今日はお前らだけ、誰が……ちょっと行ってくる」


そう言うと修一は、一旦、皿を置いて、例のドアのカギを開け、

そこから出て行った。その為、秋人は、完全に聞きそびれてしまった


 そして修一は、三人の少女を連れて、戻ってきた。鳳介と秋人、アキラは口々に


「夢沢……」

「長瀬さんに、御神さん……」

「あっ、お前ら、あん時の」


零也はというと


「誰?」


 やってきた少女たちは、修一達と同級生で、学校の違う零也とは面識はない。

なお同じく学校の違うアキラであるが、面識はある。


 一人はショートカットの髪型に、顔立ちどちらかと言えば美人であるが、

可もなく不可もなしと言ったところで普通な感じの少女、御神春奈、

修一や秋人のクラスメイト。その腕には、大きめの宝石のような物がついているが、

装身具ではなく、ウェアラブル端末の様なものを身につけている。


 もう一人はセミロングの髪型で、前髪が長めで目元が、見えにくく、

更に、オドオドしていて、立ち位置も他の二人に隠れるように立っていて、

引っ込み思案を醸し出す少女、夢沢麻衣。彼女は、鳳介と同じクラスである。


 最後に、春奈と同じく、ショートカットの髪型であり、顔立ちも美人であるが、

無表情で、何を考えてるか分からない冷たさを感じる少女、長瀬メイ、

春奈と同じく修一のクラスメイト。そして部屋に入ってきたときは、

三人の中で一番最初で、後の二人を引き連れて入ってきたように見えため、

彼女が少女たちのリーダー格であるようにみえる。事実、そうなのであるが。


「……」

「こんにちは」

「どうも……」


と少女たちは、各々、挨拶をした。そして修一が、三人の事を知らない零也に、

彼女たちの事、同級生である事を教え、


「同じ部のメンバー」


と言った。すると他の二人も初耳だったようで


「「えっ」」


と声を上げ、アキラも初耳であったが、

どうでもいい事であったのか、特に反応はおこさない。そして零也が


「それじゃ、現視研の」

「そう、この三人は現視研、ラノベ班」


三人に対しては、面識のない零也の事を紹介した。

修一や秋人、鳳介の友人である事、

光弓校の生徒であることを話、最後に零也が


「こんななりだけど、けっして中二病じゃないから、よろしく」


と言うと、麻衣が零也の顏をじっと見ながら、消え入りそうな弱弱しい声で


「貴方……もしかして……真魏亜先生のご子息ですか?」

「!」


この一言に、零也の表情が僅かに強張る。すると横から春奈が


「それって、ライトノベル作家の真魏亜ルナの事?」

「そう」


零也が、僅かに震える声で尋ねる


「どうして、そう思ったのかな……」

「いえ……先生の最新シリーズの主人公に似てる気がして」


ここでメイが


「最新シリーズの主役……息子がモデル……」


すると思い出したように春奈が


「そういや、イラスト担当に息子の写真を見せて、挿絵を描かせたって話よね」


彼女たちの会話が進むたびに、連動して、顔色が悪くなっていく零也。そして


「どうなんですか?」


と尋ねる麻衣


「いや……その……」


顔色は、一段と悪くなりあからさまに、困り始める零也。

 

 ここで、助け舟を出したのは修一だった。


「やめろ、困ってるだろうが、」


この言葉に、麻衣は困惑した様子で


「そんなつもりは……」


修一は、話を逸らすべく、別の話題を持っていく


「それより、今日はどうして家に?しかも事前連絡なしで……あっ」


修一は、思い出したように


「そういや、お前ら、前に小説のネタ作りとかで取材がしたいとか言ってたな。

前にも言ったがお断りだぞ」


するとメイが、


「違う……」


と言ったのち、まったく抑揚のない、淡々とした話し方で


「現視研恒例……ドッキリ部員宅訪問……今日は桜井修一君の家に来ました……

イェイ……」


 文言と口調が全くあっていないので、

なんと言っていいのか微妙な空気が部屋の中を襲った。

おかげで、零也の話題は完全に吹き飛んだ。


「長瀬さん……その口調で、そのセリフはやめてよね……」


妙に力の入っていない、どこか脱力した状態でツッコミを入れる春奈。


「つーか、そんな恒例行事、聞いたことねえぞ」


修一の疑問に対し、春奈も


「実は私も麻衣も、さっき聞かされたばっかりで」


メイが抑揚のない口調のまま話を続ける


「この前……部長から聞いた……部員の家に……事前連絡せず……

部員全員で押しかける」


メイの話を聞いた秋人が


「それじゃあ、まだ部員が来るってこと?」


首を振るメイ


「部長とイラスト班は、同人イベント……コスプレ班も別のイベント……

私たちだけ……」


ここで春奈が


「言っとくけど、私と麻衣は本当に、今日ここに来るつもりはなかったから」


春奈と麻衣は、今日は二人で買い物に行くつもりで、

その途中、偶然この家の前を、もちろん修一の家だとは知らずに

通りかかったところで、メイとばったり会って、

恒例行事の事やら、修一の家の事などを聞かされ、半ば強引に、誘われた。


(本当か……まあ仮にドッキリだとして、事前連絡できないのは、分かるけど、

連絡入れてくれないと裏玄関の事が教えられないから困るんだよな……)

 

と修一は思った。


 表玄関は、広い通りに面しているから、来客があれば、

事前に言っておかない限りは、必ず表玄関の方にやってくる。

 

 修一も、最初にこの家に来た時、表の方を玄関だと認識したし、

今日来た、女子三人も同様である。

ちなみに、今日、秋人達が来るまで、来客はアキラだけである。


(あと表から出入りされると、彼女に迷惑かかるし……)


とそんな事を思いつつも、客なので、座布団を三人分追加し、それに座ってもらい


「三人とも、ケーキ食うか?」


女子三人にケーキを振る舞いつつ、零也と秋人、アキラにお代わりも出した。

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