6「宝探し」

 なお修一が、ケーキの準備をしている間のこんなやり取りがあった。


「ところで三人とも二階に住んでる下宿人と会ったの?」


と秋人は何の気なしに聞いたのであるが、

その言葉に麻衣があからさまに動揺しながら、


「わっ……私たちは何も知らないし、だっ誰とも会ってない!会ってないから!」


と言ったので、春奈が


「ちょっと麻衣、それじゃあ、危ない人に口止めされてるみたいじゃない」


と言った。


「でも……言わないでって」

「そうだけど、その言い方じゃ……」


彼女たちの様子に、軽い気持であったが故に、

秋人の方が聞いてはいけないことを聞いてしまったみたいで動揺してしまう。


「あの……」


と声をかけると、メイが


「私たちは、口止めされてる……何も言えない……」

「そうなんだ……」


ここで秋人は修一の言葉を思い出して


「そういや、修一君、小説のネタがどうこう言ってたけど、それって?」


と聞くとメイは


「あなた達の会話を……偶然……聞いたの……桜井君の家の二階に……

女の子が下宿してるって……」


と答えた。なお春奈と麻衣は、メイから話を聞いていた。


「じゃあ下宿人を小説のネタに?」


と言うと、メイが答えた。


「ラノベっぽいから……」


 そうこうしている間、修一がケーキを持って戻ってきた


 


 修一のケーキを食べた三人はと言うと


「「おいしい~~~~~~~~~~」」


メイ以外の二人は、妙に力の抜けたような声を上げ、秋人達と同じく、

ほころんだ表情を見せた。

 

 メイは、表情を変える事無く、黙々と食べている。


「これ、どこのお店のケーキ?」


と修一に聞く春奈、そして修一が答える前に、メイがケーキを平らげながら


「修一君……腕上げたね……」


と一言


「それって、やっぱりこのケーキ」


と秋人が、さっき聞きそびれた事をもう一度、聞こうとするが、それを遮るように、メイが突如、立ち上がると、そのまま修一の前に立ち


「修一君……宝探ししていい……」


 彼女の言葉に、みんなその意味を察したのか、場が凍り付いた。

アキラは何もわかってないのか一人キョトンとしている。

そして春奈が、顔を真っ赤にしながら


「ちょっと長瀬さん!」


と声を上げたが、一方の修一は


「いいぜ」

「「「いいの!」」」


修一の答えに対し、メイと鳳介、そして何のことがわかってないアキラを除く

みんなが声を上げた。


「ただし、ちゃんと片付けしてくれれば」


と付け加える。その時の修一の表情は、かなり余裕に満ちていた。

 

 そしてメイは表情を変えずに


「その必要はない……『サーチ』を使うから……」


 『サーチ』と言うのは、物質の分析、または周囲の状況を調査する能力、魔法、

装置の事、これを使えば、部屋の物に触れることなく、

探し物をすることが出来る。あと超能力としてはメインとなる力、

主体能力ではなく、付加能力と呼ばれ、何だかの能力に、付加する。

いわばおまけとして付いてくる能力で、主体に比べるとそんなに強くはなく、

加えて、その有無には個人差があり、主体能力が同じでも、

付加能力が異なると言う事が多い。


「そう言えば、使えたんだったな。それじゃあ、好きなだけやってくれ。

でも、二階は見るなよ。第三者のプライバシーに関わるからな」

「わかってる……もとより……一階だけ……」


一方、零也は心配そうに


「おいおい大丈夫なのか?」


と言うと、修一は余裕の表情を崩さず


「見られて困るものはない」


と答えた


 そしてメイは、表情を変えることなく、じっと宙を見つめ始める。

すると彼女の体からわずかに、機械音が聞こえてきた。

音を聞きつけた零也は修一に尋ねた。


「もしかして、彼女、サイボーグか?」

「そうだけど」

「機械化率は?」

「『完全』って言ってたな」

「それで、ケーキを食べてたってことは『レプリカントタイプ』か」

「らしいな。つーか、お前、サイボーグについて詳しいのか」

「そりゃ、俺の彼女、レプリカントタイプのサイボーグだから」


ここで、秋人が割り込むように


「そう言えば、この家、『サーチ除け』ないの?」


『サーチ』を悪用すれば、人のプライバシーを覗き見たり、

犯罪の下見が可能である。だから防止のために、

『サーチ除け』と呼ばれる装置が存在する。

それは金融機関、商業施設、公共機関、学校など、幅広く設置されているが、

個人の住居に対しては、設置義務はないので一部設置されていない家も存在する。


「設置してる。でも彼女の『サーチ』は防げないと思う、なんせ……」


と言いかけて、気まずそうな表情をみせると


「いや何でもない。」

「?」


ここで、秋人が思い出したように


「そういや、修一君って、長瀬さんと以前から、知り合いなんだよね。

確かこの街に来る前からの」

「まあな……」


 次の瞬間、ものすごい電子音が鳴り響き、メイ以外は、全員耳を押さえ


「なんだ!」


修一は声を上げた。その音は、メイの方から聞こえており、

そして彼女は、床に膝をつき、倒れそうになり、


「危ない!」


修一は、素早く近づき、彼女の体を支えた。


「大丈夫か、長瀬!」

「……エラー……修復……」


彼女の返答とともに、電子音は止まった。


「サーチ除けかな?」


秋人が心配そうに言うと、


「いや……まさか、アイツらか」


と修一は深刻そうな表情で言った。

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