3「放課後(2)」

 話が一旦途切れるものの、修一は、新しい話題を思いついたので、

能力関係の話に戻らないように、話を切り出した。


「話は変わるが、みんな部活は?」


秋人は


「僕は剣道部」


それを聞いた修一は


(なんか、意外だな……)


と思った。修一の、「なんとなく」から来る個人的な物であったが

秋人は、文科系の部活だと思っていたからだ。


 ここで、零也が、心を読む能力がないのにも関わらず、まるで心を読んだように


「意外って思ってるだろ」

「!」

「こいつ、見た目は体育系じゃないけど、昔から剣道が得意なんだ」


秋人は、後頭部をさすりながら


「いやあ、ここ最近は殆どやってないから、すっかりなまっちゃって、

それを取り戻したいなあって」


なお鳳介は、何も言わなかったが、納得したような表情している。


(そういや、エースなんて言われてたくらいだから、

中学でも運動系部活に入ってたんだろうな。そして対校戦とかで活躍していた。)


 この街に来たばかりの修一は「対校戦」が何であるかを知らないので、

部活の試合だと思っている。確かに試合である事は間違いではないが、

部活のではない。


(ほんと人は見た目じゃないな)


そんなことを思いながら、修一は反省した。


 一方、話題の矛先は


「そう言えば、鳳介君の部活は?」


と秋人が、尋ねたことで、彼へと向いた


「俺は、修行が忙しいから、部活には入ってない。

今日も、この後、修業が待っている」

「そういや、中学の時も、修行とかで帰宅部だったよな」

「当然だ、日々の修業は大事だからな。ところで、天童は何部だ?」


 話題の矛先が、零也に向いた。


「俺は……」


零也は、少し、躊躇しているようなそぶりを見せつつも


「文芸部。文章作るのか好きだから」


と答えた後、少し語気を強めながら


「いっとくけど、母さんは関係ないからな。」


どうも、零也の母親がらみの事情があるようだ。


 そして、これ以上聞いてほしくないといわんばかりに


「言い出しっぺの桜井は、どうなんだ?」


と修一に話を振った。最後に、矛先が、言い出した本人である修一に向いたのだ。

そんな修一は、ごくごく普通な、正に、さり気なくという感じで答える。


「俺は、現代視覚文化研究部。」


さりげない感じ修一とは対照的に、零也が、驚いた顔をし


「え!」


と声を上げた。


「そんな部あるの?うちの学校に」


秋人は、初耳と感じだ。鳳介は、同様なのか、黙ったまま、

考え込むようなしぐさする。

そして零也は、恐る恐ると言った感じで、


「それって、アニメとか漫画とかの研究する部じゃないのか……」

「あとゲームとラノベもな、俺、そういうの好きだから」


とごくごく普通な感じで答える。


「やっぱりか……」


 修一とは対照的に、零也の方は、何かあるのか顔は、

こわばっている。声にも怯えの様なものがあった。


「零也君、なんか知ってるの?」

「知ってるも何も、うちの学校でも有名」


と言ったのち


「略してみろ」


すると鳳介が


「現視研!」

「あっ!」


 ここで、秋人は気づいた。略称のほうが有名すぎて

正式名称の方では気づかなかったのだ。


「あの部って、確か番長に乗っ取られたんじゃ」

「俺も、聞いたことがある確か、放課後にやってきては部室に居座って、

部の連中を困らせてるとか」


更に零也が


「俺は、部とは名ばかりで、『鋼のスケ番』が率いる不良グループとか聞いた」


そして秋人が心配そうに


「修一君、大丈夫?そんな部に入って」


 三人の話を聞いた修一は、少々戸惑い気味の表情を浮かべつつも


「ひどい言われようだな。まあ、俺も入部希望で部室に行ったら番長がいて、

びっくりしたけど。番長は、現視研のれっきとした部員で部長だ。

それに真面目に部活してる。他の部員も真面目に活動してるし、

もちろん不良じゃないし、部自体もちゃんとした活動実績がある。」


 修一が入った現代視覚文化研究部は、不津校、唯一のオタク系の部である。

それ故に賛否はあるだろうが、部としては、極めてまっとうで、

生徒会からきちんと予算を貰って活動している。

あと番長が部長なのは、部の中で一番の古株だから


「確かに、部長が番長じゃ、変な噂が立つのはしゃーないけど……」


すると思い出したように零也が


「そういや、『鋼のスケ番』ってオタク趣味があるって聞いたことあるな」

「さっき、零也君が、アニメとかの研究する部って言ってたけど、

実際はどんなことするわけ」


と言う質問に対して修一は


「まずみんなで集まって、アニメやゲーム、ラノベについて討論して、

後は、イラスト班、ラノベ班、コスプレ班、の三つに分かれて、

それぞれで活動するってところか」

「修一君はどこに入ってるの?」

「俺は、決まってないというか、三つの班は、部活内で自然とできた集まりで、

便利上、班と呼んでるだけで、部の方針で決めてるわけじゃないから、

入部して、班のどれかに入る必要はないんだ。

俺は、それぞれの班の手伝い見たいなことしてるな」


ここで鳳介が


「楽しいか?」

「入って間もないけど、楽しいぜ」


修一は、清々しい顔で、言った。そこからは、嘘偽り、隠し事というものは感じない。まさに本心からの答えである。


「ならいい」

「それと……」


ここで修一は付け加えるように


「部長は、ちょっと怖いところがあるけど、迷惑はしてない。

他の部員も同じだと思う、

むしろ、重宝されてる。なんせあの人、何でもできるから」


そして、心の中で


(喧嘩も強いけど)


と付け加えた。


 その後も、


「そういや、不津校って男子より、女子の方が圧倒的に多いって聞くけど、

どうなんだ?」

「確かに、うちの学校は、女子が多い。つーか俺のクラス、

男子は俺と秋人しかいないし」

「俺のクラスも、俺を含めて二人だけだ」

「そんなにか、うちの学校は、半々くらいなのにな」

「この街の謎の一つだよね。合戸路が、逆に男子が多いって言うのと

同じ感じでさ……」


とこのように雑談は続き、そして最後に、秋人が


「今度の日曜日、修一君の家に行ってもいいかな?」


と言い出した。


「別にいいけど」


と修一が答えると、他の二人も便乗して、日曜日に、

修一の家に集まることが決まった。


「ただし下宿人の事については触れてくれるなよ」


修一は、3人に釘を刺した。


 さて週末の予定が決まったところで、秋人が、心配げな様子で零也に


「そういや零也君、いいの?せっかくの週末なのに、その……彼女さん」


すると零也は、暗い表情で


「誘ったけど、日曜日はメンテだってさ、土曜日はお互い用事があるし、

はぁ~~~~~」


 4人の集まりは、またも零也がらみで妙な空気になるものの、

少しの時間、続いたのち解散した。

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