2「放課後(1)」

 そして、放課後、修一と秋人、更に二人を加えた計4人で、

行きつけのカフェレストラン「interwine」にいた。


 ここで加わった二人の内、一人は煌月こうづき鳳介、

少しぼさっとしたショートの髪型、

冷たい目つきで、クールと言う言葉が似合う外観、体格はガッチリとしている。

二人とは同級生だがクラスは違う。


 もう一人は、天童零也、一応、男性だが、中性的で、人によっては女にも、

男にも見える顔立ち、華奢な体つき、右目には眼帯を付け、

左腕には包帯を巻いているが怪我はしていない。

ただ訳あって、この様な格好をしている。

ちなみに痛々しい妄想を抱いているわけではない。

それと、修一たちとは違う学校、光弓学園に通っている。


 この4人の関係は言うと、修一と秋人は同級生、

零也と鳳介は、高校こそ違うが、中学が同じで友人、

そして秋人と零也は、家が近所の幼馴染、そこから鳳介とも知り合いになり

最後に秋人が、修一に二人の事を紹介するという形で、4人は親しくなった。

ただし、二人と修一は、秋人から紹介された時が初対面ではない。


 interwineで注文した物を食べつつ、雑談をしていたが、

話題は、修一の、能力関係に関するこれからについて、

そして修一が魔法に興味を示したことを、秋人が話すと零也が


「超能力で失敗した俺としては、魔法を勧めるよ」

「失敗って……ああ……」


修一は零也の姿を見ていると、確かに失敗してるような気がした。


「自分で言っておいてなんだけど、納得って反応やめてくれる……」

「すまん……」


何とも言えない微妙な空気が漂いだすが、それを振り払うように鳳介が


「俺としては」


とわざとらしく大きめの声で言い、あとは普通に


「超技能を、勧めたい。つーか、うちの道場に来てほしい」


超技能とは、平たく言えば、漫画、アニメ、対戦格闘で出てくるような超常的な技を持つ武術である。

鳳介は、そんな超技能の使い手であり、彼の家は、その道場であった。



 鳳介は、超技能の使い手であり、彼の家は、その道場であった。

勧められた修一は、片手を左右に振りながら


「悪い、俺、運動苦手だから」

「「「え?」」」


 修一以外の三人が、ほぼ同時に声を上げた。


「本当?体育の時間の修一君、運動神経よさそうだけど」


と驚いた様子を見せる秋人

 

 秋人と対照的に、鳳介は落ち着いた様子で


「意外だな、俺も、お前が運動神経よさそうにみえるから、と言うか、

お前、本当に武術の経験ないのか?」

「前にも言ったけど、俺は未経験者だから」

「それにしても、前に不良に絡まれてた時の、あの動き、

何だかの武術をやってるようにしか」


その言葉に、修一は気まずそうな表情を見せつつも


「あんときは、ありがとな」


と言った。その時、最終的に不良を追い払ったのは、

偶然通りかかった鳳介であった。

一緒に零也もいて、そして、この時が初対面である。


「俺は、武術の事はわからないから、何とも言えないけど、でもお前、

この前パルクールしてたよな」


 零也の指摘に、修一はさらに気まずそうな表情になり、


「人違いだ、絶対、人違い!」


と必死になって否定する。あからさまに何かを誤魔化そうとしているように見える。


 ちなみに、この街では、通勤通学にパルクールを使っている人間は多く、

修行の一環として時々、鳳介も行なっている。ただしパルクールは、

当然運動が得意じゃないと出来ないのは言うまでもなく、

修一がパルクールを行っていたということは、運動が苦手という、

彼の言葉は、おかしいわけで。


「それより……」


強引に話題を変えようとする修一だが、すぐに話題は出てこなくて、困っていると


「有間秋人くん?」


と少女の声、秋人は声の方を向き、修一たちもつられて声の方を向くと

一本三つ編みの髪に、眼鏡と着用し、どこか生真面目そうな少女がいた。

学生服は、下半身がスカートという以外は、零也のとよく似ている

 

 少女を見た秋人が、何かを言おうとする前に零也が


「黒神……」


と言った。修一は


「知り合い?」


と聞くと


「クラスメイトの黒神里美」


すると


「ご紹介ありがとうございます。DZ君」


すると、零也が顔を真っ赤にして


「その呼び方やめろ!」

「わかってますわよ、天童零也くん」


と意地の悪い笑みを見せる。


「あとは、確か煌月鳳介君と、それと初めて見る方ですわね」


 一方、修一は、里美の後ろの方に天海蒼穹がいることに気づいた。

彼女は里美と同じ学生服を着ている。少し離れた位置にいたが、

修一には彼女が里美の連れとして来ているように思えた。


 そして彼女の学生服姿を見るのは初めてだが、

修一はわずかに気まずそうな顔をした。

相手側も同様らしく同じような表情を見せた。

なお修一以外の男子は、里美の方に集中していて、里美も秋人が


「対校戦以来だよね、黒神さん」


と声をかけてきたので、彼の方に視線が移って、

結果二人の表情に誰も気づいていない。


 そして秋人の言葉に対し里美は、真面目そうな表情で


「ええ。それより、その学生服、不津校の。あなた、マギウス学園は?」

「自主退学……」


暗い表情になる秋人


「それで、不津校に、マギウス学園のエースと言われたあなたが、何故?」

「色々あるんだよ」


それ以上、秋人は、里美の質問に答える事はなかった。


 話を聞いていた修一は


(マギウス学園って、駅にデカい看板があった魔法学園か、秋人は、

あそこに通っていたのか、そこを辞めて、不津校か。

しかし何か訳ありっぽいな……)


 気にはなったが、今は、あえて聞かないことした。

ある意味似たような状況を抱えることから来る修一の優しさである。


「もういいでしょ」


と言いながら里美の後方にいた蒼穹が近づいてきた。彼女に気づいた秋人は


「天海さん、お久しぶりです」


と挨拶し、同じく彼女に気づいた鳳介は、


「天海蒼穹か……」


と言って、わずかに身構える動作をした。すると蒼穹は、秋人には


「久しぶり」


鳳介には、戸惑った様子で


「そんなに身構えないで、勝負するわけじゃないんだから」

「すまない、強いやつを見るとつい……」


身構えを解き、わびる鳳介。

 

 そして、ここで、蒼穹と修一の目が合った。

再び、僅かであるが気まずそうな顔をする。

修一も同じような顔をしているが、

皆の注目が蒼穹に集まっているので気づいていない。


「行きましょう。里美……」


最後に、零也に向かって


「それじゃ天童君、また学校で……」


そういって、蒼穹と里美は、その場から離れ、奥の方の離れた席に座った。


 二人が立ち去った後、何も知らないであろうと思った秋人は修一に


「今のが、天海蒼穹さん、ほら学級新聞に載ってた」

「確か、この街の有名人の一人で、街に現れたワイバーンを撃ち落として

子供を救って、ますます有名になった」

「そうそう」

「しっかし、子供を救ったのはいいけど、汚水まみれだもんなぁ」


修一の一言が初耳だったのか、秋人は、きょとんした顔をして


「そんなこと書いてたっけ?」

「言ってなかったけど、実は俺、現場見てるんだ。遠目だったけど、

河川敷で、彼女が撃ち落とすところをさ、それでワイバーンはドブ川に真っ逆さま、

汚水が飛んで、子供はバリアみたいなもんで守られてたけど彼女、もろに被ってた」

「そうだったんだ」


そして修一は心の中で


(俺は、そのとばっちりを受けたんだけどな……)


と思った。修一が蒼穹に既視感があったのはこの所為である。


「ところで、お前ら彼女と親しいのか?」


と修一が尋ねる。

 

 最初に零也が


「俺は、クラスメイトってだけで、そんな親しいわけじゃない」


次に鳳介が


「俺は、話に聞くだけで、彼女とは、ほとんど面識はない。」


最後に秋人が


「親しいというほど、じゃないよ。毎年、対校戦で会うだけだし。」


続けて零也が


「中等部の頃はツートップって呼ばれていたが、木之瀬蘭子が、

そっちに行ったから、高等部は彼女の独壇場だろうけどな」

「えっ、木之瀬って光弓学園にいたのか」


 零也の通う光弓学園も大学こそ併設していないものの、小中高一貫で、

しかも、街でも有名な進学校である。確かに名家のお嬢様で、

文武両道な木之瀬蘭子にぴったりな学校で事実彼女は中学までここに通っていた。


 そして天海蒼穹と二人で、『光弓学園中等部のツートップ』と呼ばれていた。

なお二人の内どちらが有名かと言えば、蘭子の方が上である


「木之瀬って絵にかいたような優等生だろ。入試もトップ合格だったらしいし、

その上お嬢様。何でうちの学校に」

「さあな、俺は高等部からの中途入学だから、

中等部で何があったかは知らないんだ」

「確かに謎だよね、入試の時に見かけて、びっくりしたよ」


すると零也が、秋人に、何か言いたげな顔をしたが、この時は何も言わなかった。


 一方、鳳介は神妙な面持ちをしていた。その様子を見て


「鳳介、どうかしたのか?」


修一が聞くと


「別に何も……」


と答えるだけだった。

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