第48話〜帰り道〜

 ギリギリまで時間を掛けて粘り、渋々応接室から出てエントランスに戻ると、あのDQN冒険者達は居なくなっていた。

 俺の粘りが勝った……のか? でもあんなにブチ切れていた奴がこんなあっさり引き下がるかね?

 脈絡が無さ過ぎて不穏に感じる。裏で何か良からぬ事とか考えてないよなあいつ。


「居なくなってるね」

「騒ぎ過ぎて周りから締め出されたとかかしら?」

「それにしては皆さん静かですね。いつもならあの人達と一緒にニヤニヤして見てくるのに」


 三人娘も同じように疑問に思ってるらしい。あと、君達普段は結構酷い扱いだったのね。

 まあ何も無いならそれに越した事は無い。俺達は問題無くギルドから出る事が出来た。

 報告で少し時間が経ったからか、外はだいぶ暗くなって来ている。そろそろ戻ってマリアベル召喚しないとな。


「シロちゃん、クロウ、今日はありがとうね」


 ふと、シャロンから礼を言われた。


「二人が来てくれなかったら、きっとオークから逃げられなかったと思う。それにギルドでも味方してくれて、報告の協力もしてくれて、今日だけで二人には本当に助けられたと思う。だから、ありがとう」


 シャロンがそう言うと、リーリエは頭を下げ、アルマは頷く。何というか、ちょっと照れ臭い。


「どういたしまして」

「まあ、助かって良かったですね」

「うん! 本当なら、御礼にご飯でも奢ろうと思うんだけど……」

「こら、あんたは先ずその腕を治しなさい。まだ痛むんでしょ?」

「あ、あはは……実はちょっと……」


 そう言って左腕を押さえる。その箇所は腫れていて、如何にも怪我したような感じだった。


「あぁ〜、じゃあその辺は腕が治ってからって事で」


 俺としては情報さえ黙っていてくれれば別に良いんだけど、当人達がやる気だから黙っておく。別に他人に奢られるのは嫌じゃ無いし。


「うん。と言っても、ポーション買って飲めば明日には治るんだけどね」

「儲けはだいぶ減っちゃうけど、背に腹は変えられないしね」

「そうですね」


 ライフポーションの即効性は凄まじいからな。振り掛けるだけでメタルナイトがみるみる回復してったし。無機物の体が元通りになってたんだけど、あれってどういう原理なんだろうな?

 何となく気になったけど、難しく考えても俺の頭じゃ分からないだろうから諦める。そういうもんだと思っといた方が精神衛生上安全なんだよな。


「じゃあ、私達は行くね」

「ありがとうございました」

「またね」

「ばいばーい」


 三人が去って行くのを手を振って見送る。シロが手を振っていたので、一応俺も小さく振っておいた。


「……じゃあ、帰るか」

「うん」


 シロと一緒に屋敷に帰る。屋敷は一等地にあるから、ギルドからはちょっと距離があるのが難点だな。その分暮らし易くはあるんだけど。


「それにしても、今日も色々とあったな」


 ただのレベル上げ兼金稼ぎの筈が、ちょっとした人助けのついでにオークジェネラルとの接戦をする羽目になってしまった。他にも性格の悪いDQNを目にしたり、スキルバレしないように小細工したり。本当、何でもっと普通に終わらないかね?


「楽しかったね」

「……あぁ〜、うん、そうね」


 ブロンズランクを瞬殺する聖騎士を圧倒するシロさんにとってはこの程度楽しいの範疇はんちゅうだったらしい。流石は神様、スケールが違う。


「あれ? 何か呆れられた気がする」

「気のせいだ」


 一瞬心を読まれたかと思って内心びっくりしたよ全く。そのまま気のせいという事にしといて下さい。


「というか、シロ的にはあれは楽しかった訳?」

「ん?」

「ほら、今日のシロって殆ど俺と一緒に居ただけだったじゃん? もっとあれしたかったとかあったんじゃないかと思ってさ」


 一緒に居るだけで楽しいという言葉にも限度はあるだろう。オークジェネラルの時とか三人娘との会話とかで色々と助けられたけど、シロ的にはもっとやりたい事とかあったんじゃないだろうかと、ふと思ってしまった。


「んー、特にそんな事は無いかな」

「無いの?」

「うん。クロウと一緒に森を歩けたし、大変な時には役に立てたし、それに、その……くっついたりとかも出来ちゃったし」


 ……多分オークジェネラルに襲われた際の事を言ってるんだろうけど、それをまるでデートで腕組んだみたいに言われてしまうと微妙な感じになる。あれってそういう雰囲気じゃ無かったし。


「まあ、シロが良かったんなら俺も良かったよ」


 次はもっと正当な形で喜ばせてあげよう。そう心に誓った瞬間だった。




 暗くなったものの、太陽が完全に沈む前に屋敷に戻る事が出来た。


「さてと……」


 魔導書を起動してマリアベルを召喚する。結構時間掛かっちゃったけど、怒ってないと良いなぁ。


「お帰りなさいませ、御主人様、シロ様」

「あぁ、うん」

「ただいま」


 正確には一緒に帰って来たからお出迎えとはちょっと違う気がするけど、言わないでおこう。


「時間が押しているようですので直ちに準備を始めます」

「おう、お願い」


 マリアベルは一礼して、先に家に入っていった。俺もそれに続く。

 色々あったけど、取り敢えず今日も無事に帰って来られたようで、良かった良かった。

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