第46話〜報告〜
「お待たせしました!」
冒険者ギルドにある応接室にあたる部屋で待つ事暫く。受付嬢のリエルが紙束を手に入って来た。
「思ったより遅かったわね。表の騒ぎを収めるのに時間掛かった?」
「あはは……先輩が代わってくれなければもっと掛かってたかもしれません」
そこまで騒いでたのかよあのDQN《ケビン》。もうちょっと周りの迷惑とか考えろよ。そして俺にも関わらないで欲しい。めっちゃウザそうだし。
「それより、報告を聞かせて下さい」
「そうね。シャロン、私が代わりにするけど良いわね?」
「うん。お願い」
アルマの言葉にシャロンは即時了承する。
「先ず結果だけ言わせて貰うけど、オークの生息地に集落が出来ているのは間違い無いみたい」
「じゃあ、オークの集落を見つけたんですか?」
「いいえ、そこまでは行けなかったわ。その代わり、これを見てちょうだい」
コトン、とピンポン球サイズの石を置く。
「これは……魔石、ですか? 大きいですね」
「ええ。オークジェネラルの魔石よ」
「えっ!? それって、本当ですか?」
内緒話でも無いのに若干声を潜めるリエル。
「本物よ。何なら鑑定して来てちょうだい」
「分かりました。ちょっと失礼します」
リエルが一度魔石を持って部屋を出て行き、数分後に緊張した面持ちで戻って来る。
「おかえり、どうだった?」
「はい。確かにオークジェネラルの魔石でした」
リエルがそう言うとシャロンがホッと息を吐く。君、もしかして疑ってた?
「じゃあ依頼は完了って事で良いのね?」
「はい。ただ集落の位置情報が無いので、報酬を満額でとは行かないですね」
「……それはしょうがないわね。それで、どのくらいになるの?」
「幸い集落が出来ている証拠と規模がある程度分かるので、二割引くらいですね」
アルマが後ろの二人を見ると、二人共頷く。
「分かったわ。それでお願い」
「はい。それじゃあこちらが報酬の銀貨二枚と銅貨五十枚に、オークジェネラルの魔石の売却額の銅貨八十枚になります」
ジャリンと音を立てて中身の詰まった袋が置かれ、アルマがそれを受け取る。これで依頼完了か。依頼受けた事が無いから初めて見た。
「それにしても、皆さんもうオークジェネラルを討伐出来るようになったんですか。これならシルバーランクも近いですね」
「あぁ〜、それなんだけどね。実はそれ、私達が倒した訳じゃ無いのよ」
「えっ? そうなんですか? もしかして……」
リエルの視線が俺達に向かう。
「ううん。私達は偶々居合わせただけなの」
「そうなんですか?」
「ええ。私達がオークジェネラルを見つけた時には、既に死んでいたのよ。この二人はその証人よ」
「そうなんですか。えぇっと、確かお二人はクロウさんとシロさんでしたね」
「はい」
「うん」
昨日受付しただけなのにもう名前覚えてる事にちょっとビックリした。毎日何十人も冒険者の相手をしている筈なのに、良く覚えられたもんだな。シロは兎も角、俺なんて特に印象に残らないだろうに。
「という事はお二人はウッドランクでしたよね。そんな危険な場所に居たんですか?」
「そんなに奥には入って無いよ。事前に地図とかで調べて、安全そうな場所を選んだしね」
「じゃあ、どうやって見つけたんですか?」
「見つけたっていうか、ローグライから出て直ぐ近くの森を歩いてたら、血塗れのおっきなオークが倒れてたんだよ。それで死んでるのか確認してたら三人が来たんだ」
それを聞いたリエルがアルマの方を見ると、アルマも頷いて肯定した。
「二人の言っている通りよ。私達は二人に頼んで、証人と魔石の提出に協力して貰ったの」
「そうだったんですか。皆さんなら大丈夫だと思いますけど、報酬の分配には気を付けてくださいね?」
「大丈夫よ。それについては事前に決めてあるわ」
「そうでしたか。では、他に報告が無ければこれで終わりですけど、何かありますか?」
リエルがそう言うと、シロが手を上げた。
「念のため聞きたいんだけど、さっきの騒ぎについてはギルドは何もしないの?」
そう言うとリエルは困ったように笑顔を作る。
「はい。ギルド内で暴れるようであれば仲裁に入る事はありますけど、ギルドはあくまで互助会ですので、冒険者同士の
「人死にが出るかもしれないのに?」
「そうですね。一般の人やローグライに被害を出した場合はその限りじゃ無いですけど、基本的に冒険者同士の事は当人達で解決するようになってるんです」
あくまで仕事を
「そっか、分かったよ」
「すいません。私はギルドマスターに報告しますので、これで失礼しますね。お疲れ様でした」
リエルが応接室を出て行くと、場の空気が
「ハァ〜、バレなくて良かったぁ」
「緊張し過ぎよ。あんた何もして無いじゃない」
「殆どアルマに任せっきりでしたね」
この場で喋ってたのリエルとシロとアルマだけだったからな。俺も喋って無いし。
「兎に角、これで依頼をクリア出来たわ、ありがとう。これが約束のオークジェネラルの魔石の分ね」
「はい」
アルマから魔石の売却額分のお金を貰う。これは事前に取り決めていた事だ。
俺はオークジェネラルを倒した事をまだ知られたく無い。ウッドランクでシルバーランク相当の魔物を倒したなんて知れたら目立ってしょうがないからな。
しかし此処で三人娘に協力しないというのも違う気がする。だから妥協点として三人に協力して、口裏を合わせて貰った。魔石分の利益と、オークジェネラル関係を含む俺とシロに関する全ての情報の口止めを条件に。
三人共(特にアルマが)訝しげだったけど、それで依頼分の報酬が手に入るのであればと了承してくれた。まあその結果、いつも報告を担当しているシャロンが隠し事が苦手という理由で、急遽アルマが報告するという事になったけどな。
まあそれ以外特に怪しい点は無いと思うから、多分バレる事は無いだろう。戦闘場所がローグライ近辺なのは事実だし、死体は無いけど血痕は残ってるから大丈夫な筈だ。
……所で、何で横の二人はビックリした表情でアルマを見てるんかね?
「アルマが男の人に普通に御礼を言った……!」
「珍しいですね。普段なら
という事らしい。それを聞いたアルマのこめかみがヒクつく。
「あのね、幾ら私でも此処までして貰って何も言わない程恩知らずじゃ無いわよ。そりゃあ
あぁ〜なるほどね。確かに初対面の時に俺の事を兎に角警戒していた気はするけど、それは状況的に怪しいからじゃ無くて、普段からそんな感じだった訳ね。
まあ人間そんな簡単に人を信じられる訳じゃ無いだろうから別に良いんだけどね。俺だって無理だし。
「それじゃあ、報告が終わったから、これで解散って事になるの?」
「うん。もうギルドでやらなきゃ行けないことは無いし、後はもう帰るだけ……」
シャロンがそこまで口にした段階で、全員がさっき入り口で騒いでいたDQN《ケビン》の存在を思い出した。無理矢理こっちに逃げて来てしまったけど、言ってしまえば出口塞がれたようなものなんだよな。
……どうしよう、暫く此処に留まったら諦めて帰ってくれないかね?
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