第45話〜障害は踏み越えるもの〜
城門は何の問題も無く通過出来た。まあ行きと帰りで別の冒険者グループと合流した以外特に変わりは無いんだから当たり前なんだけど。
「取り敢えず、戻って来れたな」
「うん」
途中でピンチの冒険者を助ける事になったり、その流れでオークジェネラルと戦う事になったりしたけど、少なくとも俺とシロは無事に戻る事が出来た。
レベルも上がって、オークも結構倒して資金源と食肉を確保出来たから、一応は成功と見て良いだろう。
「……んで、今から冒険者ギルドに行くんですかね?」
「当たり前でしょ。じゃないと依頼の報告も素材の買取も出来ないじゃない。寧ろ今からどこに行こうとしてたのよ?」
「はっはっはっ……」
いや、何かもう疲れてきちゃったから、今日はもう家に帰って、明日余ったオークの素材を売っぱらえば良いやって思ってた。マリアベルも召喚したいし。
俺の場合は依頼も受けて無いし、素材も魔導書に仕舞ってるから品質の劣化も気にしなくて良いからの発想なんだけど、確かにそれらの無い一般の冒険者はその日の内に済ませないといけないんだよな。つくづく俺のスキルは異常だって分かる。
という訳で冒険者ギルドへと向かった。シャロンの怪我の治療はしなくて良いのかとも思ったけど、三人共何の疑問も無く冒険者ギルドへと向かうと言っていたから、俺から口を出す事でも無いだろう。
ギルドに入ると、待ってましたと言わんばかりに男の冒険者達が絡んで来た。
「ようお前等、良く無事に帰って来られたな。依頼もすっぽかして逃げ帰って来たんじゃねえの?」
「ケビン……!」
あからさまに見下した態度に下卑た笑い。アルマの忌々しそうな声。初見の俺ですら三人娘の言ってた冒険者がこいつ等だと思える。
近くに居るリーリエに視線を向けると、案の定頷かれた。
「ん? おいおい、しかもそいつ怪我してんじゃねえか! だから女じゃ無理だって言ったのによぉ!」
「ッ!」
沸点を超えたアルマがケビンと呼んだ冒険者の胸倉を掴む。
「あんたが仕組んだんじゃない! 魔物の餌の中身をなすり付けて、オークに簡単に見つかるように仕向けて!」
「言い掛かりは止めろよな。そんなに言うなら使われた魔物の餌を見せてくれよ」
「ッ!?」
そんな物ある訳無い。使った魔物の餌は向こうが持っていた物だ。そんな分かり易い証拠を態々残す必要は無い。恐らく既に処分されているだろう。
つまり彼女達に、今の推論を証明する物的証拠は無い。
「おらっ、どうした。見せてみろよ。どうせ無いのに疑ったんだろうけどな!」
そういうケビンの口がニヤついているのを見ると、多分無いの分かってて言ってるんだろうな。処分したのを知ってるから。
アルマは眼力で殺さそうなくらいの憎しみの目を向け、歯を食いしばりながらケビンを突き飛ばして受付の方に歩いて行った。他の二人もそれに追従し、ケビンはそれを尻餅をついた状態でニヤニヤしながら見送る。
そして、その一部始終を見ていた俺はというと……何というか、あからさま過ぎて呆れていた。そんな態度取ってたら自分がやってますって公言してるようなものだろうに。仮に違かったとしても……いや、仮に違かったらそんな態度取らないから、もう確定で良いのかもしれない。
ただそれを知った上で言わせて貰えるのであれば、そんなあからさまに悪い事しましたと言っているような奴が、勝ち誇ってるのは何かムカつくな。何というか、ちょっとケチを付けたくなる。
「……クロウ?」
動かない俺を心配してか、シロが俺の手を取って覗き込んで来る。俺はそれに笑顔で答えると、シロの手を握り先に行った三人娘の後を追う。────その途中、尻餅をついて足を伸ばしていた野郎の無防備な足、その靴から露出している
「いってえぇっ!!」
今日は依頼を受けるつもりは無かったからか、武器は持っていても防具は軽装だったのが仇となったな。お陰で踏ん付けただけで結構な痛みを味合わせる事が出来た。それだけ痛がってくれると、足を退ける前にグリッと力を込めて捻った甲斐があったというものだ。
「おっとごめんよ〜」
思ってもいない棒読みの謝罪だけして通り過ぎる。態とらしさマックスだけど、向こうも同じくらい態とらしかったから別に良いだろう。
「クソッ、待ちやがれ!」
後ろで何か騒がしくなってるけど無視する。だって面倒な事になるの分かり切ってるし、そんな面倒な野郎の相手なんてしてられるかよ、断固御免被るね。
先に行ってた三人娘に追い付くと、三人共唖然としながらこっちを見ていた。
「どうしました? さっさと報告済ませるんじゃありませんでしたか?」
「……プッ、アハハハ! そうね。さっさと報告しないとね」
盛大に笑って、アルマが一足先に受付に向かう。他の二人も表情が明るくなった。隣のシロもニコニコである。
完全に自己満足でやった事だけど、此処まで雰囲気が好転するとは思わなかったな。
「ちょっと良い?」
「はい、アルマさん。お疲れ様です。依頼の件ですか?」
「ええ。その事で報告したいんだけど、奥の部屋を使わせてくれる? 此処だと色々と騒ぎになりそうだから」
そう言ってアルマはチラリと後ろの方を見る。そこでは憤怒の表情をしたケビンがこっちに向かって来ていた。
足を痛めているからシャロンより歩みは遅いけど、追い付かれたら報告どころじゃ無いだろうな。
「分かりました。先に向かっていて下さい。準備が出来たら私も行きますので」
「分かったわ。ありがとう」
「おいっ! 待ちやがれテメェ等!」
怒鳴る後方を華麗に無視して受付の横にある通路へと向かって行く。あれ? 俺達って一緒に行って良いの? 此処に残されると俺が後ろの奴の相手しなきゃならなくなるんだけど。いや、自業自得だから何もおかしくは無いんだけどさ。
「ほら、行こっ」
「え? あ、うん」
三人娘では無くシロに言われて三人の後をついて行く。三人も何も言って来ないから、一応良いと見て良いのかね?
……あと、通路に入っても怒号が聞こえて来るけど、周りの迷惑とか考えないのかね?
「クロウ、お疲れ様」
「え?」
突然シロから労いの言葉を貰った。一体何に対して言ってるか分からないからどう反応すれば良いか分からない。さっきの事で良いんだよね?
「あはは! 凄かったねぇあれ。ケビンってば足抱えて転がってたもん!」
「人の不幸を笑ってはいけないのは分かってるんですけどね」
「良いのよあんな奴、普段から碌な事して無いんだから。バチが当たったのよ」
三人娘も総じて好意的だった。まあ三人は被害に遭ってた側だからな。加害者が痛い目に遭ったのは胸がすく思いだったんだろう。
「えーっと、ところで、俺達って一緒に来て良かった感じですか?」
今更戻されても困るんだけど、依頼を受けていない俺達が一緒に行動してても良いのだろうか。
「それなんだけどね、実はお願いがあるのよ」
「……何ですか?」
あまり無茶な内容だったら例え美女のお願いでも断るつもりではあるけど。
「あの時倒したオークジェネラル、貴方が回収してたわよね」
「ええ、まあ」
「じゃあそれを報告に使いたいんだけど、良いかしら」
つまり、俺の回収したオークジェネラルを使って、オークが集落を作っている事を証明しようとしているのか。
「証明になるんですか?」
「えぇ。情報によると、オークが集落を作る場合、その
なるほど、実際に集落を見つける事が出来なくても、集落の存在と規模をある程度知る事が出来るのか。
「そうなんですか」
「ええ。最悪オークジェネラルだと分かる部位だけでも切り取ってくれれば、それで証明出来る筈よ」
「うーん……」
正直言って、そのお願いを聞く事自体は
実を言うと、冒険者として活動する以上、ある程度の能力の露呈は避けられないとはレベル上げ中に考えていた。ある程度纏まった金を稼ぐには相応の量の魔物を一度の探索で倒す必要がある以上、どうしても一度に大量の魔物をギルドに提出する必要が出て来るからな。
だから一度誤魔化すための対策を取ってから行動したかったんだけど、まさかその日の内にそんな選択を迫られる事になろうとは。
どうしよう。此処で見捨てるつもりは無いんだけど、だからってギルド職員の眼前でスキルを披露するのはなぁ。
「クロウ」
「ん?」
悩んでいると、シロが耳元でアイディアをくれる。
「──────」
「……あぁ〜」
なるほど、それなら誤魔化しが効くから良いかもしれない。少なくともその場凌ぎにはなるか。
「分かりました。条件さえ飲んでくれれば良いですよ」
「条件?」
問題は条件を飲んでくれるかなんだけど、まあ無理難題を吹っかける訳じゃ無いから大丈夫だろう。
だからちょっと身を引いて体を庇う仕草をするの止めなさい。そういうんじゃ無いから。
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