第42話〜ケダモノの声〜
さっきからずっと移動を続けているけど、一向に止まる気配が無い。怪我の影響で足の遅い
だというのに、落ち着けそうな場所に出る気配は無い。安全な場所にはまだ着かないんだろうか?
「…………」
いや、流石に長過ぎやしないだろうか。
確かに魔の森は広大だ。縮尺がどの程度か分からない地図でも東京ドーム何個分とかそういうレベルじゃ無く、恐らく魔の森の範囲だけでそれなりの爵位の貴族の領地を賄えるくらいには広いだろう。
とはいえだ。俺達はオークの生息域に入ってからそれ程奥には入っていない。もう既によりランクの低い魔物の生息域に入ってもおかしくは無い筈だ。
なのにまだ移動中? それは流石におかしく無いか? まさかとは思うけど、何か良からぬ事でも考えてるんじゃないだろうな。
どうする? 聞くべきか? でも
「ところでなんだけど、さっき言ってた安全な場所ってどの辺なのかな?」
そう思っていると、シロが俺の疑問に思っていた事をそのまま聞いてくれた。何か以心伝心みたいで嬉しくも感じるけど……心とか読まれて無いよね? 移動中にシロや三人娘の事をチラチラと見てちょっとばかりムッツリしてた事とかバレてたら恥ずかしいんだけど。
「あれ? そういえば、もう安全な所に来ててもおかしく無いんじゃない?」
シャロンがそう言ってアルマを見ると、彼女も頷いて答える。三人中二人が想定外なら、陰謀の線は消えるか。何だ、ただの考え過ぎか。
「そうね。本来ならもう開けた場所に出てもおかしく無いのに、まだ着く様子は無いわ。リーリエ、どういう事?」
先頭を歩いていた
「さっき予定していた休憩場所へは向かってません。今はローグライに向かっています」
「……何かあったの?」
リーリエの強張った声に只ならぬ気配を感じたアルマが確認する。
「……何者かにずっと、後をつけられているような気がするんです」
その言葉にこの場に居る全員に緊張が走り、警戒から足が止まる。いや、シロだけは笑顔を引っ込めただけだった。特に緊張している様子は無い。まあ神様だしな。特に気を張るような事でも無いんだろう。
それにしても、尾行か……
「……例の冒険者とかですか?」
「だったらローグライを出た時からつけられてるか、先で待ち伏せてるわよ。そうじゃ無いから、急に進路変更したんでしょ?」
「はい。気付いたのはさっき移動し始めてからです」
となるとついさっきか。偶然見つけて追跡……ってのは考え難いな。
「確かに居るね。シャドウアサシンの警戒網の外側に」
「え、分かるの?」
「うん。気配は消してるけど、魔力までは消せて無いからね。探知するのは簡単だよ」
それ魔力が感知出来ないと無理だから簡単では無くね? 少なくとも俺には無理だ。魔力も気配もさっぱりだしな。魔導書とか如何にも魔法っぽいのに、魔力関係はエフェクトとしてしか見えないしな。
っと、そんな事を考えてる場合じゃ無いな。
「場所は?」
「進行方向から見て此処から右斜め後方と左方向にそれぞれ一体ずつ。シャドウアサシンなら不意を突けばいけるよ」
「オッケー」
とは言え今居るシャドウアサシン達を動かすのは危険なので、傍に侍っていたメタルナイトを一度カード化して、新たに二体のシャドウアサシンを追加。それぞれシロの言った方向に探索を命じる。
シャドウアサシン達は影の中に消える。色の濃い影が指定した方向に向かって行き、そして数秒後、豚の悲鳴が響いた。どうやらやったらしい。
「何、今の」
「このままずっと付き纏われてると色々面倒そうなんで、始末させました」
草むらからシャドウアサシンが獲物を引きずって戻って来る。その獲物、俺達をつけていたのは、さっきまで戦っていたのよりも細身のオークだった。
「オーク? にしてはガリガリだな。栄養失調か?」
「いや、これはオークスカウトだよ」
「スカウト? ってどんな意味?」
「斥候職って意味だよ。つまりは偵察用の個体だね」
「という事は、俺達を付け狙ってたのは────」
────ブゴォォォォォォォォォォォ!!!
遠くから聞こえる、尋常ならざる雄叫び。人間では無い、獣というよりはケダモノと表現した方がしっくり来るような、金切り声にも似た叫び。
「今のって……」
「多分このオークスカウトとかを統率してた個体だね。少し急がないとマズいかも」
おいおい嘘だろ? 今日ローグライでの冒険者活動初日だよ? 何でこんな変な状況になるんだよ。 呪われてんの俺?
「じゃあちょっとペース上げるか」
オークスカウトの死体をカード化して仕舞う。もう人前だとか言ってられない。急がないともっと面倒な事になりそうだし。
「オークが……!?」
「今のは一体……!」
「そんな事より早く行くっ、タラタラしてたら追い付かれるだろ」
詳細を聞きたそうな三人娘を急かして移動を再開する。本当に、どうしてこうなったし……。
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