第40話〜救助(命じただけ)〜

 シロに連れられて向かった先、戦場から少し離れた戦況を見れる位置で草むらに隠れて様子を伺う。此処まで来れば俺にも戦闘の音が聞こえて来た。人の声、魔物の雄叫び、断末魔。シロはあの距離から既に聞こえてたのか。凄えな。


「あれか」

「うん」


 草むらから覗いた先には、三人の女性がオーク相手に戦っていた。

 一人目は焦げ茶色の髪をした短髪の女性。年齢は俺と大して変わらない感じだから、もしかしたら少女と呼称した方が良いかもしれない。なのにその手に持ってるのは鉄製の両手剣。へっぴり腰だった俺とはえらい差だ。

 二人目は弓を構えた金髪の小柄な少女。その細い腕からは信じられないくらい綺麗な動作で短弓を引き、真っ直ぐに矢を飛ばしているが、オークには刺さりはしてもあまり聞いてはいなさそうだ。それでも血が出てるから痛そうではあるんだけど。

 三人目は垂れたケモ耳が特徴の赤い髪の剣士。尻尾がフサフサだから犬系の獣人だろうか。剣というよりはナイフ……多分鉈のような物を持って走り回って遊撃している。

 対してオークは三体。他にも四、五体死んでいるから、全部で八体前後相手にしていた事になる。


「大丈夫そうな気がするけど」


 苦戦はしているみたいだけど、あれだけ削れてるんなら時間があれば倒し切れるような気がする。態々援護に来る必要は無かったんじゃ?


「ううん。あそこを見て」


 そう言われて示された方を見ると、そこから新たに二体オークが追加された。


「うわぁ……」

「多分周囲からオークが集まって来てるんだと思う。だから倒し切れないでいるんだよ」


 次から次へとエンドレスでオークが追加されてる訳か。そりゃあ時間があっても倒し切れないわな。寧ろ時間を掛けるだけ不利になる。


「というか、もうヤバくね?」

「うん。あ、戦線が崩壊した」


 戦士の娘こが攻撃を食らって倒れてしまった事で、戦線を維持出来なくなってしまった。獣人の娘だけでは支え切れず、弓の少女の攻撃では牽制にもならない。完全に詰んでいた。


「じゃあ助けますか」


 と言っても直接助けるのは俺じゃ無いんだけどね。シャドウアサシンに命じて、オークを倒しに行って貰う。

 シャドウアサシン三体が森の木陰を伝ってあっという間にオークに接近。戦士の娘を庇おうとした弓の少女に向けて棍棒を振り被ったオークの無防備な首を攻撃した。


「グッ、ブッ……!?」


 全くの無警戒な背後からの強襲。しかもアサシンの名を冠するシャドウは一撃でオークの命を絶った。更に別の場所に居たオーク二体も、それぞれシャドウアサシン達が暗殺する。

 そうなれば戦力比三対二。後はシャドウに任せても大丈夫そうだな。


「そろそろ行くか」

「うん」


 シロとメタルナイトを連れ立って三人の下へ向かう。……どうでも良いけど此処までずっと俺達に合わせて身を屈めて小さくなってたメタルナイトがコミカルでちょっと笑える。

 最初、シャドウアサシンがオークを襲っている事に困惑していたケモ耳の女性だったが、俺達が出て来ると背後のメタルナイトを見て関係があると判断したのか、警戒しながらも露骨な敵意は向けて来なかった。……いや、気配とかは分からないから何となくだけど。


「あぁ〜、えーっと……大丈夫ですか?」


 あかん。此処に来てコミュ障が発動した。気の利いた言葉が思い付かない。


「あ、うん。一応は。その魔物はあんた達の?」

「はい。俺の配下です」


 話している内にオークの討伐が終わったらしく、シャドウアサシン達が俺の傍に戻って来る。この状態だと数で威圧しているように見えそうなので、二体を俺の影に潜らせ、残る一体を周囲の警戒に出す。

 そして倒れている戦士の娘を見る。左腕をやられたようでそこを押さえているが、意識はあるし、歩く事も出来そうだ。……大丈夫だよな?


「そっちの子は大丈夫?」


 俺の代わりにシロが聞いてくれた。


「心配してくれてありがとう。腕は痛いけど、死にはしないだろうから、大丈夫」


 左腕を庇いながら当人が答える。オークの巨漢並みの膂力から繰り出された一撃を受けてそれで済んだのは寧ろ幸運なのではと思う。下手すりゃ胴体にもダメージ受けて暫く歩けなくなってもおかしく無いだろうからな。


「そう? なら今の内に場所を移した方が良いかもね。あまり安全とは言えなさそうだし」


 この辺にはどういう訳かオークが集まって来ているみたいだし、オークを倒して血の匂いも漂っているだろう。次の魔物が接近して来るのも時間の問題だろうな。


「……そうね。先ずは安全な場所に移動しましょう。少し戻れば魔物も弱くなるから、詳しい話はそこで」


 そう言うと獣人の女性は弓の少女に先導を任せ、戦士の娘を補助して移動を開始する。俺達もそれについて行く訳だけど……オークの死体、ちょっと勿体無いんだよね。

 という訳で、三人がこっちを見ていない隙にオークの死体を全部カード化して回収。一々触る必要が無いのが楽で良いよな。お陰で一度に転がってた死体全部回収出来た。


「クロウ。行こっ」

「おう」


 先に行った三人の後を追って移動を開始する。最低でも俺に関する情報の口止めだけでも出来ると良いんだけどな。

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