第39話〜オーク大量〜

 それからおよそ三十分。俺の魔導書の中には既に二十体以上のオークの死体が収められていた。これだけあれば当分肉には困らないな。

 それにしても……、


「何か、多くね?」


 まだこの辺に来てそんなに経ってないのに立て続けにオークと遭遇している。お陰でオークは一杯手に入ったけど、何か徐々に数が増えて来て不安になる。さっきなんて五体同時に出て来たからな。流石にヒヤッとした。レベルが上がって無かったら危なかったかもしれないな。


  クロウ アカツキ

 職業:冒険者 Lv:16


 さっきの戦闘の前にレベルが三つ上がって十五になった事で、新たにノーマルカードモンスターが一体召喚可能になっていた。なので盾役のシャドウナイトを追加して何とか耐え抜く事が出来た。

 でもこれ以上増えたら厳しいかもしれない。それこそマリアベルの出番になるかもな。


「この数、普通じゃないね」

「やっぱり?」

「うん。多分近くに集落を作ってる可能性があるね」

「やっぱりか」


 何となくそうなんじゃないかとは思ってたけど、まさかの初日でそんな事態に出会すとはな。


「じゃああまり奥に行くのも危険だな。ちょっと移動して、アイアンランクエリアとの境目辺りを行くか」

「うーん、そうだね……」


 賛同しつつも、どこか思案顔なシロ。


「どうかした?」

「うん、もし本当に集落を作ってるんだとしたら、この辺一帯はもうオークばっかりだと思うんだよね」

「まあそうだろうな」


 実際今もオーク三体とモンスター達が戦ってくれているし。結構な頻度でエンカウントしているから、それなりに数が多いんじゃないかね、知らんけど。


「そうなると、いつオーク達が私達を嗅ぎ付けて来てもおかしく無いんだよね」

「あぁ〜」


 つまり集落から大量のオークが俺達目掛けてやって来るかもしれないと。それは確かに危険だな。流石に今の戦力では物量には歯が立たないからな。


「あ、勿論いざとなったら私が全部やっつけるけどね!」


 自分は何もしないと思っていると思われたのか、シロが慌てて捕捉してくれる。確かにシロならオークが何体来ようが瞬殺出来そうだけど、これは俺がやりたい事だし、ただでさえ付き合って貰ってるのにそこまでして貰ったら流石に申し訳ない。

 であればそんな事態にならないに越した事は無いな。勿論いざという時は頼る事に否は無いけど。


「それにね、もしかしたらこの情報をギルドに報告すれば、ギルドから報奨金が出るかもしれないよ」

「え、マジで?」

「多分だけどね。ギルドにオークの集落に関する話は無かったから、貰えると思うよ」


 なるほど。それなら今から戻ってギルドに報告するのも有りか。レベル上げは出来なくなるけど、それは安全であってこそだし。


「じゃあ戻るか」

「うん」


 そう決めて元来た道を戻る。此処からなら一時間も掛からない内にローグライに戻れるだろう。

 そう思っていた時だった。


「──待って」


 シロに言われて足を止める。シロはほんの少の間だけ耳を澄ますと、少し真面目な顔になった。


「……この先に誰か居る」

「誰か?」

「うん。多分戦ってる」


 戦闘中か……。


「どうすれば良い?」

「本来ならクロウのスキルもあるから関わらないように迂回するべきだと思うけど、多分苦戦してるみたい。放っておいたらやられると思う」

「そうか……」


 つまり今近くに居る俺達が助けなければ、その人達は死ぬ訳だ。出来るのであれば助かるのも有りかと思うけど、シロが何か消極的なのが気になる。


「何かデメリットがあったりする? 敵が強くて俺だと危険とか」

「ううん。多分クロウのモンスター達なら問題無いよ。でもクロウ、スキルの事あまり知られたく無さそうだったから……」

「あぁそっちね」


 確かに俺のスキルは色々と使い勝手が良い。モンスターを召喚して戦わせられるし、倒したモンスターをカード化して全て回収出来る。更には事前に食べ物なんかをカード化しておけば最悪手ぶらでの長距離移動が可能だ。今の所限界は訪れていないから、恐らく相当量の物を仕舞えるだろう。

 バレれば確実に面倒な事になるだろう。冒険者のパーティーに誘われるならまだしも、貴族とかに目を付けられたらどんな目に遭うか……あまり良い印象は浮かばないな。

 そして万が一王都に情報が広まれば、王族が動かないとも限らない。何せ戦闘能力を備えたとんでもレベルの荷物持ちだ。思い付くだけでも二パターンの悪用方が思い付く。

 そういう諸々を考えて、シロは助けない選択肢も考えてくれていたんだろう。本当に頭が下がる思いだ。

 俺は感謝の意を込めてシロの頭を撫でる。


「そうだな。確かにそうだ。俺は出来ればこのスキルを知られたく無いし、それによって起こる面倒事が嫌だ。でも、助けられるのに助けないのもアレだからな」

「……良いの?」

「まあ最悪命の恩人として黙っててって頼めば断れないだろ」

「もしバラしたら?」

「そん時は今後何があっても助けないよ。恩知らずに売る恩は無いからな」


 俺だって聖人じゃ無い。悪口を言われたら怒るし、恩を仇で返されたら恨みもする。でも会う前からあぁだこうだ言うのも違う気がするんだよな。知らない人が恩知らずかどうかなんて分からないし。


「という訳で、取り敢えず助けて見よう。その後の事はその時に考えるわ」

「そっか……うん、分かった。じゃあ行こっ」

「おう」


 シロと一緒に人が戦っているという方へと向かう。出来れば恩を感じてくれる人だと良いんだけどな。

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