第38話〜魔の森探索〜

 という訳で魔の森に探索に行くメンバーだけど、防御の要であるメタルナイトと最早お馴染みになったシャドウアサシンの他に、新たに一体追加してみた。

 その名もバンデッドウルフ。そう、以前聖騎士のあいつ相手に初召喚した瞬間、無謀に突っ込んで一瞬で退場してしまったあの子である。

 あの時は相手が相手だったから弱く思えたかもしれないけど、こいつだって召喚モンスター。シャドウアサシンと同じブロンズランク相当の力はある筈。実際シロも言っていたから間違い無い。

 しかも今回は自然の中を探索する訳だから、獣型のモンスターであるバンデッドウルフは相性が良いんじゃなかろうか。狼というからには鼻も効きそうだから索敵にも使えそうだ。そんな理由もあってこいつを起用した。

 見た目としては全身の毛を荒立てて、目を血走らせて、口元から涎を垂らしたいかにも頭のイカれた感じのだ。

 そう、である。狼の意味を表すウルフと名付けられておきながら、その見た目は完全無欠の犬だった。同じイヌ科の生物だからとこの名が付けられたのであれば本物の狼に土下座した方が良いのではないかと思えるくらい犬の見た目をしていた。

 性能は荒々しい見た目通り攻撃性能が高く、スピードもあるがそれよりもパワーが強いイメージだ。敵に食らい付いてぶん回したり、敵を押さえ付けて首根っこに噛み付いたりする戦法を得意としている。

 うん。攻撃性能はいいんだ。攻撃性能は。でもなぁ……


「これはちょっと……」

「グルルルルッ!!」

「グギャァッ!?」


 真っ先にゴブリンに奇襲を仕掛けて仕留めるバンデッドウルフを見て呆れる俺。その理由はバンデッドウルフの性能にあった。

 なんとこのバンデッドウルフ、人の命令を聞かないのだ。

 いや、全く聞かない訳じゃ無い。待てと命じれば待ちはする。しかし直ぐに我慢出来なくなって突っ走ってしまう。

 どうやら攻撃性能と引き換えに理性を犠牲にしたらしく、本能的に獲物を見つけると後先考えず襲い掛かる性質があるらしい。

 しかも本能に従って襲い掛かるから敵を仕留めるために兎に角攻撃するため、倒した魔物はズタボロになってしまっている。倒した魔物から剥ぎ取った素材も売り物にする冒険者としては、毛皮などをボロボロにされるのは死活問題だ。流石の俺もカード化で品質を戻す事は出来ないからな。余裕があるなら出来れば綺麗な状態で仕留めたい。

 まあゴブリンから取れる素材なんて体内の小さな魔石か偶に持ってる棍棒くらいなのでバンデッドウルフにズタボロにされても大丈夫なんだけど。

 とはいえ命令を聞かないのは大問題だ。最低限連携を取ってくれるならまだマシなんだろうけど、ただ無闇に敵に突っ込むだけでは扱い辛くてしょうがない。

 そして期待していた索敵なんだけど、これも態々バンデッドウルフにやらせなくてもシャドウアサシンさん達がある程度なら出来る事が判明してしまったため、本格的にバンデッドウルフの必要性が無くなってしまった。

 戦闘力だってシャドウアサシンが連携を取れば十分賄えるレベルだし、そうなると命令を聞かない分バンデッドウルフの方が劣る。森の中はある程度暗いからシャドウ達もそれ程弱らないしな。


「どうする?」

「……しょうがない」


 バンデッドウルフをカードに戻して、その分シャドウアサシンを追加する。バンデッドウルフ君にはまた別の機会に活躍して貰う事にしよう。……鉄砲玉以外に役に立つ時ってあるのかな?


「さて、此処から先がブロンズランクの魔物が出て来るんだっけ?」

「うん。地図で見た感じだと大体この辺りだね」


 さっきまではゴブリンなどのアイアンランク相当の魔物が出て来たが、此処から先はワンランク上の魔物が出て来る。

 え? ゴブリンはウッドランクじゃ無いのかって? 残念ながら魔物らしい魔物ってアイアンランクからなんだよね。だってウッドランクに魔物討伐の仕事なんて無いし。魔物の討伐はアイアンランクからだから、自然とそうなるんだろうね。

 そんな事はさて置き、ブロンズランクの魔物はアイアンランクとは戦闘力が全く違う。ブラックブルとゴブリンを比べれば分かり易いだろう。数で圧倒しない限りその差はひっくり返らない。

 中には厄介な特性を持った奴も居るだろう。間違ってもダイレクトアタックは食らわないようにしなければならない。まあウチのモンスター達は最低でもブロンズランク相当の実力はあるから大丈夫だとは思うけどね。

 そう思っていた矢先、隠れていたシャドウアサシンが俺の傍に現れた。


「ッ、早速か」


 これは事前に決めていた、『敵がこちらに向かって来ている』合図だ。武器を構えているという事は、今の戦力でも十分対処可能な戦力という事。

 なら戦っても問題無い。何なら奇襲を狙っても良いかもしれないけど、折角広い場所に出ているんだし、此処で迎撃しよう。

 森の暗がりから聞こえて来るやけに大きな足音と盛大な草むらの揺れる音。結構デカいな。

 そしてその予想通り、現れたのは俺よりも体格の大きな豚……というより、猪のような外見をした二足歩行の大男だった。


「あれって、オーク?」

「うん。オークだね」


 数は二体。どちらも丸太のような大きな棍棒を持っている。先程バンデッドウルフに襲われていたゴブリンとは迫力が違うな。本当に倒せるんだよな? 俺はそういう気配とかを読むのは無理だから分かんないんだよな。

 まあその辺はモンスター達に一任しよう。出来るというなら任せるわ。


「よっしゃ行くか。頼むぞお前等!」


 モンスター達が武器を掲げて応える。良いね、この感じ。ちょっとテンション上がって来た!

 俺の前を固めるメタルナイト、その斜め後ろからタイミングを伺う二体のシャドウアサシン。数の上では三対二だけど、オーク達はあくまで戦う姿勢だ。


「ブゴォォッ!」

「プギィィっ!!」


 棍棒を持って大声で威嚇するオークを相手に、メタルナイトは一切怯む様子を見せずに前に出る。対するオークの片方、オークAが棍棒を振り被る。オークAの棍棒と、メタルナイトの盾がぶつかり、鈍い音が響いた。

 筋肉で膨れる程太い腕から繰り出されたオークAの一撃、しかしメタルナイトはそれを軽く防ぎ切り、更には押し返して見せた。

 反動で反り返り無防備な姿を晒したオークAに、メタルナイトの剣が振り下ろされる。


「──ッ!」

「ブァァァッ!!」


 袈裟斬りに胴体をやられて一撃で倒れ伏すオークA。一方でもう片方のオーク、オークBは、二体のシャドウアサシンの連携に翻弄されていた。

 鈍重なオークの攻撃を軽やかに躱しては、前から横から後からと次々に攻撃を加えて行く。そしてあっという間にオークAを倒したメタルナイトが合流。オークBをあっさりと押さえ込み、討伐してしまった。


「おぉ〜。凄え」


 何というか、実に危なげ無い勝利だった。心配する隙も一切無いくらいに。


「あっという間だったな」

「相性が良かったんだろうね。オーク相手にパワー負けしなかったメタルナイトと、スピードで圧倒出来たシャドウアサシン。どちらも有利に立ち回れたからこその圧勝だね」

「なるほど」


 今の見ただけでそこまで分析出来るんですか。流石っすねシロさん。


「つまりオーク相手なら余程数で押されない限り大丈夫って事?」

「そうだね。一概には言えないけど、多分あと二体くらい増えても大丈夫だと思うよ」

「マジでか」


 実質こっちより一体多い状態でも勝てるんですか。


「それだけメタルナイトが抜きん出てるんだよ。多分防御に徹すれば二体くらいなら確実に押し留められるんじゃないかな」

「おぉ、凄えなメタルナイト」


 そう言うとメタルナイトが胸に手を当てるポーズを取る。任せろって事だろうか。喋らないだけで意外と反応はあるのな。ちょっと面白い。


「さて、オークの素材は何じゃろなぁ」


 オークの死体をカード化して、一体を解体してみる。そうして出て来たのは、オークの牙、魔石、木の棍棒、そしてオーク肉だった。


「オーク肉……食えるんだ」

「食べられるよ。魔物の肉の中では定番だね」

「美味いの?」

「美味しいよ。多分朝食べたベーコンがオーク肉だと思う」

「そうなんだ」


 この豚さん意外と有能なのね。あのベーコンも美味しかったし、豚肉的な感じで食べられそうだな。

 オーク肉のイラストには色々な部位の肉が山盛りになっている。ブラックブルの時もそうだったけど、多分食用の部位が全部入ってるんだろうな。これ一枚で焼肉パーティー出来そう。


「じゃあもう少し狩ってみるか」

「うん!」


 ある程度狩っておけば肉には困らなそうだ。最低でももう二、三体狩っておきたいな。

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