第36話〜方針〜

 目が覚めると、見慣れない天井が視界に映った。王都の最強級ホテルよりかは若干劣るが、それでも質の良さそうなベッドで目を覚ました俺は、昨日の夜の事を思い出してため息を漏らす。

 いつの間にか身に付けていたシロとマリアベルの連携攻撃に、為す術も無くノックアウトされてしまった。色々と凄かったし、満足感も凄まじかったけど、男としては情けないやられっぷりだった。

 マズい。このままでは男の沽券に関わる。せめて相手を確実に満足させられるようにならなければ。


「おはよう御座います。御主人様」

「あぁ、うん。おはよう」


 いつものようにメイド服を着て俺の横に立って朝の挨拶をして来るマリアベル。昨日の夜と比べて肌の艶が良くなっている気がするんだけど。やっぱり君、俺から生命力的な何かまで吸い取ってない?


「おはよう、クロウ」

「おはよう」


 そしてシロも昨日と比べて肌艶が良い。本当君達何で昨日あれだけ夜更かししたのにそんなに元気そうなの? 俺なんて体内の密度が減ってしまったかのような気さえしてるのに。

 まあ良いや。今更その辺気にしてもしょうがない。せめて朝食は少し多めに食べておこう。少しは補填ほてんになるかもしれない。

 そんな俺の内情を知っていたかのように、今日の朝食は厚切りのベーコンのような肉が用意されていた。起き抜けには少々重く感じるかもしれないが、一緒にあるサラダとかがあっさり系だから割といける。


「うん。美味い」


 王都のパン屋で買っておいたパンとも合って食が進む。塩気と油分が体に染み渡るようだ。

 俺の賛辞にマリアベルが会釈して応える。表情は変わらないけど、何となく動きが柔らかいから、多分喜んでるんだろう。


「ところで、このお肉、俺買った覚え無いんだけど、いつの間に仕入れたん?」

「本日の早朝に。街の肉屋で売られておりましたので」

「お金は?」

「必要な資金は事前にシロ様に渡されておりましたので」

「へえ」


 いつの間にそんなやり取りを……俺知らないんだけど。


「昨日の夜の内にね。クロウが喜んでくれるように、必要な物は買っておいてって」

「ありがとうな」


 お礼を言っておくと、ニコッと笑って返答してしくれる。良いなこういう感じ。懐かしい温かい雰囲気だ。


「ところでクロウ」

「ん?」

「クロウはこれから先の目標とか、方針とかってある?」

「目標?」

「うん。これからどういう風に活動して行くのかとか、最終的にどんな風になりたいかとか」

「うーん……」


 そういえば此処までは必要に駆られて行動してたから、そういうのは考えた事も無かったな。ローグライに着いて最低限生活して行くために必要な物も手に入った。当分の生活資金はシロが王都の悪人達から徴収して来たから暫くは持つ。

 特に急ぎの用事も無くなった今、どうするべきかでは無く、どうしたいかを考えるべきだろう。

 となると、俺が今したい事は……、


「先ずはレベル上げかな」


 魔導書の召喚コスト上限は俺のレベルに依存する。レベルが一上がる毎にコスト上限も一上昇しているのであれば、強力なモンスターを複数隊召喚するにはそれなりのレベルが必要になる。戦力の向上は俺の身の安全に直結する。安全に行動出来る今の内に可能な限り上げておきたい。

 ……ていうのは建前で、本当はレベルを上げるのがゲームっぽくて楽しそうっていうのがあるんだけどね。魔物倒してレベル上げるとかそれっぽいじゃん。こっちの世界にはゲームなんて無いしだろうし、だったらせめてこれで楽しみたいんだよ。

 所でレベルが上がったら俺の身体能力も上がるんかね? 今の所朝早く起きられるようになった以外特に変わった所は見当たらないんだけど。今度暇な時に調べてみるかね。


「それから安定した収入」


 今はシロが徴収してくれた金があるから良いけど、それだって無限じゃ無い。無くなるたびにシロに徴収して来てもらう訳には行かないし、それなら安定した収入はあった方が良いだろう。

 というか、そろそろ自力で稼げるようにならないと。今の所何でもかんでもシロにおんぶに抱っこだから俺の存在価値が無いんだよね。精々シロの抱き枕ですよ。

 俺だってシロに何か買ってあげたいし、お店の人から甲斐性の無いダメ男みたいな目で見られるのはもう御免なんだよ。早く真人間になりたい。


「後出来ればなんだけど、多少の無理は突っぱねられるくらいの権力が欲しいな」


 この世界は王城が機能している時点で封建制度なのは確定だ。つまり貴族のような権力者が存在している。全員が全員という訳では無いんだろうけど、それでも悪徳貴族は存在するだろう。そうで無くても何かしらで強権を発動させて、俺達の行動を縛ろうとする輩が現れないとも限らない。

 それに対抗するためにも、可能な限り押し負けない程度の権力、または後ろ盾が欲しい。最終的にはこの国の国王が何言って来ても『NO!』と言えるようにはなりたいけど、それは出来ればって事で。


「分かった。力とお金と権力だね」

「言い方よ……」


 間違ってはいないけど、もうちょっと言い方を考えて欲しい。これじゃあ俺が欲塗れのクソ野郎みたいじゃんか。俺はあくまでシロ達と穏やかに暮らして行きたいだけだからな?


「じゃあ取り敢えずは冒険者として魔物を討伐して、少しずつ力を蓄えよっか」

「まあ、そうなるな」


 今の所俺の取れる手で最も確実なのはそれだ。レベル上げと資金稼ぎが同時に熟せ、冒険者のランクが上がれば侮られる可能性も減る。それが貴族相手にどれだけ効果があるかは分からないけど、此処は冒険者の街。実力のある冒険者に無闇に敵対するような奴は居ないだろう。仮にそんな事があっても、ギルドも有望な人材を手放すのは嫌がる筈。何かしら手を貸してくれるだろう。……だと良いな。


「でもそうなると、ウッドランクの依頼を受けなきゃならないんだよなぁ」


 ウッドランク冒険者はウッドランクの依頼しか受ける事が出来ない。これは王都の冒険者ギルドで言われた事だ。

 ウッドランクの依頼内容はお世辞にも旨味があるとは思えないものばかりだった。進んで受ける気にはならない。しかし依頼を熟して実績を積まないとランクは上げられない事が多い。ジレンマだな。


「うーん、そうでも無いんじゃ無いかな」

「そうなの?」

「だって、冒険者になるような人達が大人しくウッドランクの依頼を出来るとは思えないもん」

「確かに」


 昨日いつの間にか後ろに立ってたスキンヘッドの強面こわもて男みたいなのも居るのに、大人しくウッドランクの雑用見たいな依頼を素直に出来るとは思えない。仮にあのスキンヘッドが意外と真面目な性格だったとしても、他もそうとは限らないしな。必ずそういう奴は居るだろう。


「多分、何かしら抜け道があるんだと思う」

「そういえばその辺は聞いてなかったな」


 王都の時は身分を作って早く外で召喚の魔導書の性能を見たかったからあまり聞かずに出てしまったし、昨日はその日の内に家を買うつもりでいたから更新したら直ぐに出てしまった。その時点で特に気にしていなかったというのもあるけど。


「じゃあ先に冒険者ギルドに行って聞いてみよっか」

「そうだな」


 逐一雑用見たいな依頼を受けなくても良いのであればそれに越した事は無いし、先に聞いておいた方が良さそうだな。

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