第32話〜プレゼントボックス〜

 改めてソファに腰掛けて魔導書を起動する。それを見て気になったのか、シロが傍に寄って来て隣に座った。


「何してるの?」

「魔導書の確認」


 実は王都で買った物をカード化してしまっている最中に魔導書を開いていて気付いた事なんだけど、召喚に必要なコストの上限がいつの間にか増えていた。

 それで試しにステータスカードを見てみた結果、以下のような事になっていた。


  クロウ アカツキ

 職業:冒険者 LV:12


 何とレベルが七つも上がっていた。一体何があったんだと考えてみれば、思い当たる節は一つしか無い。あの聖騎士との戦闘だ。

 どうやらこの世界では人を倒しても経験値が得られるらしい。いや、倒したの俺じゃ無いし殺してもいないんだけどね。というかそれなのに七つもレベル上がるとかどんだけレベル差あったんだよ。そりゃあ実力で押し負けそうになるわな。

 そんな訳で急にレベルアップしていた事に気付いた俺は、他に変わった所は無いかと思って、この機会に魔導書を改めて隅々まで確認する事にした訳だ。


「ふーん。それで、何か変わった所はあった?」

「あったよ」


 今の今まで気付かなかったが、ページの隅にプレゼントボックスのようなアイコンが表示されていた。これってそういう事だよな?

 取り敢えずそのアイコンをタップしてみると、テーブルのの上に魔法陣が出現、そしてそこにアイコンと同じ見た目のプレゼントボックスが顕現けんげんした。


「何これ?」


 突然の魔法陣の出現に警戒していたシロも、現れたプレゼントボックスをキョトンとした目で見る。


「何って、プレゼントボックスじゃね?」

「それは見れば分かるんだけど……」


 何でプレゼントボックスが出て来るんだって事ですよね、分かります。俺だってそう思うもん。いや、普通こういうのって内部で開けられて、配布されて終わりの奴なんじゃ無いの? 何で現実に出て来るんだよ。

 そんでもって、取り敢えず開けてみようとプレゼントボックスのリボンに触れると、プレゼントボックスがガタガタと振動する。


「え?」


 思わず手を引っ込めるが振動は止まらず、遂にはプレゼントボックスが内側から弾けて、二枚のカードが出てきた。

 そして役目を終えたプレゼントボックスは消えて行く。いや、だったら尚の事魔導書の内部で済ませても良くね? 何で態々プレゼントボックス顕現を挟んだんだよ。パフォーマンス以上の意味無いじゃん。

 まあ意味不明な事を気にしても仕方ない。それよりも目の前のカードだ。


「これって……」


 前に一度見た事ある。地獄の二百回超えガチャの際に唯一出て来たゴールドカードの中身、プレミアムカード召喚チケットだ。しかも二枚。


「何だったの?」

「前にもあった、プレミアムカード召喚が出来るチケットだな」

「じゃあ、またマリーみたいな仲間が召喚出来るんだね!」

「多分な」


 実際にはアイテムや魔法とかが出る場合もあるし、もしかしたら意思疎通が出来ないモンスターが召喚される可能性もあるんだけど、言わないでおこう。何か目をキラキラさせてるし。

 それにしても、このタイミングで手に入るのか……。


「ん〜……」

「どうかしたの?」

「いや、何で貰えたんだろうなって思って」

「?」

「いやさ、このチケットが貰える条件って、『何かしら特別な事をした時』っていうかなりざっくりした物なんだよ」


 一体何をどう判断して特別と評価するのかは知らないけど、このタイミングでチケットが手に入るって事は、あの聖騎士との戦闘がその特別な行動に分類されるという事なんだろう。


「だとすると、あの戦いのどこに特別と評価するポイントがあったんだろうなって思って」

「それが分かれば、狙ってチケットを取りに行けるようになるんだね」

「多分な」


 もし仮に狙って手に入れられるのであればレアカード手に入れ放題ってなるんだろうが、まあそんな簡単には行かないだろうな。特別な行動って時点で普通にやって出来る事じゃ無いんだろうし。


「まあある程度の予想は付いてるけどさ」

「そうなんだ。じゃあその予想が当たっているのか確かめてみる?」

「いや、それはちょっと……」


 あの戦いのどの辺に特別と評する部分があったのかは分からない。その前にやったブラックブルとの戦闘では手に入らなかったから、その差異で考えるのであれば、敵の強さだろう。

 ブラックブルでも苦戦はしたけど、フリードリヒとの戦闘はジリ貧にすら感じられる絶望感満載の戦いだった。恐らくフリードリヒならブラックブルすら一撃で倒すだろう。それくらいレベルの違う戦いだった。

 自分よりも圧倒的に強い相手を倒す。所謂ボス戦の報酬というのであれば、プレミアムチケットが貰えてもおかしくは無いだろう。仮にそうだった場合は諦めるしか無いけどな。あんな死ぬ思いするような戦い、二度と御免だ。


「流石に命の危機に晒されるのはな……」

「そっか。じゃあしょうがないね」


 そう言ってシロが俺の横に座り、腕を取って自身に抱き寄せる。


「私も、クロウにあまり危険な事はさせたく無いし……」


 そう言って俺を見上げるシロが言葉と行動の二重の意味で可愛過ぎる。……そうだ。


「ちょっと良いか?」

「ふぇ?」


 戸惑うシロを引き寄せて俺の膝の上に横向きに乗せ、背中に腕を回して抱き留める。ちょっと変則的なお姫様抱っこのような形だ。


「あの、クロウ? これは……」

「昼間のお返しって奴だ」


 あれは移動手段として仕方なくやったが、本来ならお姫様抱っこは男が女を抱えるものだ。残念ながら俺には人一人抱える筋力は無いが、座っている体勢ならどうにかなる。

 実際やってみると……うん、やっぱりこっちの方が正常だよな。


「ほれ」

「あ……」


 シロの頭を肩の辺りに乗せて上で、髪を梳くように優しく撫でる。


「どうだ?」

「うん。凄く良い……」


 甘えるように頬擦りして、シロの方からも腕を回して抱き付いて来る。そこからマリアベルが呼びに来るまで、俺とシロはこのままの体勢でいた。

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