第25話〜シロの冗談〜

それからシロと一緒に必要な物を粗方買い揃えた。水、食料、寝るためのテントなど、ガチャだけでは全部賄い切れないみたいだからな。仕方ない。尚代金はいつもの如くシロ持ち。本当スマンね。

 そして旅の経験なんて碌に無い俺には何が必要なのか分からなかったので、必要な物の選別はシロに一任した。マジでスマンね。

 更に途中お店で昼食を摂る事になったんだけど、代金を払おうとしたら既にシロが支払った後だった。もう腑甲斐ふがい無さ過ぎて言葉も出ない。全部シロのお世話になってるやん俺。


「俺の存在って……」


 そんな訳でホテルに戻った俺は、自分の無能さに部屋の隅で体育座りになってどんよりしていた。因みにホテルの宿泊費もシロ持ち。ハハハ、もう俺必要無いんじゃね?


「クロウしっかり! 私はクロウと一緒で楽しかったよ!」


 何やらシロが俺の事を気遣ってくれている。優しいなシロは。


「こんな俺のために……」

「あぁクロウのオーラが更に暗く……!」


 いっそジメジメしたオーラでキノコでも栽培出来たら役に立つんじゃね? 目指してみるか?


「えいっ!」

「うおっ!?」


 突然シロが俺に横から抱き付いて来た。シロの顔が直ぐ近くにあって、良い匂いがして柔らかくて心拍数ががががが……!


「私はクロウと一緒だから楽しかったんだよ? だから居なかったら良かったなんて言わないで」

「シロ……!」


 なんて良い子なんだシロは。まるで天使のようだ。アリステラなんていうクソ女神とは比べ物にならない清純さを感じる。


「ありがとうなぁシロ。大好きだぞ」

「うん」


 シロを抱きしめてナデナデする。シロは俺に撫でられて嬉しい、俺はシロに優しくして貰えて嬉しい。まさにWINーWINという奴だ。

 途中で部屋に戻って来たマリアベルがジト目をしていたような気がしたけど、きっと気のせいだろう。いつも無表情だからそんな風に見えただけだ。




 その後一通りイチャついて、今は夕食の時間。


「今日でこのホテルも最後か」


 この豪華な食事も、ふかふかなソファも、柔らかいベッドも今日で終わりになる。


「寂しい?」

「それもあるけど、勿体無いってのが本音かな」


 ローグライまでの五日間は野宿みたいな感じになるだろうし、食事もこんな風には行かなくなるだろう。ローグライに着いても同じようになる保証も無いし。


「そういえば、シロってホテルの関係者じゃ無いんだよな?」

「そうだよ」


 そうだよな。本人も邪神って言ってたし、それが王都一の高級ホテルを経営するっていうのは違うよな。話としては面白いけど。


「じゃあホテルの宿泊費とか、その他諸々の金はどうやって用意したんだ?」


 てっきり部屋を出て行ってホテルのどこかから持って来てると思ってたけど、そうじゃ無いならどうやって?

 それにこのホテルもそうだ。他の日は兎も角、初日はほぼ顔パスで通ってた筈。部屋も含めて扱いがVIP待遇だったからホテルのオーナーの娘なんだと勝手に結論付けたけど、そうで無いなら世間から恐れられる邪神であるシロに何でそれが可能だったんだ?


「あぁそれはね。魔法の中に、人を一時的に洗脳するものがあって」

「え?」

「それを使って、目を合わせた瞬間に私の事を王族の誰かと見間違うようにしたんだよ」


 何それ? そんな物騒なもん使ってたの? 全然気付かなかった。


「でもそれは一時的な物だから、辻褄が合うように合間を縫ってホテルの従業員全員の記憶を書き換えたんだよ」

「随分と大掛かりな……」

「それでお金の方は最初だけホテルから借りて、後から王都で悪さをしている所から持って来て宿泊費分も支払っておいたの」

「つまり俺に渡した金も?」

「うん!」

「Oh……」


 まさか裏でそんな事があったとは。というかシロさん何も悪い事して無いと思ってたけど、知らなかっただけでバリバリやってたのね。


「ダメだった?」

「うーん……」


 シロが不安そうに聞いて来るので、一度整理してみる。今回判明したシロがやった事と言えば、ホテルの従業員を洗脳して、その後に記憶を改竄かいざんした事。そして金銭を盗んだ事。一般的に考えれば完全にアウト判定にはなるんだけど……


「……別に良いんじゃね?」


 ホテルに関しては他にこの部屋を利用する人は居なかったから騒ぎにはなって無いし、宿泊費もちゃんと支払ってるから一応セーフって事で、お金も悪人から取って来たのなら別に良いだろう。元々悪事で稼いだ金だ。シロに奪われても文句は言えまい。

 というか、シロの行動の恩恵を全て享受している俺にシロを責める権利なんて最初から無いんだけどね。


「良かったぁ。駄目って言われたらどうしようかと思ったよ」

「因みに、どうするつもりだったわけ?」

「そうだね……一番簡単なのは、クロウの記憶を改竄して今の話の内容を忘れさせる事かな」

「怖っ!」


 サラッと何怖い事言っちゃってんの!?


「フフ、冗談だよ。普通に許して貰えるようにクロウに謝るよ」

「ハハハ、デスヨネー」


 流石にそんな事する訳……無いよね? 大丈夫だよね? ……取り敢えずシロは怒らせないようにしよう。いや、最初からそんなつもりは無いんだけどさ。

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