第22話〜アッシュロード〜
俺が頷くのを見て、シロは頷き返してからこう切り出した。
「さてと、どこから話そうかな……うーん、先ずは確認からかな」
シロはそう結論付けて俺を見る。
「クロウはさ、魔王ってどうやって生まれたか知ってる?」
「いや、知らない」
その辺の話は聞く前に放り出されたからな。魔王を倒して欲しいというだけで、詳しい事情は何も聞かされていない。
「そっか。じゃあ良い神様と悪い神様のお話も知らないよね」
「聞いた事も無いな」
前の世界じゃ宗教には詳しく無かったし、この世界に至っては精々勇者を召喚した神がアリステラって呼ばれているくらいしか知らない。
「じゃあそこから話そうかな」
足をブラブラさせながら、シロが語り出す。
遥か昔、この世界には、人々を苦しめるのが大好きな悪い神様達が居ました。悪い神様達は様々な方法で人々を苦しめては、それを見て楽しんでいました。
ある時悪い神様は魔王と魔物を創り出し、人々を襲わせました。魔物は強く、人間ではとても敵いませんでした。
それを見た心優しい神様達は、人々を助ける為、神様から力を与えられた勇者を遣わしました。
勇者は悪い魔物達を次々と倒し、遂には魔王さえも倒してしまいました。
そして勇者は心優しい神様達と協力して悪い神様達を追い詰め、二度と悪い事が出来ないよう、世界の果てに封印しました。
こうして世界は平和となったのです。
「そして、封印された悪い女神達の事を、邪神って呼ぶようになったんだ」
「ふーん」
「あんまり興味無さそうだね」
「正直、あんまり面白く無いな」
全体的に童話チックでかなり
「それで、その話とシロがどう関係してくるわけ? あんまり重要そうには思えないんだけど」
ぶっちゃけそのお話のどこにシロとの関連性があるのかさっぱり分からない。
「重要だよ。だって私は、そのお話に深く関わっているからね」
「え? それって……」
この物語に深く関わっているという事は、則ち物語の登場人物と関係しているという事、そしてフリードリヒが言っていた魔力が邪悪という文言に重ねて該当するのは、魔王と邪神のみ。
つまり、そのどちらかと関係のある存在、魔族か邪神を奉ずる一団の一員だと推測出来────
「うん。その物語の重要人物の一つ、世界を永遠の闇に落とそうとして、魔王と魔物を創り出したって言われている存在。それが私、常闇の邪神アッシュロードなんだよ」
「……え?」
予想の斜め上を超えて来た。
ていうかマジ? てっきり魔族かカルト教団の一員だと思ってたけど、まさかの邪神様ご本人?
「……マジ?」
「信じられないのも無理ないかもしれないけど、本当の事だよ。私は昔、魔王を生み出して、世界と戦った邪神そのものなんだ」
そう言うシロの表情は真剣そのものだった。いや、寧ろ苦しそうにすら思える。一体何がシロをそんなに苦しめているのかは分からないが、冗談でこんな事を言っている訳じゃ無い事は何となく分かった。
「ふーん。なるほど、そうだったのか」
確かにそれなら色々と納得が行く。シロの魔力が禍々しいと言われるのも、邪神の魔力なんだから当然だ。清純な魔力をした邪神とかちぐはぐだしな。それにシロが今まで一人だったのも、もしかしたらその辺が影響しているのかもしれない。
しかしシロと邪神ってイメージが一致しないな。何か黒いマントを羽織ってはしゃいでいる女の子みたいなイメージしか湧かない。寧ろ微笑ましいな。そして可愛い。
「……クロウ?」
「ん? 何?」
『どう? カッコいい? カッコいい?』とか言いながら褒めて欲しそうな表情をするシロを思い浮かべてニヤニヤしていたら、現実のシロが困惑顔で俺を見ていた。
「いや、その……何で、笑ってるの?
「あぁいや、何か邪神っぽく振る舞ってるシロを想像してたら、何かね……」
「え?」
シロが目を見開いて驚く。まるで信じられないものを見たかのように。
「怖く無いの?」
「何が?」
「だって、私、邪神なんだよ? 世界を滅ぼそうとした危険な存在なんだよ? 沢山の人を死なせて、沢山の人を不幸にして────」
まるで懺悔するかのように自己否定めいた事を次々と口走る。自分で自分を傷付けるかのように、一つ言う度に顔が苦痛に歪んで行く。
それだけシロにとっては邪神である事は特大のコンプレックスなんだろう。過去にした行いが、今になってシロを苦しめている。
「……別に?」
ただ、それと俺がどう思うかは全くの別問題だ。俺はシロの過去の失敗に関してあまり関心が無い。だって俺が今話しているのは今のシロだし、そこに昔は関係無いしな。
そんな俺の返答が予想外だったのか、シロがポカンとしている。
「まあ、シロが昔色々やらかしてたのは分かったけど、俺は当事者じゃ無いし、シロのそういう姿も言動も見てないし、寧ろ良くして貰った覚えしか無いからさ」
もし仮に目の前で罪も無い人を虐殺しようとしていたら流石に全力で止めるけど、そんな事にはならなかったしな。
「それに俺があの聖騎士にやられそうになってた時も、シロは色々考えて殺さずに無力化してたじゃん。本当に性悪なら迷わず殺すだろうし」
これに関しては結果論だけど、先に攻撃して来たのは向こうだから最悪殺されても文句は言えないと思う。寧ろ記憶の改竄だけで済んだだけマシと思って欲しい。
「だから別に昔の事はそれ程気にして無いな。精々、俺にとっては救いの女神様だったんだなぁって思うくらい」
「ッ!?」
シロが今日一番の驚愕の表情を見せる。まあ多少態とらしかったかもしれないけど、表現としては言い得て妙だと思う。
少なくとも了承も無くいきなりこの世界に拉致っておきながら、力の一つもくれないアリステラとかいう性悪女よりかは断然良いと思う。少なくとも俺はそう思う。
「あ……あぁ……クロウ……!」
シロの目からポロポロと涙が溢れ──って!?
「うぇっ!? ちょ、シロ!?」
急に泣き出してどうした!? 流石にこの返答は適当過ぎたか!?
「クロウ!」
「うぉわ!?」
シロがテーブルを飛び越えて俺に突っ込んで来た。咄嗟に受け止めるが勢いは殺せず、椅子と共に後ろへと転げ落ちた。
「イッ……!」
打ち付けた後頭部が非常に痛い。けどどうにかシロを落とさずに済んだ。
「良かった……良かったよ……!」
そのシロはというと、爆発させた感情の赴くままに、俺の胸にグリグリと顔を擦り付けていた。
「本当の事を言った時に、また嫌われちゃったらどうしようって思って……どうしても不安になっちゃって……!」
泣きじゃくりながら、それでいて嬉しそうな感じで俺に抱き付くシロ。きっと不安だったんだろうな。それだけ邪神という肩書きは重荷だったんだろう。この話をするのだって、シロにとっては相当な覚悟が必要だった筈だ。
俺だったら多分出来ないだろう。嫌われる可能性を考えるだけで心が折れそうになる。そう考えると、本当に凄い奴だよシロは。
俺はそんなシロをあやすかのようにシロの腰に腕を回して抱き返し、反対の手で頭を撫でる。
「大丈夫だ。俺はシロと一緒に居るからな」
「うん! うん!」
放逐された無能な勇者の俺に泣き付くシロ。その姿は、やっぱり邪神という肩書とは似ても似つかない、普通の女の子のようだった。
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