第20話〜呆気ない幕切れ〜

「グッ……ガ…………!」


 フリードリヒが驚愕の表情で自分の体から生えた刃を見る。そして血を吐きながら膝から崩れ落ち、その場に倒れ伏した。

 戦闘開始から初めての有効打にして致命傷レベルのダメージが入っている事を確認して、フリードリヒを背後から攻撃したシャドウアサシンを見る。

 全てはこのための布石だった。先ず召喚していたモンスター全員で捨て身の特攻を仕掛けさせる。メタルナイトにアタックブーストをかけて奥の手のように見せかけてな。

 しかし本命は別。コストに空きが生じた瞬間、俺の背後に隠れるような形で最後のシャドウアサシンを召喚。同時に『隠密の歩法』で気配を消して、俺の影を通じてその辺に隠れさせる。幸い今は夕暮れ、隠れる場所となる影なら幾らでもあった。まさか一度に纏めてやられるとは思わなかったけど、大技を使って隙が大きくなってたから寧ろ好都合だった。技自体には驚かされたけどな。

 そして俺が悪足掻きで突っ込んで隙を作り、気配を消したシャドウアサシンが背後から奇襲する。これが俺の考えた作戦だった。流石の聖騎士も、剣もまともに握れない奴が自分すら囮にするとは思わなかったみたいだな。

 即興で考えた上にちょっとでも想定から外れた行動をされれば失敗するガバガバな作戦だったけど、上手くいってくれて良かった。


「全く。いきなりこんなギリギリのバトル想定してないって」


 ノリと勢いで戦闘吹っ掛けてしまったけど死ぬかと思った。こんな事なら事前にもっとしっかり戦術を練っておくんだったな。今更思ってももう後の祭りだけどさ。

 兎に角、これで邪魔者は倒した。戦力はシャドウアサシン一体だけになってしまったけど、不意打ちなら一体居れば何とかなる。


「早いとこシロの所に行かないと」


 確か家の間の小さな路地だったな。急ごう。

 そう思って歩き出したその時だった。


 ────パキンッ!


「ん?」


 変な金属の割れるような音が聞こえてそっちを見ると、フリードリヒが緑色の光に包まれていた。


「ッ! マズい!」


 緑色の光は大体回復系。そんなゲームの知識が頭をよぎり、シャドウアサシンに攻撃命令を送る。

 シャドウアサシンは即座にフリードリヒに刃を振り下ろす──が、それよりも先にフリードリヒの剣がシャドウアサシンを斬り裂いた。

 正真正銘最後のシャドウアサシンが消え去る。そしてフリードリヒが剣を杖代わりにしながら立ち上がって来た。


「まさか、こんな所で『奇跡の十字架』を使う事になるとはね」

「こんなの有りかよ……」


 此処に来て再逆転とかふざけんなよ。こいつ主人公か何かか? だとしたら俺はこいつにやられる悪役ってところか。殺しどころか盗みもやって無いのにな。


「もう流石に何も出来ないだろうけど、念のため全力で行かせて貰うよ」


 フリードリヒの剣に再び青白い輝きが戻る。もう油断はしないってか。

 詰んだ。流石にもう此処から逆転する方法が思い付かない。鉄の剣だけではどうしようも無い。形だけ構えてはいるけど、もう腰が引けている。


「もう何もさせない、これで終わりだ!」


 瞬きの内に、フリードリヒが目の前に接近して、剣を振りかぶっていた。

 …………死ぬ。




「クロォォォォォーーーーーー!!」

「ガハァ!?」


 突如、目の前を銀色の風が通り過ぎ、フリードリヒを掻っ攫った。いや違う。銀色の物体がフリードリヒを跳ね飛ばしたんだ。

 そしてそれは、シロは物凄い速度で俺の懐に飛び込んで────


「ゲフゥゥゥ!?」


 土手っ腹に物凄い衝撃を受けて後ろに倒れる。何気に今回の戦闘での初ダメージである。


「クロウ! 大丈夫!? 怪我してない!?」

「あ、うん……大丈夫」


 攻撃は全部召喚モンスターが受けてくれたから、事実上俺は無傷だ。強いて挙げるなら今シロにぶち当たった腹部が痛い。


「良かったぁ!」


 グリグリとシロの頭が擦り付けられる。そこさっき衝撃が走った場所だからもうちょっと優しくしてくれ。地味に響く。


「というか、シロの方こそ大丈夫だった訳?」


 確かシロはフリードリヒの仲間が向かっていた筈。幾ら魔法が使えるって言われても、戦闘のプロ相手にそう簡単に勝てるとは思えない。見た感じ怪我は無さそうだけど……。


「うん、大丈夫。クロウを待たせないように、直ぐに終わらせて来たから!」

「直ぐに……」


 つまり速攻で片付けて来たって事? マジで? もしかしてシロさんって戦闘力も高かったりするの?


「まあ良いや。お互い無事で良かったって事で」

「うん!」


 シロが無事で良かったし、俺も無事助かった。またしても女の子に助けられるという情け無い形ではあったけど、それを除けば二人無事でめでたしだ。


「さてと。帰る前に、この人どうにかしないとね」


 シロが地面に転がっているフリードリヒを見る。先程までの死闘が嘘のように情け無く倒れているが、あの実力からして聖騎士というのは嘘では無いだろう。

 ならこのまま放置する事は出来ない。最悪教会に報告されて更に大事になったら面倒どころじゃ無いからな。


「どうするんだ?」

「うーん、一番手っ取り早いのは殺しちゃう事なんだけど……見た感じ聖騎士っぽいから、殺しちゃうと騒ぎになりそうだね」


 殺しちゃうとかあっさり言っちゃう辺り、シロもこの世界の住人なんだなって思える。え? お前も背後からブスリとやったろって? いや、あれはシャドウさんがやっただけで俺は何もしてないから。……うん、そういう事にしておいて。


「取り敢えず、記憶を弄って私達の事は忘れて貰おっか」

「え?」

「ん? どうしたの?」

「いや、出来んの?」

「出来るよ?」

「そ、そうなんだ」

「うん」


 そっかぁ。最近の女の子は人の記憶弄れるのか。凄いなぁ。……いや、落ち着け俺。そんな常識存在しないから。


「それじゃあ、ちゃっちゃとやっちゃうね」


 シロはフリードリヒの頭に手をかざすと、紫色の光を発生させる。多分記憶を操作する魔法を使ってるんだろう。

 時間はそれ程掛からずに終了した。


「これで良し」

「これで大丈夫?」

「うん。書き換える時に軽く覗いたんだけど、急いで追い掛けて来たから教会には報告していなかったみたいだね。だから私達の事は記憶から消して、代わりに適当な魔族を倒した事にしておいたよ」

「そうか」


 倒した事にしておけば、そこから先を追おうとはしないだろう。かなり誤魔化しが効くはずだ。


「じゃあ帰るか」

「うん!」


 散らばったアイテム(投げ捨てた鉄の剣)を回収して、シロと一緒にホテルに向かう。一時はどうなるかと思ったけど、何とかなって良かった。

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