第19話〜苦しい戦い〜
正直言って、フリードリヒの実力は最初のシャドウアサシンが両断された時点で相当な物だと判断していた。
ブロンズランク相当のモンスターを鎧袖一触で倒せてしまうんだから、恐らくブロンズランクモンスターを数体召喚した程度じゃ勝負にすらならないだろう。
加えて現在のコスト上限は十五、そこからコスト九のマリアベルを召喚したままにしているから、俺が使えるコストは六、シャドウアサシンを二体召喚しただけで上限に達してしまう。今の状態では勝ち目は無い。
だからさっき飲んだ液体、召喚上限コスト増加ポーションを使った。これを読んでコスト上限が十増えれば、ランクの低いモンスターなら更に三体まで追加で召喚出来る。
さっき召喚したシャドウアサシン四体に追加でシャドウナイト一体。ナイトには防御に専念して貰い、アサシン四体で撹乱しつつ隙を窺う。俺自身も効果カードを使ってサポートすれば、少しはマシな戦いになると思っていた。
────それがまさか此処までとは。
「フッ!」
フリードリヒの青白い光を帯びた剣の一振りでシャドウアサシンが斬り裂かれ、即座に追加のシャドウアサシンを召喚して穴を埋める。
既にシャドウナイトはお亡くなりになり、今はメタルナイトが前衛を張ってくれて何とか持ち堪えている。召喚出来るシャドウアサシンが一体減ってしまうが、前衛が耐えられないと俺が危ないからしょうが無い。それだって後ろから何度もライフポーションを振り掛けて何とか保たせているような状態だ。あの剣、間違い無く何らかのバフが掛かってるな。初撃でシャドウナイトが盾ごと斬られた。メタルナイトだって防戦一方だ。
「クッ、厄介だな……!」
それはこっちのセリフだっての。召喚出来るモンスターには限りがあるってのに、あの野郎ハリボテでも斬り裂くように数を減らして来やがる。下手に突っ込ませれば一撃でモンスターを倒される。そのせいで無闇に攻撃をさせられない。
「オラァ!」
メタルナイトが横に避けたタイミングで鉄の剣をぶん投げる。攻撃した直後を狙ったんだけど、フリードリヒは当たり前のように刃を返して弾き飛ばし、その隙を突いた両サイドからのシャドウアサシンの攻撃を後ろに下がって躱す。
着地前に『ファイアストーム』を発動。俺の身長を超える直径の灼熱の竜巻がフリードリヒに向かって突き進む。竜巻はフリードリヒを飲み込むが、直後に横を突っ切って抜け出された。鎧にも本人にもあまりダメージは見られない。あの鎧も特殊効果付きか?
飛び出したフリードリヒへメタルナイトがシールドバッシュで突撃。フリードリヒの次の行動を迎撃に使わせる。
こんな感じで色々と手を尽くしてはいるが、どれも有効な攻撃として当てられていない。精々鎧を掠める程度だ。しかもその後は大概攻撃したモンスターが返り討ちに遭う。全然割に合って無いっての。
「クソッ!」
まずい、回復アイテムがもうすぐ尽きる。控えのモンスターも残り少ない。このままじゃ押し負ける。しかし今持ってるカードだけではフリードリヒを倒せない。
使えるカードを増やすしか無い。急いで魔導書のページを切り替える。切り替えた先はカード召喚、ガチャページだ。時間は無い。その少ない時間で可能な限り使えるカードを引き出す! すまんなシロ。貰った金、使わせて貰う!
モンスター達が必死に時間稼ぎをする中、十連ガチャを回して使えるカードを探す。
『隠密の歩法』気配を消す効果か。有用そうではあるけど、今目の前で気配だけ絶っても意味が無い。
『バンデッドウルフ』コスト三の狼型モンスター。素早さ高そうだし即時戦線に投入。しかし馬鹿みたいに突っ込んで即座にフリードリヒに斬り裂かれてお亡くなりになった。クソが!
『飴玉』こんな状況で出てくんじゃねえよ! ふざけんな!
クソッ! もうメタルナイトが落ちる! ガチャで出たライフポーションを即使用。これでもう少し耐えられる!
でもこれじゃあ焼け石に水だ。いずれ押し負ける。何か別の策を講じないと。何か、今手に入れたカードと、今まで手に入れたカードで何か……!
「ッ!」
一つ、上手く行けば逆転出来る可能性のある策を思い付いた。失敗すれば詰んで負け確定の博打みたいなものだけど、もう考えている時間は無い! メタルナイトがまた落ちかけてる!
あの野郎もうメタルナイトの動きを見切ってやがんのかよ。防御に徹したメタルナイトに的確にダメージを与えてくる。メタルナイトがやられたら一気に押し負ける。今思い付いた策を講じるなら今しか無い!
メタルナイトに命令を下して一度下がらせる。シャドウアサシン達もフリードリヒを囲む形で配置した。
フリードリヒは警戒して追撃して来なかった。此処で追撃されてたら攻勢に出れるか微妙だったからありがたい。
早速アタックブーストでメタルナイトの力を底上げする。赤いオーラを纏ったメタルナイトは明らかに強くなった感がある。
「奥の手って事で良いのかな?」
「さあな」
教えてやる義理は無い。というかそんな余裕は無い。こちとら生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ。黙ってやられろ。
「『アイシクルランス』!」
初手、二メートルを超える氷の槍をフリードリヒに向けて飛ばす。同時に残っているモンスター達、メタルナイトとシャドウナイト三体が四方から接近。迎撃にせよ回避にせよ、どれか一つを対処しようとすれば他の四つが殺到する。加えてアイシクルランスはメタルナイトを庇うようにして飛来している。メタルナイトを先に潰して、俺を直接攻撃する事も出来ない。これでどうた!
「────フゥッ!」
直後、フリードリヒの剣が帯びていた光が輝きを増す。嘘だろ、まだ何かあんのかよ!
「ハァ!」
フリードリヒが剣を地面に突き立てると、そこを起点に周囲数メートルを光の爆発が襲った。
それはアイシクルランスも、四方から接近していたモンスター達も飲み込み、衝撃が突風となって俺の所にまで届いた。
「嘘だろ……」
魔法も、モンスターも、全て一撃で消し飛んだ。残ったのは攻撃したフリードリヒと、攻撃の範囲外に居た俺だけ。
「これで終わりだね」
「クソが……!」
此処に来てこんな技出してくるなよ! こんな簡単にやられるなんて想定して無えっつーの!
「出来ればもう抵抗は止めてくれ。敵とは言え、人を痛めつけるのは趣味じゃ無い」
「煩えよ……!」
諦めたら死ぬの確定じゃんそれ。絶対嫌だ。
せめてもの抵抗にと、残っていた最後の鉄の剣を召喚して構える。
「剣を握るのは初めてかい? 剣が揺らいでるよ」
「生憎、こんな経験一度も無かったもんでね」
喧嘩すら碌にした事無いからな。本物の剣を握るのなんてさっきぶん投げたのが初だ。結構重いのなこれ。
「だからって諦めるつもりは毛頭無えよ。最悪刺し違えてでも倒す」
「……どうやら本気のようだね」
フリードリヒも剣を正眼に構える。その剣には輝きすら無くなっている。使うまでも無いって事かよ。事実なんだろうけどさ。
実力差は圧倒的、このままぶつかっても結果は見えてる。でも引くつもりは無い!
「ウォォリャァァァァァァ!!」
雄叫びと共に駆け出し、距離を一気に詰める。対するフリードリヒは動かない。ジッとこちらを見ている。そうして両者の距離は縮まり────
────お互いの間合いに入る直前、フリードリヒの体を刃が貫いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。