第17話〜夕暮れ、二人〜
勇者パレードは列が長かったからか、思ってた以上に時間が掛かった。ギャラリーに見せるためにゆっくり移動していたのもあるんだろうな。
それも漸く過ぎ去って、
「やっと終わったか」
「クロウ、途中から目がショボショボしてたもんね」
『トロトロ進んでんじゃねえよ早く終われよ!』とか思ってた辺りだろうか? 金メダリストとかの有名人なら兎も角、あいつ等俺と同じ学校の人だからありがたみとか全く湧かないんだからしょうがない。
「それじゃあお披露目も過ぎ去ったし、王都散策を再開しよっか! クロウは他に行きたい場所ってあるの?」
「うーん、行きたい場所ねぇ」
最初は色々と見て回ろうと思ってたけど、ぶっちゃけ勇者パレードのせいでそういう気分じゃ無くなっている自分がいる。テンションというか、モチベーションというか、そういうのが下がってる感じだ。
「シロはどこか行きたい場所とか無い?」
「私? 私はクロウと一緒に色んな場所に行ければ良いかなって」
「なにそれめっちゃ尊い」
そんなん言われたら帰るなんて言える訳無いじゃん。
「なら、気を取り直して色々回ってみるか」
「うん!」
シロと一緒に再び歩き出す。……あぁそうだ。あれ聞いておかないと。
「ところでさ、さっき、パレードでローブ渡した時に何か言ってたけど、なんだったん?」
「ふぇっ!? な、なんでもないよ!」
「えぇ? 何その反応。気にならんだけど」
「本当に、本当になんでも無いよ!」
「本当にぃ?」
「うんうん!」
そんな必死に言われても説得力無いけど。なんか恥ずかしそうだな。これはこれで可愛いけど、あんまりやり過ぎるとまた暴走しそうだし、今回は追求しないでおこう。
という訳で、シロと一緒に色々と見て回った。小物やらアクセサリーやら串焼肉やらの露店から、本屋や魔道具屋や武器屋などの店舗まで色々だ。まあ俺が買ってやれたのは串焼肉と安物の指輪くらいなものだったけどな。店員の俺を見る目が痛いのなんの。すまんね、甲斐性無くて。
そして日が傾いた頃、俺とシロは広場にあるベンチに隣り合って座り休んでいた。
「ふんふんふーん」
シロは露店で買った安物の指輪を嬉しそうに眺めている。その様子はとても気に入っているのが伝わって来て、買った俺としても嬉しさを感じる。安物なのが申し訳ないけど。
「楽しかったか?」
「うん! クロウはどうだっの?」
「俺? 俺はまあ、思ってたよりは楽しかったな」
「そっか、良かった!」
シロの笑顔にほっこりする。やっぱりシロの笑顔は(以下略
そう思わせる事が出来るのも、シロの魅力なんだろうな。会ったばかりの頃なんて裏に何があるんだってめっちゃ警戒してたのに、今じゃこんなだしな。
「そういえば、此処でシロと出会ったんだよな」
「え? あぁ、そうだね」
どこか見覚えのある景色だと思ったら、召喚初日に俺が項垂れていた場所だ。しかもベンチの位置までしっかり一緒。凄い偶然だな。
「あの時のクロウ、捨てられた犬みたいな感じだったね」
「そんな可愛くは無かったんじゃね?」
あんなつい拾ってあげたくなるような可愛げは無かった気がする。寧ろ人を遠ざける暗いオーラを纏っていたような。
「あん時シロに助けて貰えなかったら、今頃生きていたかも怪しかったな」
俺に他者を蹴落としてまで生きようとする貪欲さがあったかどうかは分からない。多分出来なかっただろうし、出来ても上手く行ってた自信は全く無い。恐らく冒険者のウッドランクの依頼にあった日雇いのような仕事で日々ギリギリの生活をするしか無かっただろう。
そしてそんな日々に俺の心が耐えられたかも怪しい。
「シロと出会ってからは、そういう不安を考える暇すら忘れてさ」
ベンチから立ち上がって、数歩進みながら過去を振り返る。
これからどうしようなんて考えていたのはシロと出会うまで。そこからはシロは何を考えているのか、どの方向性で生活して行くのか、力をどう使うか、次はどうしようか、と少しずつ前向きに考えるようになって行った。
シロを起点に、俺の未来は良い方に変わっている。そんな気がする。少なくとも先の事を明るく考えられるようになっていた。
「やっぱシロは凄えな」
「そんな事無いよ。クロウが前を向けたのは、クロウが頑張ったからだよ」
「いやいや、これまで全部シロに助けられてるのにそれは無いっしょ。仮にそうだとしても、俺が頑張れたのは間違い無くシロのお陰なんだし」
寝床も食事も
「だからさ、シロには感謝してる訳よ」
それこそ昨日言ったようにな。……ヤバい。自分で言ってて昨日のイキッてた自分を思い出してアババババ! 落ち着け、此処は悶絶して良い場面じゃ無い!
「クロウ……」
感動してくれているシロのためにも、雰囲気をぶち壊す訳には行かない! 落ち着け、落ち着くんだ俺!
それに、言いたいのはそれだけじゃ無いだろ。ちゃんとシロを見て言わないと。
「正直さ、シロには何か、人には言いづらい事情があるんじゃないかと思ってる」
「ッ!?」
シロの顔が一瞬にして強張った。何か知られたくない事に触れられたような、そんな感じの表情。俺はそれを見て、やっぱりな、と納得する。
俺みたいな人付き合いの上手く出来ない奴とこんな簡単に仲良くなれるようなコミュ力お化けに、今まで友達が居なかった時点で何かあるとは思ってた。
もしかしたら思い違いかもしれないと思ってたけど、本当に何かあったんだな。
「あぁ、言いたくないなら無理して言わなくても良いから。言えない事の一つ二つあっても別に気にしないから、シロも気にしなくて良いよ」
このまま放置すると思い詰めたままどこか行っちゃいそうだからな。一応釘は刺しておく。というか、俺だって勇者だった事隠してるからおあいこだし。……忘れてた訳じゃ無いよ? ホントダヨ?
「まあ、何が言いたいのかというと、シロにどんな事情があったとしても、俺を助けてくれたのはシロだって事に変わりは無いっていうか、俺にとって重要なのは今のシロであって過去はそれ程気にしないっていうか……あぁ〜自分で言ってて訳分かんなくなって来た!」
何やってんだよ俺! 此処決める所だろうが俺! めっちゃ締まらない形になっちゃったよクッソ恥ずかしい!
「……フフフ」
ほらシロにも笑われちゃったよ! 余計恥ずかしいわこんなの! なんか顔熱いし、絶対赤くなってるよ!
「えぇ〜要するに! 俺の出来る範囲でなら手を貸すし、多少問題があっても俺はシロを優先するって事!」
恥ずかしさのあまりシロから顔を背ける。これ以上顔あわせてたら恥ずかしさで悶えそうだ。シロが俺の言葉を飲み込むまでの時間で良いから、こっちにも心を鎮める時間を下さい。
「クロウ、ありがとう」
シロの返事を聞いて、再び顔を向き合わせる。『ちょっと早く無い?』とか思ってませんよ?
「私ね、クロウと友達になって、一緒に遊んで、一緒にご飯食べて、一緒に冒険して、すっごい楽しかった」
「うん」
俺もだよ。
「だからクロウが私から離れて行って、また一人になるのが怖くて。本当の事を知ったら、クロウが私の傍から居なくなっちゃうんじゃないかって思ったら、凄く怖くなっちゃって」
「だろうな」
秘密を打ち明けるのは怖い。当たり前の事だ。今まで仲の良かった人が、それ一つで離れて行ったらと思うと、不安でしょうがないだろうさ。
そして個人の価値観にもよるが、その秘密が暗く重い物である程、その不安は大きくなる。人と打ち解けるのが早いシロが此処まで不安になるって事は、相当なものなんだろうな。……なんか今頃になって聞くの怖くなって来た。
「でもね、クロウがそう言ってくれて、嬉しかった。クロウが肩書きとかそういうのを気にしない人だって分かったから」
「……そうか」
伝わってくれたようで何よりだ。話し下手だからちゃんと伝わるか心配だったからな。途中しどろもどろになってたし。
「ねえクロウ。帰ったら、話したい事があるんだ。聞いてくれる?」
「勿論。全然オーケー」
寧ろ受け止める覚悟を決める時間が出来てラッキーまである。
シロはにっこりと笑うとベンチから立ち、俺の横に並ぶ。
「じゃあ、ホテルに戻ろっか」
「そうだな」
二人してホテルの方へと歩き出す。出会ったばかりの頃の、シロに手を引かれるだけだった頃を思い出しながら。
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