第14話〜街へ〜

 翌朝、結局眠気に意識を持っていかれるまで寝付けなかった末に寝不足で目の下に隈を作った俺は、朝食前にテーブルに突っ伏していた。


「ウボァァァ……」

「クロウ、大丈夫?」

「ごめん、ちょっと今はそっとしてくれ」


 心配そうにシロが声を掛けてくれるが、今はそっちの方が辛い。具体的には昨日の出来事を思い出して恥ずかしさで悶え死ぬ。

 あの夜、シロが寝る体勢に入った後、冷静になった俺の頭がついさっき自身で作り上げた黒歴史を思い出したせいで余計眠れなくなってしまった。

 テンションに身を任せた結果、普段なら絶対しない行動を取ってしまった。いや、結果的にシロも喜んでくれたし、俺としても色々と嬉しい感じにはなったんだけど、昨日の俺イキッてたなぁと思うと……今思い出してもめっちゃ恥ずかしい。自業自得なんだろうけどそう思わずには居られない。


「お加減が優れないようでしたら、朝食の時間をずらし、メニューを変更致しますか?」

「いや、良い。別に体調が悪い訳じゃ無いし」


 実際眠気以外は気分の問題だしな。何か美味しい物でも食べれば少しは気も紛れるだろう。


「うーん……あ、じゃあさ、今日は冒険者としての活動はお休みしてさ、一緒に王都を散歩しない?」

「散歩?」

「うん。クロウ、王都の事良く知らないみたいだし、気晴らしには丁度良いんじゃないかな?」


 気晴らしか……初日は観光どころじゃ無かったし、二日目は冒険者稼業で戦闘ばっかだ。それはそれで異世界っぽさを感じて良かったが、全体的に少し殺伐としている。それに余裕も無かったし。

 生活の基盤……と呼んで良いのかは分からないが、取り敢えず明日の心配をする必要は無くなった。ならもう少しほのぼのとした事をしても問題は無い……のか?


「うーん。まあ別にやらなきゃいけない事がある訳でも無いし、折角だから一緒に行くか」

「うん!」


 そんな訳で今日の予定は王都の散策に決まった。行き当たりばったりな気もするけど、別に特定の用事が入ってた訳じゃ無いし、こういうのも有りだろう。


「そういえば、マリアベルはどうする? 一緒に来るか?」

「いえ、私はやる事が御座いますので、単独で行動させて頂ければと」

「やる事?」

「はい。お部屋の掃除、ホテルのサービス内容の把握、食事内容の擦り合わせ。御主人様が快適に生活出来ますよう、居住空間であるホテルについて情報収集をと思いまして」

「おぉう。そうか、分かった」


 思ったより本格的だ。流石は本物のメイドという事なのか。いや、本物のメイド知らないし何をどう捉えて本格的と評するのかも知らないけど。何かそれっぽい気がする。

 ともあれマリアベルは別行動か。となると行くのは俺とシロの二人だな。折角一緒に行くんだし、俺の出来る限りシロを楽しませるか。恩返しと呼ぶには弱いけど、一緒に楽しめれば上々だろう。その辺歩いたり、買い物したり、お店でご飯食べたり。……もしかしてこれってデートって事になるのか? それとも友達だから普通に遊ぶ事になるのか? 良く分かんないな。


「それじゃあ準備したら行くか。それにしても王都って何があるんだろうな?」

「国の中心だし、大概の物はあるんじゃないかな」

「そうか。何か良さげな物があったら買ってみるか。まあお金がそんなに無いからそれ程買えないけど」


 俺の所持金は昨日稼いだ銅貨七二枚だけ。あまり高価な物は買えそうに無いな。


「それなら大丈夫!」

「え?」

「じゃじゃーん!」


 そう言ってまたしても大量の銀貨や銅貨などの貨幣の入った巾着を見せるシロ。


「こんな事もあろうかと、準備してたんだ!」

「Oh……シロさんパネェ」


 これ、最終的には結局シロのお金に頼るパターンじゃん。オチが透けて見えるぞ。




 そんな事がありながらも、俺はめげずに前に進む。というか、もう一々気にしてもしょうがないのではという考えについさっき思い至った。

 だって現時点でどうしようも無いくらいに借りが出来てしまっているんだから、そこから更に恩が重なろうと今更だろ。どうせ現状じゃ返し切れないんだから、今は存分に甘えておこう。いずれ返せるようになったら熨斗のし付けて返す感じで。

 という訳で、開き直った俺はシロと一緒に王都の街に出て来た。俺はカード召喚で手に入れた布の服とズボンを身に付け、その上に全身を覆うローブを纏っている。見た目だけならちょっと上等な服を着た旅商人辺りに見えるだろう。村人っぽい服もあったけど、着心地悪いから諦めた。

 因みに制服はカード化して魔導書にしまっておいた。特に大事という訳では無いけど、今の所一番上等な服だし、必要な時が来るまではしまっておこうと思う。

 シロは白色の服に黒のスカートを合わせた格好だ。見方によってはドレスっぽくて上品に見える。何も言わなければ美しいとすら感じるな。まあ、俺の顔を見てニパッと笑うと、やっぱり可愛さが勝るけど。


「やっぱ騒がしいな」


 どこの国も首都には多くの人が集まるようで、この王都も例に漏れず多くの人が行き交っている。油断すると肩をぶつけそうになるくらいだ。


「そりゃあ国の首都だもんね。でもそれにしても今日は人が多い気がするかな」

「そんなに?」

「うん。少し前まではもう少し落ち着いた感じだったんだけど、今日はいつにも増して活気付いてる気がする」

「何かあるんかね、祭りとか」


 地球でも祭りの日は人が多く集まるし、そういう感じかね?


「うーん。そういうのは無かったと思うよ。あれば何日も前から噂になってるだろうし。だから多分そういうのとは別に、急に決まったイベントがあるんだと思う」

「イベント……なんだろうな?」

「聞いてこよっか?」

「そうだな。どっかで買い物ついでに聞いてみるか」

「うん。じゃあどこにする?」

「そうだな……あの辺のおばちゃんのお店とかどうだ?」


 そう言って指差したのは、何やら野菜やら果物っぽい食べ物を売っている店だ。店番のおばちゃんは快活そうで良く喋りそうだし、果物なら生だろうと移動しながらでも食べられるだろうから買い食いには打って付けだ。どんなのがあるのかも気になるしな。地球と同じ物ってあるかな?


「良いよ。行こっ!」


 そう言って手を伸ばしてくるシロ。これもしかしなくても握れって事ですよね。

 気恥ずかしいけど、シロが良いって言うなら構わないか。俺はシロの手を握ると、シロに手を引かれてお店へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る