第12話〜メイドの責務?〜
その後、一応マリアベルの性能についてはある程度知れたのでカードに戻すかどうか話し合った。いや、マリアベルが戦闘以外にメイドとしても活動出来るのは分かったんだけど、此処俺の家じゃ無くてホテルなんだよね。しかも俺居候なんだよね。
急に一人増えたのがバレると面倒な事になる。だから他のモンスターと一緒に必要な時が来るまでカードになって貰おうと思った訳だ。
しかし此処で俺以外の二人から待ったが掛かった。というか主にシロから。
曰く、『私がホテルの人を説得するから、マリーにはこのまま身の回りの世話をして貰おうよ』との事だ。俺としてはシロやホテルの人達が良いと言うなら構わないし、マリアベルも出来ればこのままで居させて欲しいとの事だったので、結果的にマリアベルには召喚したままでいて貰う事になった。
俺としても美人なメイドさんが居るというのはそれはそれで嬉しいので、召喚しておく事で生じる面倒事さえ無ければ文句は無い。そんなこと言えば変な目で見られそうだから黙っとくけど。
そんな訳でマリアベルについてはそういう形で終わったので、今日やるべき事が終わった俺は、一日の疲れを取るべく風呂に入る事にした。
「ハァ……今日は疲れたぁ」
体を洗うためにシャワー傍の椅子に腰掛ながら、不意にそんな言葉が漏れた。
昼間は外を歩き回って魔物と戦い(俺自身は戦ってない)、夕方からはシロのために飴玉出るまでひたすらガチャり(指動かしただけ)、最後にマリアベルを召喚して色々と話したり(召喚しただけで実質何もしていない)……あれ? 思ってたより何もやってない感じ? ただ俺の体力が無いだけ?
……いや、きっと慣れない事を色々やったから気疲れしたんだろう。気疲れもちゃんとした疲労だ。だから疲れている事には変わりない。そういう事にしよう。
それよりもだ。これから体を洗う訳だが、今回はある物を使う。
「えーっと……あった、これこれ」
召喚の魔導書である物を召喚する。それはシャンプーとボディーソープだ。
この世界でも石鹸はあるが、あまり泡立ちは良く無いし、香りも微妙と品質が良く無い。正直綺麗に洗えた気にならなかったんだが、これさえあればそんな不満からも解放される。
「まさかこういうのをありがたがる日が来るとはな」
ある意味モンスター召喚よりも重宝している気がする。地球の物が使えるだけで生活の質が格段に上がるからな。文明の差を感じる。
……さて、感慨に
────コンコンコンッ
『御主人様。失礼します』
「え?」
俺の返答を待たずに浴室の扉が開き、体をタオルで隠したマリアベルが入って来た。
「ちょっ!?」
「お背中をお流しします」
「いや、自分で出来るから良いって!」
「それはいけません。背中の方は手では届きません。私がやりますので、御主人様はそのまま座っていて下さいませ」
「タオルを使えば大丈夫だって!」
「それには及びません。全て私が行いますので」
「いや、だから……!」
「問題ありません」
マリアベルの顔がずいっと近付けられる。端整な顔立ちが目の前にまで迫って……こんな風に顔を突き合わせた事なんて無いから緊張で心拍数ががががが!
「私に、全て、お任せを」
無表情のまま、平坦な声で、マリアベルがそう言って来る。
感情が読み取れるような変化が全く無いから、マリアベルが何を思ってこんな事を言っているのかさっぱり分からない。単純にメイドとしての義務感なのか、それとも何か別の意図があるのか。
ただ引く気が無いのはなんとなく分かった。命令すれば引いてくれるかもしれないが、嫌いでも無い相手に無理矢理行動を強制するのはこっちの気が引けた。
「……早めに終わらせてくれよ」
「かしこまりました」
そう答えて、マリアベルは石鹸……では無く、俺が召喚したシャンプーとボディーソープを手に取った。
「使い方分かるのか?」
「はい。召喚の際に、御主人様の知り得る基礎的な知識はある程度与えられておりますので、このような道具の使い方も知識として覚えております」
「さよか」
此処に来て新事実発覚だ。魔導書にはスキルに関する事しか分からないから、こういう細かい事は実際に確かめてみないと分からなかったりする。親切なのか不親切なのか分からないな。
「では先ず、頭の方から洗わせて頂きます」
「はーい」
洗い易いように顔を下にして目を瞑る。こうすればマリアベルを見る事が無いから安心だ。今のマリアベルはタオル一枚しか身に付けていないからな。直視するのは色々とまずい。
そんな訳で目を瞑ったままマリアベルに体を洗って貰う事になった。いきなりの事で変に緊張してしまったが、最初は普通に頭を洗われた。
「痒い所は御座いませんか?」
「大丈夫。良い感じ」
一通り出来ると言うだけあって、その腕は確かなものだった。毛が引っ掛かって痛くなったりしないし、強過ぎず弱過ぎず良い塩梅の力加減で洗って貰う感覚は悪く無い。
「そうですか。ではこのまま続けさせて頂きます」
マリアベルはそれだけ言って洗髪を続ける。その状況はなんて事無い、ただ普通に洗って貰っているだけだった。誰だよメイドさんに背中流して貰うって状況で変な妄想した奴。……俺だったわ。
というか、それだったらメイド服着てても良くね? なんでタオル一枚なんだよ。変に緊張してしまったじゃねえかよ。
「お湯をかけますので、熱かったら仰って下さい」
「はいよ」
そうしてシャワーで泡を流して貰い、次に背中を洗って貰っている訳だが、それも特に変な意味は無く普通に洗われるだけで特に変な事は起こらない。
最初こそ緊張していたけど、何も変な事は無いと理解出来ればその必要も無い。洗い方も丁寧だし、これなら今後もマリアベルにやって貰っても……いや待て、ただでさえ生活面でシロのお世話になってるのに、そこから更にマリアベルに身の回りの世話をさせたら、俺本当に何もしないダメ男になってしまうんじゃ?
それは困る。楽出来るのは良いんだけど、周りの目が怖い。うん。やっぱり最低限の事は自分でするようにしよう。
「御主人様、如何なされました?」
「えっ!? いや、なんでも無い。ちょっと考え事してただけ」
「そうでしたか。お邪魔したようで申し訳御座いません」
「いや、気にしなくて良いよ。特に重要って程じゃ無いから」
寧ろ第三者からしたらとても下らない事考えてたまであるし、マリアベルが気にするような事じゃ無い。
「そうでしたか。では、次は前の方を洗わせて頂きます」
「え?」
「脇の方、失礼します」
「ちょっ!?」
静止する前にマリアベルの腕が脇の下を通って前の方へと回される。しかもその際マリアベルの体が俺の背中に限り無く近くなり、背中の方にマリアベルの感触ががががが……!
「いや、良いから! 前は自分でするから!」
「いえ、これは私の責務ですから」
「なんでそんなマジになってんの!?」
人の体洗うだけでそこまで本気になる必要ある!? 主人が良いっつってんだから退いとけや!
「御主人様大人しくして下さい。上手く洗えません」
「ヒュイ……!?」
マリアベルが俺の動きを止める為にしがみ付いたせいで余計体が密着して……! ヤバい、意識したら鼻血出そう!
「あぁ! 二人だけでお風呂なんてズルい! 私も一緒に入る!」
「いや、そういう訳じゃなブァァァァ!?」
そしてそこへ追撃の如く、騒ぎを聞き付けたシロが風呂場に乱入して来た。更に自分だけ除け者にされたと思ったのか、俺の弁明も聞かずにその場で着ていた服を脱ぎ捨てて入って来てしまった。
マリアベルに取り押さえられた俺に拒む術は無く、結局三人で一緒の湯船に入る事となった。その間、俺は大事な所をタオルで隠したまま、一切タオルを外す事はしなかった。え? 風呂にタオル入れるのはマナー違反だって? 煩え! 俺の尊厳の方が大事なんだよ!
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