第11話〜マリアベル〜

「さて、ご飯食べたし。召喚するか」

「うん!」


 気を取り直して、マリアベルの召喚を行う。夕飯はしっかり食べたからな。もう邪魔は入らないぜ。

 魔導書からマリアベルのカードを取り出す。いざ召喚するってなると緊張してきたな。今までは魔物っぽいもの言わぬモンスターだったから何の躊躇も無く召喚して命令してたけど、人を召喚するとなると……人付き合いは得意じゃ無いんだよね。シロとは会って二日で結構気安い関係になっているけど、それはシロが取っ付き易いようにしてくれていたからで、俺が頑張った結果じゃ無いし。

 まあ良いや。万が一性格的に合わなかったらカードに戻しておけば良いんだし。

 マリアベル召喚を決めると、毎度の如くカードが淡く輝き出し、目の前に魔法陣が出現する。

 そして魔法陣からヌルッと……出てこない。

 あれ、失敗か? と思ったら、魔法陣の中央に光の粒子が集まっていく。これ、モンスターによって出現方法違う感じ?

 光の粒子は人の姿を形作り、次の瞬間にはイラストと同じ姿をしたマリアベルが現れた。


「おぉ……!」


 そういえば昼間の召喚の時は戦闘時でそれどころじゃ無かったけど、こうしてまじまじと召喚されるのを見るのは初めてだったな。

 シャドウの時には漠然としか感じなかったし、アイテムはモンスター召喚とはなんか違うし。事実上はっきりとカードからキャラが召喚されるのを見るのはこれが初めてだ。正直言ってちょっと感動してる。

 マリアベルは閉じていた目を開けて俺とシロを見る。そして俺に視線を合わせると一礼して綺麗なカーテシーを披露した。


「初めまして御主人様。召喚により参上致しました、マリアベルと申します。この身この命、御主人様のお役に立てて頂ければ、幸いに存じます」


 澄んだ綺麗な声、所作も一挙手一投足流れるようで美しく、その美貌も相まって息を呑む程美しく感じる。それこそ言葉を忘れて見惚れる程に。

 それでいて出るとこは出ていて、メイド服越しでもはっきりと分かる程色気のある体付きをしている。見てるだけで前屈みになりそう。


「……クロウ?」

「ハッ……!」


 隣のシロに呼ばれて漸く我に帰った。マリアベルは俺の返事を待つかのように頭を下げて微動だにしていない。どういう風に答えれば良いか分からないけど、何か言った方が良いのは確かだろう。でないとマリアベルずっとこのまま動かなそうだし。


「あぁ、うん。俺はクロウ。宜しく」

「はい。宜しくお願い致します」


 緊張してまともに話せない俺に上手く合わせて返してくれるマリアベル。なんというか、コスプレとは違う本物のメイドさん相手にしてるみたいだ。本物のメイドさん知らないけど。


「私はシロ! クロウの友達だよ。宜しくね!」

「はい。宜しくお願いします、シロ様」


 そしてそんなマリアベルになんの躊躇いも無く距離を詰めて行くシロ。俺と違ってコミュニケーション能力高いなぁ。俺にはそんなすぐには無理だ。


「ねぇねぇ、マリーって呼んで良い?」

「はい。お好きなようにお呼び下さい」


 もうあだ名呼びかよ。本当にコミュ力あるなぁ。


「マリーはご飯食べる?」

「いえ、この体では食事は必要無いようですので、お気になさらず」

「そうなんだ。でも必要無いだけで食べられはするんだよね?」

「はい。味覚は正常に機能しますし、食事自体は可能ですので、必要であれば毒味なども可能です」

「うーん、そういう事じゃ無くてさ……」


 いや、早くね? 距離詰めんの早くね? その人俺のメイド……っていうか召喚モンスターだよね? もうシロの方が仲良いまであるんですけど。

 というかシロのコミュ力が高過ぎる。そんな性格で今まで友達居なかったってマジですか? 逆にどんな生活してたんだよ。


「とにかく、必要があれば一緒にご飯食べてくれるんだよね?」

「はい。必要があればの話ですが。それに私は従者。御主人様の許可無く食事を摂る事はありませんし、万が一食事の席を共にする事があっても、御主人様への奉仕を優先させて頂きます。これが私に出来る最大限の譲歩です」

「そっか、分かったよ。ところでさ、マリーはどんな事が出来るの?」


 おっと、これは俺も知りたい事だ。メイドっていうからには家事とかは出来るんだろうけど、戦闘に関してはどの程度強いのか分からないとどう扱って良いか分からないからな。その辺を先に聞いてくれるシロさん流石っす。

 マリアベルも俺が話を聞く姿勢に入ったのを感じ取ったのか、チラッとこちらを見てから話し出した。


「炊事、洗濯、掃除、その他の雑事など、使用人としての技能は一通り行えます。また最低限ですが護身術程度であれば嗜んでおりますので、平時における警護も熟せます」

「最低限っていうのは具体的にどの程度なんだ?」

「そうですね。この国の戦士の練度がどの程度なのか把握しておりませんので確かな事は申せませんが、一般の兵士や盗賊相手であれば負ける事は無いかと。騎士団長クラスであれば難しいでしょうが、地の利を活かせれば勝つ事も出来るかと思います」

「おぉ、それは凄いね。国の規模にもよるけど、騎士団長クラスなら大抵シルバーランクの冒険者以上の強さがあるから、マリーは実質シルバーランク相当の力があるって事になるね」

「それは確かに凄いな」


 少なくとも今の手持ちのモンスターの中では個人戦力としては一番強い。ブロンズランクの魔物ならマリアベル一人で完封出来るかもしれないな。相性の問題もあるだろうから一概には言えないけど。その辺は機会を見て尋ねてみる事にしよう。……チャンスと覚悟があればね。

 ところで暗殺メイドなのに暗殺術については何も言わないのか。なんか言いたく無い理由でもあるんかね? 気にはなるけど……地雷踏む危険性があるから触れないでおこう。

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