第8話〜リザルト〜

 それから空が赤くなり始めるまで、周辺で魔物を借り続けた。最初こそ苦戦したものの、そこから先は三体一緒に戦わせるようにしたからか、危険を感じるような事にはならなかった。

 結果としてブラックブルを二体に、頭に角が生えた兎の魔物のホーンラビット三体、倒した魔物を横取りしようとした鳥の魔物のスカベンジバード五体を倒した。他の冒険者の平均がどのくらいかは知らないが、決して少なくは無いだろう。


  クロウ アカツキ

 職業:冒険者 LV:5


 ついでにレベルも上がっている。倒したのはシャドウなのに経験値は俺にも振り分けられたらしい。更に職業も冒険者になっていた。嬉しい。

 それに魔導書の機能で魔物の死骸を丸々持って帰れるのは大きい。実は最初のブラックブルを倒した時点でどうやって持って帰るかという話題になったんだが、その時に魔物の死骸をカード化出来る事が判明した。

 実際には魔物の死骸に限らず入手したアイテムをカード化する機能なんだけど、お陰で素材を余す所無く持って帰れる。流石に消費したアイテムはカード化出来ないけど。


「いやぁ、魔物を全部持って帰れるって良いよな」

「そうだね。大きな魔物になるとどうしても捨てなくちゃならない部分は出て来るからね。それを全部持って帰れるのは大きいよ」

「オマケに解体機能も付いてるしな」


 カード化したブラックブルの死骸を魔導書に収納すると、そのカードに対して解体が行える事が分かった。

 試しに解体機能を使ってみると、一枚のカードからそれぞれ肉、骨、角、魔石、毛皮などに分ける事が出来た。


「まあ一気に全部売るのは危険な気がするから、最終的に売るのは手に持てそうな部位だけになるけどな」

「え? なんで?」

「いや考えてみるとさ、魔物を召喚したり、倒した魔物の死骸をカード化して持ち歩いたり、そういうスキルってバレると嫌でも注目されるじゃん? 俺あんまり目立ちたく無いんだよね」


 性格っていうのもあるんだけど、一番の問題は俺を追放した王城の連中に知られる事だ。物を収納して持ち運べるという能力は非常に有用だ。大人数で移動する際、必要な食料や水を俺が収納するだけで移動がかなり楽になるだろう。そんな能力を俺が持っていると知れば、なんらかの方法で連れ戻そうとする可能性を否定出来ない。

 俺は俺を放逐したあいつらに利用されるのは御免だ。だから少なくともこの王都で俺の存在が目立つような事はしたくなかった。


「そっか。じゃあ売るのは魔石と角と毛皮とくらいで良いんじゃないかな」

「その辺が妥当だな」


 正直ウッドランクがブロンズランクの魔物を倒してる時点で話題にはなる気がするけど、売らないと金も手に入らないから、その辺は妥協しよう。


「じゃあシャドウ達はカードに戻しておくか」

「あ、待って!」


 シャドウ達を戻そうと魔導書を出したら、シロから待ったが掛かった。


「どうした?」

「王都に着くまでは魔物に襲われる危険性があるから、まだ召喚しておいた方が良いと思うよ」

「でもそうなると、人に見られた時に面倒じゃないか?」


 下手に魔物を引き連れていたら、見つかった時に騒ぎになるかも知れない。従魔だと説明すればその場は逃れられるだろうが、間違いなく王城に伝わってしまうだろう。

 それなら多少危険でも早めに隠してしまいたい。


「シャドウ系の魔物は影の中に隠れる事が出来るから、クロウの影に紛れ込ませておけばバレる心配は無いよ。魔物を弾く結界があるから門を潜る前には戻す必要があるけど」

「なるほど、じゃあ王都に入る前に戻すか」


 という訳でシャドウ達には俺の影に入って貰う。するとシャドウ達はヌルッと俺の影に入って行った。

 感覚的に違和感は感じなかった。少しばかり影が濃くなったかなと感じた程度だ。


「思ったより分かんないもんだな」

「ある程度の強者だと一目でバレるけどね」

「その辺は気を付けないとな」


 下手に魔物を忍ばせていたとバレたら大変だからな。使う時は慎重にしないとな。




 そんな訳で来た道を戻って王都の冒険者ギルドへと戻って来た。ウッドランクの俺が手ぶらで戻って来たのを見て衛兵が憐憫れんびんの目を向けていたが、ちゃんとポケットに入ってるんだよなぁ。


「買い取りお願いします」

「はい。それでは素材を出して下さい」


 受付でブラックブルの魔石と角を提出する。毛皮を出さなかったのは事前にカードからアイテムに戻した時、やけに綺麗な状態で出て来たのを見て止める事にしたからだ。どうやって剥ぎ取ったんだと聞かれても説明出来ないし、実際にやれと言われても出来ないしな。


「これは……ブラックブルですか?」

「えぇ。運良く倒せまして」

「そうですか。それは運が良かったですね。本来ならウッドランクではとても危険な魔物ですので、気を付けて下さいね」

「はい。分かりました」


 まあどうせ次も狩って来るんだけどね。シャドウ達に任せればブロンズランクでも倒せる事が分かったし、このまま戦力を強化していけば安全性は更に上がるからな。


「はい。それでは合計で七二ガルツになります」

「はい」


 外に行く途中にあった露店の串焼肉が銅貨三枚、三ガルツだったのを思うとそれなりの儲けに感じるが、カード召喚にはまだ足りないな。もう一度ブラックブルの素材を売ればガチャ一回分に届くか……鉄の剣とか売った方が金になるのかね?


「そうだ。今日の宿どうしよう」


 ギルドを出た段階で、ふと今日の寝床を決めていない事を思い出した。一応多少はお金があるからそれなりのグレードの宿に泊まれるだろうけど……最初に泊まった最高級ホテルと比べてしまうとどうしても見劣りして感じてしまいそうだ。あのベッド凄いフカフカなんだよなぁ。俺の家のより品質良いかも。


「え? 今日も一緒に泊まるんじゃ無いの?」

「え? でも何日も世話になるのは流石に悪いんじゃないか?」


 シロと居るのは楽しいし、あの最高級ホテルに泊まれるのは寧ろありがたいんだけど、あのホテル幾らするんだろうか?

 かなり高いのだけは分かる。少なくとも銅貨で払える範囲では無いのだけは確かだ。

 そんな場所に何日も金の無い人間を止めるのは問題あるんじゃないか?


「そんな事無いよ。クロウは私と一緒に泊まるの嫌?」

「その言い方はズルくないか?」


 当の本人が望んでいるのに強く断る訳には行かないだろう。俺自身嫌という訳じゃ無いし。……いや、最高級ホテルにまた泊まれてラッキーとかでは無いよ? 本当だよ?


「分かったよ。今日も世話になるよ」

「うん! じゃ、行こ!」


 シロに手を引かれ、ホテルに向かう。なんというか、徐々にシロが居ないとダメな人になっていってる気がするな。気を付けないと本当にヒモになってしまいそうだ。

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