第7話〜初戦闘〜

 シロの言っていた通り、王都の出入りは冒険者カードを見せれば通行料は掛からなかった。お陰で無一文でも問題無く街から出る事が出来た。


「ところでさ、この辺に初心者でも安心して出来る狩場ってあったりすんの?」


 正直言って周辺の地理とかさっぱりだから、その辺詳しそうなシロに尋ねる。


「王都からある程度離れれば、街道から外れた場所に魔物が居る事があるよ」

「ある程度ってどのくらい?」

「うーん、今の時間だと、日が少し傾くくらいには着くかな」

「うわぁ……」


 って事は一、二時間程度か。結構長いな。いや、車とかの無いこの世界じゃ普通なのか? 悩んでても仕方ない。行かなきゃ始まらないんだし。


「じゃあ行くか」

「うん!」


 という訳で我慢して歩く事一時間。思っていた異常にしんどかった。今まで二十分以上歩き続けた事なんて殆ど無かったからな。もう足が棒になりそう。

 良い加減歩くのも面倒になって来た頃、漸くそれは現れた。真っ黒な巨体に鋭い角。血走った目をした闘牛のような見た目の魔物だった。


「これが魔物?」

「そう。あれはブラックブルっていう魔物だよ」


 黒い牛か。なんかゴブリンとかそういうのを想像していた俺としてはいきなり強敵を寄越された感があるんですけど。


「どのくらい強い?」

「ランク的にはブロンズランク。ウッドの二つ上のランクの冒険者が六人くらいで相手するような強さだね」

「いきなり強すぎん?」


 こちとらウッドランクで実力もランク相応にしか無いんですけど? 見てくれよあのブラックブルの巨体とそれに見合った雄々しい角。あんなので突進でも食らったら怪我じゃ済まないぞ俺。


「因みにランクだけならシャドウナイトも同じブロンズランクの魔物だよ?」

「なら大丈夫か」


 同じブロンズランクなら一方的にやられるという結果にはならない筈だ。……あ、ブラックブルがこっちに気付いた。

 直ぐさま召喚の魔導書を起動。保管したカードの中から黒いもやを纏った漆黒の騎士が描かれたカードを取り出す。


「初陣だ。頼むぞ……!」


 カードが淡く輝き、すぐ傍の地面に魔法陣が発生。そこから絵柄と同じ姿をした魔物が地面から生えるように現れた。


「─────ッ」

「ブモォォォォォ!!」


 ブラックブルも危険と判断したのか、いきなり現れたシャドウナイトにターゲットを変更。シャドウナイトに向けて突っ込んで来る。

 直接ぶつかるのは危険だろうと、シャドウナイトに頭の中で避けるように指示を出す。するとシャドウナイトは指示通りにブラックブルの突進を横に跳んで回避した。

 シャドウナイトを召喚した時に判明した事だが、どうやら従魔……なんか違和感あるからモンスターと呼称するが、召喚されたモンスターにはある程度命令する事が出来るらしい。

 例えばただ『敵を倒せ』と命令すれば、モンスターはオートモードみたいに自律して戦闘を行う。そこへ『危険だから慎重に行け』と命令すると、積極的な攻撃を避けて確実に攻撃を当てる戦法へと変わる。

 他にも色々と指示は出せそうではあるが、残念ながらそんな余裕は無い。ブラックブルは何度も突進を敢行し、それをシャドウナイトが躱す光景が何度も繰り返される。

 気を抜いたらこっちシャドウナイトが先にやられそうで、油断出来ない。思っていたよりもシャドウナイトの動きがぎこちないんだよな。


「というか、なんか元気無くね?」


 最初は気付かなかったが、よく見るとシャドウナイトが縮こまっているように見える。なんか居心地悪そうというか、立ってるだけで辛そうというか。


「シャドウナイトは元々暗がりに生息する魔物だからね。明るい場所は苦手なんじゃないかな」

「マジでっ!?」


 苦手な環境に召喚すると弱体化すんの!? いや、理屈は分かるけど、このタイミングじゃ無くて良くない!?


「────ッ!?」

「あっ!」


 意識が戦闘から逸れている間に、突進を避け損なったシャドウナイトが吹き飛ばされ、地面にしたたかに落下して派手に転がった。


「やっべ! やられたか!?」


 まさかの一撃死を危惧したが、どうにか踏み止まったらしい。消える事無く、なんとかして起き上がろうとしている。

 だがダメージは無視出来ない。シャドウナイトの起き上がり方が見るからに大怪我負ってるような感じだ。多分後一撃食らったら終わりだ。ブラックブルもトドメを刺そうとシャドウナイトに向かって来る。


 ────させるかよ!


 俺は更に二枚のカードを取った。シャドウナイトと一緒に出て来た二枚のシャドウアサシン。これを召喚する。


「行けっ!」


 魔法陣からヌルッと出て来るシャドウアサシン達に命令すると、二体はすかさずブラックブルへと向かって行く。

 ブラックブルは前しか見えておらず、結果シャドウナイトへと向かい突進するブラックブルの横合いから、シャドウアサシンの不意打ちが決まった。


「ムォォォォォ!」


 攻撃をモロに食らって怯むかと思いきや、寧ろ激昂してシャドウアサシン達にターゲットを変更した。

 しかし弱体化しているとはいえアサシンだけあって身軽で、ブラックブルの攻撃を巧みに躱している。そうこうしている内にシャドウナイトが戦線に復帰、戦力比三対一で一気に優勢になった。


「取り敢えずこれで負ける事は無いだろうけど……」


 流石は筋肉質な外見のブラックブル。見掛け通りタフで、シャドウ三体の攻撃を少なからず受けても元気に暴れ回っている。このまま待っていても勝てるだろうが……此処は一つ試してみよう。

魔導書から一枚のカードを取り出す。ガチャの段階でおおよそ把握していたが、魔導書から召喚出来るカードには三種類存在している。

 シャドウナイト達モンスターを召喚するモンスターカード、飴玉や鉄の剣などの道具を召喚するアイテムカード、そして敵や味方になんらかの影響を与える効果カードだ。

 アイテムカード、モンスターカードの召喚は試した。なら効果カードも試してみても良いだろう。

 カードについて詳しくは見てないから知らないけど、ニュアンスである程度予想が付くなら大丈夫だろう。


「『スタンショット』!」


 カードを起動。高速で射出された雷撃がブラックブルを直撃。スタンショットの効果でブラックブルの動きが止まる。予想通り、敵の動きを止める類の効果だった。

 動きが止まった哀れな牛さんに、シャドウ三体が総攻撃を仕掛ける。流石のタフ牛も急所がガラ空きではどうする事も出来ず、硬直が解けると同時に倒れ伏した。


「フゥ……」

「おめでとうクロウ! 初戦闘でブラックブルを倒すなんて凄いよ!」

「あぁ、うん。ありがとう」


 まあ俺はモンスター召喚しただけで直接戦った訳じゃ無いんだけどな。でもこれなら、この世界でもどうにかやって行けるかもしれない。

 一番ランクの低いカードでもブロンズランクの魔物を討伐出来たんだ。ならもっと上のランクなら更に強い魔物でも倒せる筈。

 やってやるさ。可能性が見えてきたんだからな。

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