第6話〜冒険者ギルド〜

 シロが飴を舐め終わるのに掛かった時間は、遅めに見積もっておよそ数分程度だった。


「はぁ、美味しかった! クロウの故郷って凄いね。こんな美味しいお菓子があるんだもん」

「喜んでくれたようで良かったよ」


 飴玉一つで此処まで喜んでくれるなら安いもんだ。……いや、シロが用意した金なんだけどね。


「他にも鉄の剣とかのアイテムカードと、シャドウナイトみたいな従魔のカードも出て来たな」

「ふーん。それなら武器と従魔で冒険者になるか、召喚した道具を売る商人になるのが良いんじゃないかな。シャドウナイトならある程度こなれた冒険者が複数人組んで相手にするレベルの強さだし、戦力としても護衛としても十分使えるよ」


 シャドウナイト思ってた以上に強いんだな。初心冒険者の相手する魔物なら完封出来そうだ。


「なら……両方やってみるとか出来るんかね? 普段は冒険者として活動して、アイテムが余って来たらそれを売って金にするとか」

「うーん、やってる人は居ないだろうけど、出来なくは無いと思うよ。どちらかにしか入れないって決まりも無いし、片方にしか入らないのだって、扱う品が被らないのが理由なんだしね」


 シロが補足してくれた話によると、冒険者が扱うのは主に討伐した魔物の素材や自然から採取した薬草とかで、商人が扱うのは食料品や道具などの物品が主だから、基本的に片方に入っていれば事足りる事が多いらしい。


「両方の品を扱える俺なら可能かもしれないって事か」

「そういう事だね。ただ余った武器や道具を売るだけなら、別に商人になる必要は無いかもしれないよ?」

「……それもそうだな」


 公的に商人になった方が物を売る時に楽かと思ったけど、別に店を出す訳じゃ無いならギルドに所属する必要は無いのか。

 それに今思い出したけど、こういう世界だと商人ギルドに所属するには年会費とか必要な場合があるんだよな。

 だとしたら商人になるのは冒険者としてやって行くのが厳しい場合にした方が良さそうだ。


「じゃあ冒険者になるか」

「うん、それじゃあ行き先は冒険者ギルドだね。早速着替えたら行こっか」


 という自然な流れでシロにギルドまで連れて行って貰う流れが決まった。……なんかもう、シロが居ないと何も出来ないんじゃ無いかとすら思えて来たな。




「此処が冒険者ギルドだよ」

「おぉ……」


 連れて来られたのは石造りの大きな建物だった。見た感じギルドというよりは市役所みたいな感じにも見れる。一応冒険者ギルドを示す剣と槍が交差した感じの看板がデカデカと掲げられているんだけど……一人だったら絶対気付かなかった自信がある。

 最初は酒場と融合した感じのを連想していたからな。流石に国の中心である王都にあるものが木造の見窄みすぼらしい感じじゃ沽券に関わるんだろうかね。

 中は外観と相応に小綺麗な感じだった。若干質素に見えるが、それはこの世界に来てから見た建物が王城と最高級ホテルだからなのは言うまでも無いだろう。比較対象がおかしいだけだ。

 しかし中にいる人達は冒険者らしい武装した人達が多い。しかも装備の質はある程度しっかりしている人ばかりで、俺みたいに制服のみで防具一つ身に付けていない方が目立ちそうだ。一見すると、俺とシロは依頼をしに来た一般人にしか見えないだろうな。


「ようこそ冒険者ギルドへ。御依頼ですか?」


 ほらな。受付に行くなりこんな事を言われた。


「違うよ? 私達は冒険者に登録しに来たんだよ」

「え?」


 シロも? シロも冒険者になるの?


「そうでしたか。ではこちらの書類に御署名をお願いします」


 差し出された書類には、冒険者になる事を了承する旨の文言が書かれていた。つまりは契約書だ。


「クロウ、字は読める?」

「大丈夫」


 召喚された影響か、文字の読み書きは出来るようだ。文字を見ると勝手に頭の中で翻訳される感じだし、書く時もどういう風に書けば良いのかがなんとなく分かる。

 契約書には『この書類に署名する事で冒険者となる』という宣言のような内容と、冒険者として相応しい振る舞いをする事を了承する事が書かれていた。

 こう言っちゃなんだけど、契約書としてはかなり大雑把だな。冒険者らしい振る舞いってなんだ?


「ところで、シロも冒険者になるの?」

「うん。折角だから一緒になろうかなって。そうすればクロウと一緒に居られるしね」

「それは嬉しいんだけど……冒険者って危険なんだよな? 大丈夫なの?」


 喧嘩の経験すら殆ど無い俺が言うのもなんだけど、シロも荒事に向いているように見えないんだよね。実は華奢な見た目の割に超強かったりするのか?


「大丈夫! こう見えても一応魔法が使えるから、護られるだけって事にはならないと思うよ」

「そうか」


 シロって思ってた以上に万能なのな。お金持ってるし、社交的だし、魔法も使える。それに可愛いし。

 兎に角、シロが戦闘で弱点になるような事にならないなら大丈夫だろう。ただでさえ戦闘に関して素人なのに、いきなりシロが襲われたりしたら、助けられるか分からないからな。色々世話になってるのに、怪我されたりしたら余計に申し訳ないし。

 何はともあれ、冒険者の登録を済ませよう。署名には『クロウ』とだけ書いておいた。苗字を書いて俺の存在に気付かれると面倒だしな。クロウだけなら例えクラスメイトでも俺の存在に行き着く奴は少ないだろう。そこまで仲の良い奴は地球にすら居ないしな。……悲しくなんて無いよ?


「それでは、こちらが冒険者カードとタグになります」


 契約書署名から暫くして、受付の人が持って来たのは俺の名前やランク、更新日時の書かれたカードと、ランクを示す木のタグだった。


「お二人は初回登録でしたので、ウッドランクからのスタートとなります。受けられる依頼はウッドランクのみとなりますので、予めご了承ください」

「ウッドランクの依頼ってどんなのがあるんですか?」

「基本的には街の手伝いのような内容が殆どですね。街の清掃、荷物運び、店の手伝いなどが主です」


 そう言って依頼内容の書かれた紙を提示してくる。本当に手伝いだな。依頼が少ないのか? それとも初心者でも出来るようにって事か?

 いきなり危ない橋を渡らなくて済むのは良い事なんだろうが、いかんせん報酬が安い。依頼一つで銅貨数枚程度じゃ複数こなさないと相当質素な暮らしを強いられる事になる。

 最初はしょうがないのかもしれないけど、なにせ最高級ホテルに泊まってしまっているからな。いきなり安宿は反動がデカい。耐えられるだろうか?

 そんな事を考えていると、シロに袖をチョンチョンと引かれた。引かれるがまま背中を丸めて頭を低くすると、シロが耳元でヒソヒソと囁く。


「私に考えがあるから、一先ず此処を出よっか」


 シロもこの報酬には思う所があったんだろう、何か別の案を用意してくれた。俺は了承の意味を込めて軽く頷く。


「じゃあ一度仲間と相談してから、受ける依頼を決めようと思います」

「分かりました」


 適当な所で話を終わらせて冒険者ギルドを出る。


「それで、考えってのは?」

「さっき冒険者ギルドを見回して気付いたんだけど、冒険者ギルドって依頼の仲介とは別に魔物の買い取りもやってるんだよね」


あぁそういうの創作物では良くある話だな……ってかシロさんあの数分でそんな事まで気付いてたんですか。注意力凄いっすね。


「つまり依頼を介さずに魔物を仕留めて、それを売っぱらえば良いって事?」

「うん。冒険者になっちゃえば街の出入りはタダだから、それを利用して外へ出よう。後はクロウのスキルの確認がてらどこかで魔物を狩って、売れそうな物を売るって感じかな」

「なるほどな」


 それならスキルの確認と金稼ぎの両方を熟せる。態々依頼を受けてやる必要も無いのか。


「じゃあそれで行くか」

「うん! 行こう行こう!」


 シロと一緒に、街の大通りを歩く。向かう先は王都近郊の魔物の生息域。何だか冒険の始まりって感じがするな。ちょっとワクワクして来た。

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