第5話〜召喚の魔導書〜
数分程幸せそうにしていたシロをただ撫でるだけの時間が流れていたが、途中でハッと我に帰ったシロによって話を本筋に戻す事になった。
「それで、これを使えば何かしらのスキルが手に入るんだなよな?」
「うん、そうだよ」
手に持った小さなガラス玉のような物体、スキルオーブを見ながら確認を取る。
手に入るスキルは完全にランダム。つまり場合によっては何の役にも立たないスキルが手に入る可能性があるという事だ。
あまりくじ運の良く無い俺には不安しか感じない。最後に大吉引いたの何年前だっけ?
「使えないスキル引いたらどうしよう」
「完全に使い物にならないスキルは無いから大丈夫だと思うよ。直接戦闘に使えないスキルでも、補助系ならそれを活かして戦えば良いし、非戦闘系ならそれで生活する方針が決められるからね」
「それもそうか」
異世界だからと勝手に冒険者を基準にしていたけど、別に無理して冒険者になって戦う必要も無いんだよな。最悪食いっぱぐれなきゃ良いんだし、商人や職人に弟子入りするのも選択肢としてはありなんだ。
まあそれも手に入るスキル次第だけどな。ガチガチの戦闘系スキルだったらそれを役立てる方が確実だろうし。
「じゃあ使うな?」
「うん」
「……ところでなんだけどさ」
「ん? 何?」
「これ、どうやって使えば良いんだ?」
そういえばこれの使い方を聞きくの忘れてた。一瞬握り潰せば良いのかと思ったけど、それで違ってたらロストして終わりだからな。
「あぁ、そういえばスキルオーブも知らないんだから、使い方も知らないよね。それはね、使用するっていう意志に反応して自動的に使用されるようになってるんだ。つまり、手に持って『それを使ってスキルが欲しい』って念じると、オーブが起動してスキルが手に入るよ」
「そ、そうなんだ……」
一体どういう機能で使用意志を判断してるんだと思わなくも無いが、そういう事は魔法的な何かだと思っておいた方が良いんだろうな。それを言ったら念じるだけで技能が身に付くとかどういう理屈だよって話だし。
兎に角、使い方は分かったんだし、スキルガチャしますか。
「じゃあ、今度こそ使うな?」
「うん。どうぞ」
言われた通り、手に持って『スキルが欲しい』と念じてみる。
すると俺の意志に反応してか、オーブが白い光を放ち始めた。
「おぉ……」
なんだか豆電球の実験みたいだなと一瞬思ったが、次の瞬間光が銀色に変わった。
うわっ、本当にガチャみたいだ。だとしたらレア確定って事か?
と、呑気に考えていたのも束の間、銀色の光は更に黄金色の光へ、
「え?」
更に虹色の光に変化した。
「……マジで?」
ガチャで言う所のSSレア確定とも取れる所で光の変化が終わり、虹色の光が視界を埋め尽くす。
光が消えて視界が戻ると、手の上にあったスキルオーブが消え、代わりに目の前を黒い本が浮いていた。
何これ? と疑問に思った瞬間、頭の中にこの本に関する情報が、まるでたった今思い出したかのように浮かび上がった。
「召喚の魔導書?」
「うわぁ、凄い! ランダムスキルオーブで虹色の光なんて初めて見たよ! きっとスキルも凄いんだろうなぁ!」
「えぇっと」
召喚の魔導書と言うからには何かを召喚するスキルなんだろうけど……うん、どうやらそんな感じで合ってるらしい。
「なんか、俺の味方をしてくれる魔物とか道具とかを召喚出来るっぽい」
「召喚かぁ。
「となると、重要なのはどんなのが召喚出来るのかって事か」
今のところ召喚出来るのは……何も召喚出来るのが無いんですけど?
そう思っていると、魔導書のページが切り替わった。ページにはデカデカと『カード召喚』の文字と、その下に同じくらいの文字サイズで薄暗く『1回100Gz』『10+1回1000Gz』と書かれ、それらの上に『お金が足りません』の文字が表示されていた。
「金取るんかい……」
なんで魔導書が魔力じゃ無くて金銭で召喚させるんだよ。しかもカードって……完全にゲームじゃん。
「お金?」
「あぁ、召喚に必要なカード……触媒を作るのに金が必要らしいんだよ。一個作るのに百……ガルツ? 必要で、最大十個まで一度に作れるみたいだな。そんで、十個一度に作ると一個オマケが付いてくる」
「そうなんだ……ちょっと待ってて」
そう言ってシロは部屋を出て行き、数分後に巾着のような小さな袋を持って戻って来た。
「はい、これ」
巾着の中には十枚程の銀貨が。これまたしてもシロのお世話になる感じじゃんかよ。そろそろ返し切れるか心配になって来たんですけど。
「良いのか? こんなに使って」
明らかに一回以上出来る額入ってるんですけど。多分十回分くらい召喚出来るよね?
「うん! スキルがどんな風に使えるのかは知っておいた方が良いだろうしね」
「いや、それはそうなんだけど……まあ良いや」
シロが良いって言ってるなら良いって事にしよう。スキル使えないと結局役立たずのままだし、それなら世話になってでもワンチャンス狙った方が良いだろうしな。シロの役に立てた方が恩返しし易いし。
「それじゃあ、ありがたく」
スキルオーブの時と違って、召喚の魔導書の使い方は頭に入っている。銀貨を魔導書に使う感じで念じると、テーブルの上の銀貨が消え、代わりに魔導書の右上に『1000Gz』と表示された。銀貨一枚百ガルツと、覚えておこう。
そして課金と同時に金額部分が明るくなった。これでカード召喚……というかガチャが出来るんだろう。
「それじゃあやってみるな」
「うん」
『1000Gz』ボタンを押し、十一回分のガチャを回す。
すると魔導書のど真ん中に魔法陣が発生し、そこから茶色いカードが十一枚出現する。その内の一つは色が変わり、結果茶色十枚に、銀一枚となった。
そしてカードの中身が現れ、最終的にはこうなった。
・シャドウナイト
・シャドウアサシン(二枚)
・鉄の剣(二枚)
・小麦粉
・ミネラルウォーター
・飴玉
・スタンショット
・ファイアーストーム(銀)
・アタックブースト
ガチャが終わるとページが切り替わり、そのページにカードが納められる。この辺は本というよりはバインダーみたいだな。
「どうだった?」
「うーん……見ただけだと良く分からないな」
試しに召喚をしてみようと、魔導書に納められていた飴玉のカードを取り出してみる。
カードから飴玉を召喚しようと念じると、カードが光り、次の瞬間にはカードが飴玉に変化していた。
「おぉ……!」
本当に召喚された。なんだか魔法みたいでちょっと面白い。
「それは?」
「これは飴っていうお菓子。俺の故郷では割とありふれた奴だよ」
説明しながら飴玉の袋を開けて中を取り出し、シロに差し出す。
「ほれ」
「え?」
「食ってみ? 甘くて美味しいから」
「良いの?」
「うん。これもシロのお陰だし、その御礼って事で」
十一回ガチャ分の銀貨と比べれば随分と安い物だろうけどな。
「それなら、うん」
「口に入れたら、噛まずに舐めると長く楽しめるから」
「分かった」
シロはおっかなびっくり飴玉を受け取ると、恐る恐る口に入れる。
「んっ! 美味しい〜!」
どうやら気に入って貰えたようだ。楽しそうに笑顔で飴を舐めるシロを見てほっこりする。
「クロウ、ありがとね!」
「……おう」
それはこっちのセリフだよ。
そんな事を思いながら、おいしそうに飴を舐めるシロを暫く眺めていた。
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