第4話〜ナデナデの朝〜
目を開けると、目の前には天使のようなシロの柔らかい笑顔があった。その美貌と、カーテンの隙間から差し込む光も相まって、いっそ神々しくすら見える。
「おはよ。ちゃんと眠れてたね」
「……おはよう。言っとくけど何の問題も無かった訳じゃ無いからな」
一応寝られはしたが、其処まで至るのに大分時間掛かったからな。シロの寝姿に緊張したし、寝返り打って顔がこっち向いた時なんてバスローブがはだけて大変だった。
直視しないように全力でシロから背を向けても直ぐに寝付けず、結局眠気で強制的に意識を持っていかれるまで緊張しっぱなしだった。
「だろうね。もう朝ご飯の時間過ぎちゃってるもん」
「えっ、マジで!?」
ガッツリ寝過ごしてるやんけ。って事は朝食抜きかぁ。ずっと家に引き籠るなら兎も角、今日は外に出るつもりだったからちょっと厳しいな。買い食いしようにも無一文だし。
朝(?)から気落ちする俺を見て、シロがクスクス笑う。
「大丈夫。ちゃんと用意しておくように言ってあるから。今から言えば持って来てくれるよ」
「えっ、マジで? 流石シロ。助かるわ」
「えへへ。じゃあ準備させるから、待ってて」
そう言ってシロは従業員の所に行く。俺はベッドから降りてガラス窓の方へ向かう。
カーテンを開けて外の景色を眺める。外は昨日見た通りのヨーロッパ風の建築様式の建物ばかりで、ビルや現代風の建物は見当たらない。
「やっぱり夢じゃ無いか」
まあシロが居た時点で夢じゃ無いのは確定してたんだけど、なんとなく確認してしまった。まだこの景色には慣れそうに無いな。
さて、この世界が現実である事は理解したし、先ずは朝食を食べる前に、軽く支度しよう。
朝食は野菜スープやパンにサラダと全体的にあっさり目のメニューだ。朝からガッツリ食べられる体はしていないからありがたい。
それから昨日の話を覚えているからか、いただきますをするとシロが嬉しそうにしていたのも印象的だった。自分で言っておいてなんだけど、まさか此処まで喜ばれるとは思わなかった。
まあ実際世話になってるのは確かだし、それで喜んでくれるならそれも良いか。
「そういえばシロに聞きたいんだけど、この王都で冒険者になるにはどうしたら良いのか知ってたりする?」
先に言っておくが、俺はこの世界に冒険者という職業があるのかは知らない。ただもし冒険者という職業がありふれていた場合、それを知らない俺の素性をシロが怪しむ可能性があるため、あくまで知っている風を装う事にした。
別にシロに全部話しても良いんだけど、いきなり異世界から来たとか言っても信じて貰えるか怪しい。だから言っても信じて貰えるようになるまでは無闇に言わない事にした。
「普通にギルドに行って、受付に言えば良いんじゃないかな」
「そうか」
どうやら冒険者は存在するらしい。それなら最悪冒険者として生計を立てる事も可能だな。……出来るかどうかは別として。
「クロウは冒険者になりたいの?」
「うーん、それでやっていければ良いんだろうけど……俺弱いからなぁ」
勇者として召喚されておきながら、酷い事に俺に勇者としての力は与えられていなかった。
だから放逐されたんだけど、そんな俺が命の危険と隣り合わせな冒険者になってやって行けるかどうか……良くて薬草採取が精一杯な気がする。それだって魔物とかモンスターとかに襲われれば一溜りも無いだろう。
「あっ、それなら良いのがあるよ?」
そう言ってシロは席を立つと、着替えの服のポケットを探り始めた。
どうでも良いけどまだバスローブ着てるんだよな。そのくせパタパタと歩き回るから足とかチラチラ見える。信頼されてるのか、無防備なだけか……どっちもか? 一応後で注意しとこう。
「あった。これだよ」
そう言ってシロが取り出したのは、何やら小さなガラス玉のような物体だった。
「これは?」
「これはスキルオーブって言うんだよ」
「へぇ……」
スキルオーブっていうと、創作物で言うところの使用すると何かしらの
「でもそういうのって高かったりするんじゃないの?」
「これはランダムだから、それ程高くは無いよ」
「それ程……」
詳しい値段は聞かないでおこう。使うの躊躇しそうだし。
でもそうか。今の言い方だと特定のスキルが手に入るのが存在しているっぽいし、それなら欲しくも無いスキルが身に付くランダムなスキルオーブは値段が下がるのは確かか。
「ていうか、それ使って良い奴なのか?」
「うん! 今まで特に使う事も無かったし、それでクロウに必要な力が付くんなら良いかなって」
ヤベェ、シロさんが天使過ぎる。今の所俺完全におんぶに抱っこなんですけど。最低やん。ヒモ過ぎる。
「なんか頼り切り過ぎて情け無くなって来た……」
「そ、そんな事無いよ! 私はクロウと一緒にいられるだけでとっても嬉しいし楽しいよ!」
止めて! これ以上フォローされると俺の惨めさが目も当てられないレベルになる! おい誰だもうなってるって言った奴! その通りだよチクショウ!
「これだけ親切にして貰ってるのに、礼を言うくらいしか出来ないなんて……いっそ頭でも撫でれば多少はマシになるか?」
小石に砂粒一つ追加しても何の意味も無いんだろうけどな、ハハハ……。
「あ……じゃあ、その……撫でてくれる?」
「え?」
「だから、その……御礼に、頭、撫でてよ」
「…………」
苦し紛れに言ったつもりが、まさか本当に求められるとは思わなかった。シロ自身も自分で言ってて恥ずかしいのか、頬が赤くなっている。可愛い。
言っても意味なんて無いだろうからと冗談のつもりで言ったんだけど、そんな事言える雰囲気じゃ無くなったな。まあ本当に頭撫でる事でシロが喜んでくれるなら安いもんだろ。
「じゃあ、失礼して」
一言添えて、シロの頭に手を置く。流石美少女だけあって髪質も良い。シルクでも撫でてるかのようなスベスベツヤツヤの髪だ。
シロを喜ばせるためにやった行為なのに、なんだか俺にとっても御褒美になっている気がする。……いや、美少女に触れている時点で御褒美以外の何物でも無かったわ。プラマイゼロ、寧ろマイナス……いや、ある意味プラスか? 自分で言ってて訳分かんなくなって来た。
「えへへ……」
でもシロはとても喜んでいるようで、さっきから顔がにやけている。なんというか、こういうちょっとした事で相手が喜んでくれるのは嬉しいものがあるな。
何より可愛い。そんな姿が見られるだけでやる価値があるというもの。
という訳で朝寝坊したにも関わらず、ただでさえ減った時間を使って暫くの間シロの頭を撫でるのだった。
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